異世界大使館はじめます

あかべこ

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3:大使館員は歩く

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魔術についての最初の報告書が届けられたのは納村が戻ってきて1週間ほど過ぎてからのことだった。
「とりあえず現時点で分かったことを一通りまとめてみただけですけどね」
「ありがとう。魔術についてはある程度周知しておいた方がよさそうだし嘉神が戻ってきたら一度説明会をしてもらえるか?」
「構いません。それに伴っての頼みなんですが、電気関係を魔術で補えそうなのでいくつか医療機器の持ち込みを申請したいのですが」
「ああ、電気が使えないからと持ち込まなかったやつか。魔術で補えないのか?」
「すぐには無理でしょうね。それにまだ原理の不明瞭な魔術に頼りすぎるのも……と思いまして」
「原理が不明瞭?」
「現時点でわかっているのは、この世界の魔術は魔術器官まじゅつきかんと言う臓器によってエネルギーを発生させ臓器から作られたエネルギーを操作して現象を発生させるということです。
ただ発生させるエネルギーが膨大すぎて生半可な技量では人体に影響を及ぼしかねませんので操作が完璧にできるようになるまでは使いたくないと言うのが本音でして」
言われてみればそもそもこの世界の魔術は異世界との通路を作るほどの代物で、何もかもが未知数な分扱いに慎重になるのもわかる。
医療については日本でそれなりに信用されている技術を用いるのが安全だな。
「申請しておこう、電力はどうする?」
「魔術である程度作れるので大丈夫です」
「つくれるのか」
「今作れるのは熱と電気ぐらいですけどね。聞いた限りだと運動エネルギーや磁力・電磁力、重力よりも強い斥力まで生み出せるようですから万能ですよ」
「じゅうりょくよりつよいせきりょく」
ゴリゴリの文系だった俺には全くピンとこない言葉をどうにか噛み砕こうと鸚鵡返ししてみるが、やっぱりわからん。
「あー……要するに重力に反発する力ですね、その気になれば重力を振り切って飛べるってことです」
「魔術で重力を振り切れるのか」
「重力を振り切れるのはよっぽど優秀じゃないと無理みたいですけどね」
「とりあえず現代科学を飛び越せるのは分かった」
「唯一の欠点は人体にある魔術器官以外からエネルギーを生み出す技術がないことぐらいです」
「確かにこの世界、電気どころか風車や水車がないようだしエネルギー供給が魔術に偏りすぎてるよな」
嘉神の視察レポートやこの国の書籍を読んだ限りではあらゆる道具が魔術によって動いている。
主に奴隷による人力が用いられたのは人間が働きたくない夜間や過酷な場所での肉体労働、長時間の集中が求められる繊細な作業も多かったようだ。
「なくてもなんとかなるからなんでしょうけどね。魔道具の類もウルヴル魔術官に見せていただきましたが、魔術を使える者が使う前提で作られてるので効率ガン無視で作ってありました」
そんな代物でも十分実用に耐えると言うことか。
ここに地球産の道具類を持ち込んだら一体どうなるのか見てみたい気もするが、とりあえず考えないでおくことにしよう。

「とんでもない世界だな」

もうそれ以上の言葉が出てこず、俺ははあっとため息をついた。
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