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一章 大神殿の仲間

一章二節 - ゲーミング柴犬[2]

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「そう言えば、お前どうやって入ってきたんだよ?」

 柴犬的何かの腹や背をゆっくり撫でて落ち着かせてから、俺はこいつとの会話を続けることにした。

「どうやって、って。ドアからだが? まさかオメー、ドアの開け方すら知らないのかぁ?」

 犬の黒い鼻先がわずかに開いたドアを指した。

「犬の手じゃ開けられないだろ」

 俺がツッコミを入れる目の前で、柴犬は立ち上がった。爪と床板が触れるチャリチャリという音をさせながら、ドアの前まで行くと自分の頭でドアを閉じ――。

「『開け』」

 ワン! とひと吠えした瞬間、閉じたドアが再び開いた。

「ドアはこうやって開けるんだぜ」

 柴犬は得意げにしっぽを振った。

「魔法か……」

 この世界は本当に魔法であふれている。

「ドアの開け方を教えてやったんだから、ご褒美ホービに撫でろ。でも、腹と尻尾と耳はだめだぞ」

「はいはい」

 俺は膝にあごを乗せてくつろぐ柴犬の頭に手をのせた。膝と手のひらに犬の体温を感じる。これは俺にとってもご褒美だ。

 よし、いっぱい撫でてやろう。そう思った瞬間、犬の耳がピンと立った。

「来やがった」

 頭を持ち上げ、何かを警戒する仕草。そう言えば、実家の犬もインターホンが鳴るたびにこうやっていた。俺は柴犬と一緒になって、半開きのドアを見た。

「今日はここかぁ!!」

 大声とともに蹴破らんばかりの勢いでドアが開く。というか、こいつ本当にドアを蹴って開けたよな。一瞬だったがそう見えたぞ。

「『俺様オレサマはここにいません』って言えよ」

 柴犬はいつの間にか俺の背後に隠れたようだ。

「柴犬ならいませんよ」

 冷たい鼻に腕をつつかれて、俺は部屋に入ってきた少女に言った。

 そう、行儀悪くドアを蹴り開けたのは、見た目年齢十代後半の女の子だった。白い袖なしワンピースに着物の帯のようなにしきの布を巻いている。というか、帯そのものだな、これは。青いボブ頭の左右には巨大な宝石製の花飾り、手にはでかい虫取り網。背負っているのは、……赤ん坊!? この子、装備品がすべてミスマッチじゃないか? 見た目度外視で、とにかく強い装備を組み合わせた無課金ゲーマーかよ!

「『シバイヌ』ってなに? いいから、そこに隠れとる害獣をこっちに渡せだもんね!」

 無課金ゲーマーの網がまっすぐ俺の背後を指した。

「バレバレじゃねーか」

 俺はため息交じりにひとりごちた。

「しゃーなし」

 俺の背後で柴犬が立ち上がるのがわかった。ぴょんと飛び出し、すちゃっと爪音を立てて床に着地した時の毛色は、床板と同じ白茶色!?

「出やがったなぁ!!」

 少女が網を振る。しかし、柴犬はそれをサイドステップでよけ、少女との間合いを詰めた。

「おい!」

 俺が引き留めの声を発したのは、柴犬が少女の背で眠る赤ん坊に跳びかかるしぐさを見せたからだ。さすがにそれはレギュレーション違反だよな。

「食ってやろうかぁ?」

 ガウガウと柴犬が歯をむき出す。

「やめろ!」「ダメー!!」

 俺と少女の叫びが重なった。

「ジョーダンだっ」

 犬は華麗なバックステップで少女の回し蹴りをよけると、あおるように虹色に光り輝いた。こいつの毛色が変わるのはなんとなく理解していたが、そんなに自由度高いのかよ!

「無課金プレイヤーバーサスゲーミング柴犬……」

 突然始まった異種格闘技戦に俺はフリーズした。しかし、シバ側に戦う気はなかったらしい。

「邪魔が入ったから退散するぜ!」

 柴犬を止めようと腰を浮けた状態で止まっていた俺に、茶色い目を向けるゲーミング柴犬。どうやら目の色や白毛の部分は色を変えられないらしい。体の上半分だけが虹色に光っている。

「まーたなー! 貧乏人ビンボーニン!」

 別れのあいさつとともに、目に悪い虹色が消えた。体毛の色を変えて、床板に溶け込んだのだ。

「あ、待てえぇぇぇ!!」

 少女が慌てて網を振るものの、その中には何もいない。この柴犬、ふざけているように見えて擬態能力と回避能力がかなり高いぞ。

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」

「って、あわわわわ……」

 少女は部屋から飛び出した柴犬を追いかけようとして、背中の赤ん坊が泣いていることに気づいたらしい。正直、俺もシバのゲーミング仕様に驚いて今まで気づかなかった。

「おお、よしよし。ごめんねぇ。怖かったねぇ」

 ゲーミング柴犬の戦略勝ち。あいつはこれを狙って、赤ん坊に跳びかかる様子を見せたのだろう。少女は完全に赤ん坊の世話で足止めされてしまっている。
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