異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
41 / 254
4:大使館、北へ

4-9

しおりを挟む
四日目の夜、金羊国の最北端に辿り着た頃には日が沈みだしていた。
「思ったより遅くなりましたね、もう夜ですし一度ここで休憩します。今テントを立てるので自分で降りて貰えますか?」
「はあ」
トイレにもまともに立たせてもらえず、排せつもし瓶でという過酷な状況により正直身体が上手く動かない。
エコノミークラス症候群対策のため貧乏ゆすりや足の運動ぐらいはしていたがちょっと筋肉が固まっている気がする。
納村は口から魂が抜けきった顔をしており、ヘルカ魔術官は軽く腕や足を伸ばすと何事もなかったように立ち上がる。
「大丈夫ですか?」
「……少し引っ張ってもらいたいんだが」
「了解です、っと」
ぐっと伸ばすように体を起こしてもらうと固まった腰や背中の筋肉がぎゅっと伸びた。
野営の準備を終えたテントには毛布が敷かれ「ちょっとマッサージして貰えますか」と問えば「了解です」という形で即座にマッサージを始めてくれる。
温かい手で力強くマッサージされた背中が気持ちいい。4日間寝心地も悪くまともに眠れていないのもあり、気づくと寝落ちしていた。
―3時間後―
起きると毛布にくるまって眠るグウズルン情報魔術官がいた。
グウズルン情報管理官の表情が警戒心からいっとき放たれ穏やかな表情をしており、その眠りを妨げまいとテントから出ると焚き火番をするヘルカ魔術官がいた。
「あ、起きました?」
「……すまない」
「まーまー、とりあえずご飯どうぞ」
ご飯と言って差し出されたのは山菜と肉のスープだった。
スープと言っても具が多めなのである程度お腹には溜まりそうな感じで、一口飲むと山菜と肉のだしにほんのり潮がきいている。
「この肉は?」
「グウズルンさんがうさぎを捕まえてササッと解体してくれました」
確か普段はサーカスを率いているというから旅支度には慣れているのだろうが手際が良すぎる。
そもそも普通の人間は4日間不眠不休で走ること自体が不可能だし、冷静に考えてみると何者なのか大いに謎だ。
木を削って作った匙で野菜を掬いながらそんな疑問が沸くが聞かずにおいたほうが良いだろう。
「そういえばテントひとつで大丈夫でした?」
「3~4人ならあの広さで十分だろうし、むしろ女性ばかりの所に男がひとりいていいのかが不安なくらいだ」
「ああそっか、日本だと獣人と人間が恋愛しててもいいのか」
「こっちの世界だとダメなのか?」
「ダメというか、変態だと思われますね」
ヘルカ魔術官の話をまとめるとこうだ。
この世界において獣人は人間に近い獣という扱いであるので、獣人と恋愛するのは家畜と恋愛するのに近い。
世間では否定的な見方が主流だが獣人を性的な目的で買う人間も少ないながらいるらしい。
なので獣人の女と人間の男が一緒に寝ることは性的なニュアンスがないものとして捉えるのが一般的なんだそうだ。
「そういう感じなのか」
「気になるなら考えますけど」
「いや、別にいいんだ」
確かにグウズルン情報管理官は美しいが自分の中で性欲と結びつかないし、ヘルカ魔術官も可愛らしいとは思うが猫寄りの外見もありあまり性欲は沸かない。
(疲れなのか老化によるものか……あんまり考えたくないな)
疲れたのでさっさと寝てしまおう。

****

翌朝、最後に起きてきたヘルカ魔術官が寝ぼけ眼をこすりつつ大きな岩に手を当てるとずずずっと動き出した。
「これはトンネル?」
「ほうでふよ、ここを抜けると大森林をすぐ抜けられるんでふ」
大きなあくびを漏らしつつ説明してくれる。焚き火を消していなければインスタントコーヒーでも出せたのだが仕方ない。
テントを荷台に積み込むと人力車に乗せられる。
「今日中に州都を目指しますが魔動力車との乗り継ぎを考えると少し急いだほうがいいんで動かずにいてくださいね」
その一言で今日も降りられずにることを察した。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...