異世界大使館はじめます

あかべこ

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5:大使館の夏

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翌朝、大量の書類とともに全員分の買い出しリストと予算を握り締めた納村が一時帰国していくと大使館はちょっと静かになる。
急ぎの仕事はないし、2~3日のうちにしておくべきタスクもない。
納村が戻ってきたらどうせ一気に仕事も増える。
「……少し資料の読み返しでもしておくか」
そう思い立って日本や地球の情勢を振り返ろうとスクラップ帳に手を伸ばした。

日本政府内は長らく国民自由党・通称国自党の一強状態にある。
しかし経済的な目的から異世界との交流を強く推進する与党と現政権に対し、経済的な目的のみで交流を進めようとするやり方に反対する野党日本民主党・通称日民党のような勢力もある。
とはいえ現政権にとって金羊国は資源に乏しくも製造業で成り立たせてきた日本復活の起爆剤に、という目論見がある。
金羊国の資源については経済誌などでかなり細かく報道されており、こちらで原油が見つかったと発表された時など相場が混乱して価格が落ちたという話まで出ている。
国連はそうした日本政府のやり方を注視しつつ必要に応じた支援(専門の研究機関の設置がそれだ)をするのみで特に表立った動きはしていない。
ただ、水面下では情報合戦もあるようで飯島を中心とした外務省の担当者に接触を図る人は多いと報告を受けている。その辺は飯島達日本にいる連中に任せよう。
国民は彼らをどう思っているか、と言えばまだ恐る恐るとでもいうような印象を受ける。
メディアなどによるアンケートや外務省に寄せられる意見を見ると日本政府による留学生の受け入れについては慎重な意見が主流なようで、こればかりは時間をかけて伝えていくしかない。
俺たちの集めた情報などは外務省を通じて報道されてはいるがなんせ絶対的に蓄積が無い。なので未知の存在におっかなびっくり、という状態になるのは仕方ない。
留学生受け入れの実務的なところはJICAを中心とした途上国の留学生受け入れ支援を行う団体が連携して動いてくれる形となる、日本以外の受け入れ希望国も外務省と連携しつつ動いている。
そして特筆すべきは企業だろう。
金羊国との取引については唯一繋がっている日本の企業が優先的に動けるように整備されており、そのための交通網整備計画の話が以前から浮上している。
現在の上野の通路よりも大きな通路を作り車や電車などを高頻度で走らせる通路計画である。
さっそく資金集めに動き出す国に連動してゼネコンや物流企業が新しい大規模事業の匂いを嗅ぎつけてさっそく動き出しているという最新の報告書が目に留まった。

「……これが一番厄介なんだった」
このプロジェクトについて重要かつ大きな課題を思い出して憂鬱な溜息を洩らす。

日本と金羊国を繋ぐ巨大道路を作るには金羊国側に高度な魔術を使える人材が必要である。
そもそも現行の通路を作ったのは金羊国側の魔術官であり、巨大通路の建設には最低でも彼らと同等クラスの高度な魔術を扱えるものがいないと無理である。
大使館で唯一魔術が使える柊木医師が通路を作ったメンバーの一人であるウルヴル魔術官に仔細を聞いてまとめてあるが、結論から言うといまの金羊国側の人材ではあの通路と同じものが作れるかも怪しく、巨大通路は作りえない。
現代科学によって日本と異世界を繋ぐ方法が見つけられない限り、巨大トンネルづくりなど夢のまた夢なのである。

スクラップ帳や報告書を閉じるとやる事の多さに眩暈がしそうだ。
けれどやらなければならないのだ、すべては双方の発展のために。
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