異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
17 / 254
2:大使館を作る(金羊国編)

2-3

しおりを挟む
必要最低限の荷ほどきを済ませ、日本から持ち込んだ運営資金代わりの金銀(こちらでも金銀銅は価値があって貨幣との交換ができるのは確認済だ)をいくらか財布に入れて門前へと戻る。
「飯山さんが一番乗りか」
「早く市場に行ってみたいんですよー、お金は金銀で代用していいんですかー?」
「正式なレートが未定なんで、日本だと金1グラムが約7000円だからこっちで1グラムの金がどれぐらいになるかも把握したり物価の把握もしたいんで買ったものと量の記録もしっかり頼みます」
「はーい」
「オーロフさん、金の買い取りはどこで出来ます?」
「市場の中に宰相閣下直営の買取所と南の商人が運営する買取所がいくつかあります。ですが普通の金塊でも買い物はある程度行えますよ」
「じゃあ見るだけ見て買い物はそのまま金で行ってしまってもいいかな」
全員集合後、オーロフさんを道案内に柊木医師を記録係・荷物持ちとして木栖を指名するとさっそく市場へ向かう事にした。

****

市場は木製の囲いに囲まれた商店街のような作りで、アメ横や築地の場外市場のような賑やかで雑多な雰囲気はどことなく覚えがある。
しかし木造・石造り・日干しレンガ造りと統一感のない街並みや、獣人が行き交う景色は確かにここが異世界だと感じさせてくる。
今回主に買うものは食料と消耗品だ。
どちらも結構な量を定期的に運ぶ必要があって手間なので多少質が悪くてもこちらでまとめて調達することにした。
ハイテンションで未知の調味料や食材に引き寄せられる飯山さんと値段の記録を取る柊木医師に同行するオーロフさん、ICレコーダーを手に露天商のおばあさんと話し込む納村、市場にちりばめられた未知の文字を観察する嘉神……。
「好き勝手やりすぎだろう」
ボソッとつぶやく俺に「あれもある意味仕事だろう」と木栖が言う。
そういわれればそのような、やはりいささか暴走しすぎているような、何とも言えない気分だが面倒なので何も言うまい。
「あったぞ、文房具店か」
ここで一番必要なのはやはり紙である。
電気の存在しない異世界において有効な記録方法というと紙しかない。
店に並ぶ代物を見ると、ここは紙と筆記用具を中心とした文房具店のようだ。
紙はいくつかありすべて木や草を原料としているのが見て取れる。
パピルスのような植物を叩いて固めたようなもの、羊皮紙に近い動物の皮を使った紙、和紙やわら半紙に近いもの、木簡のような木を平らに削っただけのものもある。
今回は和紙に近く白くて柔らかい紙とわら半紙に近い紙を一束づつ、さらにそれらに適していると店主が勧めてくれた筆記用具もひとつ購入した。
日本の感覚で2000円ぐらいの買い物だが、金で0.6グラム程度で購入。単純計算で4200円か。
手間暇がかかっているので一番高い紙だと店主(ここの店主はうさぎの獣人だった)が言っていたのを踏まえるとこちらでは相当な高級品なのだろう。
「あ、お疲れ様です真柴大使」
本を抱えた嘉神が人ごみを抜けて現れてきた。
「大使館内の資料用に辞書や百科事典をいくつか購入してきました、日本で買うより高級でしたが交渉していくらか割引して貰えました」
あまり言葉の通じない国で本の値段交渉か。元気すぎる。
「ちなみに他の面々は?」
「飯山さんは柊木医師と食料品を探しに向こうへ行くと、納村通訳官はまだ書店にいるはずです。いちおう終わったら市場の出入り口で集合という風には言ってありますのでどうにかなるかと」
「……そうか。嘉神は出来たら納村と一緒にいてくれ。一人にすると大使館の金をあるだけ使って本を買いあさってそうで怖い」
「信頼感ゼロですね、大使の指示ならそうさせていただきます」
嘉神はそう告げると購入した本を木栖に預けて書店へ戻っていった。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

処理中です...