異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
67 / 254
6:大使館に休みはない

6-8

しおりを挟む
お茶とチャパティロール片手のランチミーティングもそこそこに、勧誘用資料を手に留学生勧誘イベントの会場を目指す。
イベント会場として準備されたのは金羊の女神を祀る神殿の前、そこに椅子とプロジェクターを準備しただけの簡便なものである。
神殿の前は扉を閉めれば舞台のようになってイベント会場として最適であること、またこの国では数少ない石造りの建物は音が良く響いて届きやすく、何よりここは広いので人が大勢集まっても問題のない環境である。
会場設営に駆り出された人たちに軽い会釈をしながら、最後の準備を行う。
「大使、お持ちしました」
オーロフとアントリが2人がかりで慎重に持って来てくれたのは中古のオーバーヘッドプロジェクターである。
80年代ごろに学校でよく使われていた、透明なフィルムをスクリーン(今回は神殿の扉に布を張ってスクリーンにする)投影するプロジェクターである。
最近のプロジェクターよりも仕組みが分かりやすいので2人にも使い方が理解しやすく、もう使っていないものなので万が一壊れても問題ない。
「ここに置いて大丈夫ですか?」
「たぶん、ちょっと確認したいから手伝って貰えるか?アントリは機械の先にある金属部分を握ってそこから微量の雷を流してくれ」
指示通りコンセントを握って電気を流したアントリにより、プロジェクターが光り出す。
「うん、その状態を維持しててくれ」
「たぶんずっとは出来ないと思うんですが」
「必要に応じてオーロフと交代してもらってくれ、タイミングは任せる」
「分かりました」
適当なシートを置いて投影の状態を見ながら調整し、各国から預かったシートを使いながら簡単に使い方を説明する。
まずこの光の状態をできるだけ維持すること。疲れたら自由に交代していいこと。
各国から封筒に入ったシートを預かっていること。シートにはすべて番号が振られているので、番号を呼ばれたらシートを置き換えること。終わったら封筒に仕舞っておくこと。
最後に自由に飲んでいいお茶を渡しておくと「ありがとうございます」と返される。
「じゃあ、頼んだ」

****

イベントの前に日本で事前に準備しておいたパンフレットを参加者に配布してみると、彼らは随分驚いていた。
紙の質も印刷技術もこの世界よりも地球のほうがはるかに進んでいるのがすぐにわかるのだろう。異世界人の話を聞けることへの興味も相まってイベントは大盛況の様子を見せている。
イベント会場に集まる人々をさばきながら、時折その様子を遠くから見ていると「さすがに説明が上手いな」と木栖が呟いた。
「いたのか」
「さっき休憩に入らせてもらった」
木栖が麦茶を飲みながら俺の横に立ったので「ちょっとくれ」と手を伸ばすと「おい」と止められた。
「俺の飲みさしじゃなくてあとで自分で貰って来い、間接キスになるぞ」
「中学生かよ」
まあ木栖の言い分も間違ってはいない。夫婦はいえ偽物の仮初夫婦だ、距離感というものもある。
ちなみに麦茶は会場の入り口で飯山さんがひとりでずっと配っているらしい。全部終わったらのんびり休んで欲しい限りである。
「このイベントの効果、どのくらいあると思う」
「それなりにはあるだろ。
この国の人たちの日本や地球への関心は高いし、地球で得た知識や技術が自分や自分や家族のためになると思えばリスクを背負ってでも来てくれる」
無論、地球人に対して疑心暗鬼の人もいる。留学生も簡単には集まるまい。
それでもこのイベントがハードルを少しづつ下げていく第一歩にはなるはずだ。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...