34 / 254
4:大使館、北へ
4-2
しおりを挟む
その日の夜は大きな桶いっぱいにちらし寿司と大鍋に入った味噌汁が出された。
冷凍ご飯(これは柊木医師が冷凍の魔術を覚えるために作った)を解凍して酢飯にした後野菜・肉・川魚をふんだんに盛り付けたちらし寿司である。
さらにけんちん汁のような野菜たっぷりの味噌汁まで出してくれた。
3日にわたる麦茶作りで精魂尽き果て『食べたらすぐに寝たい』と食事会を辞退しながらもちゃんと華やかな逸品を出してくれた飯山さんには感謝しかない。
今日はいつもの会議室や食堂(実は寮のほうに食堂がある)ではなく、1階の大広間を使う。
淡い黄色のリネン生地のテーブルクロスとカトラリーを並べておくとアントリが「宰相閣下とグウズルンさまがご到着しました」と声がかかる。
「こんばんわ」
「ようこそお越しくださいました、宰相閣下」
一緒にいるのはブルートパーズの瞳を持った美しいアルビノの獣人だった……いや、アルビノは一般的に赤い瞳が多いと聞くから違うか?
出逢ってきた獣人たちの中でもかなり人間寄りの外見で、小ぶりながら丸みを帯びた耳やネコ科獣人の特徴だというしなやかな体つき。
子どもの頃にこういう雰囲気の生き物を動物園で見た覚えがある、あれはたしか東武動物公園だったか?
「ホワイトタイガーか」
脳内で白く美しい生き物の姿が思い浮かぶ。
いつだったか動物園で見たあの白く美しい生き物に彼女はよく似ていた。
「わたくしはホワイトライオンを祖に持ちます踊り子にしてこの国の情報管理官のグウズルンと申します」
「失礼しました、自分は駐金羊国日本大使館全権大使の真柴晴彦と申します」
「グウズルンは普段大きなサーカスを率いていて、定期的に僕らの所に来てくれては大陸各地の事を調べてくれたり僕たちの所へ来られずにいる人たちを連れてきてくれるんです」
それで情報も一緒に扱うという事か。
2人は昔からの付き合いで幼馴染だと言い、一度お目通しをというのはそうしたことを踏まえての事のようだった。
食事会はとても和やかに進んだ。
グウズルンという人物は当初こそ俺たちに多少の猜疑心を向けているようであったが、日本側に金羊国制圧の意図がないこと―そもそも自衛隊が専守防衛を旨とする組織なので攻め込むこと自体が不可能だという事も添えて―を出来るだけ誠意をもって伝えると納得してくれた。
ちょとした礼として大陸各地の情勢を聞けたのは大きな収穫であったし、サーカス団員も休養として3日ほど滞在するというのでほかの人からも話を聞けそうだ。
「僕は先に失礼しますが、最後にグウズルンの舞を見てやってもらえませんか?」
「ハルトルをひとりで帰す訳には」
「警護でしたら木栖をついていかせましょうか?」
ちらりと木栖のほうを向くと木栖が小さく頷く。
ここから政経宮まではそう遠くないし、木栖ならちゃんと安全に送迎できる。
「……わかりました、木栖さまにお任せしますがハルトルに傷のひとつでもつけようものならその首と身体が別れることをご覚悟ください」
ぞっとする一言を放つグウズルンに「承知した」と小さく返す。
いざという時は木栖にスマートフォンで連絡するように小声で言い含め、二人を見送る。
見送ってから3分後、外から響いたのはスマートフォンからならされる甲高い防犯ベルの電子音だった。
冷凍ご飯(これは柊木医師が冷凍の魔術を覚えるために作った)を解凍して酢飯にした後野菜・肉・川魚をふんだんに盛り付けたちらし寿司である。
さらにけんちん汁のような野菜たっぷりの味噌汁まで出してくれた。
3日にわたる麦茶作りで精魂尽き果て『食べたらすぐに寝たい』と食事会を辞退しながらもちゃんと華やかな逸品を出してくれた飯山さんには感謝しかない。
今日はいつもの会議室や食堂(実は寮のほうに食堂がある)ではなく、1階の大広間を使う。
淡い黄色のリネン生地のテーブルクロスとカトラリーを並べておくとアントリが「宰相閣下とグウズルンさまがご到着しました」と声がかかる。
「こんばんわ」
「ようこそお越しくださいました、宰相閣下」
一緒にいるのはブルートパーズの瞳を持った美しいアルビノの獣人だった……いや、アルビノは一般的に赤い瞳が多いと聞くから違うか?
出逢ってきた獣人たちの中でもかなり人間寄りの外見で、小ぶりながら丸みを帯びた耳やネコ科獣人の特徴だというしなやかな体つき。
子どもの頃にこういう雰囲気の生き物を動物園で見た覚えがある、あれはたしか東武動物公園だったか?
「ホワイトタイガーか」
脳内で白く美しい生き物の姿が思い浮かぶ。
いつだったか動物園で見たあの白く美しい生き物に彼女はよく似ていた。
「わたくしはホワイトライオンを祖に持ちます踊り子にしてこの国の情報管理官のグウズルンと申します」
「失礼しました、自分は駐金羊国日本大使館全権大使の真柴晴彦と申します」
「グウズルンは普段大きなサーカスを率いていて、定期的に僕らの所に来てくれては大陸各地の事を調べてくれたり僕たちの所へ来られずにいる人たちを連れてきてくれるんです」
それで情報も一緒に扱うという事か。
2人は昔からの付き合いで幼馴染だと言い、一度お目通しをというのはそうしたことを踏まえての事のようだった。
食事会はとても和やかに進んだ。
グウズルンという人物は当初こそ俺たちに多少の猜疑心を向けているようであったが、日本側に金羊国制圧の意図がないこと―そもそも自衛隊が専守防衛を旨とする組織なので攻め込むこと自体が不可能だという事も添えて―を出来るだけ誠意をもって伝えると納得してくれた。
ちょとした礼として大陸各地の情勢を聞けたのは大きな収穫であったし、サーカス団員も休養として3日ほど滞在するというのでほかの人からも話を聞けそうだ。
「僕は先に失礼しますが、最後にグウズルンの舞を見てやってもらえませんか?」
「ハルトルをひとりで帰す訳には」
「警護でしたら木栖をついていかせましょうか?」
ちらりと木栖のほうを向くと木栖が小さく頷く。
ここから政経宮まではそう遠くないし、木栖ならちゃんと安全に送迎できる。
「……わかりました、木栖さまにお任せしますがハルトルに傷のひとつでもつけようものならその首と身体が別れることをご覚悟ください」
ぞっとする一言を放つグウズルンに「承知した」と小さく返す。
いざという時は木栖にスマートフォンで連絡するように小声で言い含め、二人を見送る。
見送ってから3分後、外から響いたのはスマートフォンからならされる甲高い防犯ベルの電子音だった。
1
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる