異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
54 / 254
5:大使館の夏

5-3

しおりを挟む
政経宮から帰ると、飯山さんがクソ暑い炎天下の中庭で火を焚いていた。
「何してるんですか?」
「いやー、良いお肉買えたから今日は串焼きにしようと思って」
焚き火の周りには金属製の串に刺さった肉や野菜、あとは川魚が焼かれている。
木栖とオーロフがあり合わせの道具で簡単な日陰を作ってくれていたのでそこに腰を下ろす。
ちょっとしたキャンプの様相を呈した中庭はやがて肉や野菜の焼ける香ばしい匂いが漂い始める。
「とりあえず鹿肉串・野菜と鹿肉のセット・魚が焼けたんでお好きなのどーぞ」
野菜と肉のセットに手を伸ばした木栖はがぶりと串にかぶりつく。
「野菜の味が濃いな」
「でしょー、ここの野菜ってたぶん地球の野菜よりも原種に近いのか野性味があって美味しいんですよね~シンプルに串焼きだからそれをよりはっきり感じると言いますか~」
何となく魚串に手を伸ばしていた俺もそう聞くと野菜を食べたくなる。
「食うか?」
木栖が串からトマトに似た野菜をひとつ取って俺に差し出してくる。
ほかほかの焼きトマトが美味しそうに見えてきて手を伸ばすか考えていると、飯山さんが野菜串を差し出してくれる。
「……助かった」
「何がですか~?」
焼きたての茄子的な物にかじりつくと確かに日本のスーパーの茄子とは違う味がする。
厚めの皮の歯ごたえの奥に焼きナス特有の溶ける食感が広がってくるが、ほんのりとえぐみが後味として舌に残る印象がある。この辺りは原種に近い野性味と言えるだろう。
「確かに美味いな」
「ですよねー」
そうこう言っているうちに腹をすかせた納村や嘉神たちがやってきて、思い思いに焼けた串を取っていく。
串が減ればどんどん新しい肉や野菜を刺しては焼き、指しては焼きを繰り返していく。
「夏休みのキャンプみたいだ」
麦茶を飲んでいた俺の横がそう呟くと「夏休みシーズンだしな」と木栖が返す。
もっとも父親のいない俺はキャンプなど行ったことが無く、テレビや雑誌で見たぼんやりとした印象でそう言っているだけなのだが。
「大使館の中庭じゃなくて河原だったらもっとキャンプっぽかっただろうな」
「確かに」
「大人になっても初めてやる事なんてのはいくらでもあるもんだな」
「初めてだったのか?」
木栖がそう問えば「機会がなくてな」と返す。
「俺は毎年地元の教会の集まりでしてたな、秩父の川沿いでテント張って肉焼いて川遊びしてって感じだった」
「教会?」
「親がカトリックだったからな、もう今は関係も切れてるが」
「だから家族の説得すっ飛ばして異世界に来れたわけか」
お互い知らない事もあるものだな、と思い知る。
(まあ偽装夫婦みたいなもんだし知る必要もないのかもしれないが)
けれどこいつの知らない側面を知ることが嫌ではない。少なくともその程度の好意はあるのだ。
「大使と木栖さーん、もう肉串の残り2本しかないんですけど食べますか~?」
飯山さんが焚き火の前から俺たちにそう声をかけてくる。
というか納村の奴めちゃくちゃ食ってるようで、もう残りがそれしかないのかと気付くと「「食べる!!」」と反射的に声を張り上げた。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

処理中です...