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3:大使館員は歩く
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書類仕事を進めていると外から「昼食出来たぞ!」と木栖が呼んできた。
窓の外を見ると中庭に何か大きな布のようなものを敷いて、みんなで鍋を囲んでいる。
手招きしているという事は外に来いという事なんだろう。
(……天気もいいし、外で食ってもいいか)
本省だったら出来なさそうな牧歌的な景色を楽しむ事にしよう。
同じように呼ばれて出てきた納村と階段ではちあって、とっさに「報告書の進捗は?」と聞いてしまう。
「まずまずですね、電気のない環境での報告書作りが思いのほか難しくて。PC使うにも足漕ぎ発電機使いながらというのが慣れないですし、電気のありがたさを痛切に実感してます。あ、もちろん〆切にはちゃんと間に合わせますけど勝手が違うからほんと大変で」
1日のほとんどを市場での聞き取り調査と報告書の作成に費やす納村は以前にもましてよく喋る。
とりあえず〆切に間に合わせてくれるならいいか、と適度に聞き流しつつ庭に出る。
今日は大使館職員のみならず、ウルヴル魔術官とファンナル隊長とその仲間たち、さらにハルトル宰相も来ていた。
「宰相閣下、どうかなさいましたか」
「息抜きで散歩をしていたら美味しそうな匂いがしたものでつい」
隣に腰を下ろさせてもらうと中心に大きな米の山が出来ていることに気づいた。
「大使、今日は炊き込みご飯と野菜スープですよー」
そう言いながら木皿に盛られた炊き込みご飯を受け取るが、これは日本の炊き込みご飯より中東で食べられるカブサに近い印象を受ける。
米はインディカ米に近い楕円形で、香りも肉やお米の奥にしっかりハーブがある。
「大陸南部の湿地帯でお米の栽培がおこなわれてるらしくて運よくお米が手に入ったんですよー、今日は現地のやり方を聞いてその雰囲気で作ってみましたー」
「こちらの料理か」
「日本人好みになるようハーブは少し減らしてますけどねー、それじゃあいただきましょうかー」
その一言で大使館員が「「「「いただきます」」」」と手を合わせた。
ウルヴル魔術官は大使館員に合わせるように手を合わせ、ファンナル隊長も何かをつぶやいた後に匙を取った。
ハルトル宰相は飯山さんに小さく頭を下げてから炊き込みご飯に口をつけた。
いただきますという作法は日本特有のものだと言われているが、異世界においても食への敬意というものはあるらしい。
それはともかく、炊き込みご飯はどことなくチャーハンのような感じがする。
油をまとった米や中華を彷彿とさせるスパイスの風味がそう思わせるのだろうか。
納村が「美味しい!おいしい!」と叫び、ウルヴル魔術官はスープをお替りし、ファンナル隊長は木栖に過去に戦地でこれと同じ炊き込みご飯を食べた思い出を語り、俺はそれを眺めながら食べている。
「僕はこういう景色のためにこの国を作ったんだろうな」
ハルトル宰相がぽつりとそう呟いた。
「確かに平和な食卓ですからね」
「はい」
もう一度ご飯を噛みしめると、遠い国に来ていることを思い知らされる。
けれどこの仲間とならそれなりに楽しくやっていけるだろう。
「ああ、そういえば宰相閣下」
「はい?」
「ビョルトと一緒に行っている嘉神が今夜にも戻ってくるそうです」
昼間スマホに届いた連絡を軽く伝えると、ハルトル宰相はどこかほっとしたように「そうですか」とつぶやいた。
窓の外を見ると中庭に何か大きな布のようなものを敷いて、みんなで鍋を囲んでいる。
手招きしているという事は外に来いという事なんだろう。
(……天気もいいし、外で食ってもいいか)
本省だったら出来なさそうな牧歌的な景色を楽しむ事にしよう。
同じように呼ばれて出てきた納村と階段ではちあって、とっさに「報告書の進捗は?」と聞いてしまう。
「まずまずですね、電気のない環境での報告書作りが思いのほか難しくて。PC使うにも足漕ぎ発電機使いながらというのが慣れないですし、電気のありがたさを痛切に実感してます。あ、もちろん〆切にはちゃんと間に合わせますけど勝手が違うからほんと大変で」
1日のほとんどを市場での聞き取り調査と報告書の作成に費やす納村は以前にもましてよく喋る。
とりあえず〆切に間に合わせてくれるならいいか、と適度に聞き流しつつ庭に出る。
今日は大使館職員のみならず、ウルヴル魔術官とファンナル隊長とその仲間たち、さらにハルトル宰相も来ていた。
「宰相閣下、どうかなさいましたか」
「息抜きで散歩をしていたら美味しそうな匂いがしたものでつい」
隣に腰を下ろさせてもらうと中心に大きな米の山が出来ていることに気づいた。
「大使、今日は炊き込みご飯と野菜スープですよー」
そう言いながら木皿に盛られた炊き込みご飯を受け取るが、これは日本の炊き込みご飯より中東で食べられるカブサに近い印象を受ける。
米はインディカ米に近い楕円形で、香りも肉やお米の奥にしっかりハーブがある。
「大陸南部の湿地帯でお米の栽培がおこなわれてるらしくて運よくお米が手に入ったんですよー、今日は現地のやり方を聞いてその雰囲気で作ってみましたー」
「こちらの料理か」
「日本人好みになるようハーブは少し減らしてますけどねー、それじゃあいただきましょうかー」
その一言で大使館員が「「「「いただきます」」」」と手を合わせた。
ウルヴル魔術官は大使館員に合わせるように手を合わせ、ファンナル隊長も何かをつぶやいた後に匙を取った。
ハルトル宰相は飯山さんに小さく頭を下げてから炊き込みご飯に口をつけた。
いただきますという作法は日本特有のものだと言われているが、異世界においても食への敬意というものはあるらしい。
それはともかく、炊き込みご飯はどことなくチャーハンのような感じがする。
油をまとった米や中華を彷彿とさせるスパイスの風味がそう思わせるのだろうか。
納村が「美味しい!おいしい!」と叫び、ウルヴル魔術官はスープをお替りし、ファンナル隊長は木栖に過去に戦地でこれと同じ炊き込みご飯を食べた思い出を語り、俺はそれを眺めながら食べている。
「僕はこういう景色のためにこの国を作ったんだろうな」
ハルトル宰相がぽつりとそう呟いた。
「確かに平和な食卓ですからね」
「はい」
もう一度ご飯を噛みしめると、遠い国に来ていることを思い知らされる。
けれどこの仲間とならそれなりに楽しくやっていけるだろう。
「ああ、そういえば宰相閣下」
「はい?」
「ビョルトと一緒に行っている嘉神が今夜にも戻ってくるそうです」
昼間スマホに届いた連絡を軽く伝えると、ハルトル宰相はどこかほっとしたように「そうですか」とつぶやいた。
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