18 / 254
2:大使館を作る(金羊国編)
2-4
しおりを挟む
市場をぶらぶらと歩きながら次に買うものを探し回る。
一応日本から持ち込んではあるが大量に持ち込むのが難しかったので、これも現地調達だ。
ふと目についた店から石鹸とハーブの匂いがした。
「すいません、ここはサポーの店ですか?」
店の男(バクが二足歩行してるような姿だった)は俺たちを見ると急に怯えたように肩をすくめた。
「あ、ああ……でもこの店は人間さまの使う高級なサポーは置いてないですぜ?」
怯えを押し殺したような表情と声色を見て「大丈夫です」と出来るだけ敵意が無い事を伝えようと表情を作ってみせる。
「それならいいんだが……」
崩れ気味の敬語でこの店に置いてある石鹸について簡単に説明してくれる。
そもそも、この世界の石鹸は地球のものと異なりサポーという植物の実を水を加えながら皮ごとすり潰した泥状のものである。
この店ではそこにケガに効くハーブや保湿効果のある油を追加した少し高級な物をハレの日用に量り売りしているそうだ。
「獣人も人間も同じサポーの実を使うならあまり変わらないんじゃ?」
「あ、その、多くの人間様は同じものを使う事を嫌がるので」
「それはこの世界の人間だけだ、効果や効能がしっかりしていれば誰が使っていようともどうでも良い」
後ろにいる木栖に視線を向けると同じ意見だと頷いた。
「もしかして宰相閣下がお招きになられた異世界の人間様ご一行ですかい?!」
どういう風に伝わっているのかは分からんが間違ってはいない。
「ああ」
「そうでしたか、俺たちに優しい人間様の国が本当にあるなんてなあ」
優しいというのは違う気がするが店主が感動したようにそんなことを言う。
この国は逃亡奴隷が建国した国だ。ひょっとすれば彼はこの国の外でひどい目に遭ってきたのかもしれない。それであのように怯えられた、と考えれば納得もいく。
「真柴。石鹸だがこの店にあるものを全種類少量づつ持ち帰ってみれば良いんじゃないか?好みや肌質もあるから全部試して合うものを使うほうが良い」
「全種類となると結構多いが持てるか?」
「大丈夫だ」
木栖がいいというのならそうしよう、と割り切り少量づつまとめ買いしていくことにした。
本や紙の束の上に30種類以上の石鹸を持つ木栖は大変だろうが本人がいいというのならいいだろう。
****
歩き回ることに疲れて休憩がてらお茶を飲もうと入った店の軒先で人ごみを観察してみることにした。
多種多様な獣人たちが商い、売買をし、時に大騒ぎをしている。
「目の前で鳥獣人物戯画が繰り広げられてるな」
木栖の例えは正鵠を射ており「確かに」とつぶやいた。
この世界の人間にはこの景色がどういう風に見えてるのかは分からないが、俺たちの感覚ではそうしたアニメや漫画の世界に飛び込んだような感覚のほうが強い。
そういう意味では俺たちはまだこの世界の問題を他人事として見ているのだろう。
「彼らと対等に接することが出来ているかと聞かれるとあまり自信はないが、ここに来た以上できる限り対等に接するべきだと思い知らされた」
「さっきのサポーの店主か」
「ああ。同じように人間に対する怯えや恐怖を残した大人たちをちらほら見つけられた。職業的などうこう以上に道義的に彼らと対等であるべきなんじゃないかと思う」
「俺も同意見だ。対等に見てくれる存在として日本人がこの国に食い込むことは意味がある」
市場を見て回っただけでも日本では見たことが無いものが多くある。探せば地球に存在しない資源もあるはずだ。
その資源が地球の科学によって生まれ変わる日、逆にこの世界の魔法によって地球で使われずにいるものが有用な資源になる可能性もある。
「いい仕事を割り振って貰えたじゃないか、異世界の懸け橋にして新しい権益の確保」
「みんな危険度不明の赴任地を嫌がっただけだ、汚れ仕事でも退屈な仕事でも自分なりの面白さや意味を見つけていくしかない」
木栖は「確かに」と笑う。
つくづく顔の綺麗な男である、こんな男がなぜ俺に惚れていたのか。大いに謎だ。
それで思い出したが木栖にひとつ話しておくことがあったのを思いだした。
アントリに木栖が俺の妻だと誤解された件についてだ。
「そうだ、ここにいる時だけ俺の妻のふりをしてくれないか」
一応日本から持ち込んではあるが大量に持ち込むのが難しかったので、これも現地調達だ。
ふと目についた店から石鹸とハーブの匂いがした。
「すいません、ここはサポーの店ですか?」
店の男(バクが二足歩行してるような姿だった)は俺たちを見ると急に怯えたように肩をすくめた。
「あ、ああ……でもこの店は人間さまの使う高級なサポーは置いてないですぜ?」
怯えを押し殺したような表情と声色を見て「大丈夫です」と出来るだけ敵意が無い事を伝えようと表情を作ってみせる。
「それならいいんだが……」
崩れ気味の敬語でこの店に置いてある石鹸について簡単に説明してくれる。
そもそも、この世界の石鹸は地球のものと異なりサポーという植物の実を水を加えながら皮ごとすり潰した泥状のものである。
この店ではそこにケガに効くハーブや保湿効果のある油を追加した少し高級な物をハレの日用に量り売りしているそうだ。
「獣人も人間も同じサポーの実を使うならあまり変わらないんじゃ?」
「あ、その、多くの人間様は同じものを使う事を嫌がるので」
「それはこの世界の人間だけだ、効果や効能がしっかりしていれば誰が使っていようともどうでも良い」
後ろにいる木栖に視線を向けると同じ意見だと頷いた。
「もしかして宰相閣下がお招きになられた異世界の人間様ご一行ですかい?!」
どういう風に伝わっているのかは分からんが間違ってはいない。
「ああ」
「そうでしたか、俺たちに優しい人間様の国が本当にあるなんてなあ」
優しいというのは違う気がするが店主が感動したようにそんなことを言う。
この国は逃亡奴隷が建国した国だ。ひょっとすれば彼はこの国の外でひどい目に遭ってきたのかもしれない。それであのように怯えられた、と考えれば納得もいく。
「真柴。石鹸だがこの店にあるものを全種類少量づつ持ち帰ってみれば良いんじゃないか?好みや肌質もあるから全部試して合うものを使うほうが良い」
「全種類となると結構多いが持てるか?」
「大丈夫だ」
木栖がいいというのならそうしよう、と割り切り少量づつまとめ買いしていくことにした。
本や紙の束の上に30種類以上の石鹸を持つ木栖は大変だろうが本人がいいというのならいいだろう。
****
歩き回ることに疲れて休憩がてらお茶を飲もうと入った店の軒先で人ごみを観察してみることにした。
多種多様な獣人たちが商い、売買をし、時に大騒ぎをしている。
「目の前で鳥獣人物戯画が繰り広げられてるな」
木栖の例えは正鵠を射ており「確かに」とつぶやいた。
この世界の人間にはこの景色がどういう風に見えてるのかは分からないが、俺たちの感覚ではそうしたアニメや漫画の世界に飛び込んだような感覚のほうが強い。
そういう意味では俺たちはまだこの世界の問題を他人事として見ているのだろう。
「彼らと対等に接することが出来ているかと聞かれるとあまり自信はないが、ここに来た以上できる限り対等に接するべきだと思い知らされた」
「さっきのサポーの店主か」
「ああ。同じように人間に対する怯えや恐怖を残した大人たちをちらほら見つけられた。職業的などうこう以上に道義的に彼らと対等であるべきなんじゃないかと思う」
「俺も同意見だ。対等に見てくれる存在として日本人がこの国に食い込むことは意味がある」
市場を見て回っただけでも日本では見たことが無いものが多くある。探せば地球に存在しない資源もあるはずだ。
その資源が地球の科学によって生まれ変わる日、逆にこの世界の魔法によって地球で使われずにいるものが有用な資源になる可能性もある。
「いい仕事を割り振って貰えたじゃないか、異世界の懸け橋にして新しい権益の確保」
「みんな危険度不明の赴任地を嫌がっただけだ、汚れ仕事でも退屈な仕事でも自分なりの面白さや意味を見つけていくしかない」
木栖は「確かに」と笑う。
つくづく顔の綺麗な男である、こんな男がなぜ俺に惚れていたのか。大いに謎だ。
それで思い出したが木栖にひとつ話しておくことがあったのを思いだした。
アントリに木栖が俺の妻だと誤解された件についてだ。
「そうだ、ここにいる時だけ俺の妻のふりをしてくれないか」
1
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる