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不思議倶楽部_立花公平_B2
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「擬態や屈折を利用したカモフラージュか、、多分。」
擬態、錯覚、そして反射・屈折である可能性が高まる。
擬態は草木・動物に似た色や形をしてそれになりすます生物の事。意外に種類が豊富で、補食する際に相手に気付かれない様にする場合や身を守る為に身に付けている場合がある。
例を挙げると、カマキリ、カエル(毒を持つのは除外)、トカゲ(大型は除外)、蛸〈ヒョウモンダコなど〉、数え上げたらキリがない。ちなみ有名だがカメレオンは擬態するわけではない。
次に錯覚。相手に見えなくさせる、距離感を誤認させる等、知覚を混乱させるもの。トリックアートや騙し絵などがある。しかしトリックアート・騙し絵は《誤認させられる位置・場所》が決まっている為、色々な所に移動する生物が持っている可能性は低いかも知れない。
最後の反射・屈折。2つは光を曲げて映し、他の場所を見せている可能性。鏡、コップに入れたストローや蜃気楼とかの原理だ。
クリスタル・キャットが持っている特性としてはこの辺だろう。これ以外にもあるかも知れないが俺が思い付くのはこの程度しかない。
「公平くんはどう思う?どうしたら見付かると思うかね。」
松橋先生が聞いてくる、答えを知っている質問の仕方だ。俺がどうやって探したいのか興味があるらしい、俺の作戦の効率が悪ければアドバイスをくれるかもしれない。
「クリスタル・キャットが何なのかは分かりませんが、もし仮に猫であると考えれば行動範囲を絞ることも出来ます。」
俺は携帯のMAPアプリで周囲を確認して、更に先生や幸太郎に近所の事を聞きながらノートに簡易地図を書く。
「先ずはゴミ捨て場、飲食店。日陰、日向、広い道、細い道。犬などを飼っている家、、こんな所かな。」
先生は簡易地図が書かれたノートを不思議そうに見る。幸太郎は心配そうに松橋先生を見ていた、まっ信用は先程の手品で地に落ちたし無理もない。
「猫っていうのは意外と縄張り意識が強い動物なんです。この地域なら100メートル以内がクリスタル・キャットの縄張りになると思います。毎日縄張りを巡回するんです、広くなればその時に他の猫に遭遇する可能性も高くなる。面倒ですしね。」
先生は同意して頷いてくれた。幸太郎は口を開けて放心している、話が飲み込めていないみたいだ。
「簡単にいうと、この公園から200メートル以内にいる可能性がかなり高いです。ここを重点的に探せば、、」
幸太郎もようやく話を飲み込めたみたいだ。
「最後に捕まえる方法ですが、マタタビの枝と手投げ網、ペイントボールを用意しました。マタタビの枝で誘い込んで、手投げ網で捕まえる。ペイントボール三つはもしも逃げたときに見付けやすく出来る筈です。」
この三つは俺が家から持ってきたものだ。手投げ網は前に作ったもので、大きさは二メートル、太い釣糸を格子状に並べ接点を結び端に錘を付けた力作である。ペイントボールは水風船の中身に墨汁・水道水を1:1で作った。活躍を期待したい。
先生は自宅の物置から持ってきた大きな身長ほどもある魚取り網と猫捕獲後の首輪付きリード。幸太郎は虫取り網と何故か小型の虫籠を首から下げている。
「「行くぞ」」
こうして男達の熱い闘いが始まった。
「公平くん、ちょっと聞きたい事があるのだが。」
先生の自宅から公園までの道程先生が訊いてくる。
「子供だけに見えるクリスタル・キャットはどうやったら大人に見えるようになるのかな?」
うう、、まただ、また俺は試されている。
「条件が子供が持つ〈純粋な心〉でないとしたら、角度じゃないでしょうか?子供は背が低いので角度が大人よりも水平に近い、これがクリスタル・キャットが見える条件だと思います。だから見ようとするなら出来るだけ身を低くすれば良い筈です。」
遠くに離れれば角度は水平になるが、逆に離れることで違和感が少なくなるし、猫は基本〈人に気付かれないよう行動する〉為に非常に見付け難い筈だ。
角度は大体20度位だろうか?分度器があれば良かったが、携帯していない。よく分からないが、幸太郎の目線の高さまで目線を低くすれば発見できると思いたい。俺の答えは先生にとって及第点だったのか、深く頷く。
「私と光太郎はこの辺には詳しいから、この辺を探そう。公平くんは幸太郎がクリスタル・キャットを目撃したという公園へこのまま行ってくれ。見付かったら、互いに連絡を取り合おう。」
俺も先生の意見に賛成だった。人が多いのは警戒されるし、更に手分けした方が発見する確率が単純に3倍になる。それに目撃例がある公園が現在一番発見しやすい場所なのは確かだ。
俺は二人と分かれて、幸太郎が良く遊ぶ公園に向かった。公園は滑り台と砂場がある小さな公園で、長細く端から端までは20メートルほどで背の低い植物サツキがそれを囲うように埋められていた。地面は芝生、所々剥げて黒土が見えている。
「どこら辺が奴の通り道だろうな、、」
猫は〈自分だけが通れる通路〉を良く利用する。特に植木等の木と木の間の細い道が好み。俺が植木を見て回るとそれらしい獣道が一ヶ所あった。
「ここにマタタビの枝を置いて、、完成だ。」
その獣道は住宅街に面し、公園の俺と住宅街の先生達の間にあるため上手くいけば挟み撃ちし易い場所である。俺は芝生に横になり、クリスタル・キャットを待ち構える。
クリスタル・キャットは表れない。
クリスタル・キャットの現れる気配もない。
クリスタル・キャットどころか猫すら現れない。
ブッ!屁が出る。
雲が東に流れていく、ああ唐揚げ、、
ザザッ、ザザッ。
鋭くなっている俺の聴覚は、その音に反応した。俺は俯せてマタタビを凝視する。そして手投げ網の準備をした。まだいないが、もしかしたら、、
ザザッ、ザザッ。
風ではない、茂みの音。相手は俺に気が付いて逃げたか、それとも警戒しているのか、それとも相手は気が付いていないのか?いや、野性動物なら気が付く、ならここにはいないのか?マタタビの近くには何も変化はない。俺とマタタビの距離は大体5メートル現れれば気が付くはず。
一向に進展はない、業を煮やし俺は先生達に連絡をする。会話は不味い、なのでワンギリを利用。気が付いてくれるだろうか。
周りを見回しても音すらもない。何処かにもう逃げてしまったのか?いや、逃げる音は聞こえなかった。なら後ろ?いや音は確かに前から聞こえた、前の何処かだ。
何故見えない、何か幸太郎から重要な話を聞きそびれたか?もう一度、マタタビを見てみるが変化は無い。、、いや何か変だ、位置が動いている。風で動いたという訳ではない、、まさか?!
よく目を凝らして見てみると微かにマタタビの枝は横に横に移動している。何かが舐めている??クリスタル・キャット?!
間違いない、だが何故見えない。
もしかしたらクリスタル・キャットはその気になれば何処からでも姿を消すことが出来るのかもしれない、たまたま幸太郎と出合った時油断していて一瞬だけ姿を現してしまった。そう考えると辻褄が合う。
いきなりマタタビの近くの空間が歪み始め猫の輪郭がハッキリする。何故姿を現したのか、集中力が切れた?姿を消す必要が無くなった?そうだ必要がなくなった。マタタビに飽きたから何処かに行く気だ!
先生はもう待てない。俺は手元の手投げ網を投げる。
「だりゃ!」
そして、クリスタル・キャットに向けて猛ダッシュ。
手投げ網は植木に邪魔されて隙間が開いてしまった、その間から何かが飛び出していく。俺は舌打ちし、傷を作りながら植木を強引に突き抜け道路へ出る。途中でペイントボールを掴むと次々に空間の歪みの様なものにペイントボールを投げる。
一発目地面に当たり、二発目は近くの壁に当たり、三発目!
「当たれ!!」
幸運な事に風船が空中で破裂、中の墨汁が飛び散りクリスタル・キャットの背中に掛かる。俺は手投げ網を植木から急いで引き剥がすと共にクリスタル・キャットの後を追う。一本道だが離れている駄目だ逃げられる!
その時反対から松橋先生と幸太郎が現れる。
絶妙のタイミング。
「先生!その黒色の何かがクリスタル・キャットです!」
「わっ、わかった!!」
クリスタル・キャットは道の壁際で立ち止まる。本来なら左右の家に逃げ込むのだろうが、突然現れた人間にビックリしたのか。それともそちらには犬がいたのかもしれない。考えようによっては姿を消しているから〈姿が見えていない〉とでも思っているのか。
先生がすぐ側まで来て魚取り網を振り上げた瞬間、クリスタル・キャットは突然走り出した。素早い動きに先生は全く付いていけずに、壁際のクリスタル・キャットの突破を許す。
もう駄目だ。逃げられる!!
「ニャ!」
先生の足元から伸びた〈虫取り網〉がクリスタル・キャットを絡めとる。幸太郎のファインプレーだ、でかした!
「うぁぁぁぁ!」
クリスタル・キャットを包んだ虫取り網は貧弱な代物で、竹の柄に針金とナイロン製の網を取り付けた簡素なものだ。つまり猫を捕まえると同時に限界に達した、針金は曲がりナイロンの網が破れそうになった。
「こうたろおぉう!!」
ザン。
先生がその上から網を被せる。激しく暴れるクリスタル・キャット、ビリビリとナイロンの網が破れるが丈夫な魚取り網は破けない。だが安心は出来ず俺はその上から自分の手投げ網を被せ、慎重に首輪を装着させる。
暫くするとクリスタル・キャットは大人しくなった。
「やったのか?」
「やったね、幸太郎!」
〈漢浪漫同盟〉は遂にクリスタル・キャットを捕獲したのだ。
幸太郎と松橋先生は興奮しっぱなしだった、これからクリスタル・キャットをどうするか考えているのだろう。俺も武志に売ったらいくらになるのか打算した。まぁ売るには全員で話し合わなければならないが、、何諭吉になるんだろうな。
夕暮れ時、松橋先生の自宅の庭に赤い光が差し込む。
幸太郎は日陰でクリスタル・キャットを撫でていた。撫でる部分は七色に輝いているが他の部分は透明なので、端から見とパントマイムの様だ。しかし撫でられても暴れない、この猫は意外と人に慣れているのかもしれない。
俺はしゃがんでクリスタル・キャットの頭らしき部分を撫でようとするが、、
ガチン。
いきなり歯が空中に現れ噛みつかれた。コイツ、、ふてぶてしい態度だな。暫くこんな緩やかな時間が続き、先生が頃合いだと重い口を開いた。
「さぁ幸太郎、クリスタル・キャットを放して自由にしてやろう。」
先生の口から俺にとっても意外な言葉が出た。てっきり売るとかマスコミに売り込むかと思っていたからだ。
「えーっ。」
幸太郎は嫌がった、それはそうだろう。やっと捕まえたクリスタル・キャットだ、それにまだ母親にも見せていない。手離したくはないだろう。
「幸太郎はずっと家に閉じ込められていたら嫌だろう。コイツだって同じだよ。幸太郎の話は本当だった〈私はそれを誇りに思うよ〉。クリスタル・キャットはいた、それは事実だ。私や公平くんが証言しよう、それはいつまでも変わらない。何かあったら我々に言ってくれ、いつだって力になろう。」
先生に笑い掛けられ、俺も幸太郎に向けて満面の笑みを向ける。
「お兄ちゃん気持ち悪い。」
はははっ、最後までこの子供は♯
クリスタル・キャットは首輪を外されると、礼のつもりなのか先ずは幸太郎、松橋先生、そして俺にそれぞれ体を擦り付ける。
少し離れた所に移動したのか最後。
「ニャーン。」
そう言って消えた、完全に。今までいなかったかのように。
「幸太郎、もうクリスタル・キャットの話はしないようにしよう。彼が暮らしやすいように、ママが怒らない様にね。パパがいる時に話して良いから。」
幸太郎は松橋先生の手を握り、クリスタル・キャットが消えた場所を眺めていた、いつまでも、いつまでも。
、、、あっ!写真撮るの忘れた。
その後、俺は松橋先生に家まで送ってもらった。体はクタクタだったが、晩御飯の唐揚げと【一番好きなプリン】を堪能し疲労は少しだけ回復した。美味い、最高だシェフを呼べ。
台所からシェフが現れる。
「公平ごめんね。本当にごめん。明日日曜日だし手伝うよ、一緒に探そう。お弁当持って二人で探せば見つかるよ。」
夢見がソファーでユッタリとする俺に言う。今更クリスタル・キャットもない、、今日でクリスタル・キャットは終わり。それがあの猫にとっても良いだろう。
「それなら、もういいや。それより夢見、【幸福】って何だろうな。」
夢見は少しだけ考えたが、答えは決まっていたようだ。
「日常じゃないかな。」
そうだ、その通り。
「チルチルミチルは幸せだな。」
首をひねる夢見。
少なくとも幸福がある場所に気付けたのだから、、俺はソファーに座りながら、疲れでウトウトして眠りに落ちた。
その体に夢見が優しく毛布を掛ける。
本当に幸福は分かりづらいものだ、、。
***********************
【レポート】
クリスタル・キャット
透明の猫の様な生き物。性質・性格は猫に非常に近い。肌に毛は殆ど無く、触った感覚としてはヌルリとした皮膚に近く非常に伸縮性に優れる。予想では皮膚表面に小さな色付きのイボの様なものが無数にあり、無自覚で周囲の色に同化するものと考える。
発見が非常に困難であるため、個体数等は不明。
筆者:超常現象研究家_立花公平
擬態、錯覚、そして反射・屈折である可能性が高まる。
擬態は草木・動物に似た色や形をしてそれになりすます生物の事。意外に種類が豊富で、補食する際に相手に気付かれない様にする場合や身を守る為に身に付けている場合がある。
例を挙げると、カマキリ、カエル(毒を持つのは除外)、トカゲ(大型は除外)、蛸〈ヒョウモンダコなど〉、数え上げたらキリがない。ちなみ有名だがカメレオンは擬態するわけではない。
次に錯覚。相手に見えなくさせる、距離感を誤認させる等、知覚を混乱させるもの。トリックアートや騙し絵などがある。しかしトリックアート・騙し絵は《誤認させられる位置・場所》が決まっている為、色々な所に移動する生物が持っている可能性は低いかも知れない。
最後の反射・屈折。2つは光を曲げて映し、他の場所を見せている可能性。鏡、コップに入れたストローや蜃気楼とかの原理だ。
クリスタル・キャットが持っている特性としてはこの辺だろう。これ以外にもあるかも知れないが俺が思い付くのはこの程度しかない。
「公平くんはどう思う?どうしたら見付かると思うかね。」
松橋先生が聞いてくる、答えを知っている質問の仕方だ。俺がどうやって探したいのか興味があるらしい、俺の作戦の効率が悪ければアドバイスをくれるかもしれない。
「クリスタル・キャットが何なのかは分かりませんが、もし仮に猫であると考えれば行動範囲を絞ることも出来ます。」
俺は携帯のMAPアプリで周囲を確認して、更に先生や幸太郎に近所の事を聞きながらノートに簡易地図を書く。
「先ずはゴミ捨て場、飲食店。日陰、日向、広い道、細い道。犬などを飼っている家、、こんな所かな。」
先生は簡易地図が書かれたノートを不思議そうに見る。幸太郎は心配そうに松橋先生を見ていた、まっ信用は先程の手品で地に落ちたし無理もない。
「猫っていうのは意外と縄張り意識が強い動物なんです。この地域なら100メートル以内がクリスタル・キャットの縄張りになると思います。毎日縄張りを巡回するんです、広くなればその時に他の猫に遭遇する可能性も高くなる。面倒ですしね。」
先生は同意して頷いてくれた。幸太郎は口を開けて放心している、話が飲み込めていないみたいだ。
「簡単にいうと、この公園から200メートル以内にいる可能性がかなり高いです。ここを重点的に探せば、、」
幸太郎もようやく話を飲み込めたみたいだ。
「最後に捕まえる方法ですが、マタタビの枝と手投げ網、ペイントボールを用意しました。マタタビの枝で誘い込んで、手投げ網で捕まえる。ペイントボール三つはもしも逃げたときに見付けやすく出来る筈です。」
この三つは俺が家から持ってきたものだ。手投げ網は前に作ったもので、大きさは二メートル、太い釣糸を格子状に並べ接点を結び端に錘を付けた力作である。ペイントボールは水風船の中身に墨汁・水道水を1:1で作った。活躍を期待したい。
先生は自宅の物置から持ってきた大きな身長ほどもある魚取り網と猫捕獲後の首輪付きリード。幸太郎は虫取り網と何故か小型の虫籠を首から下げている。
「「行くぞ」」
こうして男達の熱い闘いが始まった。
「公平くん、ちょっと聞きたい事があるのだが。」
先生の自宅から公園までの道程先生が訊いてくる。
「子供だけに見えるクリスタル・キャットはどうやったら大人に見えるようになるのかな?」
うう、、まただ、また俺は試されている。
「条件が子供が持つ〈純粋な心〉でないとしたら、角度じゃないでしょうか?子供は背が低いので角度が大人よりも水平に近い、これがクリスタル・キャットが見える条件だと思います。だから見ようとするなら出来るだけ身を低くすれば良い筈です。」
遠くに離れれば角度は水平になるが、逆に離れることで違和感が少なくなるし、猫は基本〈人に気付かれないよう行動する〉為に非常に見付け難い筈だ。
角度は大体20度位だろうか?分度器があれば良かったが、携帯していない。よく分からないが、幸太郎の目線の高さまで目線を低くすれば発見できると思いたい。俺の答えは先生にとって及第点だったのか、深く頷く。
「私と光太郎はこの辺には詳しいから、この辺を探そう。公平くんは幸太郎がクリスタル・キャットを目撃したという公園へこのまま行ってくれ。見付かったら、互いに連絡を取り合おう。」
俺も先生の意見に賛成だった。人が多いのは警戒されるし、更に手分けした方が発見する確率が単純に3倍になる。それに目撃例がある公園が現在一番発見しやすい場所なのは確かだ。
俺は二人と分かれて、幸太郎が良く遊ぶ公園に向かった。公園は滑り台と砂場がある小さな公園で、長細く端から端までは20メートルほどで背の低い植物サツキがそれを囲うように埋められていた。地面は芝生、所々剥げて黒土が見えている。
「どこら辺が奴の通り道だろうな、、」
猫は〈自分だけが通れる通路〉を良く利用する。特に植木等の木と木の間の細い道が好み。俺が植木を見て回るとそれらしい獣道が一ヶ所あった。
「ここにマタタビの枝を置いて、、完成だ。」
その獣道は住宅街に面し、公園の俺と住宅街の先生達の間にあるため上手くいけば挟み撃ちし易い場所である。俺は芝生に横になり、クリスタル・キャットを待ち構える。
クリスタル・キャットは表れない。
クリスタル・キャットの現れる気配もない。
クリスタル・キャットどころか猫すら現れない。
ブッ!屁が出る。
雲が東に流れていく、ああ唐揚げ、、
ザザッ、ザザッ。
鋭くなっている俺の聴覚は、その音に反応した。俺は俯せてマタタビを凝視する。そして手投げ網の準備をした。まだいないが、もしかしたら、、
ザザッ、ザザッ。
風ではない、茂みの音。相手は俺に気が付いて逃げたか、それとも警戒しているのか、それとも相手は気が付いていないのか?いや、野性動物なら気が付く、ならここにはいないのか?マタタビの近くには何も変化はない。俺とマタタビの距離は大体5メートル現れれば気が付くはず。
一向に進展はない、業を煮やし俺は先生達に連絡をする。会話は不味い、なのでワンギリを利用。気が付いてくれるだろうか。
周りを見回しても音すらもない。何処かにもう逃げてしまったのか?いや、逃げる音は聞こえなかった。なら後ろ?いや音は確かに前から聞こえた、前の何処かだ。
何故見えない、何か幸太郎から重要な話を聞きそびれたか?もう一度、マタタビを見てみるが変化は無い。、、いや何か変だ、位置が動いている。風で動いたという訳ではない、、まさか?!
よく目を凝らして見てみると微かにマタタビの枝は横に横に移動している。何かが舐めている??クリスタル・キャット?!
間違いない、だが何故見えない。
もしかしたらクリスタル・キャットはその気になれば何処からでも姿を消すことが出来るのかもしれない、たまたま幸太郎と出合った時油断していて一瞬だけ姿を現してしまった。そう考えると辻褄が合う。
いきなりマタタビの近くの空間が歪み始め猫の輪郭がハッキリする。何故姿を現したのか、集中力が切れた?姿を消す必要が無くなった?そうだ必要がなくなった。マタタビに飽きたから何処かに行く気だ!
先生はもう待てない。俺は手元の手投げ網を投げる。
「だりゃ!」
そして、クリスタル・キャットに向けて猛ダッシュ。
手投げ網は植木に邪魔されて隙間が開いてしまった、その間から何かが飛び出していく。俺は舌打ちし、傷を作りながら植木を強引に突き抜け道路へ出る。途中でペイントボールを掴むと次々に空間の歪みの様なものにペイントボールを投げる。
一発目地面に当たり、二発目は近くの壁に当たり、三発目!
「当たれ!!」
幸運な事に風船が空中で破裂、中の墨汁が飛び散りクリスタル・キャットの背中に掛かる。俺は手投げ網を植木から急いで引き剥がすと共にクリスタル・キャットの後を追う。一本道だが離れている駄目だ逃げられる!
その時反対から松橋先生と幸太郎が現れる。
絶妙のタイミング。
「先生!その黒色の何かがクリスタル・キャットです!」
「わっ、わかった!!」
クリスタル・キャットは道の壁際で立ち止まる。本来なら左右の家に逃げ込むのだろうが、突然現れた人間にビックリしたのか。それともそちらには犬がいたのかもしれない。考えようによっては姿を消しているから〈姿が見えていない〉とでも思っているのか。
先生がすぐ側まで来て魚取り網を振り上げた瞬間、クリスタル・キャットは突然走り出した。素早い動きに先生は全く付いていけずに、壁際のクリスタル・キャットの突破を許す。
もう駄目だ。逃げられる!!
「ニャ!」
先生の足元から伸びた〈虫取り網〉がクリスタル・キャットを絡めとる。幸太郎のファインプレーだ、でかした!
「うぁぁぁぁ!」
クリスタル・キャットを包んだ虫取り網は貧弱な代物で、竹の柄に針金とナイロン製の網を取り付けた簡素なものだ。つまり猫を捕まえると同時に限界に達した、針金は曲がりナイロンの網が破れそうになった。
「こうたろおぉう!!」
ザン。
先生がその上から網を被せる。激しく暴れるクリスタル・キャット、ビリビリとナイロンの網が破れるが丈夫な魚取り網は破けない。だが安心は出来ず俺はその上から自分の手投げ網を被せ、慎重に首輪を装着させる。
暫くするとクリスタル・キャットは大人しくなった。
「やったのか?」
「やったね、幸太郎!」
〈漢浪漫同盟〉は遂にクリスタル・キャットを捕獲したのだ。
幸太郎と松橋先生は興奮しっぱなしだった、これからクリスタル・キャットをどうするか考えているのだろう。俺も武志に売ったらいくらになるのか打算した。まぁ売るには全員で話し合わなければならないが、、何諭吉になるんだろうな。
夕暮れ時、松橋先生の自宅の庭に赤い光が差し込む。
幸太郎は日陰でクリスタル・キャットを撫でていた。撫でる部分は七色に輝いているが他の部分は透明なので、端から見とパントマイムの様だ。しかし撫でられても暴れない、この猫は意外と人に慣れているのかもしれない。
俺はしゃがんでクリスタル・キャットの頭らしき部分を撫でようとするが、、
ガチン。
いきなり歯が空中に現れ噛みつかれた。コイツ、、ふてぶてしい態度だな。暫くこんな緩やかな時間が続き、先生が頃合いだと重い口を開いた。
「さぁ幸太郎、クリスタル・キャットを放して自由にしてやろう。」
先生の口から俺にとっても意外な言葉が出た。てっきり売るとかマスコミに売り込むかと思っていたからだ。
「えーっ。」
幸太郎は嫌がった、それはそうだろう。やっと捕まえたクリスタル・キャットだ、それにまだ母親にも見せていない。手離したくはないだろう。
「幸太郎はずっと家に閉じ込められていたら嫌だろう。コイツだって同じだよ。幸太郎の話は本当だった〈私はそれを誇りに思うよ〉。クリスタル・キャットはいた、それは事実だ。私や公平くんが証言しよう、それはいつまでも変わらない。何かあったら我々に言ってくれ、いつだって力になろう。」
先生に笑い掛けられ、俺も幸太郎に向けて満面の笑みを向ける。
「お兄ちゃん気持ち悪い。」
はははっ、最後までこの子供は♯
クリスタル・キャットは首輪を外されると、礼のつもりなのか先ずは幸太郎、松橋先生、そして俺にそれぞれ体を擦り付ける。
少し離れた所に移動したのか最後。
「ニャーン。」
そう言って消えた、完全に。今までいなかったかのように。
「幸太郎、もうクリスタル・キャットの話はしないようにしよう。彼が暮らしやすいように、ママが怒らない様にね。パパがいる時に話して良いから。」
幸太郎は松橋先生の手を握り、クリスタル・キャットが消えた場所を眺めていた、いつまでも、いつまでも。
、、、あっ!写真撮るの忘れた。
その後、俺は松橋先生に家まで送ってもらった。体はクタクタだったが、晩御飯の唐揚げと【一番好きなプリン】を堪能し疲労は少しだけ回復した。美味い、最高だシェフを呼べ。
台所からシェフが現れる。
「公平ごめんね。本当にごめん。明日日曜日だし手伝うよ、一緒に探そう。お弁当持って二人で探せば見つかるよ。」
夢見がソファーでユッタリとする俺に言う。今更クリスタル・キャットもない、、今日でクリスタル・キャットは終わり。それがあの猫にとっても良いだろう。
「それなら、もういいや。それより夢見、【幸福】って何だろうな。」
夢見は少しだけ考えたが、答えは決まっていたようだ。
「日常じゃないかな。」
そうだ、その通り。
「チルチルミチルは幸せだな。」
首をひねる夢見。
少なくとも幸福がある場所に気付けたのだから、、俺はソファーに座りながら、疲れでウトウトして眠りに落ちた。
その体に夢見が優しく毛布を掛ける。
本当に幸福は分かりづらいものだ、、。
***********************
【レポート】
クリスタル・キャット
透明の猫の様な生き物。性質・性格は猫に非常に近い。肌に毛は殆ど無く、触った感覚としてはヌルリとした皮膚に近く非常に伸縮性に優れる。予想では皮膚表面に小さな色付きのイボの様なものが無数にあり、無自覚で周囲の色に同化するものと考える。
発見が非常に困難であるため、個体数等は不明。
筆者:超常現象研究家_立花公平
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