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9章 金色の朝
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それからの俺たちは、日が沈む限界まで走り続ける日々を送った。ストームスティードは文字通り風のごとく駆け、俺たちをぐんぐん北へと運んだ。
途中、ワンパンの町に立ち寄った際には、快活な看板娘・サラのいる宿に泊まった。サラは小麦色の顔をキラキラと輝かせ、俺たちに旅の話をするようねだった。特に、ヴァンパイアに支配された村を救った話は、サラをいたく感動させたようだ。くくく、俺たちの中に本物のヴァンパイアがいると知ったら、サラはどんなリアクションをしたのかな。ちなみにアルルカの顔は苦り切っていた。
それから数日ほどで、俺たちは、高い城壁のそびえたつ都……王都・ペリスティルの目前までたどり着いたのだった。
「見えてきたな……」
王都の高い城壁は、もうすぐそこまで迫ってきている。そういや、こうして正面から王都に入るのは初めてだ。前は秘密の地下通路を通ってだったから。さすがに首都に近づくと人の姿も増えるので、俺たちはその手前でストームスティードを送り返し、徒歩で城門へと向かった。
王都へ続く巨大な門は、前に反乱軍に占拠された際に破壊されてしまって、今はまだ修復中だった。門の片隅に仮設の検閲所が設けられ、その前に商人や旅人の列ができている。俺たちもその列に加わった。
「うわぁ……すごい行列だな。へんてこな奴らばっかりだぞ」
「わたしたちが、それ言う?」
フランのツッコミ。返す言葉もないな。
けどさ、そう思うのも無理ないぜ。だって、この列に並んでいるやつらときたら。ヤギをいっぱい乗せた馬車とか、大きなたるをピラミッドみたいに積んだ荷車とかはまだいい。その中でも特に目を引くのは、エラゼムと同じくらい巨大な大剣を背負った戦士(ドラゴンを討伐してきた帰りだと言われても過言じゃない)だとか、とんがり帽子にキラキラしたアクセサリーをたくさん巻き付けた魔女だとか(箒に腰かけて浮かんでいる……)だ。うわ、羽の生えた馬を連れている人までいるぞ。体は馬だが、頭は鷲のそれだ……ヒッポグリフってやつだろ、あれ?
「なんだって、こんな十人十色な行列なんだ……?」
「恐らく、これが本来の王都の姿なのでしょう」
最近になって、ようやく罪悪感から立ち直ったエラゼムが、珍品ぞろいの列を眺めて言った。
「前回吾輩たちが立ち寄った際は、戦乱の真っただ中でしたからな。平時であれば、国内有数の来訪者を誇る都市です。多くの店が立ち並び、多くの人が集まるのでしょう」
「はぁ~、なるほどなぁ」
するとウィルが、俺の肩をちょいちょいとつついた。
「それに、王都には全国の神殿の聖職者が集まる、大礼拝堂があるんですよ。ほら、シスターやブラザーの姿もちらほらいるでしょう」
あ、ほんとだ。ウィルの指さした先には、ウィルに似た格好のシスターがいる。その少し前には、男性の修道士の姿も見えた。あっちがブラザーか。
「ほんとうなら、勇者が召喚された折には、大礼拝堂で聖殿祈祷が行われるんですけどね」
「ああ、そういやそんなこと言ってたな。たしか、ウィルんとこの神殿の人も行ってたんだっけ」
「ええ。きっとプリースティス様は、儀式が中止になってぷりぷり怒ってたと思いますよ。誰かさんのせいで」
「けっ。じゃあ悪いのは、ロアだな。俺のせいじゃねーや」
「ふふふ。まあ儀式があったらあったで、何かと文句をつけていた気もしますけど。ベッドが固いとか、料理がマズいとか。あの人、すぐ怒るんですから」
「け、けっこうすごい人だったんだな……」
「そりゃぁもう。あはは」
ウィルはくすくす笑っていたが、その直後に一瞬だけ、もの悲しそうな表情を見せた。どきりとして、思わず声をかける。
「ウィル……?」
「はい?あ、列が動きますよ。前に詰めないと」
「あ、お、おう……」
なんだか、うまくごまかされてしまったような……しかし、その後しばらく見ていても、ウィルの顔が再び陰ることはなかった。
そのあとすぐに、俺たちの検問の番が回ってきた。俺がファインダーパスを見せると、王都の衛兵であれど、快く通してくれた。さまさまだな、まったく。
「おぉー……やっぱり、さすが王都だな。ラクーンと同じくらい賑やかじゃないか?」
王都のメインストリートを見た、俺の感想。過去二回とは打って変わって、大勢の人で賑わいを見せている。しかし、ラクーンと全く同じというと、少し語弊があるようだ。ラクーンの賑わいが市場特有の騒がしい賑やかさなのに対し、ここ王都のそれは、ある程度律された華やかさだった。人々は余裕にあふれ、楽しみながら道を歩いているように見える。
ベージュ色のおしゃれなタイルが敷かれた通りは、広くゆったりと作られていて、大きな馬車でもゆうゆうとすれ違うことができる。これだけ広いから、人が多くてもごみごみした印象にならないんだろう。両脇には街路樹が植えられ、木陰に置かれたティーテーブルでは、町民が優雅にお茶を楽しんでいた。
「あたりまえだけど、前来た時とぜんっぜん印象違うな」
前は人っ子一人おらず、代わりに炎とスパルトイで溢れていた。当然こっちが本来の姿なんだろうけど、ギャップがすごすぎて同じ町とは思えない。
「ほんとですね。明るくて、平和で……それに、ずいぶん復興しましたね」
ウィルが街並みを眺めながら言う。建物はところどころ煤けていたり、建て直している最中だったりしたが、それでもずいぶん綺麗になった。俺たちが王都を出た時には、まだ空気に焦げ臭いにおいが残っていて、人々も戦いの余波で不安げだったから。
「けどこれなら、経済活動も再開していると見て間違いなさそうだよな」
「はい?どういう意味ですか?」
「仕事の口が見つかりそうだってこと。さーて、どこから攻めようか」
何よりもまず、仕事の当てがあるかどうかを調べなければいけない。王都広しと言えど、普通なやつが一人もいない我らがパーティにおいては、就ける仕事も限られてくるだろう。アルルカに接客業なんてやらせてみろよ。想像しただけで、胃が痛くなりそうだ。
「この町にはさ、職業案内所みたいなところってあんのかな?」
「そうですな……それでしたら」
エラゼムがすっと手を挙げる。
「桜下殿。一つ提案があるのですが」
「なんか当てがあるのか?」
「いえ、仕事の当てではないのです。それよりもまず、目標を定めたほうが良いのでは?」
「目標?」
「いわゆる、見積もりですな。具体的にどれほどの金額が必要なのか、鍛冶屋に行って見積もってもらいましょう。そのほうが職業選びもしやすくなるのでは、と思いましてな」
「ああー、なるほど。確かにそっちが先だな。オッケー、じゃあまず鍛冶屋に行こう……で、鍛冶屋ってどこだ?」
「……」
誰も答えなかった。そりゃそうだ、俺以外は全員、田舎出身なんだから。
『主様。鍛冶屋の場所なら、私が案内できます』
話を聞いていたのか、アニがシャツの下で、チリンと小さく揺れた。
「こういう時はホント、アニが頼りだな……頼むぜ」
『かしこまりました。町の北西が工房の集まる工業地帯ですので、そちらに向かいましょう』
つづく
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それからの俺たちは、日が沈む限界まで走り続ける日々を送った。ストームスティードは文字通り風のごとく駆け、俺たちをぐんぐん北へと運んだ。
途中、ワンパンの町に立ち寄った際には、快活な看板娘・サラのいる宿に泊まった。サラは小麦色の顔をキラキラと輝かせ、俺たちに旅の話をするようねだった。特に、ヴァンパイアに支配された村を救った話は、サラをいたく感動させたようだ。くくく、俺たちの中に本物のヴァンパイアがいると知ったら、サラはどんなリアクションをしたのかな。ちなみにアルルカの顔は苦り切っていた。
それから数日ほどで、俺たちは、高い城壁のそびえたつ都……王都・ペリスティルの目前までたどり着いたのだった。
「見えてきたな……」
王都の高い城壁は、もうすぐそこまで迫ってきている。そういや、こうして正面から王都に入るのは初めてだ。前は秘密の地下通路を通ってだったから。さすがに首都に近づくと人の姿も増えるので、俺たちはその手前でストームスティードを送り返し、徒歩で城門へと向かった。
王都へ続く巨大な門は、前に反乱軍に占拠された際に破壊されてしまって、今はまだ修復中だった。門の片隅に仮設の検閲所が設けられ、その前に商人や旅人の列ができている。俺たちもその列に加わった。
「うわぁ……すごい行列だな。へんてこな奴らばっかりだぞ」
「わたしたちが、それ言う?」
フランのツッコミ。返す言葉もないな。
けどさ、そう思うのも無理ないぜ。だって、この列に並んでいるやつらときたら。ヤギをいっぱい乗せた馬車とか、大きなたるをピラミッドみたいに積んだ荷車とかはまだいい。その中でも特に目を引くのは、エラゼムと同じくらい巨大な大剣を背負った戦士(ドラゴンを討伐してきた帰りだと言われても過言じゃない)だとか、とんがり帽子にキラキラしたアクセサリーをたくさん巻き付けた魔女だとか(箒に腰かけて浮かんでいる……)だ。うわ、羽の生えた馬を連れている人までいるぞ。体は馬だが、頭は鷲のそれだ……ヒッポグリフってやつだろ、あれ?
「なんだって、こんな十人十色な行列なんだ……?」
「恐らく、これが本来の王都の姿なのでしょう」
最近になって、ようやく罪悪感から立ち直ったエラゼムが、珍品ぞろいの列を眺めて言った。
「前回吾輩たちが立ち寄った際は、戦乱の真っただ中でしたからな。平時であれば、国内有数の来訪者を誇る都市です。多くの店が立ち並び、多くの人が集まるのでしょう」
「はぁ~、なるほどなぁ」
するとウィルが、俺の肩をちょいちょいとつついた。
「それに、王都には全国の神殿の聖職者が集まる、大礼拝堂があるんですよ。ほら、シスターやブラザーの姿もちらほらいるでしょう」
あ、ほんとだ。ウィルの指さした先には、ウィルに似た格好のシスターがいる。その少し前には、男性の修道士の姿も見えた。あっちがブラザーか。
「ほんとうなら、勇者が召喚された折には、大礼拝堂で聖殿祈祷が行われるんですけどね」
「ああ、そういやそんなこと言ってたな。たしか、ウィルんとこの神殿の人も行ってたんだっけ」
「ええ。きっとプリースティス様は、儀式が中止になってぷりぷり怒ってたと思いますよ。誰かさんのせいで」
「けっ。じゃあ悪いのは、ロアだな。俺のせいじゃねーや」
「ふふふ。まあ儀式があったらあったで、何かと文句をつけていた気もしますけど。ベッドが固いとか、料理がマズいとか。あの人、すぐ怒るんですから」
「け、けっこうすごい人だったんだな……」
「そりゃぁもう。あはは」
ウィルはくすくす笑っていたが、その直後に一瞬だけ、もの悲しそうな表情を見せた。どきりとして、思わず声をかける。
「ウィル……?」
「はい?あ、列が動きますよ。前に詰めないと」
「あ、お、おう……」
なんだか、うまくごまかされてしまったような……しかし、その後しばらく見ていても、ウィルの顔が再び陰ることはなかった。
そのあとすぐに、俺たちの検問の番が回ってきた。俺がファインダーパスを見せると、王都の衛兵であれど、快く通してくれた。さまさまだな、まったく。
「おぉー……やっぱり、さすが王都だな。ラクーンと同じくらい賑やかじゃないか?」
王都のメインストリートを見た、俺の感想。過去二回とは打って変わって、大勢の人で賑わいを見せている。しかし、ラクーンと全く同じというと、少し語弊があるようだ。ラクーンの賑わいが市場特有の騒がしい賑やかさなのに対し、ここ王都のそれは、ある程度律された華やかさだった。人々は余裕にあふれ、楽しみながら道を歩いているように見える。
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「はい?どういう意味ですか?」
「仕事の口が見つかりそうだってこと。さーて、どこから攻めようか」
何よりもまず、仕事の当てがあるかどうかを調べなければいけない。王都広しと言えど、普通なやつが一人もいない我らがパーティにおいては、就ける仕事も限られてくるだろう。アルルカに接客業なんてやらせてみろよ。想像しただけで、胃が痛くなりそうだ。
「この町にはさ、職業案内所みたいなところってあんのかな?」
「そうですな……それでしたら」
エラゼムがすっと手を挙げる。
「桜下殿。一つ提案があるのですが」
「なんか当てがあるのか?」
「いえ、仕事の当てではないのです。それよりもまず、目標を定めたほうが良いのでは?」
「目標?」
「いわゆる、見積もりですな。具体的にどれほどの金額が必要なのか、鍛冶屋に行って見積もってもらいましょう。そのほうが職業選びもしやすくなるのでは、と思いましてな」
「ああー、なるほど。確かにそっちが先だな。オッケー、じゃあまず鍛冶屋に行こう……で、鍛冶屋ってどこだ?」
「……」
誰も答えなかった。そりゃそうだ、俺以外は全員、田舎出身なんだから。
『主様。鍛冶屋の場所なら、私が案内できます』
話を聞いていたのか、アニがシャツの下で、チリンと小さく揺れた。
「こういう時はホント、アニが頼りだな……頼むぜ」
『かしこまりました。町の北西が工房の集まる工業地帯ですので、そちらに向かいましょう』
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