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4:大使館、北へ
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その日の夜は大きな桶いっぱいにちらし寿司と大鍋に入った味噌汁が出された。
冷凍ご飯(これは柊木医師が冷凍の魔術を覚えるために作った)を解凍して酢飯にした後野菜・肉・川魚をふんだんに盛り付けたちらし寿司である。
さらにけんちん汁のような野菜たっぷりの味噌汁まで出してくれた。
3日にわたる麦茶作りで精魂尽き果て『食べたらすぐに寝たい』と食事会を辞退しながらもちゃんと華やかな逸品を出してくれた飯山さんには感謝しかない。
今日はいつもの会議室や食堂(実は寮のほうに食堂がある)ではなく、1階の大広間を使う。
淡い黄色のリネン生地のテーブルクロスとカトラリーを並べておくとアントリが「宰相閣下とグウズルンさまがご到着しました」と声がかかる。
「こんばんわ」
「ようこそお越しくださいました、宰相閣下」
一緒にいるのはブルートパーズの瞳を持った美しいアルビノの獣人だった……いや、アルビノは一般的に赤い瞳が多いと聞くから違うか?
出逢ってきた獣人たちの中でもかなり人間寄りの外見で、小ぶりながら丸みを帯びた耳やネコ科獣人の特徴だというしなやかな体つき。
子どもの頃にこういう雰囲気の生き物を動物園で見た覚えがある、あれはたしか東武動物公園だったか?
「ホワイトタイガーか」
脳内で白く美しい生き物の姿が思い浮かぶ。
いつだったか動物園で見たあの白く美しい生き物に彼女はよく似ていた。
「わたくしはホワイトライオンを祖に持ちます踊り子にしてこの国の情報管理官のグウズルンと申します」
「失礼しました、自分は駐金羊国日本大使館全権大使の真柴晴彦と申します」
「グウズルンは普段大きなサーカスを率いていて、定期的に僕らの所に来てくれては大陸各地の事を調べてくれたり僕たちの所へ来られずにいる人たちを連れてきてくれるんです」
それで情報も一緒に扱うという事か。
2人は昔からの付き合いで幼馴染だと言い、一度お目通しをというのはそうしたことを踏まえての事のようだった。
食事会はとても和やかに進んだ。
グウズルンという人物は当初こそ俺たちに多少の猜疑心を向けているようであったが、日本側に金羊国制圧の意図がないこと―そもそも自衛隊が専守防衛を旨とする組織なので攻め込むこと自体が不可能だという事も添えて―を出来るだけ誠意をもって伝えると納得してくれた。
ちょとした礼として大陸各地の情勢を聞けたのは大きな収穫であったし、サーカス団員も休養として3日ほど滞在するというのでほかの人からも話を聞けそうだ。
「僕は先に失礼しますが、最後にグウズルンの舞を見てやってもらえませんか?」
「ハルトルをひとりで帰す訳には」
「警護でしたら木栖をついていかせましょうか?」
ちらりと木栖のほうを向くと木栖が小さく頷く。
ここから政経宮まではそう遠くないし、木栖ならちゃんと安全に送迎できる。
「……わかりました、木栖さまにお任せしますがハルトルに傷のひとつでもつけようものならその首と身体が別れることをご覚悟ください」
ぞっとする一言を放つグウズルンに「承知した」と小さく返す。
いざという時は木栖にスマートフォンで連絡するように小声で言い含め、二人を見送る。
見送ってから3分後、外から響いたのはスマートフォンからならされる甲高い防犯ベルの電子音だった。
冷凍ご飯(これは柊木医師が冷凍の魔術を覚えるために作った)を解凍して酢飯にした後野菜・肉・川魚をふんだんに盛り付けたちらし寿司である。
さらにけんちん汁のような野菜たっぷりの味噌汁まで出してくれた。
3日にわたる麦茶作りで精魂尽き果て『食べたらすぐに寝たい』と食事会を辞退しながらもちゃんと華やかな逸品を出してくれた飯山さんには感謝しかない。
今日はいつもの会議室や食堂(実は寮のほうに食堂がある)ではなく、1階の大広間を使う。
淡い黄色のリネン生地のテーブルクロスとカトラリーを並べておくとアントリが「宰相閣下とグウズルンさまがご到着しました」と声がかかる。
「こんばんわ」
「ようこそお越しくださいました、宰相閣下」
一緒にいるのはブルートパーズの瞳を持った美しいアルビノの獣人だった……いや、アルビノは一般的に赤い瞳が多いと聞くから違うか?
出逢ってきた獣人たちの中でもかなり人間寄りの外見で、小ぶりながら丸みを帯びた耳やネコ科獣人の特徴だというしなやかな体つき。
子どもの頃にこういう雰囲気の生き物を動物園で見た覚えがある、あれはたしか東武動物公園だったか?
「ホワイトタイガーか」
脳内で白く美しい生き物の姿が思い浮かぶ。
いつだったか動物園で見たあの白く美しい生き物に彼女はよく似ていた。
「わたくしはホワイトライオンを祖に持ちます踊り子にしてこの国の情報管理官のグウズルンと申します」
「失礼しました、自分は駐金羊国日本大使館全権大使の真柴晴彦と申します」
「グウズルンは普段大きなサーカスを率いていて、定期的に僕らの所に来てくれては大陸各地の事を調べてくれたり僕たちの所へ来られずにいる人たちを連れてきてくれるんです」
それで情報も一緒に扱うという事か。
2人は昔からの付き合いで幼馴染だと言い、一度お目通しをというのはそうしたことを踏まえての事のようだった。
食事会はとても和やかに進んだ。
グウズルンという人物は当初こそ俺たちに多少の猜疑心を向けているようであったが、日本側に金羊国制圧の意図がないこと―そもそも自衛隊が専守防衛を旨とする組織なので攻め込むこと自体が不可能だという事も添えて―を出来るだけ誠意をもって伝えると納得してくれた。
ちょとした礼として大陸各地の情勢を聞けたのは大きな収穫であったし、サーカス団員も休養として3日ほど滞在するというのでほかの人からも話を聞けそうだ。
「僕は先に失礼しますが、最後にグウズルンの舞を見てやってもらえませんか?」
「ハルトルをひとりで帰す訳には」
「警護でしたら木栖をついていかせましょうか?」
ちらりと木栖のほうを向くと木栖が小さく頷く。
ここから政経宮まではそう遠くないし、木栖ならちゃんと安全に送迎できる。
「……わかりました、木栖さまにお任せしますがハルトルに傷のひとつでもつけようものならその首と身体が別れることをご覚悟ください」
ぞっとする一言を放つグウズルンに「承知した」と小さく返す。
いざという時は木栖にスマートフォンで連絡するように小声で言い含め、二人を見送る。
見送ってから3分後、外から響いたのはスマートフォンからならされる甲高い防犯ベルの電子音だった。
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