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17章 再開の約束
9-2
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俺たちは兵士と一緒になって、城内の探索を開始した。
結論から言うと、探索は何の成果も得られなかった。どうやら城の一階部分には、本当に魔物一体すらいないらしい。
「すると、残るは上か」
城の上層へ向かう道?は、玄関口の奥に存在した。壁に丸い穴が空いていて、そこから管のような通路が伸びているのだ。城の廊下にしちゃ妙だが、俺はその管が、ヘルズニルに巻き付くように立っている塔の一つだと気づいた。あの中は空洞になっていて、中を通れるようになっていたんだ。
ねじ曲がった管の中を進んでいくと、やがて奇妙な部屋に出た。
「ここは……」
広い部屋だ。全体が、暗い赤色に染まっている。どうやら、天井から赤い光が放たれているようだ。その天井は、ドームのように半円形になっていて、そこにはさらに、無数の穴がぽこぽこ開いている。天窓……ではないな。穴はどこかに繋がっているようだが、その先は暗くて見えない。天井に通路?魔王軍は全員、空が飛べるんだろうか。
「ここ……なんだか、気味が悪いです」
ウィルは、ロッドを胸にギュッと抱いている。赤い光のせいで、ウィルは全身血まみれみたいに見える。俺は背筋が寒くなるのを感じた。
「ウィル、気味悪いって……?」
「ここ、まるで、何かの臓器みたいで……それに、聞こえませんか?どくん、どくんって、心臓みたいな……」
え?俺は耳を澄ませてみる……ドクン、ドクン。これは違うな、自分の心臓の音だ。でも、変だな。鼓動の音が、二重になって聞こえる。
「うわ……なんだ、この音」
低い地鳴りのような、耳がびりびりする音がしている。その音は、俺の心臓の鼓動とピッタリ重なるように、ドン、ドンと低く鳴り響いていた。緊張して脈拍が上がると、その音も一緒にハイテンポになる。気味が悪い音だ。 ウィルはここを臓器と言ったが、言われてみれば確かに、天井の無数の穴は、そこから延びる血管のようにも見える。
「でもそれだと……俺たちは臓器に忍び込んだ、悪いばい菌ってことにならないか?」
ウィルの顔が、蒼白になった。
すると……
ビイイィィィィィィィィィ!
「ぐあっ!」
「なに、この音……!」
耳がつんざけそうだ!部屋中に爆音で鳴り響く、サイレンのような音。さっきのバリアが変化した時と、まったく同じ音だ。てことは、また!?
始まったのと同じくらい、唐突に音は止んだ。俺はそろそろと耳から手を放して、あたりを窺う。
「みんな、気をつけろよ。今のが合図だとしたら……」
ぞくぞくぞくっ。
全身にぞわぞわした感覚が走った。俺はとっさに右腕を押さえた。なんだ?悪寒とも違う。そもそも、俺はフランと違って、何かの気配を敏感に察知できたりしない。もし、俺が分かる気配があるとしたら……
「っ!みんな、気を付けろ!何かが来る!」
俺は胸の中の気持ち悪さに急かされ、声を張り上げた。ロウランは素早く合金を展開したが、顔は困惑している。
「ダーリン、何かって、なんなの?」
「わからねえ……けど、いいやつじゃ絶対ない」
俺は右腕を握る手に力を籠める。手がしびれそうだが、そうでもしないと、震えが収まらない。ロウランは俺のただならぬ様子に気付いて、ごくりとつばを飲み込んだ。
「気配を感じるんだ……アンデッドの気配に似てるんだけど、でも、何かが違う……!」
「違うって……?」
その時だ。フランがいきなり、ばっと振り向いた。目を大きく見開く。
「あれ!」
フランが見ているのは……天井だ!
天井に空いた無数の穴。そこから、芋虫のように体を捻りながら、白っぽい何かが這い出してきた。
そいつは、ぱっと見は、人の形をしていた。全身は、赤と白のまだら模様。顔には目も口も鼻もない。まるで子どもが二色の粘土を混ぜて作った、できそこないの人形のようだ。
そいつらは穴から、ボトボトと落っこちてきた。真下にいた兵士たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。その人形のような“なにか”は両手と両足をついて、ずんっと着地した。
「あ、あれは……」
ウィルの声が震えている。だけど、これで終わりじゃない!
「一体じゃないぞ!まだ来る!」
気配が、いくつも増えていく。俺にははっきりとわかった。でも、なぜだ?あの“なにか”からは、アンデッド特有の、魂が震えるような感覚は湧き起らない。どちらかというと、その名残、のようなものが残留している感じだ……
やがて、天井の穴という穴から、あの“なにか”がズルズルと這い出し始めた。兵士は叫びながら矢を撃っているが、矢が何本刺さっても、あいつらは身じろぎもしない。痛みを感じていないようだ。
『あれは、もしや……フレッシュゴーレム!』
キィン、とアニが甲高い音を発した。
『死体をベースに作られるゴーレムです!魔道で動く存在なので、アンデッドではありません。主様が気配を感じるのは、そういう理屈でしょう!』
死体を素に、だと?それならあれは、まさしく動く屍ってことか?アンデッドのような気配を感じる理由はわかったが、それでも分からないことがある。
「なら……あれだけの数のゴーレムを作るのに、どれだけの死体が、使われたっていうんだよ!」
こうして話している間にも、フレッシュゴーレムはどんどん投下されてくる。その数は留まることを知らない。
「……魔物の死体ね」
アルルカが目を細めながら、低い声で言う。
「この戦争で出た、魔物の死体を使ってるんだわ。死んでも働けってわけね」
あ……城に見られた、戦闘の痕。もしや、その時の……?
「いくら手が足りないからって、仲間の遺体を使うだなんて……!」
ウィルは信じられないとばかりに、ぶるぶる震えていた。同感だ、ちくしょう……!
「みんな、戦うぞ!これ以上、死者に死を増やされてたまるか!」
俺たちは臨戦態勢に入った。がしかし、さっきの戦闘から間もない。ライラは魔法を連発したばかりで、使えても大きな魔法を一、二発が限界だろう。他の魔術師たちも、魔力を消耗している。となれば。
「フラン、頼む!この戦い、お前がカギだ!」
魔法が撃てないのなら、あとは肉弾戦しかない。フランはうなずくと、ジャキンと爪を剥いた。
「みんなは、フランのサポートを!フランを中心に、まとまって戦うんだ!」
フランを切っ先に、みんなを刀身にして、この戦いを切り抜く!
フランは一番近くにいたフレッシュゴーレムを、容赦なく蹴り飛ばした。だがその瞬間、背後から別のゴーレムが襲い掛かる。挟み撃ちされた!
ゴィン!鈍い音を立てて、フレッシュゴーレムが崩れ落ちた。アルルカだ!アルルカは、愛用の竜をかたどった杖でゴーレムを殴りつけると、そのまま倒れたゴーレムの頭部に杖を突き付け、氷の弾丸を撃ち込んだ。ゴーレムの頭が氷に包まれ、動かなくなる。意外な相手に助けられたフランは、目を細めて、アルルカを睨んだ。
「何しに来たの」
「……あんた一人じゃ、荷が重そうだったからね。しょうがないから、手伝ったげるわ」
フランは目を丸くすると、ふんっ、と笑った。
「足引っ張ったら、そのまま蹴とばしてあげるから」
「キキキ、上等じゃない。終わった後で、ほえ面かくんじゃないわよ!」
二人は背中合わせで、同時に駆け出した。フランとアルルカが、共闘を……俺はなんだか、胸の奥が熱くなる思いだった。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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結論から言うと、探索は何の成果も得られなかった。どうやら城の一階部分には、本当に魔物一体すらいないらしい。
「すると、残るは上か」
城の上層へ向かう道?は、玄関口の奥に存在した。壁に丸い穴が空いていて、そこから管のような通路が伸びているのだ。城の廊下にしちゃ妙だが、俺はその管が、ヘルズニルに巻き付くように立っている塔の一つだと気づいた。あの中は空洞になっていて、中を通れるようになっていたんだ。
ねじ曲がった管の中を進んでいくと、やがて奇妙な部屋に出た。
「ここは……」
広い部屋だ。全体が、暗い赤色に染まっている。どうやら、天井から赤い光が放たれているようだ。その天井は、ドームのように半円形になっていて、そこにはさらに、無数の穴がぽこぽこ開いている。天窓……ではないな。穴はどこかに繋がっているようだが、その先は暗くて見えない。天井に通路?魔王軍は全員、空が飛べるんだろうか。
「ここ……なんだか、気味が悪いです」
ウィルは、ロッドを胸にギュッと抱いている。赤い光のせいで、ウィルは全身血まみれみたいに見える。俺は背筋が寒くなるのを感じた。
「ウィル、気味悪いって……?」
「ここ、まるで、何かの臓器みたいで……それに、聞こえませんか?どくん、どくんって、心臓みたいな……」
え?俺は耳を澄ませてみる……ドクン、ドクン。これは違うな、自分の心臓の音だ。でも、変だな。鼓動の音が、二重になって聞こえる。
「うわ……なんだ、この音」
低い地鳴りのような、耳がびりびりする音がしている。その音は、俺の心臓の鼓動とピッタリ重なるように、ドン、ドンと低く鳴り響いていた。緊張して脈拍が上がると、その音も一緒にハイテンポになる。気味が悪い音だ。 ウィルはここを臓器と言ったが、言われてみれば確かに、天井の無数の穴は、そこから延びる血管のようにも見える。
「でもそれだと……俺たちは臓器に忍び込んだ、悪いばい菌ってことにならないか?」
ウィルの顔が、蒼白になった。
すると……
ビイイィィィィィィィィィ!
「ぐあっ!」
「なに、この音……!」
耳がつんざけそうだ!部屋中に爆音で鳴り響く、サイレンのような音。さっきのバリアが変化した時と、まったく同じ音だ。てことは、また!?
始まったのと同じくらい、唐突に音は止んだ。俺はそろそろと耳から手を放して、あたりを窺う。
「みんな、気をつけろよ。今のが合図だとしたら……」
ぞくぞくぞくっ。
全身にぞわぞわした感覚が走った。俺はとっさに右腕を押さえた。なんだ?悪寒とも違う。そもそも、俺はフランと違って、何かの気配を敏感に察知できたりしない。もし、俺が分かる気配があるとしたら……
「っ!みんな、気を付けろ!何かが来る!」
俺は胸の中の気持ち悪さに急かされ、声を張り上げた。ロウランは素早く合金を展開したが、顔は困惑している。
「ダーリン、何かって、なんなの?」
「わからねえ……けど、いいやつじゃ絶対ない」
俺は右腕を握る手に力を籠める。手がしびれそうだが、そうでもしないと、震えが収まらない。ロウランは俺のただならぬ様子に気付いて、ごくりとつばを飲み込んだ。
「気配を感じるんだ……アンデッドの気配に似てるんだけど、でも、何かが違う……!」
「違うって……?」
その時だ。フランがいきなり、ばっと振り向いた。目を大きく見開く。
「あれ!」
フランが見ているのは……天井だ!
天井に空いた無数の穴。そこから、芋虫のように体を捻りながら、白っぽい何かが這い出してきた。
そいつは、ぱっと見は、人の形をしていた。全身は、赤と白のまだら模様。顔には目も口も鼻もない。まるで子どもが二色の粘土を混ぜて作った、できそこないの人形のようだ。
そいつらは穴から、ボトボトと落っこちてきた。真下にいた兵士たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。その人形のような“なにか”は両手と両足をついて、ずんっと着地した。
「あ、あれは……」
ウィルの声が震えている。だけど、これで終わりじゃない!
「一体じゃないぞ!まだ来る!」
気配が、いくつも増えていく。俺にははっきりとわかった。でも、なぜだ?あの“なにか”からは、アンデッド特有の、魂が震えるような感覚は湧き起らない。どちらかというと、その名残、のようなものが残留している感じだ……
やがて、天井の穴という穴から、あの“なにか”がズルズルと這い出し始めた。兵士は叫びながら矢を撃っているが、矢が何本刺さっても、あいつらは身じろぎもしない。痛みを感じていないようだ。
『あれは、もしや……フレッシュゴーレム!』
キィン、とアニが甲高い音を発した。
『死体をベースに作られるゴーレムです!魔道で動く存在なので、アンデッドではありません。主様が気配を感じるのは、そういう理屈でしょう!』
死体を素に、だと?それならあれは、まさしく動く屍ってことか?アンデッドのような気配を感じる理由はわかったが、それでも分からないことがある。
「なら……あれだけの数のゴーレムを作るのに、どれだけの死体が、使われたっていうんだよ!」
こうして話している間にも、フレッシュゴーレムはどんどん投下されてくる。その数は留まることを知らない。
「……魔物の死体ね」
アルルカが目を細めながら、低い声で言う。
「この戦争で出た、魔物の死体を使ってるんだわ。死んでも働けってわけね」
あ……城に見られた、戦闘の痕。もしや、その時の……?
「いくら手が足りないからって、仲間の遺体を使うだなんて……!」
ウィルは信じられないとばかりに、ぶるぶる震えていた。同感だ、ちくしょう……!
「みんな、戦うぞ!これ以上、死者に死を増やされてたまるか!」
俺たちは臨戦態勢に入った。がしかし、さっきの戦闘から間もない。ライラは魔法を連発したばかりで、使えても大きな魔法を一、二発が限界だろう。他の魔術師たちも、魔力を消耗している。となれば。
「フラン、頼む!この戦い、お前がカギだ!」
魔法が撃てないのなら、あとは肉弾戦しかない。フランはうなずくと、ジャキンと爪を剥いた。
「みんなは、フランのサポートを!フランを中心に、まとまって戦うんだ!」
フランを切っ先に、みんなを刀身にして、この戦いを切り抜く!
フランは一番近くにいたフレッシュゴーレムを、容赦なく蹴り飛ばした。だがその瞬間、背後から別のゴーレムが襲い掛かる。挟み撃ちされた!
ゴィン!鈍い音を立てて、フレッシュゴーレムが崩れ落ちた。アルルカだ!アルルカは、愛用の竜をかたどった杖でゴーレムを殴りつけると、そのまま倒れたゴーレムの頭部に杖を突き付け、氷の弾丸を撃ち込んだ。ゴーレムの頭が氷に包まれ、動かなくなる。意外な相手に助けられたフランは、目を細めて、アルルカを睨んだ。
「何しに来たの」
「……あんた一人じゃ、荷が重そうだったからね。しょうがないから、手伝ったげるわ」
フランは目を丸くすると、ふんっ、と笑った。
「足引っ張ったら、そのまま蹴とばしてあげるから」
「キキキ、上等じゃない。終わった後で、ほえ面かくんじゃないわよ!」
二人は背中合わせで、同時に駆け出した。フランとアルルカが、共闘を……俺はなんだか、胸の奥が熱くなる思いだった。
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