異世界大使館はじめます

あかべこ

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2:大使館を作る(金羊国編)

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日本からねじれた空間を歩いて疲労困憊の俺たちを見たエイン魔術官が扉を叩いて「椅子とお茶を!」と呼びかけると牛・猪・ケンタウロスなど筋骨隆々な獣人たちが木製の椅子を差し出してくれる。
「宰相閣下をお呼びするので少しお待ちください」
無骨ながら丁寧な仕事を感じさせる椅子に低めの机、さらに焼き物になみなみと注がれたハーブティーのようなものが差し出される。
「これは何のお茶ですか」
事前に叩き込まれたこちらの言葉で近くにいた牛の獣人に問えば「ミントのお茶です」と言う。
(よし、通じたな)
こちらの資源について詳細はまだ研究段階ではあるが、体の構造に大きな差はないことが既に確認されているので彼らが食べられるものは概ね食べられることが確認されている。
一口飲んでみると爽やかだがほんのりと甘さがあって飲みやすい。甘いミントキャンディのような雰囲気だ。
北アフリカのミントティーのように砂糖を入れてあるのかそれともこの土地特有のミントなのか、その辺りは色々聞いてみる必要がありそうだ。
「美味しい」「名誉です」
お茶が半分ほどなくなった頃「入ります」という低くも柔らかな声が扉の向こうから響く。
するとお茶を持って来てくれた獣人たちがさっと壁の方に移動し、猪の獣人により扉が開けられる。
そこにいたのはスーツのような衣服を纏った羊の獣人と、案内をしてくれた先ほどのエイン魔術官であった。
俺たちの前に立つと、突如片膝を折り首を見せるように地面を見る。
「ようこそ我が国へお越しくださいました、宰相ハルトルが最大限の歓迎の意を持って皆様をお迎え申し上げます」
この羊の獣人が宰相ということは、国王もいるのだろうか。
ハルトル宰相が「ご尊顔の拝謁許可を」と問えば「畏まらずとも構いませんよ」と俺が返す。お互いいらん気疲れはしたくない。
「正直に言えばあまりかしこまった場は苦手なので」
「……では、失礼して」
すっと互いの目がお互いの顔を映す。
渦を巻いた黒いツノにたれ気味の丸い目に白く柔らかな毛並み、全体的に丸い輪郭も相まってやさしげな雰囲気を持っているように見える。
「真柴様、どうぞ二国の友好と発展のためよろしくお願い申し上げます」
「はい」
厳密には二国どころではないのだがここでは置いておいて。
「大使館の建物は事前に我が国で用意させていただいております。案内はオーロフに、アントリも荷運びの手伝いをお願いします」
先ほどお茶を入れてくれた牛の獣人が「案内役のオーロフでございます」と恭しく頭を下げた。
「宰相殿下の命によりこのたび皆様の大使館の掃除などを担うことになりました」
「オーロフさん、あまり畏まらずお願いします。先ほど言った通りかしこまった場は苦手なので」
まあそうはいってもお互いにまだ距離を測りかねるのも事実なわけで、難しいところではある。
「あと日本政府は我が国の資源調査も行いたいと聞いております」
「ええ、将来の開発協力や貿易のためにも必要なことですので」
日本政府は将来この金羊国を一つの資源倉庫にしたいと考えている。
地球上の政治バランスの影響を受けずに資源を購入できる金羊国は自国産資源の少ない日本にとって重要なのだ。
「私のもので働くものたちを1人づつつけましょう、その方が自由に動けるでしょうから」
書状ではなく人をつけるというのは何か意味があるのだろうか。
しかしまだこの国については未知数の部分も多いし、現地の人間をつけてもらえるのならば助かるのは事実だ。
「ではありがたく人手をお借ります」
宰相が「お茶をひとつお願いします」と近くにいた猪の獣人に声をかけてミントティーを受け取る。
お茶を一口飲んだ後に俺たちの反応を窺うとふうっと小さく息をこぼす。
「……私たちのことを対等に扱ってくれた役人はあなたたちが初めてです」
話は聞いている。
この国は逃亡奴隷が建国した国で外交上まだ正式な国家として承認してくれる国がないため他国と関係を結べずにいる。
「西の国なら無断で水を飲んだだけで即打首ですからね」
お茶を飲んだ後にこちらの様子を伺っていたのはそういうことだったのか。
「互いに文化も風習も違う国同士です、皆様から見て無礼もあるでしょうが我が国の者たちは大使館の皆様に最大限の礼節を持ってお迎えすることを約束いたします」
「……こちらこそ、無礼非礼もあるでしょうが二国の友好の為最大限の努力を約束します」
宰相がすっと立ち上がり「オーロフ、アントリ。皆様をお願いします」と告げると「次の仕事がありますので」と言って部屋を去っていった。
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