異世界大使館はじめます

あかべこ

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3:大使館員は歩く

3-1

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大使館が本格始動して1か月が過ぎた。
やるのはもっぱら金羊国の調査と報告書作り、時々ハルトル宰相や彼の部下から相談を受けるぐらいか。
特に重要なのは地球に存在しない技術である魔術の研究だ。
これは大使館員で唯一魔術を使える柊木医師とウルヴル魔術官に任せているが、まだ使えずにいるらしい。
昨晩、柊木医師本人に聞いたところこんな答えが来た。
『この世界の人は魔術を練習せずに感覚で覚えるものですからね、言葉のかみ合わせの難しさもあって説明が上手く出来ないらしいんです』
こちらの世界では魔術を出すときの感覚を示す単語があるほど魔術は日常的なものであり、使えない獣人であっても何となく想像がつくものだという。
窓の外では柊木医師とウルヴル魔術官による魔術の練習が行われている。
「魔術を出す感覚、難しいですね」
「一度掴めるようになれば簡単なんだがな」
「そもそも魔術のイメージである万能の力というのがいまいちピンとこないんですよね、雷や火に置き換えてみても大丈夫ですか?」
「そこはヒイラギさんに任せる」
柊木医師が目を伏せて右手を伸ばし、集中させる。
すると指の腹から地面へと何か紫色の光が伸びて消えた。
「出来てるぞ!わずかだが雷が出ていた!」
「……出来てましたか?」
「ああ、もう少し練習すれば自在に雷を出せるようになるだろう。その感覚を覚えるんだ」
「わかりました。もう少しお付き合いいただけますか?」
この調子ならば来月にもまとまった報告書が読めるだろう。

****

息抜きがてら台所でお茶を淹れていると足音が響いてきた。
猛禽類の獣人を複数人連れた木栖が俺を物珍しそうに見る。
「夜鷹部隊の面々に経口補水液の説明をしに来たんだがいないのか」
「ああ、今日も大森林のほうに出ると言っていた」
大森林のジビエや食用可能昆虫を調査したいという飯山さんは、宰相の許可を得て森林保護官(シャバーニによく似ているゴリラの獣人だ)とともにほぼ毎日森に出ている。
さすがに昆虫食は勘弁してほしいと頼んでいるおかげで今のところ食卓には出てこないが、本人の報告書を見た限りでは食べられると確認できたものは片っ端から食べているらしい。
「真柴大使、お邪魔しております」
「ファンナル隊長こそお気になさらず」
鷹の顔と翼を持つ勇ましい獣人であるファンナル隊長はこの国の警備の要である。
かつては優秀な傭兵団の隊長として華々しい戦果を挙げてきた逸材で、その実力はちょっと前まで自衛官として戦闘訓練に明け暮れていた木栖も認める。
「納村の警護は明後日でしたか」
「はい」
明後日、日本に戻って報告書の受け渡しと持病の診察を受けに行く納村の警護もファンナル隊長が担当する。
納村は少々面倒臭いタイプだろうが良好な関係の構築が出来るといい。
ミントティーを入れた後台所を出て、外の風を浴びる。


(ああ、良い味だ)
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