異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
20 / 254
2:大使館を作る(金羊国編)

2-6

しおりを挟む
戻ったあと一番にやるべきは買ってきたものの仕分けである。
自分のためにと全員が譲ってくれた一番広い部屋。その一番奥の窓際に重厚な木製の机が置かれている。
日が沈んだ部屋の明かりはここに据え付けられている明かりだが、部屋の隅までは光が届かずLEDの明るさになれている身にはいささか薄暗い。
現代日本の感覚で例えるなら高速道路のトンネルぐらいだろうか、ある程度のことは出来るが細かい作業は無理だ。
(あとでLEDランタンを持ってこよう)
念のため持ってきていたランタンはあいにく自分の部屋に置きっぱなしなのでやれる範囲でやろう。
60センチほどの小さい窓に向けられているのは作業時の採光のためだろうが、紙の日焼けや万が一の事を考えて窓側を背にしたいが……1人だと重そうなのであとで手伝って貰おう。
あとは壁に沿って木製の棚がふたつ。窓に向いているのが気になるがこれは作り付けのようで移すのは無理だ、市場で買っておいた薄布を目隠し代わりにするための布も棚に置いておこう。
ちなみにこの国ではあまりカーテンが普及していないようで、カーテンレールやそれに類似したものは見当たらなかった。
(これは持ってきていないから日本から持ってくるか作って貰うかだな……)
カーテンの文化はこちらに持ち込んでも社会に影響を及ぼさないだろう。自分たちのせいでこちらの社会に混乱をもたらす訳にはいかない。せいぜい布屋が忙しくなるだけだ。
将来の技術転移も考えて現地の大工を呼んでつけてもらうか?もしかしたら市場で見つけられなかっただけで国外に似た様なものがあればいいのだが、とにかくこれは作って貰うとする。
来客用の机と椅子はあるがこちらも木製。座布団のようなものはあったが、少し高いので今回は来客用2つにとどめてある。
さて、次は日本から持ち込んだ仕事道具の荷解きだ。明日でも良いが早めにやっておくに越したことはない。
書類の類はまず棚に並べていく。日本のオフィスでお馴染みのものが異世界の棚に並ぶのは奇妙な気分だが仕方ない。
この棚には日本政府の秘匿書類も管理する都合上目隠しの布をかけたあと、布地を重しで仮止めする。明日以降画鋲で止めておこう。
覆っていない棚には隠さなくてもよい置物や事務道具の予備(これは下の目立たない場所だ)を並べておき、壁には世界地図と日本地図を飾るため出しておく。
静かに扉が開くとヘッドライトをつけた木栖が『調査中』と殴り書きされたホワイトボードを俺に見せた。
しばらく部屋の各所を確認した後俺のほうを向いた。
「黙って入ってすまない」
「いや、何の調査だ?」
「盗聴器の確認だな。あとお前に小型の盗聴妨害機を、電源を入れると人間には聞き取れない周波数の音で妨害してくれる」
「そうか、その辺の危機管理のことはお前に任せる。ところであの机を窓辺から離したいんだが重そうなんであとで手伝ってくれるか?」
「まだ確認していない部屋があるからそこが終わればな。まだ確認できてないところが多いんだ」
「ならそっち優先でいい。あと施設内に安全装備として明日以降蓄光塗料を塗っておきたい、この世界の明かりが俺たちに使えないとなるとな」
そう、ここの明かりは基本的に俺たちには使えない。
どういう事かというとこの世界はあらゆるものが魔術を使える人間のために最適化されており、俺たちはこの世界の魔術が使えないようだった。
例外的に柊木医師は僅かながら使えるようだったのでそのあたりは本人が自ら魔術を習得しつつ調べるかたちになる。
ろうそくもあるがこの世界ではあくまで補助的な明かりという立ち位置であり、なにより火事のリスクがあるので木造建築のここでは極力使いたくない。
「持ってきてるならいいぞ、ここをくれた金羊国側には事後承諾になるだろうが安全のためだしな」
聞いた話や会ったときの個人的な印象としてはあの宰相閣下は人命優先と言えば文句は言わない気がする。
「明日にでも準備しよう。あと夕飯、もうすぐ出来るらしいぞ」
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...