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17章 再開の約束
6-2
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6-2
「ライラ」
「ん……桜下」
俺が声を掛けると、ライラはぽやーっとした顔をこちらに向けた。
「桜下、もうだいじょーぶなの?」
「ああ、だいぶよくなったよ。ウィルのおかげでな」
俺は彼女の隣に腰を下ろしてあぐらをかく。ウィルが気を利かせてくれて、仲間たちは仮設テントから出て行っている。これならゆっくり話ができそうだ。
「ライラ、さっきはありがとな。お前のおかげで、みんな無事だ」
「そんな……桜下がいたからだよ。ライラは、何にもしてないもん」
「なんだよ、珍しく気弱じゃないか」
俺が肘で小突いても、ライラは怒ったりすることもなく、ただ黙ってうつむくばかりだった。
(これは……思ったよりも重症か?)
やっぱり、ウィルの言っていた“願い”ってやつが関係しているんだろうか。
「ライラ……こんなこと、訊くのもあれだけど。落ち込んでる、のか?」
「……よく、分かんない」
ライラは自分の膝を抱えて丸くなる。
「桜下と一つになった時……ライラ、とってもいい気持ちだったの。お腹の底の底から、どんどん力が沸き上がってくるのを感じた。いつもはできないことが、あの時は、なんでもできるみたいだったんだ。桜下の魂をすぐそばに感じて、桜下が力をこめると、その熱がライラの魂にも伝わってくるの。それで、ライラの熱が、桜下の魂をもっと熱くする。力が無限に湧いてきて、どこまでも高く飛べるみたい!」
ライラの口調は夢見心地だったが、そこでふと、現実に戻った感じになった。
「でも……今は、何もない。ライラは、ただのライラ。桜下の魂も、あんなに近く感じることはできない」
「……少し、分かるかもしれないな。ウィルもそんなこと言ってたよ」
「うん……前は分かんなかったけど、今ならおねーちゃんとか、フランの気持ち、分かる」
「ああ。それに、俺も似た気分だ」
「え?桜下も?」
「そりゃそうだろ。俺はこの通り、一人じゃ何にもできゃしない。俺があんな風に大暴れできるのは、みんなの、ライラの力を借りてる時だけなんだから」
ライラは意外そうな顔で、藤色の瞳を大きくしてこっちを見ている。そんなに驚くことだろうか?
「でも……ライラが感じた力、魂の力は、桜下のものだったよ。桜下は、普段からあれを感じてるんじゃないの?」
「え?うーん、どうなんだろ……別に普段から、なにか感じてるわけじゃないしな。それか自分のことだから、かえって分からないのか。他人の目で見られて、初めてわかることもあるのかもな」
前にアニから、俺の魔力は量が多いとは聞いたことがあった。けど、俺の魔力は冥の属性。ネクロマンス以外は点でダメな、融通の利かない魔力だ。
「俺からしたら、ライラの力の方が、よっぽどすごいと感じたぜ?隣の芝は青い、ってやつじゃないのか」
その言い回しが理解できなかったのか、ライラは不思議そうに首をかしげた。そして少し考えた後、こうこぼした。
「……桜下、あの時言ったこと、覚えてる?この力は、ライラの才能じゃない。願いの結晶なんだって」
「え?えーっと……」
融合中の俺が言ったことってことだな。えーっと、たしかあん時は……
「ああ、確かにそう言ったな」
「あれって、どういう意味なの?才能じゃないってことは、ライラのほんとうの力じゃないってこと?」
「いや、そういうことじゃなかったと思う。そう、たしかあれは……ライラの、心を感じたからなんだ」
「こころ?」
「さっきウィルと話して分かったんだけど、ソウルレゾナンスで融合した時の力って、みんなが願っていることが強く反映されるみたいなんだよ。それぞれの願いが、俺の能力として発現する」
「願っていること……」
「そうだ。あん時の力の根源は、ライラが望んでいたことってことだ。空を駆け、魔力を読み、みんなを救う力。あれはきっと、ライラが奥底で望んでいたこと。あれだけ強い力が出せたのは、それだけライラが、心の底から願っていたってこと……だと、思ったんだよ」
「……」
ライラは片手で、自分の胸の真ん中を触った。
「……あの時、ライラはね。みんなを助ける力が欲しいって、そう思ってたの。ライラにもっと力があれば、みんなを助けてあげることができたのにって」
「でも、今でも十分……」
「ううん、そんなことない!」
ライラは突然、かぶりを振った。
「ライラ、まだまだだ。すぐに焦るし、魔力も体力も少ない。おねーちゃんみたいに器用な使い方もできないし、アルルカみたいに早く詠唱することもできない……」
え?驚いたな。ライラほどの実力があっても、まだ不十分だっていうのか。きっとウィルが聞いたら、同じように驚くだろう。
「昔は、こんなこと考えもしなかった。おにぃちゃんとおかーさんは、ライラのまほーをすごいって褒めてくれた。二人が死んじゃった後は、ライラのまほーをみんな怖がった。たまにやっつけようとした冒険者が来たけれど、みんなライラより弱かったし」
そうだろうな。ライラがあの墓場で過ごした五年間、誰も恐ろしいグールを退治できなかったのだ。
「それにね、ほんとのこと言うと、桜下たちと会ってからもそう思ってた」
「お、そうだったのか?まあでも、間違っちゃいないか」
「うん……桜下は優しいけど頼りないし(はは……ごもっとも)、ウィルおねーちゃんのまほーは、ライラが赤ちゃんだった頃からマスターしてたレベルだった。その後に会った魔術師たちも、みんなライラ以下の腕しか持ってない。やっぱりライラは、世界一のまほーつかいなんだって」
そうだな。ロウランの地下遺跡で、ライラは一点の疑いもなく、そう言ってのけたほどだ。
「でも、今考えると、ばかだったって思うよ」
「え?」
「ライラ、何にも知らなかった。ただ強いまほーが使えれば、世界一になれるんだと思ってた。でも、現実は違った。弱いまほーでも、工夫次第じゃ強力なまほーに負けないんだって。服を洗うだけのまほーが、時にはとっても役に立つんだって。氷の高速詠唱だったり、鉄で大蛇を呼び出すまほーがあるんだって。そんなこと、全然知らなかった」
「……」
そうか……ライラは、初めて知ったんだな。俺たちとの旅を通して、世界の広さを。一人孤独に墓場で暮らしていたころには、知りえなかったことを。
「ちょっとずつ、分かってたんだ。この世界には、ライラよりすごい人が、たくさんいるのかもしれないって。あの時も、いきなり橋が崩れて、ライラ、何にも考えられなくなっちゃった。ライラ一人じゃ、何もできない。誰も救えないって……そしたら」
ライラが、こちらを向く。藤色の瞳がキラリと輝く。
「そしたら、桜下が来てくれて、ライラの願いを叶えてくれた!みんなを助ける力を、ライラから引き出してくれた。とっても嬉しかったんだ。でも、今は……」
俺は黙って、その続きを待つ。ライラは、空っぽの手のひらを見つめた。
「今は、あの力は、どこにもない。夢から覚めたみたいに、なんにもなくなっちゃった。ライラは、ただのライラで、何でもできたあの時とは違う。それが、少し、さみしいの」
ああ……そういうことか。伸ばした手が届いたと思った矢先、それが遠のいてしまったんだな。チッ、やっぱりいい事ばかりじゃないな。こんな副作用があるだなんて。
「ライラ、なんつったらいいか……何度も言うけど、あれは間違いなく、お前の力なんだ。ただ、それがまだ奥底に眠っているのか、それともこの先で手に入れられるのかは、ちょっと分かんないんだけど……」
説明が難しいが、三度もの融合を経て、それだけははっきりと言い切れる。フランも、ウィルも、そしてライラも。俺は、彼女たちの望む力を、彼女たちから引き出したに過ぎない。そこが重要なんだ。引き出した、つまり元からなにもなければ、きっと何も引き出せないはずだろ?
「あの力は、ライラの潜在的な力のはずだ。それが、ライラの願いと、俺の魔力とで呼び出されたんだよ」
「じゃあ……いつかは、ライラもああなれるかもしれないの?」
「そうだと、俺は思う。楽な道じゃないだろうな。今よりたくさん勉強して、たくさん努力しないといけないだろうけど……決して、ありえない未来じゃないはずだ」
「そう、なのかな……そうだといいな」
「もちろんだ!ライラ、俺は馬鹿だし、なんにもできないけど、ライラがそれを目指したいってんなら、全力で協力するぜ」
「……ほんとう?」
「当たり前だろ。そうだ、この戦争が終わったら、また旅に出ようぜ。そんでもって、大陸のまだ知らない魔法だったり、読んだことない魔導書を探すんだ。全部見つけたころには、きっと文句なしの、世界一の魔法使いになってるって!」
俺の提案に、ライラは目をぱぁっと輝かせた。だがすぐに、それも曇ってしまう。
「ライラ、まだなんかあるのか?」
「……ライラ、弱くなった。昔は、一人でもへっちゃらだったのに。今は、一人がすごく怖い。みんなと離れるなんて、考えられないくらい……」
まさか!俺はひしと、ライラの小さな肩を抱いた。冷たい肌が手に触れる。ひょっとして、老魔導士に負わされた傷が、またライラの心の中で芽吹いたのだろうか?
「ライラ。これだけははっきり言っておく。お前は、弱くなったんじゃない。むしろ、強くなったんだ」
「……どういうこと?」
「お前は、痛みを知った。悲しみを知った。そして、守るべき仲間ができたんだ。思い出してくれ。一人で戦ったあのジジイと、俺たちと一緒だったライラ、どちらが勝ったのか」
「でも……そのせいで、ライラはもう、一人じゃ戦えなくなった。きっと……桜下がいなくちゃ、なんにもできないよ」
「上等だ!だいたいな、俺がお前を手放すと思ってるのか?」
ぎゅっと、肩に回す腕に力をこめる。
「あいにくだが、俺はお前と離れる気は一切ないぞ。お前が嫌がっても、付きまとってやるからな」
「……いいの?ライラは、今のままでいいの?」
「ああ。お前は、お前のままでいい。安心しろ、もし道を間違えたら、俺が正してやるからな。だから……俺たちのところに、いてくれよ」
命令口調で始まったのに、結局お願いになってしまった。俺の口下手も、どこまで行っても直りゃしないな。
「ありがとう。桜下……」
ライラは俺の胸に顔をこすり付けると、安心したように目を閉じた。俺はしばらくの間、ずっとライラの肩を抱いていた。眠ってしまったのか、ライラは身じろぎしなかったけれど、その小さな手が、ずっと左胸を押さえていたのが印象に残った。
つづく
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「ん……桜下」
俺が声を掛けると、ライラはぽやーっとした顔をこちらに向けた。
「桜下、もうだいじょーぶなの?」
「ああ、だいぶよくなったよ。ウィルのおかげでな」
俺は彼女の隣に腰を下ろしてあぐらをかく。ウィルが気を利かせてくれて、仲間たちは仮設テントから出て行っている。これならゆっくり話ができそうだ。
「ライラ、さっきはありがとな。お前のおかげで、みんな無事だ」
「そんな……桜下がいたからだよ。ライラは、何にもしてないもん」
「なんだよ、珍しく気弱じゃないか」
俺が肘で小突いても、ライラは怒ったりすることもなく、ただ黙ってうつむくばかりだった。
(これは……思ったよりも重症か?)
やっぱり、ウィルの言っていた“願い”ってやつが関係しているんだろうか。
「ライラ……こんなこと、訊くのもあれだけど。落ち込んでる、のか?」
「……よく、分かんない」
ライラは自分の膝を抱えて丸くなる。
「桜下と一つになった時……ライラ、とってもいい気持ちだったの。お腹の底の底から、どんどん力が沸き上がってくるのを感じた。いつもはできないことが、あの時は、なんでもできるみたいだったんだ。桜下の魂をすぐそばに感じて、桜下が力をこめると、その熱がライラの魂にも伝わってくるの。それで、ライラの熱が、桜下の魂をもっと熱くする。力が無限に湧いてきて、どこまでも高く飛べるみたい!」
ライラの口調は夢見心地だったが、そこでふと、現実に戻った感じになった。
「でも……今は、何もない。ライラは、ただのライラ。桜下の魂も、あんなに近く感じることはできない」
「……少し、分かるかもしれないな。ウィルもそんなこと言ってたよ」
「うん……前は分かんなかったけど、今ならおねーちゃんとか、フランの気持ち、分かる」
「ああ。それに、俺も似た気分だ」
「え?桜下も?」
「そりゃそうだろ。俺はこの通り、一人じゃ何にもできゃしない。俺があんな風に大暴れできるのは、みんなの、ライラの力を借りてる時だけなんだから」
ライラは意外そうな顔で、藤色の瞳を大きくしてこっちを見ている。そんなに驚くことだろうか?
「でも……ライラが感じた力、魂の力は、桜下のものだったよ。桜下は、普段からあれを感じてるんじゃないの?」
「え?うーん、どうなんだろ……別に普段から、なにか感じてるわけじゃないしな。それか自分のことだから、かえって分からないのか。他人の目で見られて、初めてわかることもあるのかもな」
前にアニから、俺の魔力は量が多いとは聞いたことがあった。けど、俺の魔力は冥の属性。ネクロマンス以外は点でダメな、融通の利かない魔力だ。
「俺からしたら、ライラの力の方が、よっぽどすごいと感じたぜ?隣の芝は青い、ってやつじゃないのか」
その言い回しが理解できなかったのか、ライラは不思議そうに首をかしげた。そして少し考えた後、こうこぼした。
「……桜下、あの時言ったこと、覚えてる?この力は、ライラの才能じゃない。願いの結晶なんだって」
「え?えーっと……」
融合中の俺が言ったことってことだな。えーっと、たしかあん時は……
「ああ、確かにそう言ったな」
「あれって、どういう意味なの?才能じゃないってことは、ライラのほんとうの力じゃないってこと?」
「いや、そういうことじゃなかったと思う。そう、たしかあれは……ライラの、心を感じたからなんだ」
「こころ?」
「さっきウィルと話して分かったんだけど、ソウルレゾナンスで融合した時の力って、みんなが願っていることが強く反映されるみたいなんだよ。それぞれの願いが、俺の能力として発現する」
「願っていること……」
「そうだ。あん時の力の根源は、ライラが望んでいたことってことだ。空を駆け、魔力を読み、みんなを救う力。あれはきっと、ライラが奥底で望んでいたこと。あれだけ強い力が出せたのは、それだけライラが、心の底から願っていたってこと……だと、思ったんだよ」
「……」
ライラは片手で、自分の胸の真ん中を触った。
「……あの時、ライラはね。みんなを助ける力が欲しいって、そう思ってたの。ライラにもっと力があれば、みんなを助けてあげることができたのにって」
「でも、今でも十分……」
「ううん、そんなことない!」
ライラは突然、かぶりを振った。
「ライラ、まだまだだ。すぐに焦るし、魔力も体力も少ない。おねーちゃんみたいに器用な使い方もできないし、アルルカみたいに早く詠唱することもできない……」
え?驚いたな。ライラほどの実力があっても、まだ不十分だっていうのか。きっとウィルが聞いたら、同じように驚くだろう。
「昔は、こんなこと考えもしなかった。おにぃちゃんとおかーさんは、ライラのまほーをすごいって褒めてくれた。二人が死んじゃった後は、ライラのまほーをみんな怖がった。たまにやっつけようとした冒険者が来たけれど、みんなライラより弱かったし」
そうだろうな。ライラがあの墓場で過ごした五年間、誰も恐ろしいグールを退治できなかったのだ。
「それにね、ほんとのこと言うと、桜下たちと会ってからもそう思ってた」
「お、そうだったのか?まあでも、間違っちゃいないか」
「うん……桜下は優しいけど頼りないし(はは……ごもっとも)、ウィルおねーちゃんのまほーは、ライラが赤ちゃんだった頃からマスターしてたレベルだった。その後に会った魔術師たちも、みんなライラ以下の腕しか持ってない。やっぱりライラは、世界一のまほーつかいなんだって」
そうだな。ロウランの地下遺跡で、ライラは一点の疑いもなく、そう言ってのけたほどだ。
「でも、今考えると、ばかだったって思うよ」
「え?」
「ライラ、何にも知らなかった。ただ強いまほーが使えれば、世界一になれるんだと思ってた。でも、現実は違った。弱いまほーでも、工夫次第じゃ強力なまほーに負けないんだって。服を洗うだけのまほーが、時にはとっても役に立つんだって。氷の高速詠唱だったり、鉄で大蛇を呼び出すまほーがあるんだって。そんなこと、全然知らなかった」
「……」
そうか……ライラは、初めて知ったんだな。俺たちとの旅を通して、世界の広さを。一人孤独に墓場で暮らしていたころには、知りえなかったことを。
「ちょっとずつ、分かってたんだ。この世界には、ライラよりすごい人が、たくさんいるのかもしれないって。あの時も、いきなり橋が崩れて、ライラ、何にも考えられなくなっちゃった。ライラ一人じゃ、何もできない。誰も救えないって……そしたら」
ライラが、こちらを向く。藤色の瞳がキラリと輝く。
「そしたら、桜下が来てくれて、ライラの願いを叶えてくれた!みんなを助ける力を、ライラから引き出してくれた。とっても嬉しかったんだ。でも、今は……」
俺は黙って、その続きを待つ。ライラは、空っぽの手のひらを見つめた。
「今は、あの力は、どこにもない。夢から覚めたみたいに、なんにもなくなっちゃった。ライラは、ただのライラで、何でもできたあの時とは違う。それが、少し、さみしいの」
ああ……そういうことか。伸ばした手が届いたと思った矢先、それが遠のいてしまったんだな。チッ、やっぱりいい事ばかりじゃないな。こんな副作用があるだなんて。
「ライラ、なんつったらいいか……何度も言うけど、あれは間違いなく、お前の力なんだ。ただ、それがまだ奥底に眠っているのか、それともこの先で手に入れられるのかは、ちょっと分かんないんだけど……」
説明が難しいが、三度もの融合を経て、それだけははっきりと言い切れる。フランも、ウィルも、そしてライラも。俺は、彼女たちの望む力を、彼女たちから引き出したに過ぎない。そこが重要なんだ。引き出した、つまり元からなにもなければ、きっと何も引き出せないはずだろ?
「あの力は、ライラの潜在的な力のはずだ。それが、ライラの願いと、俺の魔力とで呼び出されたんだよ」
「じゃあ……いつかは、ライラもああなれるかもしれないの?」
「そうだと、俺は思う。楽な道じゃないだろうな。今よりたくさん勉強して、たくさん努力しないといけないだろうけど……決して、ありえない未来じゃないはずだ」
「そう、なのかな……そうだといいな」
「もちろんだ!ライラ、俺は馬鹿だし、なんにもできないけど、ライラがそれを目指したいってんなら、全力で協力するぜ」
「……ほんとう?」
「当たり前だろ。そうだ、この戦争が終わったら、また旅に出ようぜ。そんでもって、大陸のまだ知らない魔法だったり、読んだことない魔導書を探すんだ。全部見つけたころには、きっと文句なしの、世界一の魔法使いになってるって!」
俺の提案に、ライラは目をぱぁっと輝かせた。だがすぐに、それも曇ってしまう。
「ライラ、まだなんかあるのか?」
「……ライラ、弱くなった。昔は、一人でもへっちゃらだったのに。今は、一人がすごく怖い。みんなと離れるなんて、考えられないくらい……」
まさか!俺はひしと、ライラの小さな肩を抱いた。冷たい肌が手に触れる。ひょっとして、老魔導士に負わされた傷が、またライラの心の中で芽吹いたのだろうか?
「ライラ。これだけははっきり言っておく。お前は、弱くなったんじゃない。むしろ、強くなったんだ」
「……どういうこと?」
「お前は、痛みを知った。悲しみを知った。そして、守るべき仲間ができたんだ。思い出してくれ。一人で戦ったあのジジイと、俺たちと一緒だったライラ、どちらが勝ったのか」
「でも……そのせいで、ライラはもう、一人じゃ戦えなくなった。きっと……桜下がいなくちゃ、なんにもできないよ」
「上等だ!だいたいな、俺がお前を手放すと思ってるのか?」
ぎゅっと、肩に回す腕に力をこめる。
「あいにくだが、俺はお前と離れる気は一切ないぞ。お前が嫌がっても、付きまとってやるからな」
「……いいの?ライラは、今のままでいいの?」
「ああ。お前は、お前のままでいい。安心しろ、もし道を間違えたら、俺が正してやるからな。だから……俺たちのところに、いてくれよ」
命令口調で始まったのに、結局お願いになってしまった。俺の口下手も、どこまで行っても直りゃしないな。
「ありがとう。桜下……」
ライラは俺の胸に顔をこすり付けると、安心したように目を閉じた。俺はしばらくの間、ずっとライラの肩を抱いていた。眠ってしまったのか、ライラは身じろぎしなかったけれど、その小さな手が、ずっと左胸を押さえていたのが印象に残った。
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