異世界大使館はじめます

あかべこ

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3:大使館員は歩く

3-3

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こちらに来てからは日が暮れてからは仕事をしないのが鉄則となりつつある。
明かりはあるもののつけても薄暗く仕事がしづらいので、基本的に日暮れ以降は書類仕事をしないでのんびりと過ごすことにしている。
もっとも夕飯が出来るまでは大してやることも無いので自分のベットでぼんやりとしていることが多いが。
遠くからノックの音がして「真柴大使、嘉神です」と声が聞こえてきた。
ベットから体を起こして扉を開けると少し薄汚れた嘉神が小さく頭を下げた。
「ようやく帰って来れました」
「そうか、お疲れ様だったな」
大雑把な報告はメールで受けているが、聞いてないことは多い。
「その腕に抱いてるのが例のアルマジロか」
「はい、この子を俺の愛玩動物として飼育したいと考えています」
「一応の許可は出したが詳細をまだ聞いていなかったな、中でゆっくり聞かせてくれ」
嘉神をいったん自室に招き入れ、椅子に座らせる。
アルマジロ(と呼んではいるが地球のアルマジロと同じ種類かは確認が取れていない)は周囲をきょろきょろと観察しながらも嘉神の腕から離れないというようにぎゅっと抱きついており、嘉神もまたそのアルマジロを甘やかすようによしよしと撫でた。
ランタンをつけてから簡易報告が届いているスマホを確認する。
「アルマジロを拾ったのは2週間前か」
「はい、グズムンドゥル鉱山の見学から3日ぐらい過ぎてましたね」
今回は金羊国東側を中心に視察を行っており、北東部に新しく見つかった鉱山まで行ったことは報告を受けている。
グズムンドゥル鉱山はここから馬車で1週間ほどかかるらしく、現状そこより北は開発も進んでいないらしい。
「移動中に狼に遭遇して同行していたビョルト魔術官が魔術を用いて撃退したところ怪我をしたアルマジロを発見、手厚く介護をたと聞いてる。見たところ治ってるようだし自然に返すべきでは?」
「この子は右前足が不自由なんです、おそらく群れに入れてもまた放逐されて死ぬでしょう」
アルマジロの右前足を見ると確かに何か食われたようにちぎれている、おそらく狼に食われたのだろう。
それを止血して糸で縫い留めたのが素人目にもわかる。
「最初に報告されたときも言ったが、このアルマジロはお前が飼い主になる。飼育は自己責任だからな?」
別に外交官がペットを飼ってはいけない決まりはないが、日本へ連れて行くときの手続きの煩雑さを思えばわざわざ飼おうとは思えない。
嘉神もそこは承知の上であるはずだが一応確認はしておくべきだろう。
「承知しています、大使館を離れてもこの子は俺が責任を持って養育しますので」
「……アルマジロの飼育について、大使館員だけじゃなくて本省にも報告しておけよ。帰国時に連れて行く場合の事も考えておくように」
「はい、明日にでも取り掛かります」
外交官の一国あたりの任期は3年から5年とされており、ここへの赴任も5年を目途にと言われている。
このアルマジロのような生き物の寿命は知らないが長期にわたる飼育なら帰国後の事も早期に考えておくべきだろう。
「あと1時間もしたら夕飯の時間だ、アルマジロの名前を決めておくといい」
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