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一章 大神殿の仲間

一章五節 - 異世界転生主人公[1]

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「やっほーやっほー」

 まず出迎えてくれたのはあやめだ。いくつかある椅子イスの一つに座って手を振っている。

「席を外してしまい、申し訳ありませんでした」

 俺がシャワーを浴びている間に、ローグも合流したらしい。黒一色から、ワイシャツに薄灰色のベストとズボン、同色のハットを被った姿に変わっている。脇のテーブルに立てかけられているステッキも含めて、完璧な夏のジェントルだ。

「いえ。あれ? ローグさん、ゴルメド=ソードから受けた傷は?」

 しわだらけの顔をくしゃくしゃにして笑うローグの顔からは、痛々しい稲妻型の傷が消えていた。

「この杖さえあれば、あれしきの傷、治すのはたやすいですぞ」

 ローグが脇のステッキを持ち上げてみせると、飾られた大きな宝石がキラリと輝いた。魔法の杖的な何かなのだろう。

「あと、ゴルメド=ソード『宰相さいしょう』ですじゃ」

「あ、すみません」

 俺は呼称を指摘されて素直に謝った。

「ワオン君、マジで言葉ペラペラじゃん」

 室内には、あやめとローグと、そして初めて見る男が一人。俺とローグの会話をにこりともせず聞く態度が気になったが、彼の正体を尋ねる前にあやめが話しかけてきた。

「言葉話せるなら先に言おうよ。必死で慣れない『ニホンゴ』使っちゃったもんね」

 どうやら、俺のいない間にローグから俺の能力の説明があったらしい。

「すみません。ありがとうございます」

 俺は再び頭を下げた。

「別にいいけど」

 口でそう言いつつも、あやめは椅子の背もたれに反り返ってほほを膨らませている。

「?」

 その姿勢に、俺は何かを忘れている気分になった。ああ、そう言えば――。

「あやめさん、背中の赤ちゃんは?」

 椅子の背に寄りかかったあやめは赤ん坊を負ぶっていないのだ。

「ミルクの時間だったから、預けてきたもんね」

 ……そんな当たり前のことのように答えられても。

「また孤児こじをお預かりしたのですか……?」

 ローグは俺よりもあやめの言動に適応できるようで、悲しそうに眉を下げている。

「孤児……」

 やはりあの子は彼女の子どもではなかったのか。しかし、孤児を預かるとは?

「うちは『グラード』で一番大きな神殿だから、たまに育てられない子どもを預けていく人がいるんだよね」

「えっと……」

 俺はここに来るまでの間にローグから聞いた情報を思い返した。確か、グラードはこの街の名前。そしてこの場所は、召喚の儀が行われた宮殿から少し離れた大神殿。うん。大丈夫だ。まだ話についていける。

「まぁ、積もる話はごはんを食べながらするかい?」

 あやめが両手で示したテーブルには確かに食事の準備がしてあった。大きな鍋に空っぽのスープ皿、パンの入った籠と飲み物。

「ソラ、スープ温めて」

「わかりました」

 あやめの指示で男が立ち上がる。先ほどまでの無言とは打って変わって、にこやかな様子で。
 穏やかな表情でスープをかき混ぜるソラは、非常に目立つ容姿をしていた。白い肌に銀髪に赤い目に高身長。年のころは三十代半ばだ。身に着けているのは白いローブと灰色のマントで、あやめのワンピースに施されているのと同じ刺繍ししゅうが黒色であしらわれていた。

「そうだ、ワオン君。この子はソラね。うちの衛士長えいしちょう魔道教育者プロフェッサー魔術熟練者スペルマスターの資格を持ってるから、いろいろ教えてもらうと良いよ」

「……どうも」

 ソラは鍋をかき混ぜながら軽く視線で礼をした。魔法によるものなのか、彼が混ぜる具だくさんのスープはすでに湯気を立てはじめている。

「あと、足元にいるのは、シラカネね」

「『足元』?」

 あやめに言われて、俺は初めてテーブルの下を覗き込んだ。

「…………」

 無言でこちらを見つめ返す山吹やまぶき色の瞳がある。その顔は薄黄色の鱗におおわれ、額には目と同色の一本角。そして頭から背へと流れる銀色のたてがみ。

「でかっ!」

 思わずそんな声が漏れるほど大きな生き物がテーブルの下に座っていた。ユニコーン? いや、麒麟きりんか? どちらにしても、元いた世界では伝説の生き物として語られているような存在だ。

「よ、よろしくお願いします」

 柴犬がしゃべるのだから、こいつも人語を解するかもしれない。俺はシラカネにもあいさつした。軽く会釈を返してくれたので、俺の言葉はきっと伝わったのだろう。

「んじゃ、いただきますしよっか」

 簡単な自己紹介を終え、四人と一匹は食卓を囲んだ。メニューは野菜たっぷりスープとパンとチーズ。肉は、ない……。

「ワオン君、飲み物はワイン? ミルク? お水?」

「あ、お水で」

「遠慮しなくていいんだよ?」

 あやめは俺の目の前にあるカップに水を入れてくれた。ローグとソラは互いにワインを注ぎ合っている。あやめの前にあるのは牛乳に見えるが、やぎのミルクらしい。

「じゃっ、新しい召喚者くんに、カンパーイ!」

「か、かんぱーい」

 あやめの勢いには押されっぱなしだが、歓迎してくれる雰囲気はありがたい。俺は素直に目の前のさかずきを掲げた。
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