40 / 254
4:大使館、北へ
4-8
しおりを挟む
日本での所用を済ませて金羊国へ戻り、その夜の暗さに「戻ってきたな」と声が漏れた。
大使館に戻ると出迎えたのはアルマジロのジョンと嘉神参事官がうす明かりを頼りに本に目を通していた。
「ただいま戻った、他の面々は?」
「飯山さんと柊木先生はもう寝ましたけど、納村さんは司法宮で法律関係の文献漁ってます」
「司法宮か、その調子だと帰って来ないかもな」
「ランタン持参していきましたからね、徹夜で必要語彙を集めて抗議文の翻訳できるようにしておくって言ってました」
納村の気遣いに心が少し温まる。
嘉神もこちらの法律について目を通してくれているようで、いくつかの条項について伝えてくれる。
俺が不在の間、大使館は嘉神が・政経宮はエイン魔術官を中心に話し合いながら運営されていたという。ハルトル宰相の誘拐は秘匿しながらの運営は多少の混乱があり、長期的には持たないだろうというのが嘉神の見立てだった。
「日本での調査で犯人はほぼ特定できた、グウズルン情報管理官によると北の国の王でハルトル宰相のかつての持ち主であるグスタフ4世の手の内のものだと言っていた。犯人の特定も資料映像があれば可能な状態まで分析も出来てる。
明日の昼前にでも北へ向かう事になると思う。今日は早く寝ておくといい」
「……大使のお心遣いに甘えて、そうします」
****
翌日、基本的な旅支度をしているとグウズルン情報管理官とヘルカ魔術官が迎えに来た。
大使館からは最高責任者の俺と通訳官として納村が行くことになっている。
大きな背負子に荷物を詰め懐には武器もちらつかせている。
「お早いお迎えありがとうございます」
「これもハルトルのためですから」
「今から北に向かうとどれぐらいかかりますか?」
「普通の馬車なら1か月はかかりますが、今回は1週間程度で移動するルートを考えてます」
「ずいぶんと大幅な短縮ですね?」
「この国の最北部まで私が不眠不休で走れば4日、山と大森林を魔術で突き抜けて州都のギーロンまでで1日、北の王都までは魔動力車で2日ってところです」
ついに正気を疑うようなことを言い出した。
「まさか4日間走り続けろと?」
「馬車に乗っていただくだけです、私が不眠不休で走るので少しばかり眠りにくいだけです」
何という無茶をおっしゃる。
最短ルートのためなら多少の過酷さは覚悟の上で乗るかない。
なにより一番過酷なのはどう考えてもグウズルン情報管理官のほうだ、文句は言っていられない。
「飯山さん、グウズルン情報管理官にインスタントコーヒーの瓶を」
せめてもの気遣いに眠気覚ましのコーヒーを渡すと「あとでいただきます」と告げる。
俺たちを乗せるのは荷台のついた木製の人力車で、荷物を載せた後そこに命を託すように腰を下ろす。
ざっとグウズルン情報管理官が地面を蹴ると人力車が走り出す。
速さで言えば一般道を走る自動車と同じぐらい(そもそもこのレベルの早さを人力で出せてるのが怖い)だが乗っているのは木製の人力車で、道の整備が不十分なので揺れはひどく、命綱もないというのが恐ろしい。
(この状態が4日間続くのか……)
いっそ気絶するぐらい早ければよかったのに、と無責任なことを思いながらただ目をつぶるしかないのだった。
大使館に戻ると出迎えたのはアルマジロのジョンと嘉神参事官がうす明かりを頼りに本に目を通していた。
「ただいま戻った、他の面々は?」
「飯山さんと柊木先生はもう寝ましたけど、納村さんは司法宮で法律関係の文献漁ってます」
「司法宮か、その調子だと帰って来ないかもな」
「ランタン持参していきましたからね、徹夜で必要語彙を集めて抗議文の翻訳できるようにしておくって言ってました」
納村の気遣いに心が少し温まる。
嘉神もこちらの法律について目を通してくれているようで、いくつかの条項について伝えてくれる。
俺が不在の間、大使館は嘉神が・政経宮はエイン魔術官を中心に話し合いながら運営されていたという。ハルトル宰相の誘拐は秘匿しながらの運営は多少の混乱があり、長期的には持たないだろうというのが嘉神の見立てだった。
「日本での調査で犯人はほぼ特定できた、グウズルン情報管理官によると北の国の王でハルトル宰相のかつての持ち主であるグスタフ4世の手の内のものだと言っていた。犯人の特定も資料映像があれば可能な状態まで分析も出来てる。
明日の昼前にでも北へ向かう事になると思う。今日は早く寝ておくといい」
「……大使のお心遣いに甘えて、そうします」
****
翌日、基本的な旅支度をしているとグウズルン情報管理官とヘルカ魔術官が迎えに来た。
大使館からは最高責任者の俺と通訳官として納村が行くことになっている。
大きな背負子に荷物を詰め懐には武器もちらつかせている。
「お早いお迎えありがとうございます」
「これもハルトルのためですから」
「今から北に向かうとどれぐらいかかりますか?」
「普通の馬車なら1か月はかかりますが、今回は1週間程度で移動するルートを考えてます」
「ずいぶんと大幅な短縮ですね?」
「この国の最北部まで私が不眠不休で走れば4日、山と大森林を魔術で突き抜けて州都のギーロンまでで1日、北の王都までは魔動力車で2日ってところです」
ついに正気を疑うようなことを言い出した。
「まさか4日間走り続けろと?」
「馬車に乗っていただくだけです、私が不眠不休で走るので少しばかり眠りにくいだけです」
何という無茶をおっしゃる。
最短ルートのためなら多少の過酷さは覚悟の上で乗るかない。
なにより一番過酷なのはどう考えてもグウズルン情報管理官のほうだ、文句は言っていられない。
「飯山さん、グウズルン情報管理官にインスタントコーヒーの瓶を」
せめてもの気遣いに眠気覚ましのコーヒーを渡すと「あとでいただきます」と告げる。
俺たちを乗せるのは荷台のついた木製の人力車で、荷物を載せた後そこに命を託すように腰を下ろす。
ざっとグウズルン情報管理官が地面を蹴ると人力車が走り出す。
速さで言えば一般道を走る自動車と同じぐらい(そもそもこのレベルの早さを人力で出せてるのが怖い)だが乗っているのは木製の人力車で、道の整備が不十分なので揺れはひどく、命綱もないというのが恐ろしい。
(この状態が4日間続くのか……)
いっそ気絶するぐらい早ければよかったのに、と無責任なことを思いながらただ目をつぶるしかないのだった。
1
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・
今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。
その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。
皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。
刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

(完結)嘘つき聖女と呼ばれて
青空一夏
ファンタジー
私、アータムは夢のなかで女神様から祝福を受けたが妹のアスペンも受けたと言う。
両親はアスペンを聖女様だと決めつけて、私を無視した。
妹は私を引き立て役に使うと言い出し両親も賛成して……
ゆるふわ設定ご都合主義です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。

異世界転移~治癒師の日常
コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が…
こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします
なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18)
すいません少し並びを変えております。(2017/12/25)
カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15)
エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる