異世界大使館はじめます

あかべこ

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3:大使館員は歩く

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翌日、宰相閣下から「相談があるので午後お時間が空いていたら来てください」と呼び出された。
手土産に飯山さんにちょっとしたものを持って行きたいと告げると「軽いおやつで良ければ作りますよー」と即答してくれた。
作ってくれたのはサツマイモによく似たこの土地のイモと小麦粉で作ったお饅頭で、愛知の鬼まんじゅうを再現したものだという。
包んでもらった鬼まんじゅうを手に宰相が執務を行う政経宮せいけいぐうへと足を運ぶ。
役割としては首相官邸のようなものであるが、現状国会に相当する組織がないこの国では政治と経済はほぼここで決められる。
司法については政経宮のはす向かいに司法宮しほうぐうと呼ばれる司法長官(日本で例えるなら最高裁の裁判長だろうか)が暮らす館があり、そちらが管理している。
この二つの組織は互いに監視関係にあり、政経宮の不正は司法宮が裁き・司法宮の不正は政経宮が裁くという相互監視体制を取ることで不正や悪行を起こりにくくしている。
(これをほとんど何の手掛かりもなく思いつくわけだからあの宰相閣下は優秀なんだろうな)
そんなことを考えつつ政経宮に足を踏み入れ、簡単な確認を受けて客間へと通される。
日本だったらもっと厳重なボディーチェックをされるだろうと思うし、よくよく考えると手土産もチェックされるはずなのにほとんど確認されない。
純粋に高度人材の不足なのもあるだろうが不用心で少し心配になる。
(昼間ならお供も付けずにそこらへん歩いてたりするからなここの宰相閣下は……)
俺や日本政府としてもこの宰相閣下に何かあれば一大事だ。
もう少し警備体制を気にしたほうが良いと思うので進言しておこう。
「お待たせしました」
宰相閣下が後ろからお供の人を連れてやってきた。
「こんにちわ、心ばかりですが手土産をお持ちしましたのでよろしければ」
「わ、ありがとうございます」
嬉しそうに顔をほころばせると宰相はさっそくお茶を淹れるように指示をして、持って来た10個のまんじゅうからひとつ取ってさっそくかじりつく。
「美味しい、お芋のほくほくした甘さがたまりませんね」
「……もう少し警戒心を持ったほうが良いですよ」
その言葉でハッとした顔をして「以後気をつけます」とつぶやいた。
「人手不足で不用心になりがちなんですから宰相閣下ご自身も気を付けたほうが良いですよ。
で、ご相談というのは?」
「ああ、まずお伺いしたいのは温泉の件です。ビョルト魔術官から聞いたのですが、グズムンドゥル鉱山から湧出するお湯に健康効果があるとか」
「その件ですか、お湯そのものを調べてみない事には分かりませんよ」
「温泉資源の開発ができる人材というのはそう多くありませんからね、日本政府の助力を得られればと思いまして」
「この世界では温泉は珍しいんですか?」
「お湯が自然に湧き出すという例は大陸内で1か所だけありますが、高温のお湯が不定期に自噴するのでむしろ危険だと思われてますね。そのお湯を溜めて浸かった人の話は聞いたことがありません」
恐らく宰相の言う温泉は間欠泉のようなものだろう。不定期に高温のお湯が自噴するとなると確かに危ない。
つまり少なくともこの大陸内に温泉湯治の文化はないという事は分かった。
「もしお湯に健康効果があれば国民の衛生や健康状態を向上させられるかもしれません、是非調べてもらいたく思います」
「かしこまりました。お湯のサンプルは嘉神が採取してあるので結果が分かり次第お知らせします。それと、温泉開発については担当者も設けたほうが良いかと」
「専任担当者ですか?」
「ええ、温泉は国民の健康増進だけでなく観光産業にもなりますからね。将来国外からの観光客誘致に使うことも視野に入れたほうがいいかと」
「では担当者も決めて一度日本で勉強してもらうのもありかもしれませんね。ありがとうございます」

「で、次のご相談……といいますか、聞きたい事なんですけど」
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