異世界大使館はじめます

あかべこ

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5:大使館の夏

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不在の間に決まった事を改めて打合せするため、久しぶりの政経宮に足を伸ばすことにした。
ようやく館の主が戻って来た政経宮は活気に満ち溢れているのが見て取れる。
「おじゃましまーす」
「ビョルト魔術官か」
北の国にいる間ずっと一緒にいたヘルカ魔術官の妹である彼女がお茶を持って現れてきたので「珍しいな」と口にすると「エインくんお休みとったから」と返される。
「不在の間ずっとここを回してくれてたのか」
「そうだよ」
確かにそれは休みを取らせたほうが良いなと納得する。
お茶を飲みながら軽い雑談をしているとハルトル宰相が現れる。
「お待たせしてしまいましたね」
「いえ、お気になさらず」
ビョルト魔術官が下がっていったのを見届けた後、大きな封筒をを手渡す。
「留学生の件について決まったことがあるとお伺いしましたが」
「ああ、正式に受け入れを決めたんです。他にもヨーロッパ連合・アメリカ・カナダ・中国・アラブ首長国連邦の5か国が受け入れを表明しています」
封筒の中身はそれらの国々による受け入れについての表明書類だ。
どれぐらいの人員を何年受け入れられるか?という点については国と地域によって大きく異なるが、複数の国が受け入れを表明したのは魔術に対抗する手段をひとつでも得たい金羊国にとってはプラスだろう。
「他国からも受け入れ希望が来たんですね!」
「ええ、将来的に友好関係を作りたいという思惑のある国が多いですが。留学資金についても相手国が出してくれるとのことです」
「……よほど僕らにメリットを感じてくれている、という事ですかね」
「おそらくは。まあ留学生を通じて日本政府のフィルターがかかっていない金羊国の情報を求めてるか、何かしらの影響力を持つことが目的だと思います」
日本政府としては出来るなら他国に留学生を送ることなく、日本と強い関係を結んでほしいというのが素直な希望である。
しかし留学生の送り先を選択するのはあくまで金羊国側。
「それは仕方ありません。僕たちにとって地球との関係は獣人国家の安定的な継続に必要不可欠です。地球の人たちが長い時間と努力で積み重ねた技術と知識をタダで譲ってもらう訳ですから。最大何人まで送り出せますか?」
「日本政府の受け入れ枠が最大30人、他国は最大10人とさせてもらってます」
「合計80人ですか、それだけいれば希望者全員を送り出せますね」
「金銭支援レベルや年数は国ごとに違うのでそのあたりは納村が翻訳してまとめてあります、あとでご確認いただければ。
それと日本への大使派遣についてなんですが、」
日本に駐留する金羊国大使の派遣は派遣を受け入れてくれる人がいないためずっと延び延びだったのだが、いい加減決めておいてくれないかという連絡があった。
留学生の受け入れも考えると日本国外の受け入れ先にも1人づつ人員を置いておくべきだ、という飯島の付け足しもありこれも切り出しておく必要がある。
「それなんですが、以前からウルヴルが動いてくれていてようやく候補者を3人見つけてきてくれました。留学の事を考えると日本以外への派遣を受け入れてくれる人も探したいんですが、まずはこの3人を派遣して日本以外の留学受け入れ希望国について調べてもらおうかと」
「そうでしたか、派遣はいつぐらいになりそうですか?」
「年が明けてからですかね。本当は1年ぐらい余裕を持ったほうが良いんでしょうけど、北の国の件が教会に届けば面倒なことになりそうですし」
宗教絡みの厄介事が起きる前にという事だろうか。
言われてみれば俺たちが国外の公の場に出たのはあれが初めてであるし、日本は金羊国の強い味方として振る舞った以上何かしらの動きに出る可能性はある。
「それまでに受け入れ準備を終わらせておきますよ」
飯島や外務省の面々が日本に有利な情報しか入らないように統制する可能性はあるが、そのあたりはおいおい耳打ちしておくとしよう。
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