不思議倶楽部

勝研

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不思議倶楽部_篠原夢見_A2

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話は数日前に戻る。

私は高校二年不思議倶楽部部長の篠原夢見。

最近は嫌なことが立て続けに起こった。内容は後で語ることになるのだけど。今当面の問題は〈この部屋の住人〉の事だ。

「夢見ちゃ~ん、ご飯出来たわよ☆」

「は~い。今行きます。」

ちぃ今回は手がかり無しか、仕方がないけど階段を降りて台所へ向かう。休日のこの時間は、いつもなら一緒にお昼を食べるのだが今日公平の姿はない。いるのは立花パパとママだ。

「あっママさん、今月のお金忘れないうちに渡しておきますね。」

「本当にゴメンね夢見ちゃん。いつも助かります。じゃあこれはお小遣い三千円ね。」

毎月の茶封筒と三千円をいつものように交換。茶封筒の中身は週2日~3日働いてるレストランのバイト代大体三万~四万円程。これは立花家に居候させてもらっている家賃のようなものだ。

でも私は知っている、この両親がこのお金に手をつけていないことを、多分私が立花家を出るときに渡すつもりなのだろう、まっったく良い人過ぎます。だからこそ私はこの立花家の人達を尊敬し、愛してやまないのだ。

「夢見ちゃん、公平何処に行ったか知らない?バイトにでも行ったのかしら。」

「公平は、、今日は、、映画に行きました。最近出来た彼女と一緒にー。帰ってくるのは夕方かもしれません。」

両親は驚いたみたいだった、まさに青天の霹靂である。


「あの子に?まさか。それが本当だとしたら説教ね、近くにこんなに可愛いお嫁さん候補がいるのに、、」

ママさん大激怒である。当然だ、まず私に告白するべきなのよ。それをどこの誰とも分からない馬の骨なんかに、、ご飯抜きにしてやろうかしら、、あーもう。

大きく息を吸って吐く深呼吸だ。怒りの対処法は心得ている。

、、いえ、、違うの例え話。私は告白を待っている訳ではない、本当 、本当に、本当よ、本当なの、本当なんです。

「でも心配です。その彼女確かに美人ですが、、なんか変な噂があるみたいですし。」

そう問題はそこなのだ。私は不思議倶楽部の部室で彼女の話をされた後、彼女の事を簡単に調べた。美人で少し控えめだが性格には問題がない。でも彼女に告白した十五人の中、最初の一人だけ中学時代に行方不明になっている人がいたのだ。

確かに学生は多くのストレスにさらされる、精神も不安定だ。資料を調べると日本の行方不明者数は警察の資料によれば年間八万人。十代の学生と思われる行方不明者は全体の2割で大体一万五千人である、毎年これだけの十代がいなくなっている。だから関係ないともいえなくはない。

さて行方不明に彼女が関係しているのかは憶説ではあるが、微妙であるほど怪しく思えてくるのが人である。
 
私は先手を打って彼女と公平が付き合っていると、噂を広めることにした。こうすれば迂闊には公平に手を出せないはずだし、うまくすれば先輩に好意を持った男性が公平との仲を良い感じに粉砕してくれるかもしれない。

だけど数日後には振られたという話に置き換わっていた。公平に聞いたらストーカーがどうとかで、公には振られたということにしたらしい。これでは公平が行方不明になったとき失恋の所為になりかねない。

ゴールデンウィークはもう間近、仕方がないと公平の後を尾行作戦にシフトした。別になにもないなら良い、だけど公平が行方不明になったら?この立花家のご両親が悲しむ。

別に公平自体には興味がないけど、本当に興味がないの、興味ないったら、興味ない興味ない。二人で旅行?!あいつめ!!ムカムカしてきた!!!

夕食後ー

公平がお風呂に入っているときに携帯電話は充電されている。携帯を調べるなんて最低の行為だけど、命の危険もあるんだと自己正当化した。ゴメンね公平。

LINEの内容から新幹線で長野に行くこと、集合時間と場所を知る。目的地は別荘かホテルか、、もし何かするつもりなら人が多いいホテルは避けるハズ。予想では別荘。

集合時間を逆算すれば乗る新幹線も分かる、後は準備だけだ。

新幹線に乗車するお金はない。つまり深夜バスか青春18切符、ヒッチハイクの三択。しかし予算の関係でやはりヒッチハイクにする。長野にいっても何かしらお金を使うことを考えると、お金は残した方が良いという判断だった。

ヒッチハイクは意外と簡単だった。長距離トラックを運営する会社の輸送ルートを調べて片っ端から聞いて、ゴールデンウィーク入る前夜のうちに長野に向けて出発したのだった。勿論立花家の人には親友の家に泊まると言ったし親友には事情を説明して口裏を合わせておいたので抜かりはないと思いたい。

ゴールデンウィーク当日松本駅に着いた新幹線の車両から公平達が降りてくるのを待つ、もしここで見失えば全てが無駄になる。目を凝らして新幹線から出てくる公平を見つけたときは喜びと苛立ちが入り交じった感情が渦巻いた。

「やっぱり位置情報切っている」

公平の事だから色々詮索されないようにこうした手を打ってくると思っていた。その為の尾行だ。はぐれないようにしないと、、

10メートルから20メートルの距離感を保ちつつ尾行する。

服装は動きやすいズボンに無地のシャツ。

同じ服装ではバレるので帽子や上着の代えも忘れない。尾行に大事なのは派手すぎず、地味目のお服で時々上着や、帽子・髪型を変える事、高めの靴を履くのも効果的かもしれない。

セミロングの私のなら三パターンは簡単に髪型を変えられる。ハルカ先輩とは面識がないから大丈夫だし、気持ちが半分何処かに行っている公平なら十中八九、この変装でも大丈夫だと思う。
 
始めに乗ったバスはかなり人が多く同じバスに乗ったり同じところで降りても分からなかったけど、次に乗ったのバスは非常に乗客が少なかった。

公平たちは乗ると同時に後部座席のペア席へ向かったので、私は運転手さんの側席に座る。顔が分からない様に外の景色を見るのを忘れない。

時々チラリと二人を見ると隣同士楽しそうに話していた。それはそう恋人同士みたいに、、嫌。なんだか凄く気分が悪くなる。吐きそうになる、ダメだここで吐いたらバレるし。色々大変だ。



最低な気分でもバスは進み、もはや山と畑しかない場所になる。ついでに乗客も六人ほど、これでは一緒に降りたらそく私だとバレてしまう。

ピンポーン。

「次止まりまーす。」

二人が立ち上がり私を通りすぎて、下車する。一緒には降りられない、狙うのは二人が降りてから直ぐに降りる事だ。

再び走り出したバス。二人の姿が完全に見えなくなった数分後、運転手に尋ねる。

「あの~忘れ物したんですが今すぐ降りられますか?」

「次の停留所までお待ちくださーい。」

「料金払いますから。」

「危険ですから、停留所までお願いしまーす。」

、、そういえば。バスは道路運送法で決められた場所での下車が国土交通省によって定められていたんだった、やったら業務違反だよね。、、失敗した、、。

「うううううぅぅぅ~。」

「、、、止まりまーす。」

プシュー。

えっ。何故かバス停ではない所で止まるバス。

「、、降りてくださーい。」

「あの、、、。ありがとうございます!!」

帽子を直し、左右を確認するポーズを決める運転手さん。駆け足で下車して、深々とお辞儀する。

「我々も嫌で止まらないわけではないのでーす。」

ビー、バシューン。ブロロロ。

、、私は本当に我が儘だ。でもそれでも私は、公平を守らないといけないから。

歩く、歩く、歩く。

田んぼだから分からなかったけど、大分バスは進んでいた。戻るのに大体30分程かかった。その頃になると段々と日が沈んでいるのが分かる、暗くなれば公平たちを追うのは多分不可能になってしまう。

問題は、、公平達が降りたバス停に戻ったのは良かったんだけど、完全に見失ってしまったことだろう。

「考えなきゃ、、」

道はほぼ一本道だった。つまり戻ってきた私と出会わなかったということはこの付近に別荘がある可能性が高い。

「聞き込みしかないか、、」

ハルカ先輩の名前は宮澤遥。宮澤の表札を探しつつ、家にいる人に聞き込みをすれば見つかるかもしれない。

「よし!!」

歩く歩く歩く。

一件一件が非常に離れているし、しかも途中道が分かれている場所があったため、本当にたどり着けるのか不安が胸の辺りを締め付ける。

歩く歩く歩く。

足が疲れてくる。歩き易いスニーカーを履いてきたのだけど、さすがに歩きすぎたのか、擦れて、血が滲んできた。いたたっ、、

それでも歩く、歩く、歩く。

バスでの二人の楽しそうな顔が脳裏にちらつくけど、それがどうした。私は負けない。公平が他の人が好きでも、それがなんだ。

そんなの関係ない。私がやると決めたんだから。

日が暮れる。

回りは暗くなり公平達も見つからないまま、私は歩き続けた。

完全に見失ってしまって私は頭を抱える、自分の計画性の無さを呪う。この世界に私のような馬鹿な女はいないと思う。あの女の足元にも及ばない、公平に愛想を尽かされるのも当然だ。

「私は、、本当に駄目な、、、人間だ、、」

心と体はボロボロ。なんの手懸かりもないまま時刻は20時を回る。それでも歩いて民家に何十回目かの質問をするため玄関に立つ。

カチカチ。

インターホンに反応がない?随分古いインターホンだから壊れているのかも知れない。ガラス張りの引き戸を軽めに叩くこうと、段差のある玄関に近づこうとした瞬間、疲れた足が段差に引っ掛かり勢いよく引き戸に体ごと突進する。

「ちょちょっあっ、きゃ。」

バシン。

ガタガタ。バターン、バリバリン。

「えっ?!」

引き戸の扉が盛大に倒れる。立て付けが甘くなっていたのか、よく分からない。かなりの勢いだったのでもしかしたらガラスが割れるかな?とは思ったけど予想を上回ってしまう。

倒れる音とガラスの割れるハーモニー、最悪だ。もしかしたら器物破損で警察に捕まるかも知れない、学校に話が伝われば停学もしくは退学もあり得る。違う!それよりも立花家の人が悲しむんだ。

今までで一番頭を回転させる。

言い訳を何個も考える。

言い訳?

「なんだぁ~こりゃ~酷い戸が、、」

奥から顔をだす、おばあさんとおじいさん。驚いているのだろう、慌てこちらに向かってくる。

「ごmめんnなっさい!!!」

土下座だ。

言い訳なんて駄目だ、心から謝る。それが失敗に対する、損失に対する私の精一杯の罰であり償いなのだ。それをはぐらかしてはいけない。

おじいさんは驚いた表情で俯いている私を見る。

「アンタ泣いとるのか?」

「mごめんnなさい!!」

涙は駄目だ、それでは同情される。それは謝罪ではない哀れみを誘っているだけだ。私は無言で首を振る。泣き声に出してはいけない。

「ごめんなさい!!」

「、、、」

沈黙、床しか見ていない私に状況は分からない。

近づいてくる気配がある。

「ごめんなさい!」

「ええよぉ、気にせんで。なっ。」

「んだんだ。」

おばあさんは私の血塗れの手を持ち上げる。血塗れ?どうやら必至過ぎて、硝子の破片で傷つけてしまったらしい。

「あれれ~じいさん、箱ハコ。あぁ可愛い顔が台無しだぁ~。」

手拭いで私の涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭く。

「ごめんない。ヒック、ごめんなさい。ウウッ、ごめんなさい。」


傷は浅くて、水で簡単に流れた。ただ、全体的に汚れていたので何故かお風呂に入れられ、何故か夕食の残りを勧められた。それでも私が何度も謝ると、もういいと何度も言われ経緯を話すように言われた。

そこで私は今までの事を洗いざらい話した。

一緒に住んでいる幼馴染みが、よくない噂がある先輩と二人だけで別荘に来ていること。二人の事が気になり、神奈川から長野に来たこと。途中で二人を見失ってしまったこと。

おじいさんとおばあさんの二人は私の話を初々しいものを見るめで、

「青春じゃ~。」

と聞いてくる。私も段々と愚痴が止まらなくなってくる。

今日の不幸、自分の無力さ、それらを思いだし泣きながら話すこともあった。でもそんな私を二人は許してくれたようだった。愚痴まで言ってスッキリした私は、疲れからかそのまま眠りについてしまったのだった。

最後まですいません。


朝布団に寝かされていることに気付いて、謝罪をする。

「気にせんでいいだ。んで夢見ちゃんの探してる人はーなんだったっけか?」

「えっと、宮澤さんです。」

朝御飯のお味噌汁を啜る手が止まり。少し考えるおじいさんとおばあさん。

「おじいさん、宮澤さんって佐々木さんの隣の山のー」

「おお、そうだそうだ。あの山は全部宮澤さんの土地だった。確か中腹に別荘があったの。」

山?山単位なの!?

「ここらは基本的に人が変わらん。昔からここらは我々の土地のままだ。宮澤さんの祖父の代は、確か寺の住職じゃったが最近寺が無くなって彼処には、誰も居なくなったから忘れとった。」

重要な情報を頂いた。これでまた二人を探すことが出来る。

「でも気をつけてなぁ。一人で山にいっといろいろなやつと出会うから。早めに戻ってこい。」

「確かに野生の熊とか猪とか危険ですね。有難うございます、気をつけます。」

頷いた二人、私達は朝食を食べた後。おじいさんの軽トラックに乗せられて近場にまで送ってもらうことになった。

ブロロロ~。

「何から何まで有難うございます。このお礼は必ず。」

住所も聞いたし、後でお礼・謝罪と引き戸の修繕費も合わせて今後連絡を取らないと。

「そのまま登って中腹に家があっから。気を付けなぁ~。」

ブロロロ~。

軽トラックの運転席から手を振りながらおじいさんは小さくなる。あっ危ないですよ、だけどおじいさんとおばあさんと会えたことに感謝しなければならなかった。

元気と希望を有難うございます。

再度、やる気が出てきた体を使い山を登る。足場が砂利から黒土になったからか所々に足跡を発見する。雨が降っていないので最近のものだろう。それにー。

「靴のサイズ26、5センチ、、公平の靴跡と少し小さめのサンダルの靴跡、、、多分二人ね。」

公平の靴は大量生産の靴だけど足跡の溝に特徴がある、見分けが付きやすい。比較的年齢層の低いデザインの為にこのサイズの出荷数は多くない筈。 ここが先輩の家であることを考えるとほぼ100%二人はここにいると推察する。

遂に追い付いた。喜びで体が軽くなる。

山は草が生い茂り、所々木が生え斑に土が顔を出している整理されていない狭い山道だった。昔はもっと道が広かったのだろう腰程の草の中に木で作られたしっかりした手摺がある。

「自然の力は偉大ね。」

歩き辛い。人が来なくなれば何もしなければ、山は人を遠ざけるのかも。

「人も山も変わらないか、、、」

私は公平になにもしていなかった、ご飯を作ったりプレゼントをあげたりテストの勉強を教えたりしただけだ。もっと大切にしてあげれば良かった。好きだといっていたプリンをもっと作ってあげるべきだった。

そうすれば先輩に告白なんてしなかった筈だ。

そんな考えが浮かんでは消える。

歩くうちに色々なことを考える、今回の事だ。怪しい点が多々ある。公平は何故遥先輩に告白したのか?接点が無い二人なのに。次にゴールデンウィークに別荘に来た理由も、あまりに突然すぎないか?出会って1ヶ月もしないカップルが二人でお泊まり旅行は流石に進展が早すぎる。

最後に直感だ。何故だか遥先輩の公平を扱う姿がまるで〈好き〉な人として扱うより、どちらかと言えば只の知り合い〈ヒト〉として扱ってい様な感覚がする。まるでそれはー

私は首を振ってそれを否定する。

まさか、そんな簡単に〈私のような〉人間がいるわけがない。

考えすぎかもしれない。実は二人とも上手くいっていて今頃乳繰り合っている可能性も、、いや最早昨日の晩もしかしたら、、ああっ、だとしたら私はただのお邪魔虫ではないか?今までの事全て取り越し苦労なら。

ザッ、ザッ、ザッ。

私は考えるのを止めた。別にそれでもいい、もしそうなら立花家を出るだけだ。祖母の家に行くのもいい、公平のエッチな本を全部燃やして家を出よう。

見晴らしの良い丘に出る。景色がきれいでとても感動した。いけない!こんなことをしている場合ではない。丘を進み階段を登ると別荘が見えた。

野犬や熊を侵入させない為か、背の丈ほどもある柵で囲まれていいる和モダンな別荘。柵は近場の木や足場で侵入は可能な高さ。

「何もないのに、不法侵入はいけないよね。」

確認のためグルリと別荘を一周。別荘は三つの建物で構成されている。本館の和モダンな建物、裏にある倉庫、少しは離れた所にある廃屋。二人がいるとしたら本館だろう。

双眼鏡を背負ってきたリュックから取り出すと木と影に潜み、草むらの中から本館の様子を探る。こうなったら長期戦も覚悟する。

日が登る。

片手に双眼鏡を持ち、もう片方で携帯食料を食べる。

「?!」

暫くして本館の扉が開き、先輩が一人だけで外へ出てくる。手にはペットボトルを持っている。ゴミ捨てにしては量が少ない。

「、、、」

廃屋に入る先輩。

時間にして7分程だろうか、廃屋から手ぶらの先輩が現れて本館に戻った。どういう事だろうか、廃屋にいった理由が分からない。ペットでも飼っているのか?いやゴールデンウィーク中しかいない別荘にペットがいるなんてあり得ない。

「、、いや、まだよく分からない。もう少し様子を見よう。」

15時を回り、先輩はもう一度ペットボトルを持って、また同じように廃屋に入る。別荘に来てから公平の姿を全く見ていない、もう確定ではないのか。

「監禁?う~ん、ここからじゃ分からないわ。」

確認するためには、廃屋の中を確認しないといけない。そしてそれは確実に不法侵入に当たる。先輩がペットボトルを廃屋に運んでいるということだけで行動に移しても良いのか。

時間を区切ろう。もしこのまま深夜までに公平の姿を確認できない場合、中を調べる。公平の姿が全く見えないことが私の不安を助長させる、警察が何よ!そんなの関係ない!!!

18時に夕食なのか食事を持った先輩が廃屋に入り30分後に本館に戻ったのを確認する。、、もう少し、、もう少し、、駄目もう。深夜の方が良かったけど19時に行動を開始する。



カコン、コン。

リュックを中に投げ入れ、背丈ほどの柵を飛び越える。動きやすいズボンにして正解だった。綺麗に着地するとそのままリュックを背負い廃屋へ向かう。

「普通に懐中電灯を使ったら不味いわね。」

私は紙を懐中電灯の頭に筒状に巻き付け輪ゴムで固定する。これで光が漏れるのは最低限になるはず。廃屋の扉を確認する。

「鍵はない、、」

少し錆びている木製の扉を開ける。

中は狭く椅子やらテーブルが乱雑に置いてある。人の気配はない。ここにはいない?懐中電灯を付ける。

「ペットボトルを持ってきたのに何もない、、ということは何処かに、、」

コンコンコン。

床を靴で叩く。床と扉では留め具の関係上、音が違うはずだ。

ココ、コン。

懐中電灯で音の違う床を調べる、はめ込み式の扉は簡単に持ち上がり地下への階段が姿を現す、本当にこんなものがあったなんて。

10段ほどの急勾配の階段を降りると床がコンクリートの廊下に出る。コツンコツンと非常に靴音が周りに響く廊下を慎重に進む。

途中左右に扉が見えるけど、廊下の先は見えない。ここは全ての部屋を調べるべきだ。先ず左から、少し開いている扉を開けると真っ暗の部屋のなかは広間だった。

「暗くてよく分からないけど、、公平はいないみたい。」

扉を元の常態に戻して、今度は反対側の扉を調べる。

「こっちには鍵が掛かってる。」

そこまで無用心ではないか、気になって扉に耳を付けて盗み聞きをすると、中から懐かしい声がうっすらと聞こえた

「ハルカ先輩~、俺何かしましたかぁ~謝りますから、だからこれ取って下さいよ~。俺分かってます、先輩は不安なんですよね。俺が野獣のように襲ってくるんじゃないかって、でも安心してください。俺は別にそういうことをしたいと思って、旅行に付いてきたわけではないですよ~。」

取る?つまり拘束されているってこと。それでも先輩を信じられるのは、世界中でも公平だけだ。一瞬安堵するが私の予想が大きく外れていないことに不安になる。

あの女、、先輩は何者なのか、何故公平を、、公平の容姿は普通だし成績は中の下、、運動神経だって人並みだし、両親は善人で普通の家庭。

引く手あまたの先輩が公平を拘束する理由なんてない。そもそも拘束自体が公平には興味がないことを示しているのでは?興味がないのに逃がさないようにする、利用できる部分があるのか?何かを誘き寄せる餌、、??

そういえば廊下は長かった。まるで本館と廃屋とを繋ぐ程に、おかしくないだろうか?だとしたらわざわざ外に出て廃屋に向かったのか。その行為を見た私に公平の居場所を手掛かりを与えてしまう事になったのに。

ーーー!!

閃きを私は否定する、そんなはずはない。あの女の目的はもっと他にあるのだ。兎に角公平を助けないとー

「え?」

後方から伸びてきた腕が私の首を絞める。

この廊下で足音が聞こえないなんてあり得ない。ー違う、反対側の部屋だ。あの部屋に隠れていて、こちらの部屋に意識が向いている間に背後に移動すれば簡単に背後に回れる。

あの女は私がいることを知っていたのだ、追えば逃げると思って数回姿を見せた。それに何処から侵入するのか分からないよりは廃屋から侵入すると分かっていた方が対応しやすい。暴れようとしてみるが、恐ろしい力と完璧な体勢で全く外れない。

完璧な絞め技というものは数秒で意識を奪う。

例にならって私の意識は暗闇にとけたのだった。
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