異世界大使館はじめます

あかべこ

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7:大使館はウィンター・バケーション

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翌日。
朝食の場で午前中のうちに嘉神にヴィクトワール・クライフ氏の件を日本側に伝えて欲しいと頼み、俺はグウズルン管理官と話をするため政経宮へ赴いた。
「朝早くからよく来るね」
「厄介ごとは早くに終わらせるに限りますからね、昨日見せてもらった契約書の実物を日本に持って行くことは出来ますか?本当に同一人物であるかを確かめたいので」
グウズルン情報管理官が顔を曇らせ「それすぐに終わる?」と聞いた。
「まあ無理を押せば、ですかね。彼女が大規模放火事件に関わった証拠があれば日本政府として受け入れは難しいですから」
ただし伯爵令嬢の呪い事件が南の国の新聞で書かれているように娘の仇討ちでなくもっと政治的背景を含むテロ事件である可能性もあるが、どっちにせよ放火は犯罪である。
「……私の部下を同行させて書類に傷をつけない事を条件としていいなら」
「それは当然だろうな。それともうひとつ、伯爵令嬢の呪い事件そのものに政治的な背景は?」
「調べた限りだと120%あれは伯爵の仇討ちだな」
何となく気になっていた疑問に対するその答えを聞くと、俺の脳裏には新しい疑問がいくつも浮かんできた。
「なら何故直接王弟を狙わなかった?」
「王家直轄地の代官は王弟だからだよ、本人を狙うにも王都から離れた土地に住んでるし腕のいい護衛がついてるんでリスクが高い」
「最初から死ぬつもりだったなら黄金の魔女に頼らず自分の手で直接狙えばいい」
「そこはわからん。ただからな」
グウズルン情報管理官の含みを持ったひとことで想像がつく。
放火後に最初の契約の履行で揉めて殺してしまい、財産を全部回収した後に書類ごと痕跡を消すため放火……という筋書きをお互い想定しているという事だろう。
想定した筋書きが正しかった場合、黄金の魔女の罪は放火殺人と言う事になる。まあ死んだ伯爵自身の遺体を調べられないのであくまで想定でしかないが……よくそんな人材を身内に入れようと考えてるな?
(それだけ深刻な人材不足ってわけか)
「金の亡者だな」
「それは違いない、でも彼女の金はすべて魔術器官の研究に費やされてる」
「魔術器官の研究は金がかかるのか?」
「教会が禁じている研究だからな。研究していることがバレれば邪教徒として一族郎党全裸での引き回しからの火あぶりの刑になる」
「ひえっ」
うっかり変な声が出てしまった。
話を聞く限りでは禁止された研究のためならどんな犠牲も厭わないその振る舞いは漫画に出てくるマッドサイエンティストのようであり、ハルトル宰相の苦渋の決断が想像以上の苦渋であったこともよく分かった。
というか本当に身の内に引き入れて良いのか?よその事だが心配過ぎる。
「研究の自由と生活の保障さえあればあれは何もしない、というのが私の結論だ。いざとなったら私が殺る」
コメントが怖いのでこの話に首を突っ込むのは止めよう。
「……とりあえず、書類の調査が決まったらご報告しますので」
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