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8章 重なる魂
7-2
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それから俺とフランは、町の中をデタラメに走り続けた。このどこかに、ライラがいるはずなんだ。俺はもう一度、あの子に会わなきゃならない。
だが俺の気持ちとは裏腹に、ボーテングの町は非情な一面を覗かせる。人気のない裏路地を走ると、俺たちが子どもにも関わらず、ほとんど服を着ていないような格好の女の人が粘つく視線を向けてくる。強面の男に睨みつけられる事も一度や二度じゃなかった。
「どうなってるんだ……ここって有名な観光地なんだよな?」
「観光地だからといって、治安がいいとは限らないみたいだね」
そう言われれば……観光地には、“そういう店”が多いと聞いたことがある。ここもそうってことか?そんな場所に、ライラが一人で……くそ!急がねえと!
がむしゃらに階段をかけ上り、路地を走り抜け、右に左に角を曲がる。炎天下は容赦なく体力を奪い、俺は目に染み込む汗をぬぐいながら、それでも必死に足を動かした。だが、坂をのぼりきり、見晴らしのいい高台に出た所で、とうとう限界が来てしまった。
「はぁっ、はぁっ……」
「……少し休もう。このままじゃ、あなたが倒れちゃうよ」
肺がぶっ飛びそうだ。本当は、一刻も早くライラの下に向かいたかったけど、さすがに足が動かない。膝ががくがく笑っていた。ちっ、勇者の肉体が、聞いて呆れるな。
高台はちょっとした広場になっていて、街並みが一望できるようになっている。町の向こうには、大きな湖が見えた。白色の砂の丘に、ぽっかりと淡い水色の円が広がっている。さっき部屋の窓から見えたのは、たぶんあの湖だろうな。美しい光景だが、今の俺にはただの大きな水たまりにしか思えなかった。
俺は、高台の崖ぎわに設けられた塀に背中を預けて、ずるずるとしゃがみこんだ。塀が日差しを遮ってくれて、いくらか涼しい。
「……ウィルたち、ライラを見つけられたかな」
「わかんない。もしあの子が本気になれば、誰だって振り切れるとも思う」
「だよな……」
ライラには、天才的な魔術の力がある。彼女の魔法に、何度助けられたことか……あれをフル動員されたら、どんな追っ手だって撒くことができるだろう。時間もかなり経ってしまったし、一筋縄じゃいかないことは明らかだった。
「ライラ……」
俺はつぶやくと、膝の間に顔を埋めた。こんな気分になったのは、この世界に来てから初めてだ。
「……ねえ」
不意に、フランから声を掛けられた。俺は顔を伏せたまま、もごもごと返す。
「……なんだ?」
「聞かせてほしい。あなたの、その頭のこと」
はっとして、俺は思わず顔を上げた。フランは、真剣な表情でこちらを見下ろしている。
「あなたはずっと、その帽子を外そうとはしなかった。それについて何か話すことも」
「……気付いて、たのか」
「たぶん、みんな気付いてるよ。あなたが言わないから、聞かないだけで」
「はは、そりゃそうか。こんなの、どう見ても変だし……」
「そんな理由じゃない。第一、わたしたちの中では、あなたが一番まともでしょ」
それは……そうか。俺以外は、全員アンデッドなんだから。
「でも、それじゃどうして」
「……あなたが、自分の過去について、なにも話そうとしないから」
「……」
「別に、無理に知ろうとは思わなかった。誰だって、話したくない過去はあるから……」
フランは俺から目を離すと、塀の上に腕を乗っけた。
「けど、こうなるなら、話は別。聞いておいたほうがいいと思った」
「こうなる、ってのは?」
「あなたが、傷つくようなこと」
傷つく?俺が?
「それは……さっきのことを、言ってるんだよな」
「そう。ああいうことが今後起こるなら、いっそ教えて。あなたのことを」
「フラン……」
「無理に、とは言わないけど。けど、今のあなたは……今までのどんな時よりも、つらそうに見えるから」
フランは顔を傾けて、ちらりとこちらを見た。俺は思わず、自分の顔を触ってしまった。
「……そんなにか?」
「そんなに」
うぬぬ、鏡があれば見てみたいが……はぁ。
「なんていうか……情けないな。小さな女の子を傷つけてさ。それでこうして、ここで凹んでるんだ。何やってんだ、俺……」
「そうかもね。けど、凹みもしないヤツのほうが、わたしはキライ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「それで、どう?さっきの話」
フランは再び街並みに目を向けると、靴のつま先で塀の根元をコツコツ蹴った。
「わたしたち、それなりに……付き合いも長くなってきたから。その、少しくらいは……信頼があっても、おかしくは……」
「フラン……」
「あ、あなただって、王都でわたしの過去を知ったでしょ。平等な条件だよ」
フランはつま先でいじいじと、石畳をなじった。まるで照れ隠しをする子どものようなしぐさに、俺は落ち込んでいるのも忘れて、くすりと笑った。ぶっきらぼうな言い方だが、フランの気遣いと、優しさが伝わってきたから。さっきより、ずっと胸があたたかい。
「ありがとな、フラン……すぅ、はぁ……よし。聞いて、くれるか?」
「……うん」
俺はゆっくりと、口を開いた。
「……そっか」
俺が長い話を終えると、フランはそれだけを、ぽつりとつぶやいた。気づけば、空は淡い紅色に染まりつつある。ずいぶんと時間を使ってしまったようだ。だがおかげで、体力はすっかり回復した。
「情けないだろ。ライラは、なんにも知らなかったのにな。俺が勝手にテンパって、あいつを傷つけちまったんだ」
「……そういうものだよ。昔の傷って」
フランの口ぶりは、かみしめるかのようだった。フランにもまた、忘れがたい過去がある。
「けど、それはあの子だってわかってるはず。アンデッドなら、みんなそうだ」
「……そうかな。ライラは、こんな俺に腹を立てたんじゃないか」
「それは、あの子に聞いてみなくちゃわからないよ」
……そうだな。ここで悩んでも、答えは出ない。
「その通りだな。よし、もう休憩も十分だ。ライラを探そう」
俺は膝に手をついて立ち上がった。じき日が暮れるだろうが、夜通しかかったって見つけてやる。あきらめるなんて、天地が裂けてもあり得ない!
「あー。張り切ってるところ悪いけどね」
っとと。は?駆け出そうとした俺たちの背中側から、声が聞こえてきた。いや、ちょっと待て。今俺たちがいるのは、街並みを見渡せる高台だぞ?俺たちの背後には、崖しかないはずだ。そう思って振り返ってみたが、やっぱり誰もいない。そりゃそうだ、空でも飛べる奴じゃなけりゃ……
「ちょっと、どこ見てんのよ。うえよ、上」
上……あ!俺たちの上空に、一匹のコウモリが、羽ばたきもせずに空中に静止している。
「アルルカか!」
「そーよ。ったく、鈍い連中ね。あたしほどの力ある存在に気付かないなんて」
コウモリはくるりと宙返りをすると、真っ黒な靄へと姿を変えた。靄は俺のすぐ手前の地面に降り立ったかと思うと、まばたきするほどの間に、黒髪の女の姿へと変わっていた。
「アルルカ、ウィルはどうしたんだ?一緒にいたはずだろ」
「ほんとよ!あの女、あたしをあごで使いやがって。聖職者だからって、調子に乗り過ぎなのよ!」
ああ、アルルカはヴァンパイアだから、シスターのウィルには弱いのか。って、そんなことより。
「それで、そっちはどうなったんだ?ライラは?見つかったか?」
「あんた、それがあたしにモノを聞く態度?ちょっとはねぎらったり、足をなめたりできないの?」
フランが無言で拳を引く。俺はそれを押さえつけると、真剣な目でアルルカを見た。
「頼む、アルルカ。大事なことなんだ」
「……はぁーあ。どいつもこいつも、ガキ一人のためにマジになり過ぎなのよね。わかったわよ」
アルルカは、面白くなさそうに長い黒髪をかき上げる。
「見つかったわよ。とっくにね」
「え!そうなのか!」
よかった!ウィルが見つけてくれたんだな。
「シスターがなだめすかして、連れて帰ったわ。今頃は、宿に戻ってるんじゃない?」
「な、なんだ。そうだったのか……」
全身から力が抜けて、俺は思わず膝に手をついた。でも、見つかってよかった。
「じゃあ、アルルカはそれを伝えに来てくれたのか。ありがとな」
「ま、このあたしを小間使い扱いしたのは、高くつくわよ?そうねぇ、血の一、二吸いくらいで手を打ってあげても……」
「ねえ」
ふんぞり返るアルルカに、フランが鋭く割って入る。
「お前、いつからいたの?」
「え?な、なによいきなり……」
「ライラを見つけたのは、とっくの昔なんでしょ。飛んできたお前が、こんなに時間かかるわけない」
ああ、それもそうだな。今の今まで、俺たちを探し回っていたふうではなかったし……
「な、なによ。どこでどうしてようが、あたしの勝手でしょ」
「盗み聞きしてたんだ?」
「……」
アルルカの目が、泳ぎまくっている。これほど分かりやすいこともなかった。
「なんだアルルカ、聞いてたのか。俺たちの話」
「……ふ、ふん!あんたたちがぼさーっとしてるのが悪いんでしょ!」
「まあ、別にいいけど。アルルカになら、聞かれて困ることでもないしな」
「え」
「え?」
フランとアルルカが、同時にこっちを見た。
「な、なんだよ。いちおう、アルルカも旅をしていく仲間なんだし。この後、みんなにも話すつもりだったからさ」
遅いか早いかの違いだと思ったんだけど、フランは納得がいっていないようだ。逆にアルルカは、ぽかんとした顔をしている。
「そんなことより、早く宿に戻ろうぜ。早くライラに会わないと」
「……うん」
フランはまだ微妙な顔をしていたが、俺が走り出すと、黙って後をついてきた。アルルカは再びコウモリの姿になって、勝手にどこかへ飛んで行ってしまったが、俺たちが宿に着くころには、バルコニーで退屈そうに風に吹かれているのが見えた。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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それから俺とフランは、町の中をデタラメに走り続けた。このどこかに、ライラがいるはずなんだ。俺はもう一度、あの子に会わなきゃならない。
だが俺の気持ちとは裏腹に、ボーテングの町は非情な一面を覗かせる。人気のない裏路地を走ると、俺たちが子どもにも関わらず、ほとんど服を着ていないような格好の女の人が粘つく視線を向けてくる。強面の男に睨みつけられる事も一度や二度じゃなかった。
「どうなってるんだ……ここって有名な観光地なんだよな?」
「観光地だからといって、治安がいいとは限らないみたいだね」
そう言われれば……観光地には、“そういう店”が多いと聞いたことがある。ここもそうってことか?そんな場所に、ライラが一人で……くそ!急がねえと!
がむしゃらに階段をかけ上り、路地を走り抜け、右に左に角を曲がる。炎天下は容赦なく体力を奪い、俺は目に染み込む汗をぬぐいながら、それでも必死に足を動かした。だが、坂をのぼりきり、見晴らしのいい高台に出た所で、とうとう限界が来てしまった。
「はぁっ、はぁっ……」
「……少し休もう。このままじゃ、あなたが倒れちゃうよ」
肺がぶっ飛びそうだ。本当は、一刻も早くライラの下に向かいたかったけど、さすがに足が動かない。膝ががくがく笑っていた。ちっ、勇者の肉体が、聞いて呆れるな。
高台はちょっとした広場になっていて、街並みが一望できるようになっている。町の向こうには、大きな湖が見えた。白色の砂の丘に、ぽっかりと淡い水色の円が広がっている。さっき部屋の窓から見えたのは、たぶんあの湖だろうな。美しい光景だが、今の俺にはただの大きな水たまりにしか思えなかった。
俺は、高台の崖ぎわに設けられた塀に背中を預けて、ずるずるとしゃがみこんだ。塀が日差しを遮ってくれて、いくらか涼しい。
「……ウィルたち、ライラを見つけられたかな」
「わかんない。もしあの子が本気になれば、誰だって振り切れるとも思う」
「だよな……」
ライラには、天才的な魔術の力がある。彼女の魔法に、何度助けられたことか……あれをフル動員されたら、どんな追っ手だって撒くことができるだろう。時間もかなり経ってしまったし、一筋縄じゃいかないことは明らかだった。
「ライラ……」
俺はつぶやくと、膝の間に顔を埋めた。こんな気分になったのは、この世界に来てから初めてだ。
「……ねえ」
不意に、フランから声を掛けられた。俺は顔を伏せたまま、もごもごと返す。
「……なんだ?」
「聞かせてほしい。あなたの、その頭のこと」
はっとして、俺は思わず顔を上げた。フランは、真剣な表情でこちらを見下ろしている。
「あなたはずっと、その帽子を外そうとはしなかった。それについて何か話すことも」
「……気付いて、たのか」
「たぶん、みんな気付いてるよ。あなたが言わないから、聞かないだけで」
「はは、そりゃそうか。こんなの、どう見ても変だし……」
「そんな理由じゃない。第一、わたしたちの中では、あなたが一番まともでしょ」
それは……そうか。俺以外は、全員アンデッドなんだから。
「でも、それじゃどうして」
「……あなたが、自分の過去について、なにも話そうとしないから」
「……」
「別に、無理に知ろうとは思わなかった。誰だって、話したくない過去はあるから……」
フランは俺から目を離すと、塀の上に腕を乗っけた。
「けど、こうなるなら、話は別。聞いておいたほうがいいと思った」
「こうなる、ってのは?」
「あなたが、傷つくようなこと」
傷つく?俺が?
「それは……さっきのことを、言ってるんだよな」
「そう。ああいうことが今後起こるなら、いっそ教えて。あなたのことを」
「フラン……」
「無理に、とは言わないけど。けど、今のあなたは……今までのどんな時よりも、つらそうに見えるから」
フランは顔を傾けて、ちらりとこちらを見た。俺は思わず、自分の顔を触ってしまった。
「……そんなにか?」
「そんなに」
うぬぬ、鏡があれば見てみたいが……はぁ。
「なんていうか……情けないな。小さな女の子を傷つけてさ。それでこうして、ここで凹んでるんだ。何やってんだ、俺……」
「そうかもね。けど、凹みもしないヤツのほうが、わたしはキライ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「それで、どう?さっきの話」
フランは再び街並みに目を向けると、靴のつま先で塀の根元をコツコツ蹴った。
「わたしたち、それなりに……付き合いも長くなってきたから。その、少しくらいは……信頼があっても、おかしくは……」
「フラン……」
「あ、あなただって、王都でわたしの過去を知ったでしょ。平等な条件だよ」
フランはつま先でいじいじと、石畳をなじった。まるで照れ隠しをする子どものようなしぐさに、俺は落ち込んでいるのも忘れて、くすりと笑った。ぶっきらぼうな言い方だが、フランの気遣いと、優しさが伝わってきたから。さっきより、ずっと胸があたたかい。
「ありがとな、フラン……すぅ、はぁ……よし。聞いて、くれるか?」
「……うん」
俺はゆっくりと、口を開いた。
「……そっか」
俺が長い話を終えると、フランはそれだけを、ぽつりとつぶやいた。気づけば、空は淡い紅色に染まりつつある。ずいぶんと時間を使ってしまったようだ。だがおかげで、体力はすっかり回復した。
「情けないだろ。ライラは、なんにも知らなかったのにな。俺が勝手にテンパって、あいつを傷つけちまったんだ」
「……そういうものだよ。昔の傷って」
フランの口ぶりは、かみしめるかのようだった。フランにもまた、忘れがたい過去がある。
「けど、それはあの子だってわかってるはず。アンデッドなら、みんなそうだ」
「……そうかな。ライラは、こんな俺に腹を立てたんじゃないか」
「それは、あの子に聞いてみなくちゃわからないよ」
……そうだな。ここで悩んでも、答えは出ない。
「その通りだな。よし、もう休憩も十分だ。ライラを探そう」
俺は膝に手をついて立ち上がった。じき日が暮れるだろうが、夜通しかかったって見つけてやる。あきらめるなんて、天地が裂けてもあり得ない!
「あー。張り切ってるところ悪いけどね」
っとと。は?駆け出そうとした俺たちの背中側から、声が聞こえてきた。いや、ちょっと待て。今俺たちがいるのは、街並みを見渡せる高台だぞ?俺たちの背後には、崖しかないはずだ。そう思って振り返ってみたが、やっぱり誰もいない。そりゃそうだ、空でも飛べる奴じゃなけりゃ……
「ちょっと、どこ見てんのよ。うえよ、上」
上……あ!俺たちの上空に、一匹のコウモリが、羽ばたきもせずに空中に静止している。
「アルルカか!」
「そーよ。ったく、鈍い連中ね。あたしほどの力ある存在に気付かないなんて」
コウモリはくるりと宙返りをすると、真っ黒な靄へと姿を変えた。靄は俺のすぐ手前の地面に降り立ったかと思うと、まばたきするほどの間に、黒髪の女の姿へと変わっていた。
「アルルカ、ウィルはどうしたんだ?一緒にいたはずだろ」
「ほんとよ!あの女、あたしをあごで使いやがって。聖職者だからって、調子に乗り過ぎなのよ!」
ああ、アルルカはヴァンパイアだから、シスターのウィルには弱いのか。って、そんなことより。
「それで、そっちはどうなったんだ?ライラは?見つかったか?」
「あんた、それがあたしにモノを聞く態度?ちょっとはねぎらったり、足をなめたりできないの?」
フランが無言で拳を引く。俺はそれを押さえつけると、真剣な目でアルルカを見た。
「頼む、アルルカ。大事なことなんだ」
「……はぁーあ。どいつもこいつも、ガキ一人のためにマジになり過ぎなのよね。わかったわよ」
アルルカは、面白くなさそうに長い黒髪をかき上げる。
「見つかったわよ。とっくにね」
「え!そうなのか!」
よかった!ウィルが見つけてくれたんだな。
「シスターがなだめすかして、連れて帰ったわ。今頃は、宿に戻ってるんじゃない?」
「な、なんだ。そうだったのか……」
全身から力が抜けて、俺は思わず膝に手をついた。でも、見つかってよかった。
「じゃあ、アルルカはそれを伝えに来てくれたのか。ありがとな」
「ま、このあたしを小間使い扱いしたのは、高くつくわよ?そうねぇ、血の一、二吸いくらいで手を打ってあげても……」
「ねえ」
ふんぞり返るアルルカに、フランが鋭く割って入る。
「お前、いつからいたの?」
「え?な、なによいきなり……」
「ライラを見つけたのは、とっくの昔なんでしょ。飛んできたお前が、こんなに時間かかるわけない」
ああ、それもそうだな。今の今まで、俺たちを探し回っていたふうではなかったし……
「な、なによ。どこでどうしてようが、あたしの勝手でしょ」
「盗み聞きしてたんだ?」
「……」
アルルカの目が、泳ぎまくっている。これほど分かりやすいこともなかった。
「なんだアルルカ、聞いてたのか。俺たちの話」
「……ふ、ふん!あんたたちがぼさーっとしてるのが悪いんでしょ!」
「まあ、別にいいけど。アルルカになら、聞かれて困ることでもないしな」
「え」
「え?」
フランとアルルカが、同時にこっちを見た。
「な、なんだよ。いちおう、アルルカも旅をしていく仲間なんだし。この後、みんなにも話すつもりだったからさ」
遅いか早いかの違いだと思ったんだけど、フランは納得がいっていないようだ。逆にアルルカは、ぽかんとした顔をしている。
「そんなことより、早く宿に戻ろうぜ。早くライラに会わないと」
「……うん」
フランはまだ微妙な顔をしていたが、俺が走り出すと、黙って後をついてきた。アルルカは再びコウモリの姿になって、勝手にどこかへ飛んで行ってしまったが、俺たちが宿に着くころには、バルコニーで退屈そうに風に吹かれているのが見えた。
つづく
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