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5章 幸せの形
13-2
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13-2
「うっ……ぐす……」
ライラはべそをかいていた。口を縛られたまま、血で鼻も塞がれ、満足に息もできない。
「ぅ……」
その時、ライラの隣からかすかなうめき声が聞こえてきた。
「むぅ……うー!むー!」
「ライラ……?いたっ。ここ、どこだ……?」
「むー!うーうー!」
「ライラ?喋れないのか?まってな、今助けてやる……」
アルフは手探りでライラの顔に触れると、きつく結ばれた荒縄をまさぐった。
「くっ……くそ、よく見えない。これはほどけないな……」
「うー……」
「大丈夫だよ、ライラ。僕がどうにかしてやるから」
どうにかって、どうする気だ?するとアルフは、体をずらしてライラの背後に回ると、あぐっと荒縄に噛みついた。
「あぐ、あう……」
アルフはなんどもなんども縄に食らいつく。縄は太く丈夫だったが、何度も噛むうちに少しずつ縄目がほどけてきた。
「もう一息だ……うぐっ!」
ブチブチ!縄が一気に緩み、ライラは力任せに引っ張って口かせを外した。
「ぷはっ。とれた!おにぃちゃん、ありがとう!」
「ああ。ライラ、他にけがは無い?」
「うん。おにぃちゃんは?」
「僕も平気だ。さっきまでは、殴られて気を失ってたらしい……しかし、これはどういうことなんだい?どこかに閉じ込められているのか?」
「それが……」
ライラはことのあらましをアルフに説明した。
「そうか……それは、まずいことになったね。ここから出られないのか……」
「ライラのまほーで、箱を燃やしてみる?」
「よせ、丸焼けになっちゃうよ。それよりライラ、なにか明かりを出せないか?あたりが見えればそれでいいんだけど」
「えっと、うん。大きな火じゃなくていいんだよね?それじゃ……」
ライラはぶつぶつつぶやくと、小声で呪文を唱えた。
「ファイアフライ」
ぽっ。小さな蛍光色の火の玉が、一つだけ闇の中に浮かび上がった。その光に照らされて、周囲の様子が、動かない母親が、そしてアルフの顔が黄緑色に照らし出された。
「っ!おにぃちゃん!血が、ケガしてる!」
アルフは口もとからだらだらと血を流していた。
「ああ、縄を食いちぎるときに、少しね。平気だよ、歯が一本抜けただけさ」
アルフがにこりと笑うと、犬歯が一本欠けていた。痛そうだ、とても大丈夫とは言えないと思うが……
「それより、まいったな。やっぱり抜けられそうな穴はないか……それに、外の明かりが少しも見えない」
アルフは辺りをざっと調べると、諦めたように首を振った。
「ダメだ。ライラ、火を消してくれ」
「いいの?」
「ああ。たぶん僕たちは、この箱ごと地面のなかに埋められてる。ここで火を焚き続けたら、すぐ空気がなくなってしまうよ」
ライラは慌てて、ファイアフライの火を消した。たちまち闇が押し寄せ、真っ黒な視界にアルフの顔が白い残像となって残った。
「で、でもどうしよう?どうやって外に出たらいいの?」
「……ライラ、テレポートする魔法は使える?」
「ううん。そのまほーは、まだ覚えられてない……」
「じゃあ、トンネルか何かを作れないかな?地中を移動したりとか」
「それもダメ。それは地属性のまほーだから、ライラは使えないの。ライラができるのは、火と風だけなんだ」
(え?)
待ってくれ、変だぞ。ライラは火・水・風・地と、実に四属性もの魔法が使えたはずだ。確かアニいわく、それだけの属性を持つことはとても珍しいことで……属性は魂によって決定されるから、産まれた時から変わることはなかったはずだ……
「地属性か……それなら……」
アルフは、何かしきりにぶつぶつとつぶやいている。
「……ライラ。地属性の、トンネルか何かを作るような魔法だけど、使い方は知ってるのかい?」
「へ?う、うん。本で読んだから、覚えてはいるけど……」
「なら、もし使えるとしたら、お前はここを脱出できるんだね?」
「それは、できる、かもだけど。けど、絶対無理だよ。魂を変えることは出来ないって、本に書いてあったもん」
「うん……そうだね」
「ねえ、いっそ土ごと吹き飛ばしてみる?爆発でどかーんって」
「ダメだよ、それにこんな狭いところで、威力のある魔法は使えない。反動が来たら大変だ」
「そっかぁ。じゃあ……」
ライラたちはあれやこれやと意見を出し合ったが、結局妙案は出てはこなかった。
「……まいったね。はぁ、いい案が思いつかないよ、はぁ……」
「ふぅ、ふぅ……ねぇ、なんか苦しくない……?」
「く、空気が、減ってきてるんだ……ライラ、風を、起こすことはできる?」
「かぜ?うん……」
ライラは酸欠でふらふらしながら、なんとか呪文を唱え切った。
「ウィンド、ローズ」
ひゅおおお。密閉されていたはずの空間に、突如風が吹き込んだ。途端に息苦しさが解消される。
「おお、すごいねライラ。一気に楽になったよ」
「はぁ、あはは、ほんとだね!これはね、どこかで吹いてる風を呼び出すまほーなの。ねぇ、これなら火を起こしてもいいんじゃない?」
「うーん……いや、なるべくそれはやめておこう。それでも空気は貴重だし、毒のある煙が出ないとも限らないから」
「そっかぁ。ねぇ、じゃあ風にライラたちの声を乗せてみる?たすけてーって」
「……誰に、助けを求めるんだい?村の連中だったら、むしろとどめを刺しにくるよ。あいつらには気付かれないほうがいい」
それは、確かにそうだ。ライラたちをその場で殺さなかったのは、わずかな良心と、殺人への抵抗からだろうか?けど、あの乱暴な大男は、そうとも限らないぞ。二人が生きていると知ったら、確実な方法をとるかも知れない。
「……ねぇ、おにぃちゃん。ライラたち、このままここで死んじゃうのかな……」
「ライラ……絶対に、そんな事にはさせない。僕が……何をしてでも、お前をここから出してあげるから」
アルフが、固い声でそう告げた。しかし……こんなの、一人でどうにかできる状況をはるかに超えているじゃないか。だがきっと、この後アルフはライラをここから脱出させることができたのだろう。現代にライラがいることがその証拠だ。その代りに、アルフは……彼はいったい、どうやってライラを助け出したのだろう?
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「うっ……ぐす……」
ライラはべそをかいていた。口を縛られたまま、血で鼻も塞がれ、満足に息もできない。
「ぅ……」
その時、ライラの隣からかすかなうめき声が聞こえてきた。
「むぅ……うー!むー!」
「ライラ……?いたっ。ここ、どこだ……?」
「むー!うーうー!」
「ライラ?喋れないのか?まってな、今助けてやる……」
アルフは手探りでライラの顔に触れると、きつく結ばれた荒縄をまさぐった。
「くっ……くそ、よく見えない。これはほどけないな……」
「うー……」
「大丈夫だよ、ライラ。僕がどうにかしてやるから」
どうにかって、どうする気だ?するとアルフは、体をずらしてライラの背後に回ると、あぐっと荒縄に噛みついた。
「あぐ、あう……」
アルフはなんどもなんども縄に食らいつく。縄は太く丈夫だったが、何度も噛むうちに少しずつ縄目がほどけてきた。
「もう一息だ……うぐっ!」
ブチブチ!縄が一気に緩み、ライラは力任せに引っ張って口かせを外した。
「ぷはっ。とれた!おにぃちゃん、ありがとう!」
「ああ。ライラ、他にけがは無い?」
「うん。おにぃちゃんは?」
「僕も平気だ。さっきまでは、殴られて気を失ってたらしい……しかし、これはどういうことなんだい?どこかに閉じ込められているのか?」
「それが……」
ライラはことのあらましをアルフに説明した。
「そうか……それは、まずいことになったね。ここから出られないのか……」
「ライラのまほーで、箱を燃やしてみる?」
「よせ、丸焼けになっちゃうよ。それよりライラ、なにか明かりを出せないか?あたりが見えればそれでいいんだけど」
「えっと、うん。大きな火じゃなくていいんだよね?それじゃ……」
ライラはぶつぶつつぶやくと、小声で呪文を唱えた。
「ファイアフライ」
ぽっ。小さな蛍光色の火の玉が、一つだけ闇の中に浮かび上がった。その光に照らされて、周囲の様子が、動かない母親が、そしてアルフの顔が黄緑色に照らし出された。
「っ!おにぃちゃん!血が、ケガしてる!」
アルフは口もとからだらだらと血を流していた。
「ああ、縄を食いちぎるときに、少しね。平気だよ、歯が一本抜けただけさ」
アルフがにこりと笑うと、犬歯が一本欠けていた。痛そうだ、とても大丈夫とは言えないと思うが……
「それより、まいったな。やっぱり抜けられそうな穴はないか……それに、外の明かりが少しも見えない」
アルフは辺りをざっと調べると、諦めたように首を振った。
「ダメだ。ライラ、火を消してくれ」
「いいの?」
「ああ。たぶん僕たちは、この箱ごと地面のなかに埋められてる。ここで火を焚き続けたら、すぐ空気がなくなってしまうよ」
ライラは慌てて、ファイアフライの火を消した。たちまち闇が押し寄せ、真っ黒な視界にアルフの顔が白い残像となって残った。
「で、でもどうしよう?どうやって外に出たらいいの?」
「……ライラ、テレポートする魔法は使える?」
「ううん。そのまほーは、まだ覚えられてない……」
「じゃあ、トンネルか何かを作れないかな?地中を移動したりとか」
「それもダメ。それは地属性のまほーだから、ライラは使えないの。ライラができるのは、火と風だけなんだ」
(え?)
待ってくれ、変だぞ。ライラは火・水・風・地と、実に四属性もの魔法が使えたはずだ。確かアニいわく、それだけの属性を持つことはとても珍しいことで……属性は魂によって決定されるから、産まれた時から変わることはなかったはずだ……
「地属性か……それなら……」
アルフは、何かしきりにぶつぶつとつぶやいている。
「……ライラ。地属性の、トンネルか何かを作るような魔法だけど、使い方は知ってるのかい?」
「へ?う、うん。本で読んだから、覚えてはいるけど……」
「なら、もし使えるとしたら、お前はここを脱出できるんだね?」
「それは、できる、かもだけど。けど、絶対無理だよ。魂を変えることは出来ないって、本に書いてあったもん」
「うん……そうだね」
「ねえ、いっそ土ごと吹き飛ばしてみる?爆発でどかーんって」
「ダメだよ、それにこんな狭いところで、威力のある魔法は使えない。反動が来たら大変だ」
「そっかぁ。じゃあ……」
ライラたちはあれやこれやと意見を出し合ったが、結局妙案は出てはこなかった。
「……まいったね。はぁ、いい案が思いつかないよ、はぁ……」
「ふぅ、ふぅ……ねぇ、なんか苦しくない……?」
「く、空気が、減ってきてるんだ……ライラ、風を、起こすことはできる?」
「かぜ?うん……」
ライラは酸欠でふらふらしながら、なんとか呪文を唱え切った。
「ウィンド、ローズ」
ひゅおおお。密閉されていたはずの空間に、突如風が吹き込んだ。途端に息苦しさが解消される。
「おお、すごいねライラ。一気に楽になったよ」
「はぁ、あはは、ほんとだね!これはね、どこかで吹いてる風を呼び出すまほーなの。ねぇ、これなら火を起こしてもいいんじゃない?」
「うーん……いや、なるべくそれはやめておこう。それでも空気は貴重だし、毒のある煙が出ないとも限らないから」
「そっかぁ。ねぇ、じゃあ風にライラたちの声を乗せてみる?たすけてーって」
「……誰に、助けを求めるんだい?村の連中だったら、むしろとどめを刺しにくるよ。あいつらには気付かれないほうがいい」
それは、確かにそうだ。ライラたちをその場で殺さなかったのは、わずかな良心と、殺人への抵抗からだろうか?けど、あの乱暴な大男は、そうとも限らないぞ。二人が生きていると知ったら、確実な方法をとるかも知れない。
「……ねぇ、おにぃちゃん。ライラたち、このままここで死んじゃうのかな……」
「ライラ……絶対に、そんな事にはさせない。僕が……何をしてでも、お前をここから出してあげるから」
アルフが、固い声でそう告げた。しかし……こんなの、一人でどうにかできる状況をはるかに超えているじゃないか。だがきっと、この後アルフはライラをここから脱出させることができたのだろう。現代にライラがいることがその証拠だ。その代りに、アルフは……彼はいったい、どうやってライラを助け出したのだろう?
つづく
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