上 下
185 / 860
6章 風の守護する都

3-2

しおりを挟む
3-2

パリーン!防護膜が木の枝に当たってはじけ、俺たちは地面に投げ出された。グチョォ!

(ぐちょ……?)

あれ、思ったより地面がやわらかい……クリーム生地に突っ込んだみたいで、俺は少しだけ心地が良かった。

(……?……!!……!?!)

お、おぉ!?頭が抜けない!俺の首から上はぬっぽりと地面にはまって、びくともしなかった。やばい、これシャレにならないぞ。このままじゃ窒息する……!
俺が必死に手足をじたばたさせてもがいていると、何かが、俺の足をむんずとつかんだ。そのまますごい力で引っ張られる。ズボッ!

「ぷはぁ!」

「ちょっと、大丈夫!?」

「ん……?ああ、フランだったのか。助かったよ」

俺が泥まみれの目元を雑にぬぐうと、心配そうな顔をしたフランがこちらをのぞき込んでいた。フランは自分の髪をひとふさつまむと、それを俺の顔に当てて泥をぬぐいはじめた。

「わっ。よせよフラン、汚れちまうぞ」

「いいよ。これぐらいしか、拭けるものがないから」

まあ確かに、俺もフランもぐしょぐしょだったが……フランの髪は絹糸の束のような感触で、俺はこそばゆく思いながらも、されるがままにしていた。

「……はい。とりあえず、取れる泥はとったから」

「そっか。サンキュー、フラン」

俺はフランに礼を言うと、あたりを見渡した。俺たちが突っ込んだのは、川岸に張り出した森の中だった。マングローブのようなくねくねした根っこの木々が、ぬかるんだ地面に根を下ろしている。俺は運よく根っこを避けられたおかげで、ふかふかの泥がクッションになってくれたようだ。

「他のみんなはどこだろう?」

「わかんない。けど、たぶんその辺に……」

フランの言う通り、そのすぐ後に、森の奥から泥だらけのエラゼムとライラが連れ立ってやってきた。

「桜下殿、フラン嬢。ここにおられましたか。ご無事そうでなによりです」

「ああ、なんとかな。エラゼムとライラも大丈夫か?」

「ええ、幸いにして……はて、ウィル嬢の姿が見えませぬな?」

「あれ?ほんとだ。あいつは幽霊だから無事なはずだけど……おーい!ウィルー!」

俺たちは木々の間を、ウィルを探して回った。ほどなくしてフランが、木々の合間をしくしく泣きながら飛んでいるウィルを見つけた。

「あ。あれ」

「ん?あ、いたっ!おーい、ウィル!」

「ふぇ?」

ウィルは俺たちを見つけると、泣き顔をぱあっと輝かせてこちらにすっ飛んできた。

「み、みなさん!ああよかった、無事だったんですね!」

「おう。でもなんだって、ウィルだけはぐれてたんだ?」

「だ、だって。波で防護膜が跳ねたとき、私だけすり抜けて置いてかれちゃったんですもん!ロッドだけが皆さんと一緒に行っちゃって、そしたら皆さん森に落っこちていくし。私、みんなどこかの木にでも刺さっているんじゃないかって、それで……」

「あー、よしよし。心配かけて悪かったって」

ウィルがまたぐずぐずしだしたので、俺はウィルの肩をぽんぽんと叩いた。意外に涙もろいよな、ウィルって。ウィルはずびーっと鼻をすすると、目をこすりながら森の奥を指さした。

「ぐずん。あ、それでなんですけど。さっきロッドだけ見つけたときに、休めそうな場所を見つけたんです。とりあえず、そこまでいきませんか?」

「ほんとか?助かるよ、この泥んこじゃ動きづらくって」

ぬかるみに足をとられながら、俺たちはウィルの案内のもと、木の枝と根っこが絡み合って、広いベッドのようになっている場所まで歩いていった。

「おお、こりゃいいな。座れるだけでめちゃくちゃありがたいぜ」

俺がどっかり座っても、木の根はびくともしなかった。俺はぐっしょり濡れた靴を脱ぐと、逆さまに振って中に入った泥を捨てた。

「みなさんひどい格好ですね……」

ウィルが泥んこになった仲間を見て、あわれそうに目を細める。

「ったく、ひどい目にあったぜ。あの金髪ヤロウ……」

うえ、シャツの中にまで泥が入っている。それに、帽子の中にも……しょうがない、これは後でこっそり取ろう。

「……あっ!しまった、カバンも濡れちまった!まずい、ライラの本が……」

「えっ!」

俺とライラは、慌ててカバンをひっくり返して、ライラの魔法の教科書を確認した。分厚い本には少しだけ水が染みてしまっていたが、そこまでひどい被害は出ていなかった。俺が突っ込んでいたマントがカバーになってくれたらしい。

「よかったぁ」

「ほんとにな……ん、まてよ。エラゼム、あんたのは大丈夫か……?」

俺のカバンはともかく、エラゼムの荷袋には食料が入っているんだぞ。もしそれも泥にやられていたら……エラゼムが重々しくうなずく。

「……一度、被害状況を確認してみましょうか。桜下殿も、お体に本当にお怪我がないかどうかお確かめください」

「そうだな。なんか落っことしたりしてないかな……」

俺たちはいっせいに荷物を広げ、ダメになったものがないか調べて回った。案の定、エラゼムの荷袋も放り出されたときに水に浸かってしまったらしい。泥水が中までしみてしまっていて、小麦粉やパンなんかの食材はダメになってしまっていた。

「……どうにか、洗ったら食えないかな?」

「やめてくださいよ桜下さん、これなんかまっ茶色になってますし……」

ライラが魔法で乾いた風を起こして、無事だった荷物を乾かした。俺の服もぱりっと乾き、気持ち悪いじめっと感はさっぱりなくなった。最後に、俺はフランに“ファズ”の呪文をかけて、雷で焼け焦げてしまった服を元に戻してやった。

「……こうしてみると、ずいぶんこっぴどくやられたなぁ。くっそー、あのヤロー!次あったら覚えてろよ……」

「……あれ?桜下さん、別にあの勇者を倒さなくてもいいって言ってませんでした?」

ウィルがじとっとした目で見てくるが、俺は断固として首を横に振った。

「悔しくないとは言ってないからな!機会があれば、きっちり借りは返す!」

「桜下さん……仲間のほうが大事だって言いきったとき、私、ちょっとかっこいいって思ったのに……」

「だって、許せるか!?あいつ、自分以外みんな女の子でパーティ組んでたんだぞ!しかも全員美人だった!」

「えぇ、そこ?」

「きっとあいつは、みんなからちやほやされて、華々しく冒険に旅立ったパターンの勇者だぞ。ゆ、ゆるせない……うらやましい……」

「や、やっかみ……桜下さん、ちっちゃー……」

「ライラ知ってる。こういうの、タマが小さいっていうんだよね?」

「それは違うと思いますけど……」

俺たちは荷物をしまいなおすと、その日はここで休むことにした。思わぬ来客のせいで、ひどく疲れてしまった。おまけに、街道からは大きく外れてしまった……

「……まあとりあえず、明日のことは、明日考えよう……」

俺と、魔法を連発して気力を消耗したライラは、それこそ泥のように眠りに落ちた。その日の夢にはあの金髪の勇者が現れて、俺は夢の中でまで悔しさに苛まれることとなった……



つづく
====================

【年末年始は小説を!投稿量をいつもの2倍に!】


年の瀬に差し掛かり、物語も佳境です!
もっとお楽しみいただけるよう、しばらくの間、小説の更新を毎日二回、
【夜0時】と【お昼12時】にさせていただきます。
寒い冬の夜のお供に、どうぞよろしくお願いします!

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...