異世界大使館はじめます

あかべこ

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5:大使館の夏

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河内さんは大使館で身支度を済ませると朝一番に完成した土地の売買に関する契約書を手に地主や諸々の役場へ飛び出していった。
元気というよりも何かヤバい薬でもキメたような異様さがあるが、もしその手の逮捕歴があれば飯島が事前に話は通してくれるだろうと思うのであれは本人の性格なのだろうと思う事にする。
(……というよりもし本当にそうだったら俺が面倒くさい)
今朝は少し涼しくなり、暑さの山場は去っていったことでちょっと動きやすくなったのだろうと思う事にした。
そうはいっても日が高くなれば暑くなるのは請け合いである。
「あんまり暑くならないといいんだがな」
こんなところでうっかり病人を出そうものならこっちが大変になるのは目に見えている。
柊木医師がいるのである程度はどうにかできるがここに手術設備や薬はないのだ。
「盛りの頃に比べれば暑さも落ち着いたと思うがな」
反射的に振り向くと木栖が後ろに立っていて「お前は忍者か?」と声が漏れた。
「忍術はかじったが忍者じゃない」
「十分だろ」
話が微妙に通じていない気がするがそれはどうだっていい。
「そういえば今日はどうするんだ?」
「午前中は書類を片付けて、午後は政経宮に呼ばれてる。お前も暇なら来るか?」
「お前が同行しても良いと言うのなら同行させてもらうさ」

****

午後、政経宮を訪ねると出てきたのは財政や国土開発の担当者、そしてエイン魔術官であった。
「ご相談したいのは外国人による土地購入希望のことでして」
「紅忠の河内氏の事ですか」
「はい、出来たら大使館で身元の保証をしてもらえないかと国土開発担当官が」
そっちか。
失念していたが俺たちと違い彼女は公的な役場にいる訳ではなく、日本の有名企業に所属はしていてもこちらでは無名の組織だ。
政治的な不安定さを内包した金羊国にとって外国人の土地購入は慎重な対応を取らざる得ないのだろう。
しかしここで俺が断ればこの先の日本企業進出に影響が出かねない。
「分かりました、駐在大使として保障させてもらいます」
「いいのか?」
「変なことしでかしたらお前が彼女を簀巻きにして日本に送り返してくれ」
書類に署名と証拠の髪の毛の提出(金羊国では日本の法律における押印と同等の効力を持つ)を済ませ、あとで事情を本人に説明しておこうと小さくため息を漏らす。
「お手数おかけしてすいません、外国人の土地売買についてもう少し明文化しておくべきでした」
「いえ、大使館もしても失念していました」
互いに頭を下げあい、次にこのようなことが起こりうる時までに明文化して貰い大使館でも現地法に則り厳正に手続きを行う事を約束した。
河内さん及び所属企業である紅忠、外務省にもこの件は伝えておくべきだろう
大使館に戻り嘉神に「河内さんいないか?」と聞くと「……日本に一時帰国しました、明後日には戻るそうです」と申し訳なさそうに告げた。
そんな訳で河内舞夏という特異性の塊のような女性は風のような身軽さで去っていき、俺は新しい頭痛の種になりそうな河内舞夏のふるまいにげんなりした。
せめて風を取り込もうと窓を開けると風は初秋の心地よい風になりつつあった。
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