異世界大使館はじめます

あかべこ

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6:大使館に休みはない

6-8

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お茶とチャパティロール片手のランチミーティングもそこそこに、勧誘用資料を手に留学生勧誘イベントの会場を目指す。
イベント会場として準備されたのは金羊の女神を祀る神殿の前、そこに椅子とプロジェクターを準備しただけの簡便なものである。
神殿の前は扉を閉めれば舞台のようになってイベント会場として最適であること、またこの国では数少ない石造りの建物は音が良く響いて届きやすく、何よりここは広いので人が大勢集まっても問題のない環境である。
会場設営に駆り出された人たちに軽い会釈をしながら、最後の準備を行う。
「大使、お持ちしました」
オーロフとアントリが2人がかりで慎重に持って来てくれたのは中古のオーバーヘッドプロジェクターである。
80年代ごろに学校でよく使われていた、透明なフィルムをスクリーン(今回は神殿の扉に布を張ってスクリーンにする)投影するプロジェクターである。
最近のプロジェクターよりも仕組みが分かりやすいので2人にも使い方が理解しやすく、もう使っていないものなので万が一壊れても問題ない。
「ここに置いて大丈夫ですか?」
「たぶん、ちょっと確認したいから手伝って貰えるか?アントリは機械の先にある金属部分を握ってそこから微量の雷を流してくれ」
指示通りコンセントを握って電気を流したアントリにより、プロジェクターが光り出す。
「うん、その状態を維持しててくれ」
「たぶんずっとは出来ないと思うんですが」
「必要に応じてオーロフと交代してもらってくれ、タイミングは任せる」
「分かりました」
適当なシートを置いて投影の状態を見ながら調整し、各国から預かったシートを使いながら簡単に使い方を説明する。
まずこの光の状態をできるだけ維持すること。疲れたら自由に交代していいこと。
各国から封筒に入ったシートを預かっていること。シートにはすべて番号が振られているので、番号を呼ばれたらシートを置き換えること。終わったら封筒に仕舞っておくこと。
最後に自由に飲んでいいお茶を渡しておくと「ありがとうございます」と返される。
「じゃあ、頼んだ」

****

イベントの前に日本で事前に準備しておいたパンフレットを参加者に配布してみると、彼らは随分驚いていた。
紙の質も印刷技術もこの世界よりも地球のほうがはるかに進んでいるのがすぐにわかるのだろう。異世界人の話を聞けることへの興味も相まってイベントは大盛況の様子を見せている。
イベント会場に集まる人々をさばきながら、時折その様子を遠くから見ていると「さすがに説明が上手いな」と木栖が呟いた。
「いたのか」
「さっき休憩に入らせてもらった」
木栖が麦茶を飲みながら俺の横に立ったので「ちょっとくれ」と手を伸ばすと「おい」と止められた。
「俺の飲みさしじゃなくてあとで自分で貰って来い、間接キスになるぞ」
「中学生かよ」
まあ木栖の言い分も間違ってはいない。夫婦はいえ偽物の仮初夫婦だ、距離感というものもある。
ちなみに麦茶は会場の入り口で飯山さんがひとりでずっと配っているらしい。全部終わったらのんびり休んで欲しい限りである。
「このイベントの効果、どのくらいあると思う」
「それなりにはあるだろ。
この国の人たちの日本や地球への関心は高いし、地球で得た知識や技術が自分や自分や家族のためになると思えばリスクを背負ってでも来てくれる」
無論、地球人に対して疑心暗鬼の人もいる。留学生も簡単には集まるまい。
それでもこのイベントがハードルを少しづつ下げていく第一歩にはなるはずだ。
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