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第二部 - 一章 龍の故郷
一章二節 - 城主の懐刀
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「与羽と老主人を天駆に逃がすのは、華金から何かしら仕掛けられるのを危惧してだろう?」
与羽たちが部屋をあとにし、広げた資料を片付ける絡柳と乱舞、大斗の三人のみになったところで、大斗が小さくつぶやいた。
「そうだね」
部屋の外に聞こえないように配慮して、乱舞が小声でうなずく。
彼らはしばらく前に南にある敵対的な大国――華金から送り込まれた間者を退けた。その男は彼自身の希望もあって、長期間の尋問の末、今は中州城下町にとどめてある。今でもそれを知る一部の官吏が時折様子を確かめているが、華金に情報を送るなどの怪しい行動は見られない。
敵国はそろそろ暗殺の失敗を察するだろう。そして、中州に対して何らかの行動を起こすかもしれない。そうなった時のために、妹と祖父を華金から遠い北の同盟国に避難させる。これが乱舞と一部の大臣がひそかに話し合って決めた計画だ。
しかし、この話は与羽に絶対知られてはならない。心やさしい彼女は乱舞を案じて、国に残ると言い出してしまう。彼女には純粋に祖父孝行のために同盟国に湯治に行くと信じ込ませる必要がある。
「天駆も完全に安全と言うわけではないが、それぞれの国で想定されうる最悪の展開を比べた場合、天駆の方が平和だろうな」
絡柳もうなずいた。
「お前は中州に残って大丈夫なの?」
大斗はなおも問う。
「大丈夫だよ」
答えた乱舞の調子は軽い。
「確かに大斗や絡柳がいないのは心細いけど、残った官吏たちだって有能だよ。問題なく僕や中州を守ってくれる。むしろ、与羽やじいちゃんに十分な護衛をつけられないことが心苦しい。もし、華金の間者が天駆に向かったり、天駆で何かに巻き込まれたりしたら――」
「こっちは心配するな。俺たちは有能だ。お前が一番よく知っているだろう?」
絡柳が呆れたように片目を閉じ、顎を上げてみせた。
「その通りだよ」と大斗も不敵な笑みを浮かべている。
二人とも若さに見合わないずば抜けて高い能力と、それを証明する官位を持っている。乱舞が親友として頼れる特別な存在だ。彼らを二人とも与羽たちにつけるのだから、何が起こっても無事切り抜けるに違いない。
「そうだね」
乱舞はうなずいた。
「僕の大切な家族を、頼んだよ」
与羽たちが部屋をあとにし、広げた資料を片付ける絡柳と乱舞、大斗の三人のみになったところで、大斗が小さくつぶやいた。
「そうだね」
部屋の外に聞こえないように配慮して、乱舞が小声でうなずく。
彼らはしばらく前に南にある敵対的な大国――華金から送り込まれた間者を退けた。その男は彼自身の希望もあって、長期間の尋問の末、今は中州城下町にとどめてある。今でもそれを知る一部の官吏が時折様子を確かめているが、華金に情報を送るなどの怪しい行動は見られない。
敵国はそろそろ暗殺の失敗を察するだろう。そして、中州に対して何らかの行動を起こすかもしれない。そうなった時のために、妹と祖父を華金から遠い北の同盟国に避難させる。これが乱舞と一部の大臣がひそかに話し合って決めた計画だ。
しかし、この話は与羽に絶対知られてはならない。心やさしい彼女は乱舞を案じて、国に残ると言い出してしまう。彼女には純粋に祖父孝行のために同盟国に湯治に行くと信じ込ませる必要がある。
「天駆も完全に安全と言うわけではないが、それぞれの国で想定されうる最悪の展開を比べた場合、天駆の方が平和だろうな」
絡柳もうなずいた。
「お前は中州に残って大丈夫なの?」
大斗はなおも問う。
「大丈夫だよ」
答えた乱舞の調子は軽い。
「確かに大斗や絡柳がいないのは心細いけど、残った官吏たちだって有能だよ。問題なく僕や中州を守ってくれる。むしろ、与羽やじいちゃんに十分な護衛をつけられないことが心苦しい。もし、華金の間者が天駆に向かったり、天駆で何かに巻き込まれたりしたら――」
「こっちは心配するな。俺たちは有能だ。お前が一番よく知っているだろう?」
絡柳が呆れたように片目を閉じ、顎を上げてみせた。
「その通りだよ」と大斗も不敵な笑みを浮かべている。
二人とも若さに見合わないずば抜けて高い能力と、それを証明する官位を持っている。乱舞が親友として頼れる特別な存在だ。彼らを二人とも与羽たちにつけるのだから、何が起こっても無事切り抜けるに違いない。
「そうだね」
乱舞はうなずいた。
「僕の大切な家族を、頼んだよ」
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