不思議倶楽部

勝研

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不思議倶楽部_立花公平_A4

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イツツ、どうやらハルカ先輩に思いっきり、突き飛ばされたみたいだ。夢見が椅子を振り上げてハルカ先輩を殴打するが全く効果がなく、反撃によってバラバラになった椅子の破片を投げるとコンクリートの床に突き刺さった。なんて威力だ、あんなものが頭に当たったら頭が吹き飛んでしまう。

こちらに先輩が向かってくる、物凄い殺気だ殺されるかもしれない。出口を探すとハルカ先輩の後ろにドアが見えた、夢見の位置からかなり近い一人なら逃げられるかもしれない。逃げれば夢見に注意がいって俺ももしかしたら逃げられるかもしれない。

足に力を入れようとするが世界が揺れていて真っ直ぐに立てない、踞って回復するのを待つがー

「ごめんなさいね公平くん、貴方に恨みは無いけれど。」

目前に迫った先輩が手を振り上げる。夢見だけでも逃がさないと。

「夢見にげろ!!」

言いながら先輩に突進する。注意を引けただろうか?くそっ、こうなりゃ自棄だ。

バキィ!ドタン!!

「ぐぁ!」

右腕に物凄い衝撃を受ける、ハルカ先輩の払うような一撃は俺の体を吹き飛ばすには十分だったようだ。クルリクルリと周りがゆっくりになっていき地面に落下、そして壁にぶつかる。体中が痛い、ドロリとしたものが頭から流れそれが血であると認識する。人間はこんなに簡単に血が出るものだろうか。

「公平!、、よくもぉ!!!」

夢見は激昂げっこうしてハルカ先輩に飛び掛かるが、簡単にいなされて無防備な腹に撫でるような掌底しょうていを打ち込まれる。「きゃ!」とかわいい声を出したあと、むせて嘔吐する夢見。それでも、また立ち上がり先輩を追う。

「ゆめみ、、逃げろ、、死んじまうぞ、、」

俺は体を確認する。

「くぁ。」

右腕は折れているのか先ず動きそうにない。左手は無事だが足を捻っているらしく立ち上がれそうにない。こりゃ詰みだ。先輩の強さは人を越えている、良くテレビでキックボクシングや総合格闘技を見ることがある、そういった選手ですら勝て無いだろう。

俺に出来ることは先輩を引き付けて夢見を逃がすこと、それが俺に残された最後の役割だ。床に寝転んだまま最後の力を振り絞って叫ぶ。

「夢見ぃ逃げろ!!!はぁ、、はぁ、、」

だが聞こえているはずの声は夢見には届いていない。それどころかますます猛って先輩を追うー

がー

ドサ。

足をもつれさせ倒れこんだ夢見、体力の限界なのだろう。足も捻っているのか痛そうに足を見る。だがそれでも立ち上がろうとするが、その前に逆さまの先輩が俺に話し掛けた。

「公平くん言い残したことある?言ってみなさい聞いてあげる。」

「先輩は白色より、黒色の方が似合ってますよ。」

最後の言葉がセクハラとは。夢見は助けてくれとか、命乞いをすれば良かったかな、、まぁ学校でトップクラスの美人のスカートを覗きながら死ねるのなら、それはそれで幸運な人生かもしれない。

先輩が足を上げ俺の顔を空き缶の様に踏み潰そうとしたー

「待って下さい!!待って!お願いです、遥先輩!」

夢見が上半身だけ持ち上げ、泣き叫ぶ。

「彼を公平を殺さないでください!公平血が出てる、いっぱい血が、、死んじゃう、死んじゃいます。手当て、、手当てをしてください今すぐ、お願いです!!」

夢見は服が乱れ、俺が見ても物凄くなまめかしい姿だった。城のお姫様が一人だけで悪党どもにお願いする劇のようだった、情欲を掻き立てるような、、ハルカ先輩も息を飲んで足を床におろす。

「何でもします。だから公平を助けて下さい、お願いです。遥先輩、、おねがい、、何でもしますから、、。」

本気で言っているようだ、演技なら国際女優顔負けの演技力だろう。おまけに声に独特の色気も含まれている気がする。まさか?!ハルカ先輩もその事に気が付いたみたいだ。

「そうね、夢見。でも約束を破ったのは貴方達よ、私は1度も約束を反故にしなかった、説得できなかったら〈一緒に暮らす〉約束だったのにね。でもいいの私は、貴女か好きだからそんな嘘も可愛く思ってしまうわ。でも、、やはりペナルティは必要よね。」

考える先輩。どんな罰かーやっぱり俺は殺されるのか?

「例えばーキスとか。」

「駄目だ!!夢見!先輩!!!」

最後の力をふり絞った叫びはハルカ先輩に無視され、夢見は予想していたのか驚かない。夢見はハルカ先輩の言葉に首を振って拒否をした。これで安心だ。

「それは、、私まだなんです、、他の事なら、、」

ハルカ先輩が夢見に近付いて、先輩の指が夢見の顎を上げ二人が見つめ合う、物凄く近い。

「それじゃあ意味がないのよ夢見。これは罰なんだから。」

いきなりハルカ先輩は夢見にキスをした。嫌がる夢見は顔を背け一度引き離したが、再度先輩は夢見に海外でやるような濃厚なディープキスをする。夢見は最初抵抗していたが、途中で諦め最後は只目をつぶって堪えていた。10秒ほどでキスが終わって、ハルカ先輩は夢見を立たせた。

「先ず夢見を部屋に移動させるわ。それから公平君の治療をする。安心して私は約束を守るからー」

支配欲が満たされたのか、ハルカ先輩は満ち足りた顔で夢見を部屋の外に出そうとする。夢見は最後俺の方を見る。


「、、公平、、ごめんね、、私、、。」


消えて無くなりそうなそんな声で夢見が謝った。

何だか泣きたくなって、床に自由な拳を一度叩き付ける。

俺の所為で夢見が、、夢見が、、



子供の頃の話である。

夢見と俺は両親に連れていかれて、夢見の祖母の家に行った。それは夢見を引き渡す為だった。だが結局は夢見は家で面倒を見ることになった。夢見の祖母は〈事件〉の所為で疲れ、夢見には殺意すら抱いていたからだ。

〈事件〉についてはもう少し後。

夢見の母親とうちの母親は仲が良く、良く遊ぶ間柄だった。家が近くで近所だったからだ。数年間の交流、そしてー

ある日夢見の母親が逮捕された。

〈別荘コンクリート殺人事件〉

コンクリートはセメントを水や砂で固めたものだが、この場合はコンクリートの様なもので体を固められたらしい、らしいが付く。

事件内容はよく分からない、美人でやり手の経営者で欲しいものは何でも手に入れられたはずの女性が殺人を犯したことに周囲は驚いてそれを疑った〈彼女がそんなことをする筈がない〉と。だが彼女は殺し過ぎた。決め手となったのは彼女所有する倉庫から血痕が見つかり、近くの岩場で人の歯や骨、そして髪が見つかった事だろう。数体の遺体らしきものが決め手になったのだ。そこには被害者の一人、そう夢見の父親である『トシヤ』さんも含まれていたのである。

彼女は裁判の最終弁論でこう締め括った「愛して欲しかった」と。



さて、事件が過ぎて俺と夢見は家族になったがある時奇妙な事が起こった。俺と夢見、ペットの犬。遊んでいると犬が段々と動かなくなり、2日後石になって死んでしまったのである。

子供は残酷である。

俺は面白いと思った、思ってしまった。何故石になって犬が死んだのか、突如降ってわいた超常現象の解明におれは夢中になった。そして俺の度重なる考察・実験の結果あることが分かった。

〈夢見とキスをすると石になる〉

そうそれが篠原夢見の秘密である。


彼女はメデューサだったのだ。


だが答えを知った俺に待っていたものは、親父の岩よりも硬い拳骨であった。俺は親父にぶん殴られ殺されかけた。

結論に至るまでに何匹の動物、そして命令に従わなければ〈立花家〉からも捨てられてしまうと思って、俺の言うことを聞き続けた少女の悲しみという感情をどれ程消費させたのか。それは俺のボコボコの顔などよりもっと大事なものなのだ。

頭の良さそうな事を馬鹿がすると周りが不幸になる、馬鹿なら馬鹿らしく、馬鹿馬鹿しく振る舞おう。それが楽しくいきるコツだ!


それが俺の得た教訓である。




暫く眠っていたのか、目が覚めると治療をしてある体を見て後悔する。ハルカ先輩に一刻も早く石になることを伝えなければならなかったからだ。真っ暗な部屋ということを考えると初めに入れられた部屋、鎖には繋がれていないがドアには鍵がかかっている。軟禁状態だった。

夢見はハルカ先輩にキスをした、あれからどれ程時間が経ってあるのか分からないがもうあまり時間がない。包帯が巻かれていない左手で扉を叩きながら、俺は叫んだ。

「ハルカ先輩聞いてください、ハルカ先輩!!」

叩いて五分ほどで扉が開けられる。はじめから入るつもりだったのか、ハルカ先輩の手には食パンと飲み物が食器の上に乗せられていた。

「公平くん起きたみたいね、ずいぶん寝ていたみたいだけど安心したわ。私も困っていて、、夢見が話してくれないのよ、そんなにキスの罰が嫌だったのかしら。」

「落ち着いて聞いてください。信じられないかもしれませんが夢見は病気で、その病気のせいでこのままだと先輩はあと数日しか生きられません。都市部の大学病院に行きましょう、デッカイ病院が良い。神奈川には夢見が半年に一度通っている病院もある。今ならまだ助かる可能性が有るんです。」

ハルカ先輩は意味が分からないようで首を振る。

「それは何?夢見がエボラとかエイズとかの病気だってこと?彼女は何でもないのに私だけが死んでしまう魔法の病気かしら。病気なら、薬をもらっているはずでしょ。彼女はそんなもの携帯していなかったわよ。」

抗生物質は細菌に効果があるが、夢見の〈何か〉には全く効果はなく病状は消えなかったので携帯はしていない。ウィルスには特定の薬でないと効果がないのでこれもなし、つまり薬は携帯してないのだ。

いきなり信じさせるのは無理だ、それなら先輩を引き合いに出した方がいいかもしれない。

「確かに信じられませんよね、だけど先輩の怪力と頑丈さだって同じ様なものじゃ無いですか。あんなの信じられない、でも確かにそういったものはある。」

ハルカ先輩はそれには同意する。

「確かに、私達食人鬼もそうかもね。世の中は不思議な事で溢れている、我々が知るのはその一部でしかない。食人鬼は弱い生き物よ、人を滅ぼせば我々は食料を失い死んでしまう。人肉は時々摂取すれば良いけどね。」

【食人鬼】は日本にもかつて美濃辺りにいたという伝承が残っている。成る程人肉を、、って俺は非常食だったりして!

「我々に身体に吸収出来るのが人肉しかないのか、それともゲームみたいに人肉に含まれるDNAが我々のDNAを補強してくれるとかかしら?、、あぁそう、安心して人肉はまだ沢山冷蔵庫にあるから。」

俺が運んでいたリュックは人肉が入っていたのか。今更ながら鳥肌がたつ。

「人を殺して食べるより、仲間から送られてくる肉の方が安全なのよ。我々は昔はお寺、今は病院や葬儀屋を経営していたりして、死体を手に入れる機会はたくさんあるから。殺して食べてると思ったかしら?」

先輩の話は大体分かったが問題は先輩の体の事である。

「先輩がそうであるように夢見もそうであるということは?」

「、、だからといってその話が貴方の作ったデタラメだという可能性は捨てきれないわ。生物は死に直面する場合なんだってするもの【嘘を付く】なんてこともね。」

「夢見の話が真実だとしても、都市部に行く提案は却下させてもらうわ。だって逃げるでしょあなたたちは。」

あぁあんまり信じてないのか、どうすれば良い。ハルカ先輩に信じてもらう方法は、、

「ハルカ先輩、夢見の病気にはちょっとした特徴があります。先ず1日程すると細部の感覚が麻痺し始めます、痛みを感じなくなるんです、次に関節や筋肉が動かせなくなる。最後は指などの末端から石化が始まり全身に広がります。夢見の体質によるものか、細菌やウィルスが関係しているとは思うんですが症状以外は全く分かりません。そしてー」

「最後に死にます。」

鋭い目をしてハルカ先輩の表情が曇る。

「止めなさい、これ以上夢見を貶めないで。」

出ていこうとする、ハルカ先輩の後ろ姿に俺は叫ぶ。

「冷水や温水で手などの感覚を確かめてください。お願いです今すぐにでも!!」

バタン!

大きな音をたててドアが閉められ鍵を掛けられる。

駄目か、、夢見はなんで先輩を殺そうとしたのか、あの状況ではあれが最善だったからだろうか?それとも他に理由でも合ったのだろうか?

大体アイツには逃げろと言ったのに何故逃げなかったのか、昔からアイツの身勝手に振り回されるこちらの身にもなってほしいぜ!ったく!!

ハルカ先輩が持ってきた食事を左手で食べ、じっと考える。

夢見はどうしているだろう、何故か気になった。泣いているかも知れない結果どうあれ【先輩を殺してしまう事】になったんだから、、泣き虫だからなアイツ、心配かけやがる。

先輩が夢見を好きだったとは意外だった。二人のキスを見た瞬間新たな自分に目覚めそうで怖い。愛や恋に様々な障害があるが、種族と性別が違うのはかなりハンデがあるのではないか?

そういえば夢見には好きな奴とかはいるのだろうか?男の方から夢見に話し掛けている光景を時々見掛ける、だが性格が悪魔的に悪いので付き合う奴には同情を禁じ得ない。この前も母さんにお小遣い3000円を貰っている事を確認していている、それを理由に母さんにお小遣いの要求をしてみたところ。生暖かい目で【消えろ穀潰しが】と有難いお言葉を頂戴した。母さんは夢見に甘過ぎる、息子を労って欲しいものである。

ちなみに夢見の前でその事を言いながら、床に寝転び両足をバタバタさせ駄々を捏ねたところ。1200円のケーキセットを奢って貰った、正義は勝ち悪は負けるという良い例である。バイト代に加えて、お小遣いをため込む悪の夢見に一泡吹かせてやったのだ。


ああっ暇だ。何もない部屋だもんな、夢見も暇だろう。、、まさかくつろいではいないだろう、だが夢見はボーとする癖がある妄想というのだろうか、今はそれが羨ましい。

公平は【紙切れ】を手に入れた!

ーなんて、床に落ちていた紙を拾う。暇なので鶴でも折るか、左手だけではなかなか綺麗には折れずにグニャグニャになる。、、よし!グニャグニャだが斜め上から見れば辛うじて鶴に見える。我ながら指先は器用だ。

ブッ!

屁が出る。それだけだ、暇だ。、、暇。

靴音がする。ハルカ先輩だろうか、兎に角話さないと、立ち上がり叫ぶ。

ドンドンドン。

「ハルカ先輩!相談がありまーす!話をしましょう、別に暇だからじゃないですよ!先輩に虫に関する無駄知識を披露しますよ。カメムシは何と自分の臭いで気絶するんですよ~、すごいでしょ。アリジゴクの罠に掛かるアリは月に一匹らしいですよ。でも安心してくださいアリジゴクは満腹状態なら三ヶ月は餓死しないらしいです。どうです?」

こんな話をされれば食い付かない人間はいない、なんて素晴らしい声掛だろう。先輩は話が聞きたくなったのか、ドアの鍵を開ける。フフフこれを無視できる筈がないのだ虫だけに。

ガチャリ。

「さぁ何を話しましょう。それとも遊びますか?」

ハルカ先輩は少し疲れた顔をしていた。そして手をあまり動かさずに俺を見る、、まさか?!

「公平君、どうやら私の認識が間違っていたみたい、謝るわ。」

そうか、もうあまり時間がないようだ。夢見には間接的にでも人殺しにはしたくない、助けないといけない。

「先輩、安心してください。これから病院に行って治療をしましょう、絶対治りますよ。」

だがハルカ先輩は首を横に振る。

「駄目なのよ、足の感覚も殆んどなくて、、ゆっくり歩くのがやっと、山を降るのはとても無理よ。」

携帯は繋がらないし、この別荘から梺までかなりの距離がある。それに怪我をしている、俺と夢見で先輩を運び病院に行くまでどのぐらいの時間が掛かるのだろう。それよりもここで何か打開策を考える方が利口ではないだろうか?

「兎に角夢見の所へ案内してください。話はそれからです。」

浮かない顔をしてハルカ先輩が頷く、どうやら先輩も命を賭けてまで、このゲームをしたいとは思わなかったらしい。

俺とハルカ先輩は部屋を出た。最後の問題を解決するために。
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