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12章 負けられない闘い
14-3
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「え」「えっ!」
この場にいる全員が、一斉に俺に注目した。俺は肩をすくめる。
「もう、しょうがないだろ。こうなっちまったら」
「なに、ふざけたこと言ってるの!」「んですか!」
ゾンビと幽霊の声がユニゾンして聞こえてきた。二人は、そりゃそう言うよな。うん、わかってる。
「みんなの言いたいことは、俺もよくわかってるつもりだよ。俺を試合に出さないために、みんなにはこんなに頑張ってもらったんだから」
そう、よくわかってる。俺のせいでみんなに苦労掛けたことも、どれだけみんなが俺を大事に思ってくれているのかも。俺のしんみりした顔を見てか、二人は口をぐっとつぐんだ。
「でも、ノロは本気だ。さっきまでは反抗すればどうにかなる気も、ちょろっとはしてたんだけど……想像以上だったな」
「それは!それは……そうですけど……」
ウィルの声は次第に小さくなった。みんなも、状況はよく理解しているはずだろう。
「とりあえず、今はごちゃごちゃしたことは忘れて、初心に帰ろうぜ。俺たちの最初の、そして最も大事な目的はなんだった?」
俺がみんなに問いかけると、フランが固い声で答える。
「……あの兵士の呪いを解くこと、でしょ」
「だな。もう一言だけ添えれば、エドガーを治して、そんでもって二の国に無事に帰ること。この無事って言うのはいろんな意味があるけど、今回は俺たちの日常、今までみたいに気楽な旅に戻るって意味で使いたいと思う」
「……尾ひれに面倒事をくっつけて帰るんじゃ、だめって言いたいの?」
「せいかい」
もしもここで大暴れしたら、どうなるだろうか。一の国、とりわけノロは怒り狂い、二の国、とりわけロアに責任を追及するかもしれない。するとロアは、責任を負わせるために俺をとっ捕まえようとするかも。ロアとは当初よりは仲良くなったと思うけれど、それでもあいつは女王だ。おそらく必要に迫られれば、俺を切り捨てる心の準備はあるはずだ。
「今まで俺たちは、いろーんな面倒ごとに耐えてきた。それはエドガーやヘイズの為でもあるし、ロアの為でもある。けど、やっぱり一番は俺たちだ。俺たちの為に、ここで暴れて、全部を台無しにするわけにはいかないんだ」
俺は一言一言を、ゆっくり丁寧に口にした。みんなに納得してもらうっていうのもあるし、俺自身が心を整理する目的もあった。俺だって、面倒事は嫌さ。けどこうやって口にすれば、これが必要なことだって分かるだろ?
「俺が行くよ。俺が闘えば、それで済むんだから」
みんなが息をのむのが分かった。結局は、そこに行きつくんだよな。ライラが身を乗り出す。
「桜下!だから、ライラが!」
「ダメだ。ライラじゃダメって言うよりは、俺じゃなきゃいけないんだよ」
「……桜下が、勇者だから?」
「そ。ちっ、捨てた肩書にいつまでも付いて回られるんだな。しょうがない。今の俺は、謎の仮面勇者なんだし」
「う……じ、じゃあ、ライラが変装するのは?仮面で顔は隠せるよね?」
すると、フランの目がきらりと光った。お、おいおい。本気かよ?
「さすがにそれは……いちおう、俺も男なんだぜ?体格とか、いろいろと違いすぎるだろ」
「それに」と、クラークが口を挟んできた。
「勇者である証、エゴバイブルは誤魔化しようがないよ。あれは勇者が持たなければ、力を発揮しない」
「だ、そうだ。じゃあどっちみち無理だな」
ライラとフランは、ぐっと唇を噛んだ。俺は結論を出す。
「俺しか、この役目はできないんだ。最初は俺も出るつもりだったんだから。当初の予定通りになっただけって考えれば、まだ少しはマシだろ?」
俺が茶化すように言っても、フランの顔は岩のようにこわばったまんまだった。ふぅ、こればっかりはどうしようもない。
「……てなわけだからさ。クラーク、悪いけどノロにそう伝えてくれないか」
「あ、ああ。けど……いいや、わかった」
クラークはなにかを言いかけたが、諦めたように首を振って、部屋から出ていった。残された俺たちは、重苦しい雰囲気に包まれる。
「……さあさあ!そうと決まったんだから、みんなは客席の方へ行ってくれよ。応援くらいはしてくれるだろ?」
俺は無理に明るく言ったが、みんなは頑として動こうとしない。そうしていれば、試合は始まらないと信じているかのようだ。
「はぁ……別に、今生の別れってわけでもないんだからさ。な?」
俺がもう一度促すと、みんなはようやく、のろのろと足を動かした。
「桜下殿……こうなっては、ご武運をお祈りしますとしか申せませぬ」
「それで十分さ、エラゼム。まあ、雄姿はほとんど見せられないとは思うけど……」
エラゼムはじっと俺を見つめて、ただ黙って礼をした。
「桜下……無理しないでね。怪我したらやだよ」
「おう、ライラ。俺も被虐嗜好はないから、頑張ってみるよ」
ライラはこくりとうなずくと、とぼとぼと歩いて行った。アルルカとウィルは、何も言わずに部屋を出ていった。ウィルに関しては、掛ける言葉が見つからないって顔をしていたな。
最後に残ったフランは、うつむいて自分の足元を見ていた。
「わたし……」
「ん?フラン?」
「わたしがもっと強ければ、あなたをこんな目に合わせなくて済んだのに」
「え?何を言い出すんだ。お前は十分強いだろ」
「そんな事ない。わたしがコルルをきっちり倒していたら、引き分けにはならなかった。それなら、あの女帝に口実を与える事にはならなかったんだ」
「それは……そんなこともないだろ。きっとそれならそれで、ノロは別のいちゃもんを付けてきたって。それに試合の結果は、みんながベストを尽くしたんだから」
「でも……!わたし、悔しい。わたしはいっつも、肝心な時に無力だ……!」
俺はぎょっとした。フランのうつむいた顔が、まるで今にも泣き出しそうに見えたからだ。今まで彼女が泣くところは、一度も見た事がない。フランが泣くほどのことって言ったら、よっぽどのことなんじゃないかな……?
「……悔しい感情っていうのは、成長の伸び代がある時にしか湧いてこないらしいぜ。いや、誰かの受け売りなんだけどさ」
俺はうつむくフランの頭を、ぽんぽんと撫でる。
「前にも言っただろ。俺たちは、一緒に強くなるんだって。焦んなくてもいいさ、時間はいくらでもある。ここを越えさえすればな」
「……」
フランはぐっと唇を噛むと、タッときびすを返して、そのまま走り去ってしまった。あーあ、みんな行っちまった。一人になると、急に心細くなるなぁ……
「桜下さん……」
「だぁっと!?」
うわ、びっくりした。壁をすり抜けて、ウィルが戻ってきたからだ。
「脅かすなよ、ウィル……なんだ?忘れ物か?」
「桜下さん。やっぱり、私も闘います」
「へ?」
「私なら、みなさんに姿は見えないでしょう。微弱な魔法しか使えませんけど、それでも……桜下さんの力に、なりたいんです……!」
「ウィル……」
ウィルと二人で闘う……?確かに、ウィルはクラークの目にも見えない、強力な伏兵だ。燃える火の玉が突然目の前に現れれば、さすがのあいつだって面食らうだろう。二人がかりでなら、そこそこいい勝負もできそうだが……
「……ありがとな。でも、やっぱり遠慮しとくよ」
「そんな、どうして……!」
「そうだな、まず一つに、俺は勝ちにはこだわってないってのがある。そして第二に……気を悪くしないでくれよな。俺とウィルが力を合わせても、たぶんクラークには勝てない」
「っ……」
癪なことだが、クラークの実力は本物だ。奴とはこれまで何度か戦ったから、その力ははっきりとわかっている。あいつは俺みたいな勇者崩れと違って、本物の勇者だ。パーティー全体の力なら拮抗していると思うけれど、勇者同士の力比べは、歴然を通り越して絶望的だ。そしてウィルもまた、独自の強みはあれど、一人で盤面をひっくり返す力があるかと言えば、ないのだ。
「俺とウィルの合体技、ソウルカノンの憑依があるよな。けど今、俺の能力はめちゃめちゃに不安定だ。ソウルカノンをぶっ放した瞬間、俺まで霊体化しかねない。はは、それはそれで笑えるけど、普通に見たらホラーだよな。人間がいきなり幽霊になるなんて」
「確かに、あの技は使えませんが……そ、それでも、ないよりはマシじゃないですか」
「そりゃそうだけど……まあ、第三の理由っていうか、これが一番なんだけど」
「……?」
「正直さ、あんまりそばで、カッコ悪いところを見られたくないんだ。どっちにしたって、俺は無様に負ける事になるだろうから。ウィルにそんなとこを見られたくないっていうか……へへ、もうこの発言がカッコ悪いな」
ウィルと一緒に闘うとして……その場合、ウィルは俺のすぐそばにいることになる。俺がみっともなく転んだり、叫んだりするところを……それを見たウィルの顔を……近くで見たくないんだ。ははは、我ながら情けなくて、涙が出そうだ。
ウィルは、俺のしょうもない理由を聞いて、目を大きく見開いている。呆れられたかな?半開きになった口がわなわな震える。
「そんな……あなたってのは、どうしてそんなに……!あなたのことを、かっこ悪いだなんて思うわけが……!」
ウィルはそこまで言うと、悔しそうに歯を食いしばった。金色の瞳から、大粒の涙がぽろぽろとこぼれていく。ど、どうしてウィルが泣くんだろう?俺はどうしていいか分からずに、ただおろおろしているだけだ。
ウィルは手の甲で涙を拭うと、鼻声で言う。
「……ゎかりました。桜下さんが辛いのなら、大人しく席で見ています。でも、忘れないでください。一人で闘いの舞台に立つ人を、わたしはとても立派で、かっこいい人だと思っていますから。きっと、みなさんも」
「そ、そうか?」
「ええ……じゃあ、もう行きますね。あと、それと……なるべく、無茶はしないでください。大怪我なんてしたら、承知しませんから」
「あはは、わかったよ。努力する」
ウィルはぺこりと一礼すると、壁をすり抜けて行ってしまった。俺は再び一人になった。
つづく
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続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「え」「えっ!」
この場にいる全員が、一斉に俺に注目した。俺は肩をすくめる。
「もう、しょうがないだろ。こうなっちまったら」
「なに、ふざけたこと言ってるの!」「んですか!」
ゾンビと幽霊の声がユニゾンして聞こえてきた。二人は、そりゃそう言うよな。うん、わかってる。
「みんなの言いたいことは、俺もよくわかってるつもりだよ。俺を試合に出さないために、みんなにはこんなに頑張ってもらったんだから」
そう、よくわかってる。俺のせいでみんなに苦労掛けたことも、どれだけみんなが俺を大事に思ってくれているのかも。俺のしんみりした顔を見てか、二人は口をぐっとつぐんだ。
「でも、ノロは本気だ。さっきまでは反抗すればどうにかなる気も、ちょろっとはしてたんだけど……想像以上だったな」
「それは!それは……そうですけど……」
ウィルの声は次第に小さくなった。みんなも、状況はよく理解しているはずだろう。
「とりあえず、今はごちゃごちゃしたことは忘れて、初心に帰ろうぜ。俺たちの最初の、そして最も大事な目的はなんだった?」
俺がみんなに問いかけると、フランが固い声で答える。
「……あの兵士の呪いを解くこと、でしょ」
「だな。もう一言だけ添えれば、エドガーを治して、そんでもって二の国に無事に帰ること。この無事って言うのはいろんな意味があるけど、今回は俺たちの日常、今までみたいに気楽な旅に戻るって意味で使いたいと思う」
「……尾ひれに面倒事をくっつけて帰るんじゃ、だめって言いたいの?」
「せいかい」
もしもここで大暴れしたら、どうなるだろうか。一の国、とりわけノロは怒り狂い、二の国、とりわけロアに責任を追及するかもしれない。するとロアは、責任を負わせるために俺をとっ捕まえようとするかも。ロアとは当初よりは仲良くなったと思うけれど、それでもあいつは女王だ。おそらく必要に迫られれば、俺を切り捨てる心の準備はあるはずだ。
「今まで俺たちは、いろーんな面倒ごとに耐えてきた。それはエドガーやヘイズの為でもあるし、ロアの為でもある。けど、やっぱり一番は俺たちだ。俺たちの為に、ここで暴れて、全部を台無しにするわけにはいかないんだ」
俺は一言一言を、ゆっくり丁寧に口にした。みんなに納得してもらうっていうのもあるし、俺自身が心を整理する目的もあった。俺だって、面倒事は嫌さ。けどこうやって口にすれば、これが必要なことだって分かるだろ?
「俺が行くよ。俺が闘えば、それで済むんだから」
みんなが息をのむのが分かった。結局は、そこに行きつくんだよな。ライラが身を乗り出す。
「桜下!だから、ライラが!」
「ダメだ。ライラじゃダメって言うよりは、俺じゃなきゃいけないんだよ」
「……桜下が、勇者だから?」
「そ。ちっ、捨てた肩書にいつまでも付いて回られるんだな。しょうがない。今の俺は、謎の仮面勇者なんだし」
「う……じ、じゃあ、ライラが変装するのは?仮面で顔は隠せるよね?」
すると、フランの目がきらりと光った。お、おいおい。本気かよ?
「さすがにそれは……いちおう、俺も男なんだぜ?体格とか、いろいろと違いすぎるだろ」
「それに」と、クラークが口を挟んできた。
「勇者である証、エゴバイブルは誤魔化しようがないよ。あれは勇者が持たなければ、力を発揮しない」
「だ、そうだ。じゃあどっちみち無理だな」
ライラとフランは、ぐっと唇を噛んだ。俺は結論を出す。
「俺しか、この役目はできないんだ。最初は俺も出るつもりだったんだから。当初の予定通りになっただけって考えれば、まだ少しはマシだろ?」
俺が茶化すように言っても、フランの顔は岩のようにこわばったまんまだった。ふぅ、こればっかりはどうしようもない。
「……てなわけだからさ。クラーク、悪いけどノロにそう伝えてくれないか」
「あ、ああ。けど……いいや、わかった」
クラークはなにかを言いかけたが、諦めたように首を振って、部屋から出ていった。残された俺たちは、重苦しい雰囲気に包まれる。
「……さあさあ!そうと決まったんだから、みんなは客席の方へ行ってくれよ。応援くらいはしてくれるだろ?」
俺は無理に明るく言ったが、みんなは頑として動こうとしない。そうしていれば、試合は始まらないと信じているかのようだ。
「はぁ……別に、今生の別れってわけでもないんだからさ。な?」
俺がもう一度促すと、みんなはようやく、のろのろと足を動かした。
「桜下殿……こうなっては、ご武運をお祈りしますとしか申せませぬ」
「それで十分さ、エラゼム。まあ、雄姿はほとんど見せられないとは思うけど……」
エラゼムはじっと俺を見つめて、ただ黙って礼をした。
「桜下……無理しないでね。怪我したらやだよ」
「おう、ライラ。俺も被虐嗜好はないから、頑張ってみるよ」
ライラはこくりとうなずくと、とぼとぼと歩いて行った。アルルカとウィルは、何も言わずに部屋を出ていった。ウィルに関しては、掛ける言葉が見つからないって顔をしていたな。
最後に残ったフランは、うつむいて自分の足元を見ていた。
「わたし……」
「ん?フラン?」
「わたしがもっと強ければ、あなたをこんな目に合わせなくて済んだのに」
「え?何を言い出すんだ。お前は十分強いだろ」
「そんな事ない。わたしがコルルをきっちり倒していたら、引き分けにはならなかった。それなら、あの女帝に口実を与える事にはならなかったんだ」
「それは……そんなこともないだろ。きっとそれならそれで、ノロは別のいちゃもんを付けてきたって。それに試合の結果は、みんながベストを尽くしたんだから」
「でも……!わたし、悔しい。わたしはいっつも、肝心な時に無力だ……!」
俺はぎょっとした。フランのうつむいた顔が、まるで今にも泣き出しそうに見えたからだ。今まで彼女が泣くところは、一度も見た事がない。フランが泣くほどのことって言ったら、よっぽどのことなんじゃないかな……?
「……悔しい感情っていうのは、成長の伸び代がある時にしか湧いてこないらしいぜ。いや、誰かの受け売りなんだけどさ」
俺はうつむくフランの頭を、ぽんぽんと撫でる。
「前にも言っただろ。俺たちは、一緒に強くなるんだって。焦んなくてもいいさ、時間はいくらでもある。ここを越えさえすればな」
「……」
フランはぐっと唇を噛むと、タッときびすを返して、そのまま走り去ってしまった。あーあ、みんな行っちまった。一人になると、急に心細くなるなぁ……
「桜下さん……」
「だぁっと!?」
うわ、びっくりした。壁をすり抜けて、ウィルが戻ってきたからだ。
「脅かすなよ、ウィル……なんだ?忘れ物か?」
「桜下さん。やっぱり、私も闘います」
「へ?」
「私なら、みなさんに姿は見えないでしょう。微弱な魔法しか使えませんけど、それでも……桜下さんの力に、なりたいんです……!」
「ウィル……」
ウィルと二人で闘う……?確かに、ウィルはクラークの目にも見えない、強力な伏兵だ。燃える火の玉が突然目の前に現れれば、さすがのあいつだって面食らうだろう。二人がかりでなら、そこそこいい勝負もできそうだが……
「……ありがとな。でも、やっぱり遠慮しとくよ」
「そんな、どうして……!」
「そうだな、まず一つに、俺は勝ちにはこだわってないってのがある。そして第二に……気を悪くしないでくれよな。俺とウィルが力を合わせても、たぶんクラークには勝てない」
「っ……」
癪なことだが、クラークの実力は本物だ。奴とはこれまで何度か戦ったから、その力ははっきりとわかっている。あいつは俺みたいな勇者崩れと違って、本物の勇者だ。パーティー全体の力なら拮抗していると思うけれど、勇者同士の力比べは、歴然を通り越して絶望的だ。そしてウィルもまた、独自の強みはあれど、一人で盤面をひっくり返す力があるかと言えば、ないのだ。
「俺とウィルの合体技、ソウルカノンの憑依があるよな。けど今、俺の能力はめちゃめちゃに不安定だ。ソウルカノンをぶっ放した瞬間、俺まで霊体化しかねない。はは、それはそれで笑えるけど、普通に見たらホラーだよな。人間がいきなり幽霊になるなんて」
「確かに、あの技は使えませんが……そ、それでも、ないよりはマシじゃないですか」
「そりゃそうだけど……まあ、第三の理由っていうか、これが一番なんだけど」
「……?」
「正直さ、あんまりそばで、カッコ悪いところを見られたくないんだ。どっちにしたって、俺は無様に負ける事になるだろうから。ウィルにそんなとこを見られたくないっていうか……へへ、もうこの発言がカッコ悪いな」
ウィルと一緒に闘うとして……その場合、ウィルは俺のすぐそばにいることになる。俺がみっともなく転んだり、叫んだりするところを……それを見たウィルの顔を……近くで見たくないんだ。ははは、我ながら情けなくて、涙が出そうだ。
ウィルは、俺のしょうもない理由を聞いて、目を大きく見開いている。呆れられたかな?半開きになった口がわなわな震える。
「そんな……あなたってのは、どうしてそんなに……!あなたのことを、かっこ悪いだなんて思うわけが……!」
ウィルはそこまで言うと、悔しそうに歯を食いしばった。金色の瞳から、大粒の涙がぽろぽろとこぼれていく。ど、どうしてウィルが泣くんだろう?俺はどうしていいか分からずに、ただおろおろしているだけだ。
ウィルは手の甲で涙を拭うと、鼻声で言う。
「……ゎかりました。桜下さんが辛いのなら、大人しく席で見ています。でも、忘れないでください。一人で闘いの舞台に立つ人を、わたしはとても立派で、かっこいい人だと思っていますから。きっと、みなさんも」
「そ、そうか?」
「ええ……じゃあ、もう行きますね。あと、それと……なるべく、無茶はしないでください。大怪我なんてしたら、承知しませんから」
「あはは、わかったよ。努力する」
ウィルはぺこりと一礼すると、壁をすり抜けて行ってしまった。俺は再び一人になった。
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