16 / 257
2:大使館を作る(金羊国編)
2-2
しおりを挟む
案内役のアントリを先導に全員が順番に荷物の乗ったリヤカーを引きながら歩いていく。
「そういえば、失礼ながら伺いしますが真柴さまの奥方は木栖さまでよろしいのですか?」
「はい?」
俺の疲れ具合を見て荷物の一部を持ってくれたオーロフがそう問うてくる。
「外交騎士……ええっと、日本では大使と呼ぶんでしたか。そういった方は他国へ行くときは奥方を連れて行くものだと宰相閣下にお伺いしました。今回来られた方のうち一番親し気に見えましたので……」
「こちらでは男性同士の夫婦もいるのですか」
「庶民では稀ですが貴族の方などは見かけます」
同性の夫婦が当然のようにいてかつ大使は夫婦で行動するものだという前提があれば、この中で一番親しい木栖と夫婦に見られるのも止む無し……なのか?
パートナーがいたほうが都合のいい場面に出くわしたとき、腕っぷしの強い木栖を連れて行けるのは都合がいい。
しかし、だ。
『俺はゲイで、おまえの事が好きだった』
再会してすぐに告げられた木栖の言葉を思い出す。
無断で夫婦という事にされても嫌がらないと思いたいが、木栖に話を通しておいたほうが良い。
「……日本では同性の夫婦というのは嫌悪されるものですので本人に聞いてみます」
嘘はついていないが質問の答えになっていない玉虫色の答えを返すと「失礼いたしました」と深く頭を下げられた。
本人の了解を得たうえで偽装夫婦という事にしておけば都合のいい場面で連れ合いとして振る舞ってくれるだろう。
「そういえば、この建物は何ですか?」
「我が国の守護神である金羊の女神を祀る祭殿でございます」
金羊の女神については聞いていたがわざわざ祭殿を作っていたとは。
過去の聞き取り資料によると、金羊の女神は人間から不当に扱われる獣人を案じて彼らのために大陸中央部にある大森林と呼ばれる巨大な森の中心にあった火山湖を壊して巨大なカルデラを造成。
大陸中の獣人たちに『大森林の最奥にある湖を壊し大きな更地を作った、この地を汝らの自由のために使え』と夢の中でお告げをし、そのお告げを信じた者たちがここに集まって建国したという。
神殿を出ると巨大な街並みが見えてくる。左右から大きな川が合流して、山々の切れ目から流れていくのが見える。見たところその川に沿うように街を作って広げているらしい。
「川の手前側、今いるところが第一都市と呼ばれる場所です。国の祭りごとをつかさどる建物はこちら側にそろっております。川の向こうが第二都市と呼ばれる場所で、大きい市場や家々の並ぶ場所となっております」
「大使館も第一都市に?」
「はい、ここからそう遠くありません」
どうやらこの祭殿自体が少し小高い場所になっているらしく、なだらかな坂となっている。どうやら一番見晴らしのいい場所を祭殿としたようだ。
丘を降りるとギリシャ風の真っ白い建物の並んだ街並みが広がる。
「何で家を作っているんですか?」
「木材で梁を組んだあと土や漆喰で表面を固めています、第二都市に行くと大陸中の建築様式が集まっていて面白いですけどこちらの整然と整えられたほうが好きな人もいますね」
木と土という原材料は日本の伝統建築に近いが、ここまで白い建物が並んでいると反射で目が痛くなりそうだ。
そうこう歩いていると全員が大きな門の前で待っているのが見えた。少しゆっくり歩きすぎただろうか。
「遅くなった」
「いいさ、急ぐものでもない」
案内役のアントリが「こちらが宰相閣下からお預かりした大使館の鍵と建物の地図です」と渡される。
20センチくらいの木製の棒だが凹凸があり、穴に差し込んでてこのように下に押すとかぎが開く仕組みだという。
言われた通りカギを開けるとハーフティンバー様式の大きな建物―ドイツなんかにある木材と漆喰を組み合わせたアレだーが目に飛び込む。
「ここが大使館か……?」
「大使館というより豪邸に近い気がしますね、これ」
小さいながらも前庭があり、建物も三階建てで縦にも横にも大きい。
「1階2階が執務エリア、3階を迎賓エリアとしております。ご住居や井戸は裏庭に用意させていただきました」
地図を見ると言われた通り1階が巨大社交スペース、2階に全員分の執務室や会議室、3階が来賓を泊めるスペースになっている。
全員分の住居スペースはこの建物の裏にあるらしいがそれも渡り廊下でつながっている。
キッチンは両方と行き来が出来る独立した空間となっており、トイレは屋外だが複数設置されている。風呂が無いのはー……多少しんどいものがあるがしばらくは我慢だな。幸いまだこちらは春だと聞いているので暑くなるまでに考えよう。
「真柴大使、執務室と居住空間の振り分けはどうしますか」
「じゃんけんで決めよう。まずは居住空間から」
話し合うのも面倒なのでそう提案すると、納村がアホみたいにジャンケンが強かったため一番日当たりのいい部屋を確保していた。ちなみに執務室は資料の日焼け防止のため敢えて日当たりの悪い場所を選んでいた。
俺はというと一階の角部屋を居住空間として選び、隣に木栖が来た。執務室は一番広いところを使ってくれという周りの合意で一番広い部屋を貰った。
「全員最低限の荷ほどきを終えたら市場で買い出しを行う、2時間後に門の前で」
納村が休ませてくれと言わんばかりの目でこちらを見るが無視だ。
まだ大使館を始めるまでの準備は続く。
「そういえば、失礼ながら伺いしますが真柴さまの奥方は木栖さまでよろしいのですか?」
「はい?」
俺の疲れ具合を見て荷物の一部を持ってくれたオーロフがそう問うてくる。
「外交騎士……ええっと、日本では大使と呼ぶんでしたか。そういった方は他国へ行くときは奥方を連れて行くものだと宰相閣下にお伺いしました。今回来られた方のうち一番親し気に見えましたので……」
「こちらでは男性同士の夫婦もいるのですか」
「庶民では稀ですが貴族の方などは見かけます」
同性の夫婦が当然のようにいてかつ大使は夫婦で行動するものだという前提があれば、この中で一番親しい木栖と夫婦に見られるのも止む無し……なのか?
パートナーがいたほうが都合のいい場面に出くわしたとき、腕っぷしの強い木栖を連れて行けるのは都合がいい。
しかし、だ。
『俺はゲイで、おまえの事が好きだった』
再会してすぐに告げられた木栖の言葉を思い出す。
無断で夫婦という事にされても嫌がらないと思いたいが、木栖に話を通しておいたほうが良い。
「……日本では同性の夫婦というのは嫌悪されるものですので本人に聞いてみます」
嘘はついていないが質問の答えになっていない玉虫色の答えを返すと「失礼いたしました」と深く頭を下げられた。
本人の了解を得たうえで偽装夫婦という事にしておけば都合のいい場面で連れ合いとして振る舞ってくれるだろう。
「そういえば、この建物は何ですか?」
「我が国の守護神である金羊の女神を祀る祭殿でございます」
金羊の女神については聞いていたがわざわざ祭殿を作っていたとは。
過去の聞き取り資料によると、金羊の女神は人間から不当に扱われる獣人を案じて彼らのために大陸中央部にある大森林と呼ばれる巨大な森の中心にあった火山湖を壊して巨大なカルデラを造成。
大陸中の獣人たちに『大森林の最奥にある湖を壊し大きな更地を作った、この地を汝らの自由のために使え』と夢の中でお告げをし、そのお告げを信じた者たちがここに集まって建国したという。
神殿を出ると巨大な街並みが見えてくる。左右から大きな川が合流して、山々の切れ目から流れていくのが見える。見たところその川に沿うように街を作って広げているらしい。
「川の手前側、今いるところが第一都市と呼ばれる場所です。国の祭りごとをつかさどる建物はこちら側にそろっております。川の向こうが第二都市と呼ばれる場所で、大きい市場や家々の並ぶ場所となっております」
「大使館も第一都市に?」
「はい、ここからそう遠くありません」
どうやらこの祭殿自体が少し小高い場所になっているらしく、なだらかな坂となっている。どうやら一番見晴らしのいい場所を祭殿としたようだ。
丘を降りるとギリシャ風の真っ白い建物の並んだ街並みが広がる。
「何で家を作っているんですか?」
「木材で梁を組んだあと土や漆喰で表面を固めています、第二都市に行くと大陸中の建築様式が集まっていて面白いですけどこちらの整然と整えられたほうが好きな人もいますね」
木と土という原材料は日本の伝統建築に近いが、ここまで白い建物が並んでいると反射で目が痛くなりそうだ。
そうこう歩いていると全員が大きな門の前で待っているのが見えた。少しゆっくり歩きすぎただろうか。
「遅くなった」
「いいさ、急ぐものでもない」
案内役のアントリが「こちらが宰相閣下からお預かりした大使館の鍵と建物の地図です」と渡される。
20センチくらいの木製の棒だが凹凸があり、穴に差し込んでてこのように下に押すとかぎが開く仕組みだという。
言われた通りカギを開けるとハーフティンバー様式の大きな建物―ドイツなんかにある木材と漆喰を組み合わせたアレだーが目に飛び込む。
「ここが大使館か……?」
「大使館というより豪邸に近い気がしますね、これ」
小さいながらも前庭があり、建物も三階建てで縦にも横にも大きい。
「1階2階が執務エリア、3階を迎賓エリアとしております。ご住居や井戸は裏庭に用意させていただきました」
地図を見ると言われた通り1階が巨大社交スペース、2階に全員分の執務室や会議室、3階が来賓を泊めるスペースになっている。
全員分の住居スペースはこの建物の裏にあるらしいがそれも渡り廊下でつながっている。
キッチンは両方と行き来が出来る独立した空間となっており、トイレは屋外だが複数設置されている。風呂が無いのはー……多少しんどいものがあるがしばらくは我慢だな。幸いまだこちらは春だと聞いているので暑くなるまでに考えよう。
「真柴大使、執務室と居住空間の振り分けはどうしますか」
「じゃんけんで決めよう。まずは居住空間から」
話し合うのも面倒なのでそう提案すると、納村がアホみたいにジャンケンが強かったため一番日当たりのいい部屋を確保していた。ちなみに執務室は資料の日焼け防止のため敢えて日当たりの悪い場所を選んでいた。
俺はというと一階の角部屋を居住空間として選び、隣に木栖が来た。執務室は一番広いところを使ってくれという周りの合意で一番広い部屋を貰った。
「全員最低限の荷ほどきを終えたら市場で買い出しを行う、2時間後に門の前で」
納村が休ませてくれと言わんばかりの目でこちらを見るが無視だ。
まだ大使館を始めるまでの準備は続く。
11
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる