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17章 再開の約束

21-6

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魔王。今はこの呼び方も、正しいもんか怪しいところだ。サードの話では、魔王の正体はセカンド。正体が人間であるという点は、もうほぼ間違いないだろう。魔王軍との戦争の最後が、人間同士の戦いとは、なんとも皮肉な話だ。

「魔王……もし本当にセカンドだったら、いったいどんな能力を持っているんでしょうか。仮にも勇者なら、きっと強いはずですよね?」

「そうだな……この際だ、できることは何でもしておくか」

「桜下さん、何を?」

「少し、話を聞いてみようぜ」

そうなると、やっぱり行くのは、隊長殿のところか。俺たちはエドガーを探しに行った。



エドガーたちは、将校らと集まって、最後の作戦会議をするところだったようだ。なにせ、次は魔王との戦闘だものな。兵士たちも最後の休憩を取って、英気を養っている。会議までまだ少し時間があるそうなので、俺たちはその間に話を聞くことができた。

「エドガー。とりあえず、喜んでいいんだよな?あと一枚だって」

「うむ。喜ぶにはまだ早いが、あと一枚というのは正しいだろう。いよいよだ」

「で、どう見てるんだ?魔王は、セカンドなのか、それ以外なのか」

「ぬぅーん……難しいところだが」

エドガーは腕をがしっと組む。

「私たちとしても、全面的にあの男……サードの言うことを信じているわけではない。だが、標識を無視して崖に落ちるのも愚かだろうが。敵はセカンドと想定して、作戦を組むつもりだ」

「……あいつのこと、信用できるのか?」

俺が声のトーンを落として訊ねると、エドガーは太い眉毛をぴくりと動かした。だが、すぐに首を横に振る。

「言っただろう、全てを信用しているわけではない。だが現状。疑わしい点より、信じられる点の方が多いのだ。実はヘイズが、あやつを尋問したのだよ」

「え、そいつは知らなかったな……で?結果は」

「うむ。主にサードにまつわる質問をしたが、全て完璧な答えが返ってきたそうだぞ」

「さすがに、だよな……ちなみに、どんなことを訊いたんだ?」

「なんだったか、歴史というか、時系列の質問が中心だったな。サード個人にまつわることもいくつかあった。あいつがどんな性格だったかとか、どんな能力を持っていたかとか」

性格、ねえ。俺が俺自身の性格を答えろって言われても、困ってしまいそうだが。

「で、それにも完全正答?」

「うむ。サードは強い勇者ではなかったが、その点も包み隠さず打ち明けていたぞ」

ははぁ。いさぎよいというか、なんというか。俺もあいつらくらいの歳になれば、自分が弱いことも真正面から受け止められるのかな?今は……まだ無理だな。

「だが、万が一があるかもしれん。情報を訊き出した後は、あやつには退場してもらう手はずだ」

「え?……おい、まさか……」

「ふん。安心せい、言葉通りの意味だ。戦場から離れて、後方に引っ込んでもらうだけよ。戦いが終わるまで、そこで大人しくしてもらう」

ほっ。確かに、その方が安心だ。念には念をだろう。

「そうか。じゃあ、もし魔王セカンドだったとして、そうじゃなかったにしても、どうするつもりなんだ?具体的な作戦は?」

「それをこれから決めるところだ。が、少々難航しそうだな……なにせ奴は、千の技を持つとまで言われた男だ」

「千の、技?」

「ああ。チッ!思い出すだけでも薄気味悪いわ」

エドガーは悪態をつきながらも、昔のことを話してくれた。

「あやつは、とにかく様々な技能を持っていた。戦闘においても、魔術においても、それ以外にも色々な。だから対策を立てようにも、数が多すぎるのだ」

「うへ……そんなに器用な奴だったのか?」

「結果だけを見ればそうなるが、私の個人的な意見としては、違ったな。奴は魔力こそ強かったが、その割には不自然なほど弱かった」

「え?弱い?ちょっと待てよ、だってあいつは」

「歴代最強最悪の勇者。分かっているさ。だが、最初は違ったんだ。大樹もはじめは、小さな種だろう」

エドガーはふぅとため息をつく。しかし、本当か?俺の聞いてきたセカンド像と、ずいぶん印象が違うが……あ、でもキサカも言っていたっけ?最初のころは、セカンドも普通の少年に見えたって。その後に最悪の勇者と呼ばれることになるとは、夢にも思わなかったって……

「とにかく、あやつはそんな男だった。何をするにしてもびくびくと怯えていてな。そのせいか、魔法もうまく使えんかった。本来なら突風を起こすはずが、そよ風ほどの威力しか出んかったりな」

その場面を想像したのか、ライラがくすくす笑った。エドガーもにやりと笑う。確かにそこだけ聞くと普通の、いや、むしろ少し気弱な男の子だ。

「王都で集めた仲間も、屈強な連中ばかりだったよ。よほど旅に自信がなかったんだろう。女王陛下も心配しておられた。これは長続きせんのではと、誰もが思っていたが……」

屈強な仲間、か。アンブレラの宿の店主、ジルも、かつてはセカンドのパーティーに所属していた。彼がスカウトされたのも、こん時か?

「だが、奇妙なことが起こり始めた。奴は城に戻ってくるたびに、様々な力を身に付けていったのだ」

「へ?それはつまり、厳しい旅の果て、新たな技を習得し……ってやつ?」

「まあ、私たちも最初はそう思っていたのだが……」

するとエドガーは、手で何かを弾くような仕草をした。

「ある時、城に帰ってきた奴は、陛下の前で吟遊詩人バード顔負けの音色でハープを奏でて見せた」

「楽器をってことだよな?でも、別にあり得る話じゃ……?」

「うむ。腕前は見事だったが、それ自体は普通だった。誰もが思っただろう、この勇者はどこをほっつき歩いて、楽器なぞを習得したのだろうと。陛下も落胆を隠せない様子だったな。半ば冗談交じりに、ハープには歌が付きものだろう、どうせなら歌も練習したらどうだとおっしゃった」

「皮肉だなぁ……それで?」

「そして次に帰って来た時、奴はオペラ歌手顔負けの美声で歌をうたったのだ」

ううん……?女王の皮肉を真に受けたのか?エドガーは続ける。

「実に見事な歌声だった。私が知る限り、セカンドは一度も歌を披露したことなど無かったのだが。そして、その習得にかかった日数は、たった三日だった」

「え?み、三日?」

「そうだ。どこかにふらりと消えたかと思ったら、戻って来た時にはそうなっていた。そしてそれ以降、同じようなことが度々起こるようになった。主に、セカンドに対して欠点や弱所の指摘をした直後にな」

「なんだ、そりゃ……」

さすがに異常だ。文句を言われるたびに、ふらりとどこかに消え、帰ってきたらそれを克服している……陰で努力をした結果だとは、とても思えない。

「なんで、そんなことができたの」

フランが固い声で訊ねると、エドガーは目をつぶって首を横に振った。

「わからん。何度問いただしても、はぐらかすばかりでな」

「それで、追及しなかったの?」

「あの時点では、誰も奴の本性には気付かなんだ。奇妙ではあったが、能力を得ることは望ましいとさえ考えていた者がほとんどだった。頼りなかった勇者が、目に見えて力を付け始めたのだからな」

弱くなるわけでもないのだし、口うるさく言う必要はなかったのか。その当時は、だが。

「今になってみれば、悔やまれる。あの時無理にでも吐かせておけばと考えもするが……詮無きことだ。とにかく、私達の持ちうる限りの知識を動員して、奴への対策を練るつもりだ。当然、おぬしらにも期待していいのだろうな?」

エドガーの試すような視線を、フランはふんと鼻を鳴らして受け流した。俺もうなずく。

「もうここまで来たら、第三勢力とかは言いっこなしだ。あんたらの作戦に従うよ」

「ほう?ずいぶんと殊勝じゃないか」

「じゃなくて、さすがに俺たちだけじゃ手に負えないだろ。おたくらの手も借りないとな」

次の戦いは、今までの敵とはわけが違う……俺たちが一丸とならないと、太刀打ちできない。そんな予感がするんだ。エドガーも同じ考えなのか、神妙な顔でうなずいた。

「そうだな。国も、身分も、能力も関係ない。皆が力を尽くすのだ。今度こそ、人類が勝利するためにな。頼んだぞ、桜下」

そう言って、右手を差し出してくる。俺は鼻の頭をこすったあと、その手を握った。

「おう。負けるよりは、勝つ方が気分いいからな」

俺の捻くれた答えに、エドガーはがくっと肩を落とし、ウィルは口元を押さえて笑った。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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