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7:大使館はウィンター・バケーション
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その日の夜、夕食中に突然現れたのはグウズルン情報管理官とハルトル宰相だった。
「「ヴィクトワール・クライフが日本へ亡命申請って本当(です)か?!」」
息ぴったりにそう聞いてきた2人に俺たちは驚きながらも「突然どうしたんですか」と聞くしかなかった。
「うちで囲いたいと狙ってた人材が日本に横から搔っ攫われそうになってるんだからそりゃ焦るだろ」
「今回は真偽の確認が目的だってわかってる?」
「ハルトルも金羊国に欲しい人材だって事は分かってるだろ?!」
2人がワーワー言い合うのが落ち着かない事には口をはさめない。
「……とりあえず夕飯食べさせてもらっていいですか」
***
夕食後、デザートをつつきながら2人の話を聞くことにした。
「そもそもヴィクトワール・クライフ氏の亡命については彼女が昼に亡命したいから相談に乗って欲しいと言い出してきただけで正式決定でもなんでもありません」
「そうだったんですね」
ハルトル宰相はその言葉にほっと一息ついた。
2人があそこまで焦るのを考えればよほど金羊国首脳に欲しい人材なのだろうが、いったい何者なのだろう。
「彼女を金羊国陣営に取り入れたいというお気持ちは理解しましたが、そこまでして欲しい人材とは何者なんですか?」
「ストレートですね」
ハルトル宰相は苦笑いしながらお茶を飲んだ。
隣にいたグウズルン情報管理官ががさがさと数枚の書類を引っ張り出しながら口を開いた。
「西の国で起きた伯爵令嬢の呪い事件は知ってるか?」
「確か王弟に身を穢された伯爵令嬢の呪いと称する火の玉が西の国の直轄領に降り注いだ事件だったか」
木栖がそう問えば2人はこくりと頷いた。
「その事件の実行犯とされる黄金の魔女、それがヴィクトワール・クライフだ」
差し出された書類は契約書であった。
簡単に言えば娘の仇討ちと引き換えに己の財産の半分を引き渡すというものだ。
契約書は赤黒い文字で書かれているうえ微かに異臭がし、木栖に渡すと「これは血で書かれてる」と耳打ちしてきた。
書類の制作者と思われるオリオール・ド・バスチアンの名前の下にあるのはリア・ヴェーゼと書かれている。
「このリア・ヴェーゼ氏とヴィクトワール・クライフ氏が同一人物であるという証明は?」
「入国時の申請書類とこの署名の筆跡の癖が同じだ」
筆跡だけとなると同一人物と認めるには微妙なところだが根拠のひとつにはなるだろう。
もしリア・ヴェーゼとヴィクトワール・クライフが同一人物なら彼女は放火犯であり、犯罪者を受け入れることになる。
「犯罪者の可能性ありとなると日本に入国させるのは無理ですね」
「とは言っても直接本人に聞く訳にもいかないだろう」
色々と話し合う木栖・嘉神を横目に見ながら俺は2つの署名を見比べてみる。
確かに似てると言えば似てるような気がするが、専門家ではない俺には分からない。
「入国審査の書類とこの書類を日本側に届けて筆跡鑑定してもらうのが妥当だろうな」
「あとはリア・ヴェーゼの署名が本人の血液ならDNA鑑定という手もあるな」
「指紋は?」「既に複数人が触っているからどれが誰のか特定が面倒だ」
ハルトル宰相は「こちらで所有してる資料を提供します」と告げた。
「にしてもハルトル宰相、ヴィクトワール・クライフ氏が放火の実行犯なら身内に犯罪者を入れることになりますが宜しいんですか?」
「……僕らに圧倒的に足りない魔術技能があって共闘できる可能性があるのなら、目をつぶらざるを得ません」
苦渋の決断であることはその眼差しから薄々察せられたが、それ以上にハルトル宰相がそのような事を言うのは意外だった。
(この人はもっと真面目で清らかな人だと思っていたが、やはり政治家だな)
「「ヴィクトワール・クライフが日本へ亡命申請って本当(です)か?!」」
息ぴったりにそう聞いてきた2人に俺たちは驚きながらも「突然どうしたんですか」と聞くしかなかった。
「うちで囲いたいと狙ってた人材が日本に横から搔っ攫われそうになってるんだからそりゃ焦るだろ」
「今回は真偽の確認が目的だってわかってる?」
「ハルトルも金羊国に欲しい人材だって事は分かってるだろ?!」
2人がワーワー言い合うのが落ち着かない事には口をはさめない。
「……とりあえず夕飯食べさせてもらっていいですか」
***
夕食後、デザートをつつきながら2人の話を聞くことにした。
「そもそもヴィクトワール・クライフ氏の亡命については彼女が昼に亡命したいから相談に乗って欲しいと言い出してきただけで正式決定でもなんでもありません」
「そうだったんですね」
ハルトル宰相はその言葉にほっと一息ついた。
2人があそこまで焦るのを考えればよほど金羊国首脳に欲しい人材なのだろうが、いったい何者なのだろう。
「彼女を金羊国陣営に取り入れたいというお気持ちは理解しましたが、そこまでして欲しい人材とは何者なんですか?」
「ストレートですね」
ハルトル宰相は苦笑いしながらお茶を飲んだ。
隣にいたグウズルン情報管理官ががさがさと数枚の書類を引っ張り出しながら口を開いた。
「西の国で起きた伯爵令嬢の呪い事件は知ってるか?」
「確か王弟に身を穢された伯爵令嬢の呪いと称する火の玉が西の国の直轄領に降り注いだ事件だったか」
木栖がそう問えば2人はこくりと頷いた。
「その事件の実行犯とされる黄金の魔女、それがヴィクトワール・クライフだ」
差し出された書類は契約書であった。
簡単に言えば娘の仇討ちと引き換えに己の財産の半分を引き渡すというものだ。
契約書は赤黒い文字で書かれているうえ微かに異臭がし、木栖に渡すと「これは血で書かれてる」と耳打ちしてきた。
書類の制作者と思われるオリオール・ド・バスチアンの名前の下にあるのはリア・ヴェーゼと書かれている。
「このリア・ヴェーゼ氏とヴィクトワール・クライフ氏が同一人物であるという証明は?」
「入国時の申請書類とこの署名の筆跡の癖が同じだ」
筆跡だけとなると同一人物と認めるには微妙なところだが根拠のひとつにはなるだろう。
もしリア・ヴェーゼとヴィクトワール・クライフが同一人物なら彼女は放火犯であり、犯罪者を受け入れることになる。
「犯罪者の可能性ありとなると日本に入国させるのは無理ですね」
「とは言っても直接本人に聞く訳にもいかないだろう」
色々と話し合う木栖・嘉神を横目に見ながら俺は2つの署名を見比べてみる。
確かに似てると言えば似てるような気がするが、専門家ではない俺には分からない。
「入国審査の書類とこの書類を日本側に届けて筆跡鑑定してもらうのが妥当だろうな」
「あとはリア・ヴェーゼの署名が本人の血液ならDNA鑑定という手もあるな」
「指紋は?」「既に複数人が触っているからどれが誰のか特定が面倒だ」
ハルトル宰相は「こちらで所有してる資料を提供します」と告げた。
「にしてもハルトル宰相、ヴィクトワール・クライフ氏が放火の実行犯なら身内に犯罪者を入れることになりますが宜しいんですか?」
「……僕らに圧倒的に足りない魔術技能があって共闘できる可能性があるのなら、目をつぶらざるを得ません」
苦渋の決断であることはその眼差しから薄々察せられたが、それ以上にハルトル宰相がそのような事を言うのは意外だった。
(この人はもっと真面目で清らかな人だと思っていたが、やはり政治家だな)
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