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5章 幸せの形
6-2
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「くそー、あのバアさん、後味悪くするだけ悪くして帰って行きやがった!」
「じょ、冗談ですよね、きっと」
ウィルがあはは、と笑うが、みじんこも楽しそうじゃなかった。
「ったく、からかうんじゃなかったぜ。まあいい、それじゃ俺たちだけで行こうか?そのサイレンヒル墓地とやらに」
ミシェルが残して行った支給品を持つと、俺たちは空き地の反対側へと、雑草をざくざく踏んで歩き出した。空き地の向こうは薄い林を挟んで、開けた丘陵に繋がっていた。暗くてどれくらい広いのかはわからないが、今いる場所から奥に向かって、緩やかな上り坂になっているようだ。その合間あいまに、白い墓石がぼうっと人影のように立ち並んでいる。
「ここが、サイレンヒル……」
その名の通り、陰気で寂しいところだった。俺は暗さを吹き飛ばすよう、明るく声を出した。
「さて、クエストスタートか。まず始めに何しよう?」
「桜下殿、ミシェル嬢のいう通り、まずは火を焚きましょう。大半の獣は火を恐れますから」
エラゼムが森の方を指さしながら言った。俺たちは森の中から湿気った木の枝を拾い集めると、墓場の入口に積み上げた。ウィルが魔法を唱える。
「ファイアフライ!」
蛍光色の火の玉が当たると、湿気った枝はもくもく煙を吐き出しながら勢い良く燃え始めた。にわかに辺りが明るくなり、墓場の様子がある程度見渡せるようになる。お、思ったよりは広くないぞ。せいぜいサッカーコートくらいだ。相当ほったらかされたのか、雑草がぼうぼうと茂っている。ここにもネギ坊主似の白い花が植えられていた。もしかすると、墓場に備える献花かなにかかもしれない。
「それじゃあ、まずはライラの墓があるかどうかを確かめようか。ない方が嬉しいんだけど……」
「あの、桜下さん……」
「うん?なんだよウィル」
「その、もし本当に、地面の中で何かを叩くような音がしたら、その時は桜下さんを呼んでもいいですよね?ね?」
「うえ、よせよ、なんで俺なんだよ!」
「ネクロマンサーじゃないですか!おばけは友達みたいなものでしょう?」
「じょ、冗談じゃないぜ。そうだとしても、土の中で半分腐ってる友達はごめんだ……」
それから俺たちは三手に分かれた。フラン、ウィル、俺とエラゼムだ……(ウィルは一人になることにさんざんゴネた)。組み分けたのは明かりの都合だ。焚き火がいくら明るいと言っても、墓石に刻まれた小さな文字を見るには不十分だからな。フランは夜目で、ウィルにはランプを、俺とエラゼムはアニの明かりで、それぞれ墓碑銘を調べて回ることにした。俺が墓石に鼻をこすりつけるように調べていると、エラゼムが早速何かを見つけた。
「む。桜下殿、見てくだされ」
エラゼムが示したのは、一つの古ぼけた墓だった。あたり一面に雑草が茂る中、その墓はまるで最近掘り返されたかのように、土がむき出しになっていた。
「げっ、これって」
「グールの仕業でございましょう。それも、どうやらこの一基だけではないようです」
「え?うわ、ほんとだ。あちこちに……」
アニの光を向けてみれば、墓場のそこいらじゅうに土がむき出しの箇所があった。あちこち相当やられているみたいだ。
「ひでぇな。グールのやつ、どのくらい前から住み着いているんだ?」
「これほどになってなお放置しておくとは、この村の者たちはよほどグールを恐れておるようですな」
「……それだけ、そのグールが強いってことかな?」
「わかりませぬ。しかし、出現する時間までわかっているのなら、日中の間に柵を作るだとか、せめて傷んだ墓を直すぐらいはしてもよさそうなものです。やる気があるのかないのか……」
エラゼムは低く唸るだけで、ことさら不安がってはいなかったが、俺は内心けっこうビビっていた。夜の墓場をうろついているのもあるけど、やっぱり魔法が使えるというのが気になる。今まで魔法は、頼もしい存在だった。アニやウィルの魔法に何度助けられたことか……それがいま、俺たちに牙をむこうとしているのだ。
それからは黙々と、墓の主の名前を追っかけて行った。石が風化していたり、苔や泥がこびりついていたりで、判読はなかなか苦労したが、やはりライラという名の墓はどこにもないみたいだ。俺が一安心してほっと息をついた、そのとき……
「きゃあああああぁぁ!」
うわ、びっくりして心臓がひっくり返るかと思った。ウィルの悲鳴だ!
「ウィル!」「ウィル嬢!」
俺とエラゼムは、悲鳴の聞こえた方向へすっ飛んでいった。そのウィルは墓石の間でうずくまり、手をバタバタと振っていた。
「ウィル!どうした、グールが出たか!?」
「あ、わ、お、おうかさん。くち、つき、つち、が……」
「は?」
ウィルは涙目で必死に訴えかけてくるが、ろれつが回ってない。そのとき俺は、ウィルがバタバタしている手が、ある一点を指し示しているのだと気づいた。
「どうした?そこに何かあるのか?」
「あの、あの、土が。地面から、ドンドンって……」
え……う、うそだろ。ミシェルの話、ほんとだったっていうのか?俺は恐る恐るそっちに目を向けてみた。が、特になにもいない。もちろん、地面の中から響く音も聞こえない。
「ウィル、なにか見間違えたんじゃないか?」
「そ、しょんなはずありません!私、たしかに聞いたんですから!地面の下からずんって何かが突き上げてきて、そしたら土がボコって……」
「ん~?」
俺はもう一度注意深く、ウィルの言う箇所を見つめてみた。すると確かに、一か所雑草を押しのけて、土が盛り上がっているところがあった。しかし、これはどう見ても……
「ウィル。俺、こういう土がモコってなってるの、見たことあるんだ。俺のいたところじゃ、これはモグラの仕業だってことになってたんだけど」
「は?もぐら?」
俺はうなずく。この土くれは、過去に見た記憶の中のモグラの巣穴にそっくりだ。エラゼムも腰をかがめて地面を見ると、ガシャリと手を打った。
「おお。まことに、桜下殿のおっしゃる通り。かつて隣村の畑づくりを手伝ったことがあるのですが、そこに住み着いていたモグラどもを思い出しましたぞ。奴らめ、穴から穴へと鼻先を突き出して、吾輩たちをからかいおるのです……おっと、失敬。話をそらしてしまいました」
エラゼムのモグラエピソードも少し気になったけど、俺はほうけているウィルの目を見つめた。
「ほら、エラゼムもああ言ってる。きっと間の悪いモグラがいたんだよ」
「モグラなんかじゃ……!」
ウィルはすぐに反論しようとしたが、思いとどまったように言葉を出すのを止めた。
「……いえ、やっぱり私の思い過ごしだったのかもしれません。あんな話を聞いたから、きっとおばけだと思い込んでしまった、んでしょうね……」
ウィルはまだすっきりしないという顔をしていたが、とりあえずはそういう事だろうと結論付けたみたいだ。
「さ、ところで、ウィルはどうだった?墓石の名前」
「へ?ああ、私が調べた限りでは、ライラさんのものは見つかりませんでした。桜下さんたちも?」
「ああ。あとはフランの結果次第だけど、この墓場にライラはいないような気がするよ。んで、こう言っちゃハクに悪いが、俺たちがこの村でライラと出会うのは難しそうだ」
「そうですね。ここまでくると……あ、あれ?」
だしぬけにウィルが、気の抜けた声を出した。ウィルはほうけた顔でぺたんと地面に座り込んでいる。杖を立て、腕でぐっと体を持ち上げようとしたが、おしりが数センチ浮かんだだけで、すぐにまた尻もちをついた。何してるんだ?
「ウィル、なんだそら?筋トレか何かか?」
「ち、ちがいます。腰が……腰が抜けて、立てない……」
はぁ?幽霊の腰が……
「普段浮いてるんだから、別に困らないんじゃないか?」
「私は普段立ったうえで浮かんでいるんです!」
「あー、わかったわかった。ほら」
俺はかがみこむと、ウィルに背中を向けた。
「え?」
「いつまでも地べたにそうしてるわけにもいかないだろ。おぶされよ、担いでやるから」
「あ、う……すみません、ありがとうございます」
おずおずと、ウィルが俺の背中に乗っかる。幽霊のくせに、ふにっとした感触。背中がひんやりと冷たい。ウィルのおしりの下に手を回すと、拍子抜けするくらい軽々と持ち上がった。霊体だから重さはほとんど感じないんだ。
「にしても、ウィルはびびりだなぁ」
「う……し、しようがないでしょう。怖いものは怖いんですから……」
恥ずかしがっているのか、ウィルの声はいつもよりもしおらしかった。
「……何してんの?」
おわっ……冷たい声が突然俺の耳を突いた。俺とウィルが同時に声のほうを見ると、フランが暗がりの中からぬっとあらわれた所だった。
「なんだ、フランか。お帰り、調べ終わったのか?」
「うん。こっから向こうはなかった。……で、それはなに?」
「ああ、これは……」「あの!私がちょっと立てなくなってしまって。これは一時的に、おぶってもらっているだけというか」
俺をさえぎって、ウィルがまくしたてるように言い訳じみる。一時的に、の部分をえらく強調していた。別にそこまで必死にならなくってもいいんじゃないか?
「ふーん……そう」
「え、ええ。あはは……」
案の定、フランはさほど興味なさそうにぷいっとそっぽを向いた。ほーら、そんなに気にすることないんだ。のに、なぜかウィルの声は若干震えていた。
「それじゃ、やっぱりこの墓地にライラはいなかったってことだな」
「ふむ……結局何の手がかりも得られませんでしたな」
エラゼムが少し残念そうに言う。
「いないってことが分かっただけでも上出来だよ。とりあえず、火のところまで戻ろうか」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
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「くそー、あのバアさん、後味悪くするだけ悪くして帰って行きやがった!」
「じょ、冗談ですよね、きっと」
ウィルがあはは、と笑うが、みじんこも楽しそうじゃなかった。
「ったく、からかうんじゃなかったぜ。まあいい、それじゃ俺たちだけで行こうか?そのサイレンヒル墓地とやらに」
ミシェルが残して行った支給品を持つと、俺たちは空き地の反対側へと、雑草をざくざく踏んで歩き出した。空き地の向こうは薄い林を挟んで、開けた丘陵に繋がっていた。暗くてどれくらい広いのかはわからないが、今いる場所から奥に向かって、緩やかな上り坂になっているようだ。その合間あいまに、白い墓石がぼうっと人影のように立ち並んでいる。
「ここが、サイレンヒル……」
その名の通り、陰気で寂しいところだった。俺は暗さを吹き飛ばすよう、明るく声を出した。
「さて、クエストスタートか。まず始めに何しよう?」
「桜下殿、ミシェル嬢のいう通り、まずは火を焚きましょう。大半の獣は火を恐れますから」
エラゼムが森の方を指さしながら言った。俺たちは森の中から湿気った木の枝を拾い集めると、墓場の入口に積み上げた。ウィルが魔法を唱える。
「ファイアフライ!」
蛍光色の火の玉が当たると、湿気った枝はもくもく煙を吐き出しながら勢い良く燃え始めた。にわかに辺りが明るくなり、墓場の様子がある程度見渡せるようになる。お、思ったよりは広くないぞ。せいぜいサッカーコートくらいだ。相当ほったらかされたのか、雑草がぼうぼうと茂っている。ここにもネギ坊主似の白い花が植えられていた。もしかすると、墓場に備える献花かなにかかもしれない。
「それじゃあ、まずはライラの墓があるかどうかを確かめようか。ない方が嬉しいんだけど……」
「あの、桜下さん……」
「うん?なんだよウィル」
「その、もし本当に、地面の中で何かを叩くような音がしたら、その時は桜下さんを呼んでもいいですよね?ね?」
「うえ、よせよ、なんで俺なんだよ!」
「ネクロマンサーじゃないですか!おばけは友達みたいなものでしょう?」
「じょ、冗談じゃないぜ。そうだとしても、土の中で半分腐ってる友達はごめんだ……」
それから俺たちは三手に分かれた。フラン、ウィル、俺とエラゼムだ……(ウィルは一人になることにさんざんゴネた)。組み分けたのは明かりの都合だ。焚き火がいくら明るいと言っても、墓石に刻まれた小さな文字を見るには不十分だからな。フランは夜目で、ウィルにはランプを、俺とエラゼムはアニの明かりで、それぞれ墓碑銘を調べて回ることにした。俺が墓石に鼻をこすりつけるように調べていると、エラゼムが早速何かを見つけた。
「む。桜下殿、見てくだされ」
エラゼムが示したのは、一つの古ぼけた墓だった。あたり一面に雑草が茂る中、その墓はまるで最近掘り返されたかのように、土がむき出しになっていた。
「げっ、これって」
「グールの仕業でございましょう。それも、どうやらこの一基だけではないようです」
「え?うわ、ほんとだ。あちこちに……」
アニの光を向けてみれば、墓場のそこいらじゅうに土がむき出しの箇所があった。あちこち相当やられているみたいだ。
「ひでぇな。グールのやつ、どのくらい前から住み着いているんだ?」
「これほどになってなお放置しておくとは、この村の者たちはよほどグールを恐れておるようですな」
「……それだけ、そのグールが強いってことかな?」
「わかりませぬ。しかし、出現する時間までわかっているのなら、日中の間に柵を作るだとか、せめて傷んだ墓を直すぐらいはしてもよさそうなものです。やる気があるのかないのか……」
エラゼムは低く唸るだけで、ことさら不安がってはいなかったが、俺は内心けっこうビビっていた。夜の墓場をうろついているのもあるけど、やっぱり魔法が使えるというのが気になる。今まで魔法は、頼もしい存在だった。アニやウィルの魔法に何度助けられたことか……それがいま、俺たちに牙をむこうとしているのだ。
それからは黙々と、墓の主の名前を追っかけて行った。石が風化していたり、苔や泥がこびりついていたりで、判読はなかなか苦労したが、やはりライラという名の墓はどこにもないみたいだ。俺が一安心してほっと息をついた、そのとき……
「きゃあああああぁぁ!」
うわ、びっくりして心臓がひっくり返るかと思った。ウィルの悲鳴だ!
「ウィル!」「ウィル嬢!」
俺とエラゼムは、悲鳴の聞こえた方向へすっ飛んでいった。そのウィルは墓石の間でうずくまり、手をバタバタと振っていた。
「ウィル!どうした、グールが出たか!?」
「あ、わ、お、おうかさん。くち、つき、つち、が……」
「は?」
ウィルは涙目で必死に訴えかけてくるが、ろれつが回ってない。そのとき俺は、ウィルがバタバタしている手が、ある一点を指し示しているのだと気づいた。
「どうした?そこに何かあるのか?」
「あの、あの、土が。地面から、ドンドンって……」
え……う、うそだろ。ミシェルの話、ほんとだったっていうのか?俺は恐る恐るそっちに目を向けてみた。が、特になにもいない。もちろん、地面の中から響く音も聞こえない。
「ウィル、なにか見間違えたんじゃないか?」
「そ、しょんなはずありません!私、たしかに聞いたんですから!地面の下からずんって何かが突き上げてきて、そしたら土がボコって……」
「ん~?」
俺はもう一度注意深く、ウィルの言う箇所を見つめてみた。すると確かに、一か所雑草を押しのけて、土が盛り上がっているところがあった。しかし、これはどう見ても……
「ウィル。俺、こういう土がモコってなってるの、見たことあるんだ。俺のいたところじゃ、これはモグラの仕業だってことになってたんだけど」
「は?もぐら?」
俺はうなずく。この土くれは、過去に見た記憶の中のモグラの巣穴にそっくりだ。エラゼムも腰をかがめて地面を見ると、ガシャリと手を打った。
「おお。まことに、桜下殿のおっしゃる通り。かつて隣村の畑づくりを手伝ったことがあるのですが、そこに住み着いていたモグラどもを思い出しましたぞ。奴らめ、穴から穴へと鼻先を突き出して、吾輩たちをからかいおるのです……おっと、失敬。話をそらしてしまいました」
エラゼムのモグラエピソードも少し気になったけど、俺はほうけているウィルの目を見つめた。
「ほら、エラゼムもああ言ってる。きっと間の悪いモグラがいたんだよ」
「モグラなんかじゃ……!」
ウィルはすぐに反論しようとしたが、思いとどまったように言葉を出すのを止めた。
「……いえ、やっぱり私の思い過ごしだったのかもしれません。あんな話を聞いたから、きっとおばけだと思い込んでしまった、んでしょうね……」
ウィルはまだすっきりしないという顔をしていたが、とりあえずはそういう事だろうと結論付けたみたいだ。
「さ、ところで、ウィルはどうだった?墓石の名前」
「へ?ああ、私が調べた限りでは、ライラさんのものは見つかりませんでした。桜下さんたちも?」
「ああ。あとはフランの結果次第だけど、この墓場にライラはいないような気がするよ。んで、こう言っちゃハクに悪いが、俺たちがこの村でライラと出会うのは難しそうだ」
「そうですね。ここまでくると……あ、あれ?」
だしぬけにウィルが、気の抜けた声を出した。ウィルはほうけた顔でぺたんと地面に座り込んでいる。杖を立て、腕でぐっと体を持ち上げようとしたが、おしりが数センチ浮かんだだけで、すぐにまた尻もちをついた。何してるんだ?
「ウィル、なんだそら?筋トレか何かか?」
「ち、ちがいます。腰が……腰が抜けて、立てない……」
はぁ?幽霊の腰が……
「普段浮いてるんだから、別に困らないんじゃないか?」
「私は普段立ったうえで浮かんでいるんです!」
「あー、わかったわかった。ほら」
俺はかがみこむと、ウィルに背中を向けた。
「え?」
「いつまでも地べたにそうしてるわけにもいかないだろ。おぶされよ、担いでやるから」
「あ、う……すみません、ありがとうございます」
おずおずと、ウィルが俺の背中に乗っかる。幽霊のくせに、ふにっとした感触。背中がひんやりと冷たい。ウィルのおしりの下に手を回すと、拍子抜けするくらい軽々と持ち上がった。霊体だから重さはほとんど感じないんだ。
「にしても、ウィルはびびりだなぁ」
「う……し、しようがないでしょう。怖いものは怖いんですから……」
恥ずかしがっているのか、ウィルの声はいつもよりもしおらしかった。
「……何してんの?」
おわっ……冷たい声が突然俺の耳を突いた。俺とウィルが同時に声のほうを見ると、フランが暗がりの中からぬっとあらわれた所だった。
「なんだ、フランか。お帰り、調べ終わったのか?」
「うん。こっから向こうはなかった。……で、それはなに?」
「ああ、これは……」「あの!私がちょっと立てなくなってしまって。これは一時的に、おぶってもらっているだけというか」
俺をさえぎって、ウィルがまくしたてるように言い訳じみる。一時的に、の部分をえらく強調していた。別にそこまで必死にならなくってもいいんじゃないか?
「ふーん……そう」
「え、ええ。あはは……」
案の定、フランはさほど興味なさそうにぷいっとそっぽを向いた。ほーら、そんなに気にすることないんだ。のに、なぜかウィルの声は若干震えていた。
「それじゃ、やっぱりこの墓地にライラはいなかったってことだな」
「ふむ……結局何の手がかりも得られませんでしたな」
エラゼムが少し残念そうに言う。
「いないってことが分かっただけでも上出来だよ。とりあえず、火のところまで戻ろうか」
つづく
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