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2:大使館を作る(金羊国編)
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市場をぶらぶらと歩きながら次に買うものを探し回る。
一応日本から持ち込んではあるが大量に持ち込むのが難しかったので、これも現地調達だ。
ふと目についた店から石鹸とハーブの匂いがした。
「すいません、ここはサポーの店ですか?」
店の男(バクが二足歩行してるような姿だった)は俺たちを見ると急に怯えたように肩をすくめた。
「あ、ああ……でもこの店は人間さまの使う高級なサポーは置いてないですぜ?」
怯えを押し殺したような表情と声色を見て「大丈夫です」と出来るだけ敵意が無い事を伝えようと表情を作ってみせる。
「それならいいんだが……」
崩れ気味の敬語でこの店に置いてある石鹸について簡単に説明してくれる。
そもそも、この世界の石鹸は地球のものと異なりサポーという植物の実を水を加えながら皮ごとすり潰した泥状のものである。
この店ではそこにケガに効くハーブや保湿効果のある油を追加した少し高級な物をハレの日用に量り売りしているそうだ。
「獣人も人間も同じサポーの実を使うならあまり変わらないんじゃ?」
「あ、その、多くの人間様は同じものを使う事を嫌がるので」
「それはこの世界の人間だけだ、効果や効能がしっかりしていれば誰が使っていようともどうでも良い」
後ろにいる木栖に視線を向けると同じ意見だと頷いた。
「もしかして宰相閣下がお招きになられた異世界の人間様ご一行ですかい?!」
どういう風に伝わっているのかは分からんが間違ってはいない。
「ああ」
「そうでしたか、俺たちに優しい人間様の国が本当にあるなんてなあ」
優しいというのは違う気がするが店主が感動したようにそんなことを言う。
この国は逃亡奴隷が建国した国だ。ひょっとすれば彼はこの国の外でひどい目に遭ってきたのかもしれない。それであのように怯えられた、と考えれば納得もいく。
「真柴。石鹸だがこの店にあるものを全種類少量づつ持ち帰ってみれば良いんじゃないか?好みや肌質もあるから全部試して合うものを使うほうが良い」
「全種類となると結構多いが持てるか?」
「大丈夫だ」
木栖がいいというのならそうしよう、と割り切り少量づつまとめ買いしていくことにした。
本や紙の束の上に30種類以上の石鹸を持つ木栖は大変だろうが本人がいいというのならいいだろう。
****
歩き回ることに疲れて休憩がてらお茶を飲もうと入った店の軒先で人ごみを観察してみることにした。
多種多様な獣人たちが商い、売買をし、時に大騒ぎをしている。
「目の前で鳥獣人物戯画が繰り広げられてるな」
木栖の例えは正鵠を射ており「確かに」とつぶやいた。
この世界の人間にはこの景色がどういう風に見えてるのかは分からないが、俺たちの感覚ではそうしたアニメや漫画の世界に飛び込んだような感覚のほうが強い。
そういう意味では俺たちはまだこの世界の問題を他人事として見ているのだろう。
「彼らと対等に接することが出来ているかと聞かれるとあまり自信はないが、ここに来た以上できる限り対等に接するべきだと思い知らされた」
「さっきのサポーの店主か」
「ああ。同じように人間に対する怯えや恐怖を残した大人たちをちらほら見つけられた。職業的などうこう以上に道義的に彼らと対等であるべきなんじゃないかと思う」
「俺も同意見だ。対等に見てくれる存在として日本人がこの国に食い込むことは意味がある」
市場を見て回っただけでも日本では見たことが無いものが多くある。探せば地球に存在しない資源もあるはずだ。
その資源が地球の科学によって生まれ変わる日、逆にこの世界の魔法によって地球で使われずにいるものが有用な資源になる可能性もある。
「いい仕事を割り振って貰えたじゃないか、異世界の懸け橋にして新しい権益の確保」
「みんな危険度不明の赴任地を嫌がっただけだ、汚れ仕事でも退屈な仕事でも自分なりの面白さや意味を見つけていくしかない」
木栖は「確かに」と笑う。
つくづく顔の綺麗な男である、こんな男がなぜ俺に惚れていたのか。大いに謎だ。
それで思い出したが木栖にひとつ話しておくことがあったのを思いだした。
アントリに木栖が俺の妻だと誤解された件についてだ。
「そうだ、ここにいる時だけ俺の妻のふりをしてくれないか」
一応日本から持ち込んではあるが大量に持ち込むのが難しかったので、これも現地調達だ。
ふと目についた店から石鹸とハーブの匂いがした。
「すいません、ここはサポーの店ですか?」
店の男(バクが二足歩行してるような姿だった)は俺たちを見ると急に怯えたように肩をすくめた。
「あ、ああ……でもこの店は人間さまの使う高級なサポーは置いてないですぜ?」
怯えを押し殺したような表情と声色を見て「大丈夫です」と出来るだけ敵意が無い事を伝えようと表情を作ってみせる。
「それならいいんだが……」
崩れ気味の敬語でこの店に置いてある石鹸について簡単に説明してくれる。
そもそも、この世界の石鹸は地球のものと異なりサポーという植物の実を水を加えながら皮ごとすり潰した泥状のものである。
この店ではそこにケガに効くハーブや保湿効果のある油を追加した少し高級な物をハレの日用に量り売りしているそうだ。
「獣人も人間も同じサポーの実を使うならあまり変わらないんじゃ?」
「あ、その、多くの人間様は同じものを使う事を嫌がるので」
「それはこの世界の人間だけだ、効果や効能がしっかりしていれば誰が使っていようともどうでも良い」
後ろにいる木栖に視線を向けると同じ意見だと頷いた。
「もしかして宰相閣下がお招きになられた異世界の人間様ご一行ですかい?!」
どういう風に伝わっているのかは分からんが間違ってはいない。
「ああ」
「そうでしたか、俺たちに優しい人間様の国が本当にあるなんてなあ」
優しいというのは違う気がするが店主が感動したようにそんなことを言う。
この国は逃亡奴隷が建国した国だ。ひょっとすれば彼はこの国の外でひどい目に遭ってきたのかもしれない。それであのように怯えられた、と考えれば納得もいく。
「真柴。石鹸だがこの店にあるものを全種類少量づつ持ち帰ってみれば良いんじゃないか?好みや肌質もあるから全部試して合うものを使うほうが良い」
「全種類となると結構多いが持てるか?」
「大丈夫だ」
木栖がいいというのならそうしよう、と割り切り少量づつまとめ買いしていくことにした。
本や紙の束の上に30種類以上の石鹸を持つ木栖は大変だろうが本人がいいというのならいいだろう。
****
歩き回ることに疲れて休憩がてらお茶を飲もうと入った店の軒先で人ごみを観察してみることにした。
多種多様な獣人たちが商い、売買をし、時に大騒ぎをしている。
「目の前で鳥獣人物戯画が繰り広げられてるな」
木栖の例えは正鵠を射ており「確かに」とつぶやいた。
この世界の人間にはこの景色がどういう風に見えてるのかは分からないが、俺たちの感覚ではそうしたアニメや漫画の世界に飛び込んだような感覚のほうが強い。
そういう意味では俺たちはまだこの世界の問題を他人事として見ているのだろう。
「彼らと対等に接することが出来ているかと聞かれるとあまり自信はないが、ここに来た以上できる限り対等に接するべきだと思い知らされた」
「さっきのサポーの店主か」
「ああ。同じように人間に対する怯えや恐怖を残した大人たちをちらほら見つけられた。職業的などうこう以上に道義的に彼らと対等であるべきなんじゃないかと思う」
「俺も同意見だ。対等に見てくれる存在として日本人がこの国に食い込むことは意味がある」
市場を見て回っただけでも日本では見たことが無いものが多くある。探せば地球に存在しない資源もあるはずだ。
その資源が地球の科学によって生まれ変わる日、逆にこの世界の魔法によって地球で使われずにいるものが有用な資源になる可能性もある。
「いい仕事を割り振って貰えたじゃないか、異世界の懸け橋にして新しい権益の確保」
「みんな危険度不明の赴任地を嫌がっただけだ、汚れ仕事でも退屈な仕事でも自分なりの面白さや意味を見つけていくしかない」
木栖は「確かに」と笑う。
つくづく顔の綺麗な男である、こんな男がなぜ俺に惚れていたのか。大いに謎だ。
それで思い出したが木栖にひとつ話しておくことがあったのを思いだした。
アントリに木栖が俺の妻だと誤解された件についてだ。
「そうだ、ここにいる時だけ俺の妻のふりをしてくれないか」
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