異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
37 / 254
4:大使館、北へ

4-5

しおりを挟む
ここは外務省並行世界局金羊国課の隣にある会議室。
そんなに広くないがホワイトボードがあり防音もちゃんとしているこの部屋で、さっそく会議は始まった。
「まず俺が考えているのは、金羊国を日本の保護国だと思わせたい」
「あ゛?」
殺意に近い嫌悪感のこもった声でグウズルン情報管理官がこちらをにらみつけてきた。
俺どころか隣にいる飯島やヘルカ魔術官もちょっとビビってるが、ここで話を止める余裕はない。
「あの世界において日本は未知数の国だ。金羊国及びハルトルの背後には魔術に対抗することが出来る謎の強国がバックにいるぞ、という脅しをかけておくことで交渉を有利に進められないかと思ってる」
「理屈は分かった。ただ私たちは日本の保護国ではないということについては?」
「とにかくバックに強くて厄介な保護者がいると思わせればいい、というかそうしないと木栖とハルトル宰相が一緒にいた事やひいてはこの件に日本政府が介入する言い訳が作れない」
大変納得いかない表情ではあるが、とりあえず妥協はしてくれたようなので話を続けよう。
「で、それを理由に王都の襲撃でもするのかしら?」
「さすがにそこまでは出来ない。ただこの件の代償としてハルトル宰相の即時返還を先方に求める」
「断られたら?」
「その断れない理由を作るために日本に来た。
まず襲撃時の映像を分析して襲撃犯の外見や特徴を割り出し、可能なら向こうの関係者の映像をもとに犯人を割り出す。なくても日本の警察を送り込んで捜査して貰えばいいしな。
そしてそれをもとに犯人を日本に引き渡して傷害事件としての訴訟する」
「外交騎士は祖国の法に準じて行動するならば外交騎士を傷つけたものも祖国の法に従え、という事ですか。まあ無理筋かもしれませんが通じなくはないですね」
あちらの世界に精通しているグウズルン情報管理官が言うのならギリギリだな。
飯島がめんどくさい事は止めてくれよ、とこちらを見る。
「日本の警察の介入についてはまあ可能性は低いだろうがそれは想定の上、なんなら謎の警察権力を先方には拒んで欲しいぐらいだ。
日本政府本国からの介入を完全拒否したい先方にハルトル宰相即時返還ですべてをチャラにするという交渉を持ちかける」
その説明にグウズルン情報管理官が小さくため息を漏らした。
「……そんな都合良くいかないと思いますけどね」
それは否定しない。
国王がハルトルという個人に執着しているという点が最大の難点であり、その執着を諦めさせるほどのデメリットとして日本という異世界の謎の国がどの程度うまく機能するかは分からない。
なにより個人の感情ほど卸し難いものはない。
「いちおう今日のうちに映像の解析、武力面での威圧、地球における法的な問題辺りは日本にいるうちに解決しますがね」
「何より時間がないんですよ?所有宣言が教会に届けばあの場所は問答無用で北の国の所有地になってしまいます、引き伸ばし工作をお考えなら今ここでこ「大丈夫です」
グウズルン情報管理官が物騒なことを言い出しそうなのを引き留めておく。
「暴力は誘拐犯にのみ向けるべきだ」
「……そうですね。ところであのひとと真柴大使はどういったご関係と説明なさるので?死んでもいない部下のために相手の所に乗り込むのは根拠が弱すぎます」
「ああ、言っていませんでしたね。俺は木栖と事実上の婚姻関係にあります、法律上の問題で非公式な関係ではありますがね」
飯島にはあとで仔細を説明するとして、この設定を悪用させてもらおう。
誰だって自分の家族を傷つけられたら怒るに決まっているだろうし、これなら介入の言い分として強い。
「なるほど、それなら婚姻証明書類がないとなると言いがかりと思われる可能性があります。右手薬指に指輪のひとつもないのに既婚者と言い張るのは北の国では無理がある」
「なら指輪を用意しますよ」
幸いここは日本だ。休み時間に駆け込めば既製品の指輪ぐらい用意できる。
経費では落ちなさそうだが幸か不幸か独身貴族の強みで貯金はある。
(念のため木栖にも同じ指輪を持たせるか、この設定を使う時必要だろうしな)
「ヘルカ、のどが渇いたので水飲み場へ」
「ひゃい!」
水を飲みに退席した2人が完全にドアを閉めたのを確認して、飯島が恐る恐る切り出した。
「……本当に付き合ってるのか?」
「設定だ。公的な場に木栖をボディーガードとして連れて行くのに便利かと思って本人承諾の上でこの設定を使っている」
「設定かよ」
呆れ気味に頭を抱えてため息を漏らした飯島に「これが基本的に設定であることは金羊国側は把握してない」と付け足す。
「わかった」
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

処理中です...