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12章 負けられない闘い
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「んん~~~……はぁっ!あぁ、よっく寝たなぁ~」
俺はぐーんと伸びをすると、元気よく跳ね起きた。実に爽快な目覚めだ!すっかり疲労も取れ、もりもり力が湧いてくる。窓の外には小鳥のさえずりと、まぶしい朝日が……
「……あったら、最高だったんだけどな」
あいにく、外は真っ暗闇だ。ちぇ、まだ遺嶺洞を抜けてはないみたいだな。
「おはようございます、桜下殿。すっかり元気になられましたな」
「おう!もう完全に全快だぜ!」
声を掛けてきたエラゼムに、俺はぐっと腕を上げてこたえた。揺れる馬車の中には、エラゼム、ウィル、ライラ、そしてアルルカがいる。ライラは俺より先に起きていたんだな。
「あれ?フランと、ロウランは?」
「お二人でしたら、馬車の上に出ております。フラン嬢は夜目が効きますし、ロウラン嬢にとってこの遺跡は、庭のようなものでしょうから」
ああ、そりゃそうだ。ロウランなら、ここを隅から隅まで知り尽くしているだろう。フランが監視していれば、モンスターにもいち早く対処ができるし。
「そりゃ、ごくろうだな……っと」
俺は窓のそばまで歩いていくと、頭を出して上を見上げた。屋根の影から、銀色の髪がちらりと見える。
「フラン!」
「ん……起きたんだ」
フランが顔をのぞかせた。その横から、ロウランも顔を出す。
「おはようなの♪」
「おう。どうだロウラン、順調そうか?」
「うん。この辺はよく覚えてるし、昔あった罠のほとんどは壊れてるみたい。たまーに近道を教えてあげたりしてるけど、それくらいなの」
へぇ、気が利くな。道を教えたってことは、ヘイズたちともある程度打ち解けたってことだろう。見た目はかなり奇抜なロウランだけど、中身は意外にしっかりしているんだな。どっかのヴァンパイアとは違って。
「と、そうだ。フラン!見ての通り、俺も回復したからさ。腕、くっつけちまおうぜ」
フランの右腕は、未だに馬車の隅っこに隠れるように置かれていた。そんな状態でいつまでも放っておくわけにもいかない。
「……」
だがフランは、俺の提案に渋い顔をした。この少し前、俺は能力を使って、体が霊体化してしまった。それを気にしているんだろうな。
「だーいじょうぶだって。ゆっくり休んだし、体力も魔力も回復した。ちょっとくらいどうってことないよ」
「…………」
「それに、だ。現実的な話をするなら、お前が本調子でないのは戦力的に大きな損失だ。またモンスターが襲ってきた時に、腕がないままじゃ困るだろ」
「……はぁ。わかったよ」
フランはようやく折れた。どいてろと言うので、俺が窓から首を引っ込めると、フランは片腕だけで器用に屋根につかまり、窓から馬車へと滑り込んできた。身軽だな、サルみたいな身のこなしだ。本人に言ったら怒られるだろうけど……
「さ、それじゃあ失礼して、ちゃっちゃとやっちゃうぞ。腕、押さえててくれるか?」
「ん」
切れた腕をフランの肩にあてがい、俺は右手を、彼女のふくらみの真ん中に押し当てる。ふにっとした感触にはまだドキッとするけど、以前に比べればいくらか落ち着いていられる。慣れってのは恐ろしい。
「いくぞ……ディストーションハンド・ファズ!」
ヴン!俺の右手が輪郭を失う。やっぱり前と違って、右手がフランの中に引きずり込まれるような感覚があった。俺は意識を集中して、自分の右腕を、自分の魂の形を見失わないように努めた。
「……っとお!」
頃合いを見て、フランの中から右手をずぼっと引き抜く。俺はちらりと右手の様子を見たが、やはり輪郭を失ったままだ。全身じゃないだけましだけど、それでも霊体化するにはしてしまうらしい。
「ああーっと。フラン、どうだ?右腕、治っただろ?」
俺は右手を体の後ろに隠すと、誤魔化すようにフランに笑いかけた。対してのフランは仏頂面で、治ったばかりの右手で俺の肩をぐいと掴む。
「き、きゃー。フランさん、およしになって……」
「うるさい。いいから、見せる!」
フランの怪力に敵うはずもなく、俺は右手を前に突き出された。フランがそうっと伸ばした手は、俺の右手をするりとすり抜けてしまった。
「………………」
「はは……まあ、しょうがないさ。今度は手だけだったんだし、な?」
「……はぁ。ほんとにどうしちゃったんだろうね、それ」
フランの声は怒っているというより、純粋に心配してくれている様子だった。俺は右手を握ったり開いたりする。
「さてな……ファルマナいわく、俺の力はいい方向に成長していってるらしいんだけど。その先に、死霊術の新たな可能性があるってさ」
「ああ、言ってたね。そんなこと」
「だからたぶん、ものすごく悪い事ではないと思うんだけど……」
「体が霊体化することが?」
「ま、だよな……」
俺自身、まだこの能力については分かっていないことも多い。しょうがない、降って湧いたような力だからな。体当たりで使い方を学んでいくしかないだろう。
とはいえ、俺はフランから、最低でも一日空けないと能力を使ってはならないとのお達しを喰らってしまった。まあでも、また全身霊体になっても怖い。比較的軽傷のエラゼムとアルルカを治すのは、また明日だな。
その日の夜(洞窟の中だから、あくまでも推測だ。隊が停まって野営の支度を始めたから、たぶんそうだろう)になって、ヘイズが俺たちの馬車へとやってきた。
「おう、元気になったか?オレさまが直々にメシを持ってきてやったぞ」
そう言ってヘイズは、食い物の入ったカゴを掲げた。
「おお。なんだ、どういう風の吹き回しだ?」
「すなおにありがとうと言え、こいつめ。なに、メシを食いがてら、昨日の話を聞こうと思ってな」
そういうことか。俺とヘイズは馬車の床に腰を下ろして、夕飯を取り始めた。ランプの頼りない明りが照らす中、干し魚の挟まったパンをもそもそ食べながら、俺は地下で起こった事をかいつまんで話した。
「……するとお前たちは、地下帝国の姫と一戦やり合ってきたってことか?にわかには信じらんねぇな……」
話を聞き終えたヘイズは、複雑そうな顔で水の入ったコップをぐいと傾けた。
「ま、俺もまだ実感がないというか……」
話した俺も、あれが一晩の出来事だったなんて信じられないくらいだし。
「なあ、俺たちって、正確にはどれくらいいなくなってたんだ?」
「あん?こうも暗いからな、オレだって正確な時間は分かんねえよ。まあおそらく、四半日には満たないくらいだろ」
「そうか……旅程は大丈夫か?」
「問題ない。多少狂いはしたが、十分帳尻は合わせられる。お前らが思ったより早く帰ってきたのと、ちょうど時間が夜だったのが幸いだったな。このままいけば、明日にも遺嶺洞を抜けられるだろ。そうすりゃ一の国は目の前だ」
「おお、そりゃよかった。もうこの遺跡はこりごりだからな……」
肩を落とした俺を見て、ヘイズはくくっと笑った。ちょうどその時、馬車の屋根をすり抜けて、ロウランが俺の隣へふわりと落ちてきた。それを見たヘイズがぶふっと水を吹く。
「な、な……あんた、もしかして、幽霊なのか……?」
「ああ、そういや言ってなかったな。ってあれ?ヘイズ、ロウランは見えるのか?」
「あ、ああ……だから、てっきり実体があるものだと……」
そうか。ロウランはヘイズたちに道を教えてやったと言っていた。てことは、ロウランの姿が見えていたってことだよな。俺は彼女に訊ねる。
「ロウランって、普通の幽霊とは違うのか?」
「そうだよ♪幽霊でも間違いじゃないけど、より正確には幻影みたいなものなの。ここにいる間は力が強まってるから、普通の人にも見えるんだと思うな」
ふーん。この遺跡はロウランのホームグラウンドだからかな。
「それで、どうしたんだ、いきなり?」
「うん。なんだか、話し声が聞こえたから。その人、隊長さんなんでしょ?」
「ああ、うん。ヘイズだ。一度話したんだったか?」
「うん。お名前は知らなかったから、挨拶しておこうと思ったの」
ほう、さすがお姫様。ずいぶん礼儀正しいな。ロウランが向き直ると、ヘイズはぎくりと肩を震わせて、それと分からないくらい後ずさった。
「ご挨拶が遅れたの。ロウラン・ザ・アンダーメイデンです。昔はここの姫だったけど、今はこの人の仲間なの♪」
「は、はは……ええっと、この隊を率いている、ヘイズです……さ、さきほどは、道を教えていただき、ありがとうございました……」
ヘイズは完全にビビっていた。幽霊と分かったとたんにこれだ。重症だな、こいつの幽霊恐怖症は。その原因となったウィルは複雑そうな顔をしていた。
そんなヘイズの様子を知ってか知らずか、ロウランはにっこりと笑って返した。
「どういたしましてなの。隊長さんには、これからもお世話になると思うから。だから、アタシの“旦那様”を、どうぞよろしくお願いします、なの」
「は?」
この声は、俺じゃない。俺よりも早く反応したやつが、一人いたんだ。
「それ……どういう意味?」
恐ろしく低い声でそう言ったのは、馬車の隅でじっとしていた、フランだ。
「どういう意味?それって、どういう意味?」
対してロウランは、とぼけた顔でフランを見つめ返す。フランはゆらりと立ち上がると、今にも食いつかんばかりに歯を剥いた。あわわ……
「その耳から辞書を突っ込んであげようか?旦那って言葉の意味を履き違えてるみたいだけど」
「んー、その必要はないと思うな。ちゃーんと分かって使ってるから」
ビリビリビリ。空気に火花が散っているようだ。俺たちはびくびくしながら、ロウランとフランの様子を伺っている。
ど、どうしてこうなったんだ?さっきまで、二人仲良く屋根に並んでいたっていうのに……するとふいに、ロウランは腕を伸ばして、俺の首元に抱き着いてきた。ウィルのようなひんやりとした感触。
「アタシ、やっぱりこの人がいい。この人こそ、アタシの理想の旦那様なの♪」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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俺はぐーんと伸びをすると、元気よく跳ね起きた。実に爽快な目覚めだ!すっかり疲労も取れ、もりもり力が湧いてくる。窓の外には小鳥のさえずりと、まぶしい朝日が……
「……あったら、最高だったんだけどな」
あいにく、外は真っ暗闇だ。ちぇ、まだ遺嶺洞を抜けてはないみたいだな。
「おはようございます、桜下殿。すっかり元気になられましたな」
「おう!もう完全に全快だぜ!」
声を掛けてきたエラゼムに、俺はぐっと腕を上げてこたえた。揺れる馬車の中には、エラゼム、ウィル、ライラ、そしてアルルカがいる。ライラは俺より先に起きていたんだな。
「あれ?フランと、ロウランは?」
「お二人でしたら、馬車の上に出ております。フラン嬢は夜目が効きますし、ロウラン嬢にとってこの遺跡は、庭のようなものでしょうから」
ああ、そりゃそうだ。ロウランなら、ここを隅から隅まで知り尽くしているだろう。フランが監視していれば、モンスターにもいち早く対処ができるし。
「そりゃ、ごくろうだな……っと」
俺は窓のそばまで歩いていくと、頭を出して上を見上げた。屋根の影から、銀色の髪がちらりと見える。
「フラン!」
「ん……起きたんだ」
フランが顔をのぞかせた。その横から、ロウランも顔を出す。
「おはようなの♪」
「おう。どうだロウラン、順調そうか?」
「うん。この辺はよく覚えてるし、昔あった罠のほとんどは壊れてるみたい。たまーに近道を教えてあげたりしてるけど、それくらいなの」
へぇ、気が利くな。道を教えたってことは、ヘイズたちともある程度打ち解けたってことだろう。見た目はかなり奇抜なロウランだけど、中身は意外にしっかりしているんだな。どっかのヴァンパイアとは違って。
「と、そうだ。フラン!見ての通り、俺も回復したからさ。腕、くっつけちまおうぜ」
フランの右腕は、未だに馬車の隅っこに隠れるように置かれていた。そんな状態でいつまでも放っておくわけにもいかない。
「……」
だがフランは、俺の提案に渋い顔をした。この少し前、俺は能力を使って、体が霊体化してしまった。それを気にしているんだろうな。
「だーいじょうぶだって。ゆっくり休んだし、体力も魔力も回復した。ちょっとくらいどうってことないよ」
「…………」
「それに、だ。現実的な話をするなら、お前が本調子でないのは戦力的に大きな損失だ。またモンスターが襲ってきた時に、腕がないままじゃ困るだろ」
「……はぁ。わかったよ」
フランはようやく折れた。どいてろと言うので、俺が窓から首を引っ込めると、フランは片腕だけで器用に屋根につかまり、窓から馬車へと滑り込んできた。身軽だな、サルみたいな身のこなしだ。本人に言ったら怒られるだろうけど……
「さ、それじゃあ失礼して、ちゃっちゃとやっちゃうぞ。腕、押さえててくれるか?」
「ん」
切れた腕をフランの肩にあてがい、俺は右手を、彼女のふくらみの真ん中に押し当てる。ふにっとした感触にはまだドキッとするけど、以前に比べればいくらか落ち着いていられる。慣れってのは恐ろしい。
「いくぞ……ディストーションハンド・ファズ!」
ヴン!俺の右手が輪郭を失う。やっぱり前と違って、右手がフランの中に引きずり込まれるような感覚があった。俺は意識を集中して、自分の右腕を、自分の魂の形を見失わないように努めた。
「……っとお!」
頃合いを見て、フランの中から右手をずぼっと引き抜く。俺はちらりと右手の様子を見たが、やはり輪郭を失ったままだ。全身じゃないだけましだけど、それでも霊体化するにはしてしまうらしい。
「ああーっと。フラン、どうだ?右腕、治っただろ?」
俺は右手を体の後ろに隠すと、誤魔化すようにフランに笑いかけた。対してのフランは仏頂面で、治ったばかりの右手で俺の肩をぐいと掴む。
「き、きゃー。フランさん、およしになって……」
「うるさい。いいから、見せる!」
フランの怪力に敵うはずもなく、俺は右手を前に突き出された。フランがそうっと伸ばした手は、俺の右手をするりとすり抜けてしまった。
「………………」
「はは……まあ、しょうがないさ。今度は手だけだったんだし、な?」
「……はぁ。ほんとにどうしちゃったんだろうね、それ」
フランの声は怒っているというより、純粋に心配してくれている様子だった。俺は右手を握ったり開いたりする。
「さてな……ファルマナいわく、俺の力はいい方向に成長していってるらしいんだけど。その先に、死霊術の新たな可能性があるってさ」
「ああ、言ってたね。そんなこと」
「だからたぶん、ものすごく悪い事ではないと思うんだけど……」
「体が霊体化することが?」
「ま、だよな……」
俺自身、まだこの能力については分かっていないことも多い。しょうがない、降って湧いたような力だからな。体当たりで使い方を学んでいくしかないだろう。
とはいえ、俺はフランから、最低でも一日空けないと能力を使ってはならないとのお達しを喰らってしまった。まあでも、また全身霊体になっても怖い。比較的軽傷のエラゼムとアルルカを治すのは、また明日だな。
その日の夜(洞窟の中だから、あくまでも推測だ。隊が停まって野営の支度を始めたから、たぶんそうだろう)になって、ヘイズが俺たちの馬車へとやってきた。
「おう、元気になったか?オレさまが直々にメシを持ってきてやったぞ」
そう言ってヘイズは、食い物の入ったカゴを掲げた。
「おお。なんだ、どういう風の吹き回しだ?」
「すなおにありがとうと言え、こいつめ。なに、メシを食いがてら、昨日の話を聞こうと思ってな」
そういうことか。俺とヘイズは馬車の床に腰を下ろして、夕飯を取り始めた。ランプの頼りない明りが照らす中、干し魚の挟まったパンをもそもそ食べながら、俺は地下で起こった事をかいつまんで話した。
「……するとお前たちは、地下帝国の姫と一戦やり合ってきたってことか?にわかには信じらんねぇな……」
話を聞き終えたヘイズは、複雑そうな顔で水の入ったコップをぐいと傾けた。
「ま、俺もまだ実感がないというか……」
話した俺も、あれが一晩の出来事だったなんて信じられないくらいだし。
「なあ、俺たちって、正確にはどれくらいいなくなってたんだ?」
「あん?こうも暗いからな、オレだって正確な時間は分かんねえよ。まあおそらく、四半日には満たないくらいだろ」
「そうか……旅程は大丈夫か?」
「問題ない。多少狂いはしたが、十分帳尻は合わせられる。お前らが思ったより早く帰ってきたのと、ちょうど時間が夜だったのが幸いだったな。このままいけば、明日にも遺嶺洞を抜けられるだろ。そうすりゃ一の国は目の前だ」
「おお、そりゃよかった。もうこの遺跡はこりごりだからな……」
肩を落とした俺を見て、ヘイズはくくっと笑った。ちょうどその時、馬車の屋根をすり抜けて、ロウランが俺の隣へふわりと落ちてきた。それを見たヘイズがぶふっと水を吹く。
「な、な……あんた、もしかして、幽霊なのか……?」
「ああ、そういや言ってなかったな。ってあれ?ヘイズ、ロウランは見えるのか?」
「あ、ああ……だから、てっきり実体があるものだと……」
そうか。ロウランはヘイズたちに道を教えてやったと言っていた。てことは、ロウランの姿が見えていたってことだよな。俺は彼女に訊ねる。
「ロウランって、普通の幽霊とは違うのか?」
「そうだよ♪幽霊でも間違いじゃないけど、より正確には幻影みたいなものなの。ここにいる間は力が強まってるから、普通の人にも見えるんだと思うな」
ふーん。この遺跡はロウランのホームグラウンドだからかな。
「それで、どうしたんだ、いきなり?」
「うん。なんだか、話し声が聞こえたから。その人、隊長さんなんでしょ?」
「ああ、うん。ヘイズだ。一度話したんだったか?」
「うん。お名前は知らなかったから、挨拶しておこうと思ったの」
ほう、さすがお姫様。ずいぶん礼儀正しいな。ロウランが向き直ると、ヘイズはぎくりと肩を震わせて、それと分からないくらい後ずさった。
「ご挨拶が遅れたの。ロウラン・ザ・アンダーメイデンです。昔はここの姫だったけど、今はこの人の仲間なの♪」
「は、はは……ええっと、この隊を率いている、ヘイズです……さ、さきほどは、道を教えていただき、ありがとうございました……」
ヘイズは完全にビビっていた。幽霊と分かったとたんにこれだ。重症だな、こいつの幽霊恐怖症は。その原因となったウィルは複雑そうな顔をしていた。
そんなヘイズの様子を知ってか知らずか、ロウランはにっこりと笑って返した。
「どういたしましてなの。隊長さんには、これからもお世話になると思うから。だから、アタシの“旦那様”を、どうぞよろしくお願いします、なの」
「は?」
この声は、俺じゃない。俺よりも早く反応したやつが、一人いたんだ。
「それ……どういう意味?」
恐ろしく低い声でそう言ったのは、馬車の隅でじっとしていた、フランだ。
「どういう意味?それって、どういう意味?」
対してロウランは、とぼけた顔でフランを見つめ返す。フランはゆらりと立ち上がると、今にも食いつかんばかりに歯を剥いた。あわわ……
「その耳から辞書を突っ込んであげようか?旦那って言葉の意味を履き違えてるみたいだけど」
「んー、その必要はないと思うな。ちゃーんと分かって使ってるから」
ビリビリビリ。空気に火花が散っているようだ。俺たちはびくびくしながら、ロウランとフランの様子を伺っている。
ど、どうしてこうなったんだ?さっきまで、二人仲良く屋根に並んでいたっていうのに……するとふいに、ロウランは腕を伸ばして、俺の首元に抱き着いてきた。ウィルのようなひんやりとした感触。
「アタシ、やっぱりこの人がいい。この人こそ、アタシの理想の旦那様なの♪」
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