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15章 燃え尽きた松明
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「ただいまぁ……」
ふぅ、ようやく宿に帰ってこられた。俺はアルルカに横抱きにされたまま、窓から部屋に戻る。帰りは結局雲の下を飛んだので、俺はまたずぶ濡れになってしまった。
「あ、おかえりなさい、桜下さん。まぁ、この雨の中を飛んできたんですか?」
ウィルが同情半分、呆れ半分の顔で、タオルを渡してくれた。
「ほんとだよ、ったく。アルルカのやつが変に拘るもんだからさ」
ともかく、この濡れた服を着替えちまおう。俺は上着を脱ぐと、シャツのボタンを緩めた。
「あら?桜下さん、その首のところ……どうしたんですか?」
「へ?首?」
何のことだ?首を触ってみるが、特に何もないぞ。
「アルルカの噛み痕じゃないのか?」
「いえ、それとは別に、なんだか赤いぽちっとしたのが……って!」
な、なんだ?ウィルが突然、くわっと目を剥いた。そしていきなり、ぐいぃっと襟元を引っ掴んでくる。
「ぐえっ。ウィル、なにす……」
「こ、これは!フランさん!これ、見てくださいよ!これ!」
「ん?なに……っ!!!」
フランまで目を見開くと、まじまじと俺の首元を見つめる。そして視線をゆらりと、一人声を殺して腹を抱えているアルルカへと向けた。
「がうっ!」
「ぎゃあ!ちょっと、離れなさい!アイタッ!この、噛みつくんじゃないわよっ、それはあたしの専売特許でしょうが!」
二人がドタンバタンと大騒ぎしたもんだから、心配したおかみさんが様子を見に来てしまった。俺が平謝りしている後ろで、二人はまだ争っていたので、エラゼムは厳粛なる態度で二人を外に放りだす羽目になった。が、二人は外でもケンカを続けているようだ。
「もーほっとくか。付き合いきれん」
「それはいいですけど、桜下さん……?こっちはまだ、終わってないですからね……?」
ゆらぁっと、ウィルが俺に詰め寄ってくる。なんなんだよ、一体何があったって言うんだ!?
ライラとエラゼム、ロウランが、俺たちを遠巻きに見つめている。
「……エラゼム、どうしよっか?」
「うぅむ……雨降って地固まる、と言います。少し、様子を見てみましょうか?」
「それがいいの」
は、薄情者!外はざぁざぁ雨が降っているけど……明日になったら、地が固まるんだろうか?
翌朝。残念ながら、雨は止んでいなかった。けどだいぶ雨脚は弱まった、これなら外を出歩けるだろう。俺はベッドから起き上がると、出かける準備をした。
「あれ、ところであの二人は?」
「一晩中やり合ってましたよ。疲れないってのも考え物ですね……」
ウィルはやれやれと首を振る。昨晩きちんと釈明したので、ウィルはいつもの調子に戻っていた。が、フランとアルルカは、そうもいかなかったらしい。ううむ、普通のケンカなら、どちらかが倒れて決着が付くだろうが……疲れ知らずのアンデッド同士だと、それが無いのか。困ったもんだ。
「……ところで、桜下さん?昨日のあれ、本当に何もなかったんですよね?」
「うっ。ほんとに無実なんだって!嵌められたんだよ、アルルカに」
「ほんとかなぁ~……」
ウィルがじとーっと半目で睨んでくる。俺の潔白が、そんなに信じられないか?俺はため息を付くと、小声でボソボソと言う。
「しねーよ、そんなこと。彼女ができたばかりだってのに」
「へぅっ」
おかしな声を出して、ウィルは顔を赤くしてしまった。そういう反応をされると、こっちまで恥ずかしくなるじゃないか。
俺は二人のケンカを止めに行ったほうがいいかと思ったけれど、ウィルがそこまで大したものじゃないから気にするなと言うので、放っておくことにした。いわく、じゃれあいの延長線みたいなもんらしい。
宿の隣に併設された食堂で朝食を取る。朝の食堂には人もまばらで、俺たち以外の旅人はいないようだ。パラパラいる客も、この町の人だろう。
「あ、あの。すみません……」
俺はおずおずとおかみさんを呼び止めて、注文をする。昨日あれだけ大騒ぎしたから、気まずいんだよな……
「はいよ。なににする?」
「その、パンとミルクを貰えますか?」
「はいはい。ところで、昨日揉めてた方はいないのかい?」
「あ、はい。外にいますんで……すみません」
「そうかい。助かるよ、他のお客さんが怖がるからね」
返す言葉もございません。それでもおかみさんは、ねちねちと嫌味を言うようなことはしなかった。よかった、さっぱりした人で。あ、それならついでに、あっちのことも聞いておこうか。
「あ、あとちょっといいかな」
「はい?なにかね」
「この町に、光の魔力を持つ人が居たって話、聞いた事ありません?」
まずは基本のき、聞き込みだ。人の行きかう宿屋を営んでいるなら、色々な情報にも詳しいはず。
「光の魔力?そりゃ、一体何だい?」
だがおかみさんは、不思議そうに首を傾げるばかりだった。あ、ありゃ?おかしいな、あてが外れたか?
「えーっと、光の魔力っていうのは、とっても珍しい魔力で。奇跡を起こすことができるっていう……」
「奇跡?なんだか眉唾な話だねぇ。そんなものが本当にあるのかい?」
あ、あれれれ……?うーむ、まいったな。単に知らないだけのか、それとも情報が間違っていたのか。
俺が言葉に窮してしまったので、代わりにエラゼムが質問する。
「では、この町の名物について教えて下さらぬか。確か、癒しの神の神殿が在るとか」
「ああ、それならわかるよ。グランテンプルのことだろう?」
ああ、そういやそんな名前だったっけ。アニから一度聞いたけど、すっかり忘れていた。
「その、グランテンプルという御殿は、どのような場所なのでしょう?」
「どうって、そりゃ荘厳な建物だよ。行ってみりゃいいじゃないか。目で見たほうが絶対いいし、一度見れば一生忘れらないさ」
「ほお、それは興味をそそられますな。町のどこにあるのでしょう」
「表に出て、山を端から端まで眺めてごらん。てっぺんに見えるはずさ」
てっぺん?山頂に建っているのかな。目立ちそー。
「ありがとうございます。ぜひ行ってみましょう」
「そうしなよ。あそこに行けば、あんたらのお仲間だって、ちょっとは気も長くなるさ」
うっ。あの二人のことを言われているな……でも、行く価値はありそうだ。エラゼムが礼を言うと、おかみさんは片袖を揺らしながら、厨房の方に戻っていった。
「グランテンプルか。神殿って、誰でも入っていいのかな?」
俺の問い掛けには、シスターであるウィルが自信満々に答える。
「はい、もちろんです。居住区画などの込み入った場所には入れませんが、それでも大部分にはどなたでも立ち入れますよ。神の懐は、万人に開かれているものですか」
「おおー。そういや、ウィルんとこに寄った時も泊めてもらったもんな」
なら、門前払いを喰らうこともないだろう。よし、決まりだ!まずは、神殿へ!
「お引き取り下さい」
「はぁ、はぁ……え?」
おい、嘘だろ?俺はぜぃはぁと息をしながら、目の前に立つ若い修道士を茫然と見つめた。
「聞こえませんでしたか。お引き取りを、と言ったのです」
跳ねのけるような態度で、修道士はそう繰り返した。じょ、冗談じゃないぞ……
グランテンプルは、町から見える小高い山の頂上に建てられた塔だった。塔と言っても、三の国のような西洋の塔じゃない。言うなれば、五重塔だ。京都にあってもおかしくないような見た目をしている。ミツキの町に引き続いて和風な外観に、初めはワクワクしたもんだ。
ただ、アクセスはサイアクの一言に尽きた。なにせ、山を延々登って行かなくちゃならない。山には傾斜のきつい石の階段が作られていて、それをず~~~~~っとのぼる羽目になったんだ。俺はだらだら汗をかきながら、ロウランと出会った遺跡を思い出していた。あそこの階段もきつかった……
ライラは速攻でへばり、いつものようにフランがおぶろうとしたが、なぜか今回は俺におんぶしろと執拗にせがんだ。根負けした俺が彼女を背負って数歩歩いたところで、足を滑らせてひっくり返りそうになったので、そこからは大人しくフランにおぶられたが。
ともかく、それだけ大変だったんだ。だってのに!
「おい、なあ、こんだけ苦労して登ってきたんだぞ?それを理由もなく突っぱねるのか?」
俺は修道士に言っているテイにしながら、目はウィルを睨んでいた。ウィルがあわあわと弁解する。
「こ、こんなの、普通はありえませんってば!この人、ほんとにほんとの修道士なんですか?」
むう、確かに。目の前の修道士は、たぶん二十歳前後くらいの歳に見える。髪は短く、色は明るい茶髪で、目は釣り上がっていて鋭い。けっこうきつい顔立ちだ。服はローブのようだが、どことなく袈裟に見える。茶髪に袈裟が絶望的に似合っていなくて、なーんとなく信用できない雰囲気だ。
「理由?当方の神殿には、怪しい一団を入れることはできないまでです」
修道士はきっぱりとそう言い切る。
「な、なんだよその言い草は?俺たちが怪しいことは否定しないけど、あんまりじゃないか!」
「桜下さん、否定してください……」
「あ、そ、そうか。ともかく、人を見た目で判断するのかよ!」
修道士は俺を胡散臭い目で見つめた後、ふんと鼻を鳴らす。
「素性が分からない以上、見た目で判断するしかないでしょう。神の拠り所に来るにしちゃ、あまりにもみすぼらしい。施しならふもとで受けてください」
こ、こんの野郎……!これには俺だけじゃなく、ウィルまでカンカンになった。
「ま、貧しい人たちに手の差し伸べるのも神殿の役割でしょう!なんなんですかこの人は!こんななら、まだデュアンさんの方がマシですよ!」
ウィルにデュアン以下認定されたこの修道士は、相変わらず冷たい目で俺たちを睨んでいる。いや、あの目はさげすんでいる目だな。くぅー、どこまでも腹が立つ!
「ミゲル、誰と話しているの?」
あん?ふいに女の人の声がしてきた。誰だ?
「マルティナ!出てくるな、お前は中にいろ!」
修道士の男が振り返ると、血相を変えて声を張った。男の背後には、同じ格好をした女性が立っている。シスターだな。シスターの顔は修道士によく似ていて、釣り目と明るい茶髪をしている。だけど男と違って眉尻が下がっているから、どことなく気弱そうだ。この二人、兄妹かな?
「でも、ミゲル……」
「引っ込んでろ!こいつらは俺が片付けておくから!」
か、片付け……人を粗大ゴミみたいに言いやがって!憤慨した俺が言い返そうとした時。
「これこれ、二人とも」
と、またまたシスターの後ろから、新たな人物が近づいてきた。おうおう、今度は誰だ?兄妹が出てきたから、次は親か祖父母でも来るか?
俺の予想は、ニアピンだった。出てきたのは、長い髭の爺さんだった。
「ミゲル。マルティナ。何を騒いでおるのじゃ」
老人は落ち着いた声でそう言うと、二人を見、そして俺たちを見た。この爺さんもまた、袈裟のようなローブを羽織っている。さーて、この爺さんは、こいつらより話が通じるかな?
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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ふぅ、ようやく宿に帰ってこられた。俺はアルルカに横抱きにされたまま、窓から部屋に戻る。帰りは結局雲の下を飛んだので、俺はまたずぶ濡れになってしまった。
「あ、おかえりなさい、桜下さん。まぁ、この雨の中を飛んできたんですか?」
ウィルが同情半分、呆れ半分の顔で、タオルを渡してくれた。
「ほんとだよ、ったく。アルルカのやつが変に拘るもんだからさ」
ともかく、この濡れた服を着替えちまおう。俺は上着を脱ぐと、シャツのボタンを緩めた。
「あら?桜下さん、その首のところ……どうしたんですか?」
「へ?首?」
何のことだ?首を触ってみるが、特に何もないぞ。
「アルルカの噛み痕じゃないのか?」
「いえ、それとは別に、なんだか赤いぽちっとしたのが……って!」
な、なんだ?ウィルが突然、くわっと目を剥いた。そしていきなり、ぐいぃっと襟元を引っ掴んでくる。
「ぐえっ。ウィル、なにす……」
「こ、これは!フランさん!これ、見てくださいよ!これ!」
「ん?なに……っ!!!」
フランまで目を見開くと、まじまじと俺の首元を見つめる。そして視線をゆらりと、一人声を殺して腹を抱えているアルルカへと向けた。
「がうっ!」
「ぎゃあ!ちょっと、離れなさい!アイタッ!この、噛みつくんじゃないわよっ、それはあたしの専売特許でしょうが!」
二人がドタンバタンと大騒ぎしたもんだから、心配したおかみさんが様子を見に来てしまった。俺が平謝りしている後ろで、二人はまだ争っていたので、エラゼムは厳粛なる態度で二人を外に放りだす羽目になった。が、二人は外でもケンカを続けているようだ。
「もーほっとくか。付き合いきれん」
「それはいいですけど、桜下さん……?こっちはまだ、終わってないですからね……?」
ゆらぁっと、ウィルが俺に詰め寄ってくる。なんなんだよ、一体何があったって言うんだ!?
ライラとエラゼム、ロウランが、俺たちを遠巻きに見つめている。
「……エラゼム、どうしよっか?」
「うぅむ……雨降って地固まる、と言います。少し、様子を見てみましょうか?」
「それがいいの」
は、薄情者!外はざぁざぁ雨が降っているけど……明日になったら、地が固まるんだろうか?
翌朝。残念ながら、雨は止んでいなかった。けどだいぶ雨脚は弱まった、これなら外を出歩けるだろう。俺はベッドから起き上がると、出かける準備をした。
「あれ、ところであの二人は?」
「一晩中やり合ってましたよ。疲れないってのも考え物ですね……」
ウィルはやれやれと首を振る。昨晩きちんと釈明したので、ウィルはいつもの調子に戻っていた。が、フランとアルルカは、そうもいかなかったらしい。ううむ、普通のケンカなら、どちらかが倒れて決着が付くだろうが……疲れ知らずのアンデッド同士だと、それが無いのか。困ったもんだ。
「……ところで、桜下さん?昨日のあれ、本当に何もなかったんですよね?」
「うっ。ほんとに無実なんだって!嵌められたんだよ、アルルカに」
「ほんとかなぁ~……」
ウィルがじとーっと半目で睨んでくる。俺の潔白が、そんなに信じられないか?俺はため息を付くと、小声でボソボソと言う。
「しねーよ、そんなこと。彼女ができたばかりだってのに」
「へぅっ」
おかしな声を出して、ウィルは顔を赤くしてしまった。そういう反応をされると、こっちまで恥ずかしくなるじゃないか。
俺は二人のケンカを止めに行ったほうがいいかと思ったけれど、ウィルがそこまで大したものじゃないから気にするなと言うので、放っておくことにした。いわく、じゃれあいの延長線みたいなもんらしい。
宿の隣に併設された食堂で朝食を取る。朝の食堂には人もまばらで、俺たち以外の旅人はいないようだ。パラパラいる客も、この町の人だろう。
「あ、あの。すみません……」
俺はおずおずとおかみさんを呼び止めて、注文をする。昨日あれだけ大騒ぎしたから、気まずいんだよな……
「はいよ。なににする?」
「その、パンとミルクを貰えますか?」
「はいはい。ところで、昨日揉めてた方はいないのかい?」
「あ、はい。外にいますんで……すみません」
「そうかい。助かるよ、他のお客さんが怖がるからね」
返す言葉もございません。それでもおかみさんは、ねちねちと嫌味を言うようなことはしなかった。よかった、さっぱりした人で。あ、それならついでに、あっちのことも聞いておこうか。
「あ、あとちょっといいかな」
「はい?なにかね」
「この町に、光の魔力を持つ人が居たって話、聞いた事ありません?」
まずは基本のき、聞き込みだ。人の行きかう宿屋を営んでいるなら、色々な情報にも詳しいはず。
「光の魔力?そりゃ、一体何だい?」
だがおかみさんは、不思議そうに首を傾げるばかりだった。あ、ありゃ?おかしいな、あてが外れたか?
「えーっと、光の魔力っていうのは、とっても珍しい魔力で。奇跡を起こすことができるっていう……」
「奇跡?なんだか眉唾な話だねぇ。そんなものが本当にあるのかい?」
あ、あれれれ……?うーむ、まいったな。単に知らないだけのか、それとも情報が間違っていたのか。
俺が言葉に窮してしまったので、代わりにエラゼムが質問する。
「では、この町の名物について教えて下さらぬか。確か、癒しの神の神殿が在るとか」
「ああ、それならわかるよ。グランテンプルのことだろう?」
ああ、そういやそんな名前だったっけ。アニから一度聞いたけど、すっかり忘れていた。
「その、グランテンプルという御殿は、どのような場所なのでしょう?」
「どうって、そりゃ荘厳な建物だよ。行ってみりゃいいじゃないか。目で見たほうが絶対いいし、一度見れば一生忘れらないさ」
「ほお、それは興味をそそられますな。町のどこにあるのでしょう」
「表に出て、山を端から端まで眺めてごらん。てっぺんに見えるはずさ」
てっぺん?山頂に建っているのかな。目立ちそー。
「ありがとうございます。ぜひ行ってみましょう」
「そうしなよ。あそこに行けば、あんたらのお仲間だって、ちょっとは気も長くなるさ」
うっ。あの二人のことを言われているな……でも、行く価値はありそうだ。エラゼムが礼を言うと、おかみさんは片袖を揺らしながら、厨房の方に戻っていった。
「グランテンプルか。神殿って、誰でも入っていいのかな?」
俺の問い掛けには、シスターであるウィルが自信満々に答える。
「はい、もちろんです。居住区画などの込み入った場所には入れませんが、それでも大部分にはどなたでも立ち入れますよ。神の懐は、万人に開かれているものですか」
「おおー。そういや、ウィルんとこに寄った時も泊めてもらったもんな」
なら、門前払いを喰らうこともないだろう。よし、決まりだ!まずは、神殿へ!
「お引き取り下さい」
「はぁ、はぁ……え?」
おい、嘘だろ?俺はぜぃはぁと息をしながら、目の前に立つ若い修道士を茫然と見つめた。
「聞こえませんでしたか。お引き取りを、と言ったのです」
跳ねのけるような態度で、修道士はそう繰り返した。じょ、冗談じゃないぞ……
グランテンプルは、町から見える小高い山の頂上に建てられた塔だった。塔と言っても、三の国のような西洋の塔じゃない。言うなれば、五重塔だ。京都にあってもおかしくないような見た目をしている。ミツキの町に引き続いて和風な外観に、初めはワクワクしたもんだ。
ただ、アクセスはサイアクの一言に尽きた。なにせ、山を延々登って行かなくちゃならない。山には傾斜のきつい石の階段が作られていて、それをず~~~~~っとのぼる羽目になったんだ。俺はだらだら汗をかきながら、ロウランと出会った遺跡を思い出していた。あそこの階段もきつかった……
ライラは速攻でへばり、いつものようにフランがおぶろうとしたが、なぜか今回は俺におんぶしろと執拗にせがんだ。根負けした俺が彼女を背負って数歩歩いたところで、足を滑らせてひっくり返りそうになったので、そこからは大人しくフランにおぶられたが。
ともかく、それだけ大変だったんだ。だってのに!
「おい、なあ、こんだけ苦労して登ってきたんだぞ?それを理由もなく突っぱねるのか?」
俺は修道士に言っているテイにしながら、目はウィルを睨んでいた。ウィルがあわあわと弁解する。
「こ、こんなの、普通はありえませんってば!この人、ほんとにほんとの修道士なんですか?」
むう、確かに。目の前の修道士は、たぶん二十歳前後くらいの歳に見える。髪は短く、色は明るい茶髪で、目は釣り上がっていて鋭い。けっこうきつい顔立ちだ。服はローブのようだが、どことなく袈裟に見える。茶髪に袈裟が絶望的に似合っていなくて、なーんとなく信用できない雰囲気だ。
「理由?当方の神殿には、怪しい一団を入れることはできないまでです」
修道士はきっぱりとそう言い切る。
「な、なんだよその言い草は?俺たちが怪しいことは否定しないけど、あんまりじゃないか!」
「桜下さん、否定してください……」
「あ、そ、そうか。ともかく、人を見た目で判断するのかよ!」
修道士は俺を胡散臭い目で見つめた後、ふんと鼻を鳴らす。
「素性が分からない以上、見た目で判断するしかないでしょう。神の拠り所に来るにしちゃ、あまりにもみすぼらしい。施しならふもとで受けてください」
こ、こんの野郎……!これには俺だけじゃなく、ウィルまでカンカンになった。
「ま、貧しい人たちに手の差し伸べるのも神殿の役割でしょう!なんなんですかこの人は!こんななら、まだデュアンさんの方がマシですよ!」
ウィルにデュアン以下認定されたこの修道士は、相変わらず冷たい目で俺たちを睨んでいる。いや、あの目はさげすんでいる目だな。くぅー、どこまでも腹が立つ!
「ミゲル、誰と話しているの?」
あん?ふいに女の人の声がしてきた。誰だ?
「マルティナ!出てくるな、お前は中にいろ!」
修道士の男が振り返ると、血相を変えて声を張った。男の背後には、同じ格好をした女性が立っている。シスターだな。シスターの顔は修道士によく似ていて、釣り目と明るい茶髪をしている。だけど男と違って眉尻が下がっているから、どことなく気弱そうだ。この二人、兄妹かな?
「でも、ミゲル……」
「引っ込んでろ!こいつらは俺が片付けておくから!」
か、片付け……人を粗大ゴミみたいに言いやがって!憤慨した俺が言い返そうとした時。
「これこれ、二人とも」
と、またまたシスターの後ろから、新たな人物が近づいてきた。おうおう、今度は誰だ?兄妹が出てきたから、次は親か祖父母でも来るか?
俺の予想は、ニアピンだった。出てきたのは、長い髭の爺さんだった。
「ミゲル。マルティナ。何を騒いでおるのじゃ」
老人は落ち着いた声でそう言うと、二人を見、そして俺たちを見た。この爺さんもまた、袈裟のようなローブを羽織っている。さーて、この爺さんは、こいつらより話が通じるかな?
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