異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
50 / 254
4:大使館、北へ

4-18

しおりを挟む
「我が主人・グスタフ4世に申し上げます。私との奴隷契約を解除し、金羊国宰相として復帰することお許しいただけませんでしょうか」
ハルトル宰相はまっすぐに主君であるはずのグスタフ4世王にそう言い放つ。
驚愕に固められた眼差しがハルトル宰相をまっすぐに貫いていて、ハルトル宰相はその眼差しに卑屈さも怯えもなじっと向き合っている。
「どういうことだ」
「あの部屋にいる間ずっと考えておりました、あなたを真の孤独から解放するための方法を。
幼少のみぎり、王子の課題として最初に選ぶ奴隷として私を選び傍に置いてくださりました。私を友と呼び、死に別れた母に与えられた名前で私を呼んでくださったあなたに感謝しているのです。
ですが私はあなたのもとにいる限り永遠に奴隷であり、あなたとともに立つことすら許されない」
その言葉でひとつ理解できた。
「想われているな」
民主主義国家を作ろうとしている理由はそこにあったのだ。
以前語っていた『王政によって生まれた孤独に蝕まれた王子』とはこの目の前にいるグスタフ4世であり、彼の孤独を二度とこの世界に生み出さぬように民主主義を作り出そうとしていたのだ。
「だから私のもとを去るというのか」
「去るのではありません。所有物でも主従でもなくただ、あなたの友になりたいのです」
「だからといって契約まで断ち切る必要は……!」
「断ち切るべきです。この契約がある限りあなたは私を死に至らしめることが出来る、あなたの機嫌を損なえば死ぬなどという強迫観念を持ちながら友であるというのはあまりにも歪だと思いませんか」
「そんなものは知らん!お前が私の横にいないなど許さない」
強権的な言葉でありながら寂しさが滲むその言葉に、この王の孤独を感じる。
「王妃もいらっしゃるでしょう」
「どうだっていい」
その言葉に隣にいた王妃がうつむいた。
政略結婚とはいえ公衆の面前でなおざりにされるのは確かに嫌だろう。
「王妃殿下、グスタフ4世王の背縫いを縫われているのはあなたですよね」
その台詞でビクッと彼女の背筋がはねた。

「ランドリーメイドたちが噂していましたよ、まるでプロのような刺繍が気づくと王の衣服の背中に入れられていると。
辺境伯領風の刺繍がグスタフ4世王の衣服に縫われるようになったのははあなたが嫁いで以降の事、他に王宮内にあのような刺繍が出来るものがいるのか王宮内の獣人に調べてもらいましたが、北の辺境伯領出身で刺繍が得意な人が全くいらっしゃらない。では誰が?
そう考えた時気づいたんです、王妃殿下はよく王のクローゼットにいらっしゃっては王の服に合わせたドレス選びをお考えになられますよね?その間にあなたが背縫いをなされていたのではないか、と」

震える声で王妃殿下が「……どこに根拠があるというの」とつぶやいた。
「私が根拠ですよ」
そう口を開いたのはグウズルン情報管理官だった。
「ハルトルの居場所を探しているときに王のクローゼットで王妃殿下が刺繍を縫うところを見ているんです。ただ妙ですよね?王妃殿下、あなた確かお父様に指先が傷つくからと刺繍禁止されてましたよね?なのにあんなに刺繍が上手いとは思いませんでした」
その時俺の脳裏にある発想が浮かんできた。
「ハルトル宰相、王妃は替え玉だったのか?」
その言葉に2人がにっと不敵にほほ笑んだ。
「替え玉であると悟られないために王の衣服に隠れて背縫いを施していたんですよね?」
「……ハルトル、それがどうした」
「北の辺境伯領において背中に刺す刺繍はお守りを意味します、これは王宮にいる北の辺境伯領出身の騎士も言っておりましたので確実です。そのお守りを密かに縫う意味はひとつ、愛しているからに決まってるからでしょう?
それほど健気にあなたを好いている人が今、あなたの横にいるのです。私が傍に居らずとも良いのではありませんか?」
グスタフ4世王はうつむいたままの妻に目を向け、「本当か」と問うた。
彼女はボロボロとこぼした涙を裾で拭うと「命を懸けてお慕い申し上げております」と目を見て告げた。
「我が主人・グスタフ4世王閣下。想う人と想われる人の間に偽りや脅迫や契約など必要ないと、お判りいただけますか」
「そうかもしれないな」
グスタフ4世は少し考えてから宰相に王妃の件を調べるように指示を出すと、ハルトルに向き合った。



「ハルトル、ここを去っても私の友でいてくれるか」
「ええ」
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

処理中です...