異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
44 / 254
4:大使館、北へ

4-12

しおりを挟む
魔動力車に乗り込むと車内には小さいながらもラジオが借りられることに気づいた。
内容は主にニュースで大陸各地の情報を音声で確認することが出来るらしい。
「技術進化の偏り方がえぐいな」
日本語でそんなことをぼやいてみると「確かに」と納村が呟いた。
この数日の無茶な移動によるグロッキーから解放されてようやく本来の元気を取り戻し、運転席のすぐ後ろにある窓際に腰を下ろした。
魔動力車は全席指定なのだが全くばらばらの席に振り分けられており、俺は最後尾の真ん中の席に腰を下ろした。
やがて車が走り出し、ラジオに耳を傾けてみるが車の騒音であまり聞き取れず情報収集には向かないと諦めた。
ならば人と話そうと周囲を見れば右隣には子連れの母親が座っていて、5歳ぐらいの子どもは退屈そうにしている。
(……この親子から聞いてみるか)
そう思い立って俺は一本のわっか紐を取り出してあやとりを始める。
小さい頃母親に教わった程度ではあるが思ったよりも覚えているもので、川につり橋、ほうきに富士山と作ってみると隣にいた子どもの目が輝いているのが見えた。
「やってみる?」「うん!」
簡単にできるあやとりをいくつか教えていると、母親も気づいたようで「すいません」と声をかける。
(かかった)
「いえいえ、少しばかり暇だったものですから。どちらに向かわれるんですか?」
「親戚の葬儀がありまして、王都に帰るんです」
「王都ですか、初めて行くんですが最近はどんな様子ですか?」
「ご即位された新王殿下の話題で持ちきりですよ、過酷な選抜を超えられた優秀さに氷像のようなご尊顔を持ち合わせた方はそう多くないですから」
彼女はそれなりに地位ある女性のようで、一度だけ近くでそのご尊顔を拝した時の事を嬉しそうに語る。
曰く、夜空のような美しい紺色の瞳を持つすらりとした美男子で当時は10代半ばだというのに完成された美しさがあったという。
「過酷な選抜とは?」
「あら、ご存知ない?『王の資格は血統にあらず、その才にあり』って習うでしょうに」
「無学な旅人ですので」
そう告げると彼女は子供を膝に抱いて、この国の王選抜システムについて語った。
「この国では先王閣下の子であることが証明されれば母親の身の上は問われませんの。過去には下級メイドの子が王になることもありましたのよ」
「ほう、どのように選ばれるのですか?」
「王城の王子宮で最高の教師たちの元で教育を受け、そこで当代の王殿下に認められた方が皇太子になられるんです。もし王になれずとも王城の官僚や上級貴族の養子などの道も開けますから。
特にこたびの新王閣下は30人以上のご兄弟の中から皇太子になられたと聞きますし、対立関係にあった北の辺境伯令嬢を娶られて心の広い方だと思いますわ」
聞こえはいいが30人の中からの王座の奪い合い、というのが引っかかる。
古代中国や戦国時代ばりに身内で殺しあっている可能性もありそうだ。
グウズルン情報管理官の『あれはただ自分の大好きな愛犬を連れ戻しに来ただけですよ』という言葉が思い出される。
(まだ王位について日が浅く妻も敵方から貰った、というのを踏まえると本当にそれだけという可能性もあるな)
それだけ信頼できるものが少ないからこそ主従関係で縛ってあるハルトル宰相を取り戻したかったという事だろう。
「見て!」
先程の子どもがさっそく富士山をマスターしたようで自慢げに見せてくる。
母親もすごいわねえと嬉しそうに子供を褒めてくる。
確かこの魔動力車には休憩時間もあるはずだ。
(休憩に入ったらまた別の人に話してみるのも良いな)
情報は多いに越したことはない。ひとつでも宰相閣下奪還に役立つものがあるといいのだが。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

処理中です...