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4:大使館、北へ
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翌朝、俺と木栖は一度日本に帰還することにした。
金羊国側からの使節として日本に来た経験があるヘルカ魔術官と現場にいてかつ異世界における法律に明るいグウズルン情報管理官がついていくことにした。
木栖には捕まえたタクシーで世田谷の自衛隊病院に行って診断書や治療を受けてもらい、ヘルカ魔術官とグウズルン情報管理官には俺とともに自宅から来る飯島を待ってもらう。
「来るまで30分ほどかかるそうだ」
「30分も待たされるんですか?」
あからさまに不機嫌なグウズルン情報管理官を宥めるためとりあえずは何か飲んで待ってもらおう。
「ヘルカ魔術官、俺の小銭入れを貸すから4人分の朝食と飲み物を」
持ってきていた小銭入れを丸ごと差し出すと「了解です」と言ってさっそくコンビニへ走り出す。
その間スマートフォンに入れてあった連絡先から今回使えそうなツテというツテに連絡をし、協力を仰ぐ。
(……とりあえず警察官僚と司法官僚、弁護士や裁判官になった奴で協力してくれる奴がいるといいんだがな)
金羊国では初夏の陽気であったが、日本はもうすぐ梅雨も明けるかという時期で朝だというのにじっとりする。
余談だが、金羊国と日本では暦や季節の進み方に1か月~1か月半程度ずれがあり金羊国では6月上旬なのがこちらでは7月も終わりになる。
サクっとコンビニで買い出しをしてきたヘルカ魔術官からサンドイッチとコーヒーを貰い、グウズルン情報管理官は不機嫌さをにじませつつ牛乳とロールパンを、ヘルカ魔術官はおにぎりとほうじ茶を嬉しそうに味わう。
早朝から呼び出された飯島は自家用車だという真赤なCX5で門前まで乗り付けてきた。
「おつかれさま」
仕立てのよいスーツを身にまとい端正に整えられた洒脱な雰囲気の男が車から降りてくる。
寝ぐせひとつない天然の茶髪からは清潔感や美しさに気を遣っていることが分かるが、よくよく見ると目鼻立ちが特別整っている訳でもない。俗に言う雰囲気イケメンという奴だろう。
これが同期の飯島匡貴という男である。
「朝から呼びつけてすまない、緊急事態だったんでな」
残った緑茶とおにぎりは飯島の朝ごはんとして渡しておく。
簡単な挨拶を済ませて後部座席に2人が座り、俺は助手席に座りつつでスマートフォンの充電を行う。
「で、緊急事態というのは?」
「金羊国宰相ハルトル氏が襲撃され、警護についていたうちの木栖がケガをした。いま世田谷の自衛隊病院で診断書を書いてもらっている」
「は?!」
飯島が後部座席に座るグウズルン情報管理官とヘルカ魔術官の様子を鏡越しに確認して、これが真実だと察した。
グウズルン情報管理官がこれまでの状況を説明し、日本語が出来るヘルカ魔術官が通訳、俺が日本語で補足する。
「立派な外交問題だな」
「ああ、金羊国にとってはもちろん日本側にとっても異世界との国交通商を絶たれる可能性がある」
グウズルン情報管理官がぼそっと何かをつぶやいて、ヘルカ魔術官が「本当ですか?」と問う。
しばらくああだこうだと言いあった後グウズルン情報管理官があることを口にした。
「犯人のめどはついています、現在私の部下に追跡を行って貰いいざという時は武力での奪還も念頭に置いています」
「……めどがついていたのか」
「ええ、北の新王・グスタフ4世。ハルトルのかつての持ち主の手のものですよ」
奴隷であった頃ハルトルの持ち主が王子だというのは聞いていた。
かつての持ち主による奪還と言われればあの世界では事情は通るし、新王という事はまだ政治体制も盤石でない可能性があるので金羊国自体の所有権を主張することで実績を作ることが目的だろうか。
「ってことは目的は金羊国の所有権の主張ですか?」
「違いますよ。あれはただ自分の大好きな愛犬を連れ戻しに来ただけです、私が北に行くたびにそれを目的とした接触がありましたし王位についたから良い煙も使える」
ヘルカ魔術官が「煙は隠密行動の専門家って事です」と補足する。
あの夜グウズルン情報管理官がハルトル宰相の警護と帰ろうとした理由がようやくわかった。
「以前からハルトル宰相が狙われていることを知っていたが敢えて俺たちには言わずにいたという事か」
「そりゃそうでしょう、ハルトルはあなたたちを信用してますが私からすれば謎だらけで未知の勢力です」
ハルトル宰相が不用心なくらい俺たちを信用しているので忘れていたが、普通に考えればグウズルン情報管理官の言うとおりだ。金羊国側にもそういう人がいるのは当然である。
「しかしその未知の勢力の未知の技術に頼らなければ私たちが魔術に対抗できないのも事実」
「ああ、俺たち日本側にとっても金羊国は重要なパートナーだ。何としても取り返すさ」
朝の霞が関に赤いCX5が滑り込む。
俺たちの本丸・外務省はちょうど通勤時間前で駐車場も空いている。
充電していたスマホには協力の申し出の連絡がいくつか届き、さっそくだが彼らにも外務省へ来てもらう事にしよう。
「さ、作戦会議の時間だ」
金羊国側からの使節として日本に来た経験があるヘルカ魔術官と現場にいてかつ異世界における法律に明るいグウズルン情報管理官がついていくことにした。
木栖には捕まえたタクシーで世田谷の自衛隊病院に行って診断書や治療を受けてもらい、ヘルカ魔術官とグウズルン情報管理官には俺とともに自宅から来る飯島を待ってもらう。
「来るまで30分ほどかかるそうだ」
「30分も待たされるんですか?」
あからさまに不機嫌なグウズルン情報管理官を宥めるためとりあえずは何か飲んで待ってもらおう。
「ヘルカ魔術官、俺の小銭入れを貸すから4人分の朝食と飲み物を」
持ってきていた小銭入れを丸ごと差し出すと「了解です」と言ってさっそくコンビニへ走り出す。
その間スマートフォンに入れてあった連絡先から今回使えそうなツテというツテに連絡をし、協力を仰ぐ。
(……とりあえず警察官僚と司法官僚、弁護士や裁判官になった奴で協力してくれる奴がいるといいんだがな)
金羊国では初夏の陽気であったが、日本はもうすぐ梅雨も明けるかという時期で朝だというのにじっとりする。
余談だが、金羊国と日本では暦や季節の進み方に1か月~1か月半程度ずれがあり金羊国では6月上旬なのがこちらでは7月も終わりになる。
サクっとコンビニで買い出しをしてきたヘルカ魔術官からサンドイッチとコーヒーを貰い、グウズルン情報管理官は不機嫌さをにじませつつ牛乳とロールパンを、ヘルカ魔術官はおにぎりとほうじ茶を嬉しそうに味わう。
早朝から呼び出された飯島は自家用車だという真赤なCX5で門前まで乗り付けてきた。
「おつかれさま」
仕立てのよいスーツを身にまとい端正に整えられた洒脱な雰囲気の男が車から降りてくる。
寝ぐせひとつない天然の茶髪からは清潔感や美しさに気を遣っていることが分かるが、よくよく見ると目鼻立ちが特別整っている訳でもない。俗に言う雰囲気イケメンという奴だろう。
これが同期の飯島匡貴という男である。
「朝から呼びつけてすまない、緊急事態だったんでな」
残った緑茶とおにぎりは飯島の朝ごはんとして渡しておく。
簡単な挨拶を済ませて後部座席に2人が座り、俺は助手席に座りつつでスマートフォンの充電を行う。
「で、緊急事態というのは?」
「金羊国宰相ハルトル氏が襲撃され、警護についていたうちの木栖がケガをした。いま世田谷の自衛隊病院で診断書を書いてもらっている」
「は?!」
飯島が後部座席に座るグウズルン情報管理官とヘルカ魔術官の様子を鏡越しに確認して、これが真実だと察した。
グウズルン情報管理官がこれまでの状況を説明し、日本語が出来るヘルカ魔術官が通訳、俺が日本語で補足する。
「立派な外交問題だな」
「ああ、金羊国にとってはもちろん日本側にとっても異世界との国交通商を絶たれる可能性がある」
グウズルン情報管理官がぼそっと何かをつぶやいて、ヘルカ魔術官が「本当ですか?」と問う。
しばらくああだこうだと言いあった後グウズルン情報管理官があることを口にした。
「犯人のめどはついています、現在私の部下に追跡を行って貰いいざという時は武力での奪還も念頭に置いています」
「……めどがついていたのか」
「ええ、北の新王・グスタフ4世。ハルトルのかつての持ち主の手のものですよ」
奴隷であった頃ハルトルの持ち主が王子だというのは聞いていた。
かつての持ち主による奪還と言われればあの世界では事情は通るし、新王という事はまだ政治体制も盤石でない可能性があるので金羊国自体の所有権を主張することで実績を作ることが目的だろうか。
「ってことは目的は金羊国の所有権の主張ですか?」
「違いますよ。あれはただ自分の大好きな愛犬を連れ戻しに来ただけです、私が北に行くたびにそれを目的とした接触がありましたし王位についたから良い煙も使える」
ヘルカ魔術官が「煙は隠密行動の専門家って事です」と補足する。
あの夜グウズルン情報管理官がハルトル宰相の警護と帰ろうとした理由がようやくわかった。
「以前からハルトル宰相が狙われていることを知っていたが敢えて俺たちには言わずにいたという事か」
「そりゃそうでしょう、ハルトルはあなたたちを信用してますが私からすれば謎だらけで未知の勢力です」
ハルトル宰相が不用心なくらい俺たちを信用しているので忘れていたが、普通に考えればグウズルン情報管理官の言うとおりだ。金羊国側にもそういう人がいるのは当然である。
「しかしその未知の勢力の未知の技術に頼らなければ私たちが魔術に対抗できないのも事実」
「ああ、俺たち日本側にとっても金羊国は重要なパートナーだ。何としても取り返すさ」
朝の霞が関に赤いCX5が滑り込む。
俺たちの本丸・外務省はちょうど通勤時間前で駐車場も空いている。
充電していたスマホには協力の申し出の連絡がいくつか届き、さっそくだが彼らにも外務省へ来てもらう事にしよう。
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