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2:大使館を作る(金羊国編)
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案内役のアントリを先導に全員が順番に荷物の乗ったリヤカーを引きながら歩いていく。
「そういえば、失礼ながら伺いしますが真柴さまの奥方は木栖さまでよろしいのですか?」
「はい?」
俺の疲れ具合を見て荷物の一部を持ってくれたオーロフがそう問うてくる。
「外交騎士……ええっと、日本では大使と呼ぶんでしたか。そういった方は他国へ行くときは奥方を連れて行くものだと宰相閣下にお伺いしました。今回来られた方のうち一番親し気に見えましたので……」
「こちらでは男性同士の夫婦もいるのですか」
「庶民では稀ですが貴族の方などは見かけます」
同性の夫婦が当然のようにいてかつ大使は夫婦で行動するものだという前提があれば、この中で一番親しい木栖と夫婦に見られるのも止む無し……なのか?
パートナーがいたほうが都合のいい場面に出くわしたとき、腕っぷしの強い木栖を連れて行けるのは都合がいい。
しかし、だ。
『俺はゲイで、おまえの事が好きだった』
再会してすぐに告げられた木栖の言葉を思い出す。
無断で夫婦という事にされても嫌がらないと思いたいが、木栖に話を通しておいたほうが良い。
「……日本では同性の夫婦というのは嫌悪されるものですので本人に聞いてみます」
嘘はついていないが質問の答えになっていない玉虫色の答えを返すと「失礼いたしました」と深く頭を下げられた。
本人の了解を得たうえで偽装夫婦という事にしておけば都合のいい場面で連れ合いとして振る舞ってくれるだろう。
「そういえば、この建物は何ですか?」
「我が国の守護神である金羊の女神を祀る祭殿でございます」
金羊の女神については聞いていたがわざわざ祭殿を作っていたとは。
過去の聞き取り資料によると、金羊の女神は人間から不当に扱われる獣人を案じて彼らのために大陸中央部にある大森林と呼ばれる巨大な森の中心にあった火山湖を壊して巨大なカルデラを造成。
大陸中の獣人たちに『大森林の最奥にある湖を壊し大きな更地を作った、この地を汝らの自由のために使え』と夢の中でお告げをし、そのお告げを信じた者たちがここに集まって建国したという。
神殿を出ると巨大な街並みが見えてくる。左右から大きな川が合流して、山々の切れ目から流れていくのが見える。見たところその川に沿うように街を作って広げているらしい。
「川の手前側、今いるところが第一都市と呼ばれる場所です。国の祭りごとをつかさどる建物はこちら側にそろっております。川の向こうが第二都市と呼ばれる場所で、大きい市場や家々の並ぶ場所となっております」
「大使館も第一都市に?」
「はい、ここからそう遠くありません」
どうやらこの祭殿自体が少し小高い場所になっているらしく、なだらかな坂となっている。どうやら一番見晴らしのいい場所を祭殿としたようだ。
丘を降りるとギリシャ風の真っ白い建物の並んだ街並みが広がる。
「何で家を作っているんですか?」
「木材で梁を組んだあと土や漆喰で表面を固めています、第二都市に行くと大陸中の建築様式が集まっていて面白いですけどこちらの整然と整えられたほうが好きな人もいますね」
木と土という原材料は日本の伝統建築に近いが、ここまで白い建物が並んでいると反射で目が痛くなりそうだ。
そうこう歩いていると全員が大きな門の前で待っているのが見えた。少しゆっくり歩きすぎただろうか。
「遅くなった」
「いいさ、急ぐものでもない」
案内役のアントリが「こちらが宰相閣下からお預かりした大使館の鍵と建物の地図です」と渡される。
20センチくらいの木製の棒だが凹凸があり、穴に差し込んでてこのように下に押すとかぎが開く仕組みだという。
言われた通りカギを開けるとハーフティンバー様式の大きな建物―ドイツなんかにある木材と漆喰を組み合わせたアレだーが目に飛び込む。
「ここが大使館か……?」
「大使館というより豪邸に近い気がしますね、これ」
小さいながらも前庭があり、建物も三階建てで縦にも横にも大きい。
「1階2階が執務エリア、3階を迎賓エリアとしております。ご住居や井戸は裏庭に用意させていただきました」
地図を見ると言われた通り1階が巨大社交スペース、2階に全員分の執務室や会議室、3階が来賓を泊めるスペースになっている。
全員分の住居スペースはこの建物の裏にあるらしいがそれも渡り廊下でつながっている。
キッチンは両方と行き来が出来る独立した空間となっており、トイレは屋外だが複数設置されている。風呂が無いのはー……多少しんどいものがあるがしばらくは我慢だな。幸いまだこちらは春だと聞いているので暑くなるまでに考えよう。
「真柴大使、執務室と居住空間の振り分けはどうしますか」
「じゃんけんで決めよう。まずは居住空間から」
話し合うのも面倒なのでそう提案すると、納村がアホみたいにジャンケンが強かったため一番日当たりのいい部屋を確保していた。ちなみに執務室は資料の日焼け防止のため敢えて日当たりの悪い場所を選んでいた。
俺はというと一階の角部屋を居住空間として選び、隣に木栖が来た。執務室は一番広いところを使ってくれという周りの合意で一番広い部屋を貰った。
「全員最低限の荷ほどきを終えたら市場で買い出しを行う、2時間後に門の前で」
納村が休ませてくれと言わんばかりの目でこちらを見るが無視だ。
まだ大使館を始めるまでの準備は続く。
「そういえば、失礼ながら伺いしますが真柴さまの奥方は木栖さまでよろしいのですか?」
「はい?」
俺の疲れ具合を見て荷物の一部を持ってくれたオーロフがそう問うてくる。
「外交騎士……ええっと、日本では大使と呼ぶんでしたか。そういった方は他国へ行くときは奥方を連れて行くものだと宰相閣下にお伺いしました。今回来られた方のうち一番親し気に見えましたので……」
「こちらでは男性同士の夫婦もいるのですか」
「庶民では稀ですが貴族の方などは見かけます」
同性の夫婦が当然のようにいてかつ大使は夫婦で行動するものだという前提があれば、この中で一番親しい木栖と夫婦に見られるのも止む無し……なのか?
パートナーがいたほうが都合のいい場面に出くわしたとき、腕っぷしの強い木栖を連れて行けるのは都合がいい。
しかし、だ。
『俺はゲイで、おまえの事が好きだった』
再会してすぐに告げられた木栖の言葉を思い出す。
無断で夫婦という事にされても嫌がらないと思いたいが、木栖に話を通しておいたほうが良い。
「……日本では同性の夫婦というのは嫌悪されるものですので本人に聞いてみます」
嘘はついていないが質問の答えになっていない玉虫色の答えを返すと「失礼いたしました」と深く頭を下げられた。
本人の了解を得たうえで偽装夫婦という事にしておけば都合のいい場面で連れ合いとして振る舞ってくれるだろう。
「そういえば、この建物は何ですか?」
「我が国の守護神である金羊の女神を祀る祭殿でございます」
金羊の女神については聞いていたがわざわざ祭殿を作っていたとは。
過去の聞き取り資料によると、金羊の女神は人間から不当に扱われる獣人を案じて彼らのために大陸中央部にある大森林と呼ばれる巨大な森の中心にあった火山湖を壊して巨大なカルデラを造成。
大陸中の獣人たちに『大森林の最奥にある湖を壊し大きな更地を作った、この地を汝らの自由のために使え』と夢の中でお告げをし、そのお告げを信じた者たちがここに集まって建国したという。
神殿を出ると巨大な街並みが見えてくる。左右から大きな川が合流して、山々の切れ目から流れていくのが見える。見たところその川に沿うように街を作って広げているらしい。
「川の手前側、今いるところが第一都市と呼ばれる場所です。国の祭りごとをつかさどる建物はこちら側にそろっております。川の向こうが第二都市と呼ばれる場所で、大きい市場や家々の並ぶ場所となっております」
「大使館も第一都市に?」
「はい、ここからそう遠くありません」
どうやらこの祭殿自体が少し小高い場所になっているらしく、なだらかな坂となっている。どうやら一番見晴らしのいい場所を祭殿としたようだ。
丘を降りるとギリシャ風の真っ白い建物の並んだ街並みが広がる。
「何で家を作っているんですか?」
「木材で梁を組んだあと土や漆喰で表面を固めています、第二都市に行くと大陸中の建築様式が集まっていて面白いですけどこちらの整然と整えられたほうが好きな人もいますね」
木と土という原材料は日本の伝統建築に近いが、ここまで白い建物が並んでいると反射で目が痛くなりそうだ。
そうこう歩いていると全員が大きな門の前で待っているのが見えた。少しゆっくり歩きすぎただろうか。
「遅くなった」
「いいさ、急ぐものでもない」
案内役のアントリが「こちらが宰相閣下からお預かりした大使館の鍵と建物の地図です」と渡される。
20センチくらいの木製の棒だが凹凸があり、穴に差し込んでてこのように下に押すとかぎが開く仕組みだという。
言われた通りカギを開けるとハーフティンバー様式の大きな建物―ドイツなんかにある木材と漆喰を組み合わせたアレだーが目に飛び込む。
「ここが大使館か……?」
「大使館というより豪邸に近い気がしますね、これ」
小さいながらも前庭があり、建物も三階建てで縦にも横にも大きい。
「1階2階が執務エリア、3階を迎賓エリアとしております。ご住居や井戸は裏庭に用意させていただきました」
地図を見ると言われた通り1階が巨大社交スペース、2階に全員分の執務室や会議室、3階が来賓を泊めるスペースになっている。
全員分の住居スペースはこの建物の裏にあるらしいがそれも渡り廊下でつながっている。
キッチンは両方と行き来が出来る独立した空間となっており、トイレは屋外だが複数設置されている。風呂が無いのはー……多少しんどいものがあるがしばらくは我慢だな。幸いまだこちらは春だと聞いているので暑くなるまでに考えよう。
「真柴大使、執務室と居住空間の振り分けはどうしますか」
「じゃんけんで決めよう。まずは居住空間から」
話し合うのも面倒なのでそう提案すると、納村がアホみたいにジャンケンが強かったため一番日当たりのいい部屋を確保していた。ちなみに執務室は資料の日焼け防止のため敢えて日当たりの悪い場所を選んでいた。
俺はというと一階の角部屋を居住空間として選び、隣に木栖が来た。執務室は一番広いところを使ってくれという周りの合意で一番広い部屋を貰った。
「全員最低限の荷ほどきを終えたら市場で買い出しを行う、2時間後に門の前で」
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