異世界大使館はじめます

あかべこ

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4:大使館、北へ

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日本での所用を済ませて金羊国へ戻り、その夜の暗さに「戻ってきたな」と声が漏れた。
大使館に戻ると出迎えたのはアルマジロのジョンと嘉神参事官がうす明かりを頼りに本に目を通していた。
「ただいま戻った、他の面々は?」
「飯山さんと柊木先生はもう寝ましたけど、納村さんは司法宮で法律関係の文献漁ってます」
「司法宮か、その調子だと帰って来ないかもな」
「ランタン持参していきましたからね、徹夜で必要語彙を集めて抗議文の翻訳できるようにしておくって言ってました」
納村の気遣いに心が少し温まる。
嘉神もこちらの法律について目を通してくれているようで、いくつかの条項について伝えてくれる。
俺が不在の間、大使館は嘉神が・政経宮はエイン魔術官を中心に話し合いながら運営されていたという。ハルトル宰相の誘拐は秘匿しながらの運営は多少の混乱があり、長期的には持たないだろうというのが嘉神の見立てだった。
「日本での調査で犯人はほぼ特定できた、グウズルン情報管理官によると北の国の王でハルトル宰相のかつての持ち主であるグスタフ4世の手の内のものだと言っていた。犯人の特定も資料映像があれば可能な状態まで分析も出来てる。
明日の昼前にでも北へ向かう事になると思う。今日は早く寝ておくといい」
「……大使のお心遣いに甘えて、そうします」

****

翌日、基本的な旅支度をしているとグウズルン情報管理官とヘルカ魔術官が迎えに来た。
大使館からは最高責任者の俺と通訳官として納村が行くことになっている。
大きな背負子に荷物を詰め懐には武器もちらつかせている。
「お早いお迎えありがとうございます」
「これもハルトルのためですから」
「今から北に向かうとどれぐらいかかりますか?」
「普通の馬車なら1か月はかかりますが、今回は1週間程度で移動するルートを考えてます」
「ずいぶんと大幅な短縮ですね?」
「この国の最北部まで私が不眠不休で走れば4日、山と大森林を魔術で突き抜けて州都のギーロンまでで1日、北の王都までは魔動力車で2日ってところです」
ついに正気を疑うようなことを言い出した。
「まさか4日間走り続けろと?」
「馬車に乗っていただくだけです、私が不眠不休で走るので少しばかり眠りにくいだけです」
何という無茶をおっしゃる。
最短ルートのためなら多少の過酷さは覚悟の上で乗るかない。
なにより一番過酷なのはどう考えてもグウズルン情報管理官のほうだ、文句は言っていられない。
「飯山さん、グウズルン情報管理官にインスタントコーヒーの瓶を」
せめてもの気遣いに眠気覚ましのコーヒーを渡すと「あとでいただきます」と告げる。
俺たちを乗せるのは荷台のついた木製の人力車で、荷物を載せた後そこに命を託すように腰を下ろす。
ざっとグウズルン情報管理官が地面を蹴ると人力車が走り出す。
速さで言えば一般道を走る自動車と同じぐらい(そもそもこのレベルの早さを人力で出せてるのが怖い)だが乗っているのは木製の人力車で、道の整備が不十分なので揺れはひどく、命綱もないというのが恐ろしい。

(この状態が4日間続くのか……)

いっそ気絶するぐらい早ければよかったのに、と無責任なことを思いながらただ目をつぶるしかないのだった。
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