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17章 再開の約束
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対処不可能な攻撃を出される前に、相手を切り伏せる……まさしく、やられる前にやれ理論だ。
「……わかった。その作戦で行こう」
クラークの声は、緊張で少し上擦っている。当然だ、この作戦の可否は、全てクラークに掛かっているようなもんだ。
「僕が速攻で奴を倒す。どのみち、長期戦はこっちが不利だろう」
クラークの返事を聞いて、ペトラは小さく首肯した。
「私も同意見だ。さて、そうなるとことは、いかに火力を一点に集中させられるかに掛かってくる。奴が警戒し、守りに入ったらお終いだ。どういう意味か、分かるか?」
「つまり……総力戦になるということだね。僕ら全ての力を、短い間に出し切らなきゃいけない……当然、あなたも」
「その通りだ。さあ、最初の質問に戻ろうか。どうする?私と肩を並べて戦うことができるか?」
さあ、クラークは何と答えるか。けどもう、その答えは分かる気がした。
「ああ……ひとまずは、休戦だ。セカンド討伐に尽力してくれる限り、僕もあなたを疑わない」
よしっ。この言葉を引き出しただけで十分だ。アドリアの方も、異存はなさそうだ。ペトラはふっとほほ笑むと、いきなり床に腰を下ろして、そのまま地べたに寝っ転がった。
「では、作戦会議はここまでだ。そうと決まれば、休むとしよう」
「え、ええ?」
作戦も決まって、いざ出撃!ってタイミングだろ普通。クラークもがっくり来ている。
「そ、そんなことしている暇があるのかい?こうしている間にも、セカンドが連合軍を攻撃しているかもしれないじゃないか」
「そうかもしれん。だが、今のお前たちの状態で、十分に力を発揮できるのか?」
む、それは……俺はいまだに足下がふらついているし、クラークだって顔に血の気がない。さっき大声を出したばかりのミカエルは、ダラダラと脂汗をかいていた。
「ああ、こりゃ無理だな。クラーク、一休みしよう」
「君もかい桜下。けれど……」
「クラーク、仮にお前はよくても、みんなは限界だぞ」
クラークは仲間たちへと振り返る。ミカエルの目がうつろなことに気が付くと、そっとその肩を叩いた。
「ミカエル……大丈夫かい?」
「は、い。私は、平気ですから……」
その言葉を信じるほど、クラークも単純ではなかったようだ。見かねたアドリアが、ミカエルの背中を支える。
「やれやれ。もともと本調子でなかったくせに、誰かさんに喝を入れたりするからだ」
「うっ。ごめんミカエル、僕のせいで……」
「そんな……謝られることじゃ」
「だがクラーク、悪いが私も本調子とは言えない。そしてそれは、お前も同じなはずだ」
図星だったのか、クラークが口をつぐんだ。
「私たちはさいあく、居なくても変わらんかもしれん。だが、お前はダメだ。お前が万全でなければ、わずかな勝機すら潰えてしまう。分かるな」
「……そうだね。君の言う通りだ」
話はまとまったようだ。正直俺も焦ってはいるが、急がば回れとも言う。ここで勇み足になっちゃダメだよな。
「桜下さん。桜下さんも、休んでください」
ウィルが俺の肩に手を置く。俺はうなずき返そうとしたが、それでも諦め悪く、フランを見た。
「フラン……」
「いいから。わたしより、あなたのほうが大事だよ」
「くそ……すまん。どうにかして、治してやりたいが……」
「大丈夫。左手だけでも戦えるよ」
フランはそう言って、残った片手をぎゅっと握って見せた。ちくしょう……フランの腕を奪われたこともそうだが、それをどうにもできない己のふがいなさにも腹が立つ。
「くっ……」
「そんな顔しないで。ほら、自分で言ったんでしょ。今はしっかり休む時だって」
フランに肩を押されて、俺は半ば強引に腰を下ろした。
「ほら、ロウラン。まだ荷物持ってるでしょ。何か食べる物ある?」
「あるよー!う~んと……はい!」
荷袋をごそごそあさってロウランが取り出したのは、ぺっちゃんこに潰れたパンだった。
「ぷっ……くくく。ロウラン、尻に敷いたのか?」
「なっ、あ、違うの!あの重力でこうなったんだよ!もう!」
くくく……ロウランには悪いが、今ので肩の力が抜けたな。食うもん食って、今はしっかり体力を回復しよう。確か、さっきまでが夕暮れ時だったから、一日中戦い詰めだったわけだしな。俺はむくれるロウランに頼んで、潰れたパンをもういくつか出してもらった。
「ほれ。お前たちも食っとけよ」
そう言って放ると、クラークは驚きながらもパンをキャッチした。
「いいのかい?」
「ああ。そのかわり、見てくれはよくないがな」
「十分だよ、ありがとう。君たちは食料も持ち歩いていたんだね」
「まあな。前にこれで苦労したし」
「はぁ……?」
俺たちはもそもそと、簡単な食事を終えた。食べ終わったあたりで、ミカエルが青い顔をしながらも、俺とクラークを呼びつけた。
「ミカエル?どうしたんだい。というか、君も休まなくちゃだめじゃないか」
「いえ、クラーク様……私よりも、今はお二人の方が大事です。どっちみち、戦いが始まれば、私は役立たずですから」
「ミカエル、そういう言い方は……」
「はい、わかってます。コルルさんにも同じことを言われました」
「コルルが?そうか、けど確かに言いそうだ」
「ふふ。だから、戦いで役に立てない分、今こういう時にこそ、私の出番なんです」
出番?ミカエルは胸の前で手を握り合わせ、祈るようなポーズを取った。
「私の仕えるロコロコ神は、癒しの神です。今からそのお力を借りて、結界を張ります」
「そ、そんなことができたのかい?今まで一度も……」
「ええ。だってクラーク様、苦戦したこと一度もなかったじゃないですか」
うわ、マジかよこいつ。いちいち癪に障るやつめ……
「その結界の中でなら、数十分の睡眠でも、数時間眠ったのと同じくらいの効果を得られます。これなら、連合軍の皆様を早く助けに行けるでしょう?」
「けど、それだとミカエルが休まらないんじゃ……」
「いいえ。私は祈祷するだけです、そこまで大変じゃありません。むしろ、落ち着けてちょうどいいくらいですよ」
微笑むミカエルに、ウィルが何か言いたそうな顔をしている。同じシスターであるウィルには、祈祷の労力がどれくらいか分かっているんだろうな。そしてたぶん、ミカエルがやせ我慢していることも……
「……わかった。ミカエル、頼むよ」
クラークはそれを知ってか知らずかは分からないが、ミカエルにきっちりと頭を下げた。ミカエルには申し訳ないが、それでも短時間で回復できるのは魅力的だ。今は一分一秒も惜しい。
「では、いきます……」
ミカエルが目を閉じ、静かに呪文を唱えだす。やがて、彼女の体から淡い光が放たれ始めた。
「ベイビーズブレス」
ミカエルが唱えると、白くふわふわとした光の粒子が、辺り一面に広がった。触れてみると、まるで綿胞子のようにやわらかな感触だ。
「この光の中でなら、体もしっかり休まると思います。とっても寝心地いいんですよ」
確かに……こんなにふわふわなら、きっと羽毛布団より気持ちいいだろう。クラークはごくりと喉を鳴らした。きっと思いっきりダイブしたいのを堪えているんだろう。俺も同じ気持ちだから、よく分かる。
「じゃ、遠慮なく……」
俺たちは光の中に横になった。うっわ、想像の倍きもちいい。これは、とろけるな……
「ありがとな、ミカエル。確かにこれなら疲れが取れそうだ」
「よかったです。あ、もしよければ、あなたもどうですか?」
うん?ミカエルが声を掛けたのは、うつろな顔をしたデュアンだった。彼もさっきから、心ここにあらずといった様子だ。
「デュアン、お前も休んどけよ」
「でも、僕は……」
「だって、かなりしんどそうだぞ?見てる方が辛いよ。ほら、俺たちのためだと思ってさ」
「……そこまで言うのなら」
気は進まなさそうだったが、デュアンも俺たちの隣に、のそりと横になった。
「それでは。ゆっくり休んでください」
つづく
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続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「……わかった。その作戦で行こう」
クラークの声は、緊張で少し上擦っている。当然だ、この作戦の可否は、全てクラークに掛かっているようなもんだ。
「僕が速攻で奴を倒す。どのみち、長期戦はこっちが不利だろう」
クラークの返事を聞いて、ペトラは小さく首肯した。
「私も同意見だ。さて、そうなるとことは、いかに火力を一点に集中させられるかに掛かってくる。奴が警戒し、守りに入ったらお終いだ。どういう意味か、分かるか?」
「つまり……総力戦になるということだね。僕ら全ての力を、短い間に出し切らなきゃいけない……当然、あなたも」
「その通りだ。さあ、最初の質問に戻ろうか。どうする?私と肩を並べて戦うことができるか?」
さあ、クラークは何と答えるか。けどもう、その答えは分かる気がした。
「ああ……ひとまずは、休戦だ。セカンド討伐に尽力してくれる限り、僕もあなたを疑わない」
よしっ。この言葉を引き出しただけで十分だ。アドリアの方も、異存はなさそうだ。ペトラはふっとほほ笑むと、いきなり床に腰を下ろして、そのまま地べたに寝っ転がった。
「では、作戦会議はここまでだ。そうと決まれば、休むとしよう」
「え、ええ?」
作戦も決まって、いざ出撃!ってタイミングだろ普通。クラークもがっくり来ている。
「そ、そんなことしている暇があるのかい?こうしている間にも、セカンドが連合軍を攻撃しているかもしれないじゃないか」
「そうかもしれん。だが、今のお前たちの状態で、十分に力を発揮できるのか?」
む、それは……俺はいまだに足下がふらついているし、クラークだって顔に血の気がない。さっき大声を出したばかりのミカエルは、ダラダラと脂汗をかいていた。
「ああ、こりゃ無理だな。クラーク、一休みしよう」
「君もかい桜下。けれど……」
「クラーク、仮にお前はよくても、みんなは限界だぞ」
クラークは仲間たちへと振り返る。ミカエルの目がうつろなことに気が付くと、そっとその肩を叩いた。
「ミカエル……大丈夫かい?」
「は、い。私は、平気ですから……」
その言葉を信じるほど、クラークも単純ではなかったようだ。見かねたアドリアが、ミカエルの背中を支える。
「やれやれ。もともと本調子でなかったくせに、誰かさんに喝を入れたりするからだ」
「うっ。ごめんミカエル、僕のせいで……」
「そんな……謝られることじゃ」
「だがクラーク、悪いが私も本調子とは言えない。そしてそれは、お前も同じなはずだ」
図星だったのか、クラークが口をつぐんだ。
「私たちはさいあく、居なくても変わらんかもしれん。だが、お前はダメだ。お前が万全でなければ、わずかな勝機すら潰えてしまう。分かるな」
「……そうだね。君の言う通りだ」
話はまとまったようだ。正直俺も焦ってはいるが、急がば回れとも言う。ここで勇み足になっちゃダメだよな。
「桜下さん。桜下さんも、休んでください」
ウィルが俺の肩に手を置く。俺はうなずき返そうとしたが、それでも諦め悪く、フランを見た。
「フラン……」
「いいから。わたしより、あなたのほうが大事だよ」
「くそ……すまん。どうにかして、治してやりたいが……」
「大丈夫。左手だけでも戦えるよ」
フランはそう言って、残った片手をぎゅっと握って見せた。ちくしょう……フランの腕を奪われたこともそうだが、それをどうにもできない己のふがいなさにも腹が立つ。
「くっ……」
「そんな顔しないで。ほら、自分で言ったんでしょ。今はしっかり休む時だって」
フランに肩を押されて、俺は半ば強引に腰を下ろした。
「ほら、ロウラン。まだ荷物持ってるでしょ。何か食べる物ある?」
「あるよー!う~んと……はい!」
荷袋をごそごそあさってロウランが取り出したのは、ぺっちゃんこに潰れたパンだった。
「ぷっ……くくく。ロウラン、尻に敷いたのか?」
「なっ、あ、違うの!あの重力でこうなったんだよ!もう!」
くくく……ロウランには悪いが、今ので肩の力が抜けたな。食うもん食って、今はしっかり体力を回復しよう。確か、さっきまでが夕暮れ時だったから、一日中戦い詰めだったわけだしな。俺はむくれるロウランに頼んで、潰れたパンをもういくつか出してもらった。
「ほれ。お前たちも食っとけよ」
そう言って放ると、クラークは驚きながらもパンをキャッチした。
「いいのかい?」
「ああ。そのかわり、見てくれはよくないがな」
「十分だよ、ありがとう。君たちは食料も持ち歩いていたんだね」
「まあな。前にこれで苦労したし」
「はぁ……?」
俺たちはもそもそと、簡単な食事を終えた。食べ終わったあたりで、ミカエルが青い顔をしながらも、俺とクラークを呼びつけた。
「ミカエル?どうしたんだい。というか、君も休まなくちゃだめじゃないか」
「いえ、クラーク様……私よりも、今はお二人の方が大事です。どっちみち、戦いが始まれば、私は役立たずですから」
「ミカエル、そういう言い方は……」
「はい、わかってます。コルルさんにも同じことを言われました」
「コルルが?そうか、けど確かに言いそうだ」
「ふふ。だから、戦いで役に立てない分、今こういう時にこそ、私の出番なんです」
出番?ミカエルは胸の前で手を握り合わせ、祈るようなポーズを取った。
「私の仕えるロコロコ神は、癒しの神です。今からそのお力を借りて、結界を張ります」
「そ、そんなことができたのかい?今まで一度も……」
「ええ。だってクラーク様、苦戦したこと一度もなかったじゃないですか」
うわ、マジかよこいつ。いちいち癪に障るやつめ……
「その結界の中でなら、数十分の睡眠でも、数時間眠ったのと同じくらいの効果を得られます。これなら、連合軍の皆様を早く助けに行けるでしょう?」
「けど、それだとミカエルが休まらないんじゃ……」
「いいえ。私は祈祷するだけです、そこまで大変じゃありません。むしろ、落ち着けてちょうどいいくらいですよ」
微笑むミカエルに、ウィルが何か言いたそうな顔をしている。同じシスターであるウィルには、祈祷の労力がどれくらいか分かっているんだろうな。そしてたぶん、ミカエルがやせ我慢していることも……
「……わかった。ミカエル、頼むよ」
クラークはそれを知ってか知らずかは分からないが、ミカエルにきっちりと頭を下げた。ミカエルには申し訳ないが、それでも短時間で回復できるのは魅力的だ。今は一分一秒も惜しい。
「では、いきます……」
ミカエルが目を閉じ、静かに呪文を唱えだす。やがて、彼女の体から淡い光が放たれ始めた。
「ベイビーズブレス」
ミカエルが唱えると、白くふわふわとした光の粒子が、辺り一面に広がった。触れてみると、まるで綿胞子のようにやわらかな感触だ。
「この光の中でなら、体もしっかり休まると思います。とっても寝心地いいんですよ」
確かに……こんなにふわふわなら、きっと羽毛布団より気持ちいいだろう。クラークはごくりと喉を鳴らした。きっと思いっきりダイブしたいのを堪えているんだろう。俺も同じ気持ちだから、よく分かる。
「じゃ、遠慮なく……」
俺たちは光の中に横になった。うっわ、想像の倍きもちいい。これは、とろけるな……
「ありがとな、ミカエル。確かにこれなら疲れが取れそうだ」
「よかったです。あ、もしよければ、あなたもどうですか?」
うん?ミカエルが声を掛けたのは、うつろな顔をしたデュアンだった。彼もさっきから、心ここにあらずといった様子だ。
「デュアン、お前も休んどけよ」
「でも、僕は……」
「だって、かなりしんどそうだぞ?見てる方が辛いよ。ほら、俺たちのためだと思ってさ」
「……そこまで言うのなら」
気は進まなさそうだったが、デュアンも俺たちの隣に、のそりと横になった。
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