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5章 幸せの形
10-1 切り札
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10-1 切り札
「見たまえ諸君!これを見てなお、私が君たちより下だといえるかね?勝ち目があると思えるかね!」
くっそ、ふざけんな!どう見ても強そうじゃないか!俺は完成したアイアンゴーレムを前に、唇をかんだ。まだこんな隠し球があったなんて。あの野郎、こいつを呼び出すために、わざわざここまで逃げてきたんだな。
「アニ、あいつに弱点とかってないのかよ!?」
『それが、弱点と言われましても……見た通り、全身が鋼鉄です。そのへんの武器では傷一つ与えられません!』
「くぅ~、わかっちゃいたけども!」
『しかし、ゴーレムの召喚だなんて高等魔法を、一体どうやって……』
くそ、戦おうにも、どこから攻めていいのかすらわからない。下手に踏み込んだら、あの巨体でぺしゃんこにされちまうぞ。たじろぐ俺たちを見て、村長は得意気に笑った。
「ははははは!まさしく、手も足も出ないことでしょう!一気に形勢逆転ですな!」
村長はアイアンゴーレムの前に躍り出ると、両腕を広げて命令した。
「さぁ、鋼鉄の怪物よ!やつらを思うさま蹂躙しろ!そしてやつらをひき肉に……」
その時だった。
「……え?」
アイアンゴーレムが片腕を振り上げた。まるで巨大な鉄槌のような拳は、有頂天になって騒いでいた村長の真上でぴたりと静止する。一瞬、この場にいる全員の呼吸が止まった。もっとも、実際に息をしていたのは俺、ライラ、ミシェル、村長の四人だけだが……
グチャ!
アイアンゴーレムが拳を振り下ろした。まばたきするほどの間に、息をしている人間は三人に減ってしまった。俺は、目の前で赤黒い肉の塊になってしまったヴォール村長を、呆然と見つめていた。
『主様、あいつから離れてください!早く!』
「え?お、おう。けど、ああ!ミシェルが!」
ミシェルは目の前で村長が惨殺されて、完全に腰が抜けてしまっていた。今、アイアンゴーレムの一番近くにいるのはミシェルだ。
「ミシェルを助けないと!」
「私が行くから、あなたは下がってて!」
俺が何か言うよりも早く、フランが弾丸のように飛び出して行って、ミシェルを荷物のように担ぎ上げた。アイアンゴーレムは一瞬フランに反応したが、彼女の俊足に目がついていけていない。フランを捕まえようと手を伸ばしたが、宙をつかんだだけだった。
「クソッ。アニ、一体なにがどうなってるんだ?なんで村長が……」
俺はアイアンゴーレムから距離を離しながら、アニに問いかけた。
『リンクの消失、暴走です。ゴーレム召喚を未熟な魔導士が行った場合、その力を制御しきれずに逆に襲われてしまう事故がままあるのですが、今回がそれの実例というわけですよ』
俺の隣にいつの間にかやってきていたライラも、同じくうなずく。
「あのひと、スクロールで呪文を発動してたよ。あんな難しいまほー、そんなんで制御できるわけないのに!」
「ちっ、馬鹿なヤローだな。自分の呼び出した魔物に殺されちまうなんて……でも、じゃああのゴーレムは術者のいない魔物ってことだろ?だったらそのうち止まってくれるんじゃ……」
『いいえ。召喚したゴーレムに命令できるのは術者だけですが、存在し続けるために術者本人は必要ありません』
「え?じゃあ、あいつに命令できるやつはいなくなったってことじゃ……」
『その通りです。つまり今あのゴーレムは、手綱の切れた猛獣……制御不能で、手当たり次第に周囲を攻撃し続ける破壊兵器です』
「さ、最悪じゃないか……」
アイアンゴーレムはフランを捕らえることを諦めたのか、村長の血が付いた拳を振り払い、血のりをびゅっと吹き飛ばした。その間にフランがミシェルを抱えて俺たちと合流する。ミシェルはあまりの恐怖に気絶してしまったようだ。フランがなげやりにドサリとミシェルを下すと、いよいよゴーレムの前には俺たちしかいなくなった。ついにこっちへ来るか……!
しかし身構えた俺とは反対に、アイアンゴーレムはこちらに背を向けると、そのままずんずん歩き出した。
「え?おいおいおい、そっちは村の方角だ!まさかあいつ、村の人たちを襲う気なのか?なんか恨みでもあるってのかよ!」
『いいえ、やつにそんなことを考える頭はないはずです!推測するに……もしかすると、より生体反応が多い方に向かっているのかもしれません。そこの方がたくさんのものを破壊できるから……』
おいおい、そりゃなんて悪夢だ。オークの襲撃だけでもあれだけ被害が出たんだぞ。そこにこんなデカブツが現れたらどうなるか、想像するだけでも恐ろしい。
「くそ!無理でもなんでも、止めるしかねえ!ウィル、魔法で足止めできないか?」
「わ、わかりました。やってみます!」
ウィルが杖を握りしめて呪文をつぶやく。そして杖をアイアンゴーレムに向けて、大声で唱えた。
「フレイムパイン!」
ズゴゴゴ!燃える木の柱がゴーレムを取り囲む。よし、これで閉じ込められ……
「ゴゴオオォォォォ!」
バキバキバキィ!アイアンゴーレムは一声吠えると、力任せに炎の柱をへし折ってしまった。
「うそ……」
「うわわわ!おい、伏せろ!」
俺は叫ぶと、隣にいたライラをひっつかんで地面に倒れこんだ。アイアンゴーレムが折れた火柱をぶん投げて、それが俺たちの頭上をすっ飛んでいったからだ。燃える柱はいやと言うほど火の粉を浴びせかけ、俺たちの後方にズドンと転がった。
「デタラメだな、おい……前はエラゼムだって止められたんだぜ?あの魔法」
そのエラゼムは、いつの間にか俺たちの前に立って剣を構えていた。万が一、柱が直撃しないように盾になってくれていたらしい。
「吾輩とあのデカブツでは、体の大きさが違いますからな。背が高い分、上から圧を掛けられるのでしょう」
「エラゼム、お前ならあいつとどうやって戦う?」
「正面切って斬り合うのは避けたいところです。攻めるとすれば、動作の要になっている関節でしょうか。あそこを破壊すれば、少なくとも動きは止められそうです」
なるほど。せめて足だけでも止めちまえば、少なくとも村まで被害が及ぶことはないな。そこから完全にぶっ壊すまででも、なかなか苦労しそうだが……
その時アニが、はっとひらめいたようにぶるりと震えた。
『動作の、かなめ……そうだ、要石!』
「は?なんだって?」
『どうして忘れていたのでしょう!ゴーレムの体には、必ずそのどこかに核となる“要石”が存在するのです!ゴーレムを動かす魔導はそれを軸に展開されているので、まさに心臓部と呼べる部位です。そこを破壊できれば……』
ゴーレムを、止められる……!
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「アニ、あいつに弱点とかってないのかよ!?」
『それが、弱点と言われましても……見た通り、全身が鋼鉄です。そのへんの武器では傷一つ与えられません!』
「くぅ~、わかっちゃいたけども!」
『しかし、ゴーレムの召喚だなんて高等魔法を、一体どうやって……』
くそ、戦おうにも、どこから攻めていいのかすらわからない。下手に踏み込んだら、あの巨体でぺしゃんこにされちまうぞ。たじろぐ俺たちを見て、村長は得意気に笑った。
「ははははは!まさしく、手も足も出ないことでしょう!一気に形勢逆転ですな!」
村長はアイアンゴーレムの前に躍り出ると、両腕を広げて命令した。
「さぁ、鋼鉄の怪物よ!やつらを思うさま蹂躙しろ!そしてやつらをひき肉に……」
その時だった。
「……え?」
アイアンゴーレムが片腕を振り上げた。まるで巨大な鉄槌のような拳は、有頂天になって騒いでいた村長の真上でぴたりと静止する。一瞬、この場にいる全員の呼吸が止まった。もっとも、実際に息をしていたのは俺、ライラ、ミシェル、村長の四人だけだが……
グチャ!
アイアンゴーレムが拳を振り下ろした。まばたきするほどの間に、息をしている人間は三人に減ってしまった。俺は、目の前で赤黒い肉の塊になってしまったヴォール村長を、呆然と見つめていた。
『主様、あいつから離れてください!早く!』
「え?お、おう。けど、ああ!ミシェルが!」
ミシェルは目の前で村長が惨殺されて、完全に腰が抜けてしまっていた。今、アイアンゴーレムの一番近くにいるのはミシェルだ。
「ミシェルを助けないと!」
「私が行くから、あなたは下がってて!」
俺が何か言うよりも早く、フランが弾丸のように飛び出して行って、ミシェルを荷物のように担ぎ上げた。アイアンゴーレムは一瞬フランに反応したが、彼女の俊足に目がついていけていない。フランを捕まえようと手を伸ばしたが、宙をつかんだだけだった。
「クソッ。アニ、一体なにがどうなってるんだ?なんで村長が……」
俺はアイアンゴーレムから距離を離しながら、アニに問いかけた。
『リンクの消失、暴走です。ゴーレム召喚を未熟な魔導士が行った場合、その力を制御しきれずに逆に襲われてしまう事故がままあるのですが、今回がそれの実例というわけですよ』
俺の隣にいつの間にかやってきていたライラも、同じくうなずく。
「あのひと、スクロールで呪文を発動してたよ。あんな難しいまほー、そんなんで制御できるわけないのに!」
「ちっ、馬鹿なヤローだな。自分の呼び出した魔物に殺されちまうなんて……でも、じゃああのゴーレムは術者のいない魔物ってことだろ?だったらそのうち止まってくれるんじゃ……」
『いいえ。召喚したゴーレムに命令できるのは術者だけですが、存在し続けるために術者本人は必要ありません』
「え?じゃあ、あいつに命令できるやつはいなくなったってことじゃ……」
『その通りです。つまり今あのゴーレムは、手綱の切れた猛獣……制御不能で、手当たり次第に周囲を攻撃し続ける破壊兵器です』
「さ、最悪じゃないか……」
アイアンゴーレムはフランを捕らえることを諦めたのか、村長の血が付いた拳を振り払い、血のりをびゅっと吹き飛ばした。その間にフランがミシェルを抱えて俺たちと合流する。ミシェルはあまりの恐怖に気絶してしまったようだ。フランがなげやりにドサリとミシェルを下すと、いよいよゴーレムの前には俺たちしかいなくなった。ついにこっちへ来るか……!
しかし身構えた俺とは反対に、アイアンゴーレムはこちらに背を向けると、そのままずんずん歩き出した。
「え?おいおいおい、そっちは村の方角だ!まさかあいつ、村の人たちを襲う気なのか?なんか恨みでもあるってのかよ!」
『いいえ、やつにそんなことを考える頭はないはずです!推測するに……もしかすると、より生体反応が多い方に向かっているのかもしれません。そこの方がたくさんのものを破壊できるから……』
おいおい、そりゃなんて悪夢だ。オークの襲撃だけでもあれだけ被害が出たんだぞ。そこにこんなデカブツが現れたらどうなるか、想像するだけでも恐ろしい。
「くそ!無理でもなんでも、止めるしかねえ!ウィル、魔法で足止めできないか?」
「わ、わかりました。やってみます!」
ウィルが杖を握りしめて呪文をつぶやく。そして杖をアイアンゴーレムに向けて、大声で唱えた。
「フレイムパイン!」
ズゴゴゴ!燃える木の柱がゴーレムを取り囲む。よし、これで閉じ込められ……
「ゴゴオオォォォォ!」
バキバキバキィ!アイアンゴーレムは一声吠えると、力任せに炎の柱をへし折ってしまった。
「うそ……」
「うわわわ!おい、伏せろ!」
俺は叫ぶと、隣にいたライラをひっつかんで地面に倒れこんだ。アイアンゴーレムが折れた火柱をぶん投げて、それが俺たちの頭上をすっ飛んでいったからだ。燃える柱はいやと言うほど火の粉を浴びせかけ、俺たちの後方にズドンと転がった。
「デタラメだな、おい……前はエラゼムだって止められたんだぜ?あの魔法」
そのエラゼムは、いつの間にか俺たちの前に立って剣を構えていた。万が一、柱が直撃しないように盾になってくれていたらしい。
「吾輩とあのデカブツでは、体の大きさが違いますからな。背が高い分、上から圧を掛けられるのでしょう」
「エラゼム、お前ならあいつとどうやって戦う?」
「正面切って斬り合うのは避けたいところです。攻めるとすれば、動作の要になっている関節でしょうか。あそこを破壊すれば、少なくとも動きは止められそうです」
なるほど。せめて足だけでも止めちまえば、少なくとも村まで被害が及ぶことはないな。そこから完全にぶっ壊すまででも、なかなか苦労しそうだが……
その時アニが、はっとひらめいたようにぶるりと震えた。
『動作の、かなめ……そうだ、要石!』
「は?なんだって?」
『どうして忘れていたのでしょう!ゴーレムの体には、必ずそのどこかに核となる“要石”が存在するのです!ゴーレムを動かす魔導はそれを軸に展開されているので、まさに心臓部と呼べる部位です。そこを破壊できれば……』
ゴーレムを、止められる……!
つづく
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