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2章 夜の友
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俺は涙をぽろぽろこぼしながら、人生で最も印象深い食事を終えた。果たして俺の体は、この先無事だろうか?
「ふぅ……味はともかく、思ったよりボリュームはなかったな。たくさん採ったと思ったのに」
『潰して、焼きましたからね。水分が抜けて、かさはずいぶん減ったと思いますよ。早いとこ次の村に行きましょう』
「お金はどうしようか……日雇いのバイトとかあるかな」
『さて……ただおそらく、次の村には神殿があるはずです』
「神殿?」
『ええ。前の村、モンロービルには礼拝堂があったでしょう。この地方は礼拝堂の巡礼者のために、神殿が多く建てられているんです。最悪そこに泣きつきましょう。巡礼者でなくても、一泊くらいならさせてくれるはずです』
「なるほど」
『さいあく、巡礼者だと偽ってもいいですし』
「えぇ……」
多少なりとも腹がふくれて、元気を取り戻した俺は、ほどなく峠道をこえた。この世界に来てから、ずいぶん体の調子が良くなった。腹の持ちなんかは、その顕著な例だ。これも勇者の特権ってやつなのかな?
峠を抜けると、開けた高原にでた。うねうねと波打つように、大小の丘が見渡す限り広がっている。緑の海原に出てきたみたいだ。道は高原のすき間を縫うように、大地にくねくねと伸びている。
「ん……」
お?フランが急に立ち止まった。
「フラン?どうした?」
「あれ。あそこ、何かいる」
俺は前方に目を凝らした。あ、ほんとだ。ここからずっといった道沿いに人だかりが見える。
「よく見えたな。あんなとこに集まって、何してるんだろう?」
「わかんない。村の人だとは思うけど」
「よかった、人がいるってことは、村も近いってことだよな。とりあえずいってみようぜ」
気持小走りに道を急ぐ。人だかりに近づくにつれて、そいつらの格好がだんだんはっきりしてきた。集まっているのは、ガタイのいい男たちだ。そしてみんな手に手に、槍やら斧やら武器を持っている。
「なんか、武器持ってるぞ……」
さらに観察を続ける。男たちは腰に道具入れのようなものをぶら下げ、さらに……ボウガン?いや、石弓ってやつか?小さな弩を携えている。重武装だ。物々しい恰好は、のどかな草原におよそ似つかわしくない。畑が無いから、農作業ってわけでもないし、少なくともピクニックを楽しもうって雰囲気じゃないぞ。
「なんか、ちょっときな臭いな……」
アニがその様子を見て、リンと警告するように揺れる。
『恰好を見るに、猟師かレンジャーのようですが……警戒したほうがいいかもしれません。私をしまってください』
「そうだな。フラン、お前も俺の後ろにいろよ。あと、爪は隠しとけ」
俺はアニを服の下にしまうと、フランの前に立ってそろそろ近づいていく。これでパッと見は勇者に見えないはずだ。だけどもし、隣村まで俺のうわさが広まっていたら……こいつらは、俺を待ち構えているのかもしれない。
「ん?ボウズ、なにしてるんだこんなとこで。ここは危ないぞ」
俺の姿を見つけて、中年のおじさん猟師が声をかけてきた。親切そうな顔をしているが、その手にはまさかりが光っている。油断しないほうがよさそうだ。俺は慎重に返事をした。
「この先の村に行くところなんだ。たまたま通りかかったら、人がいっぱいいるから驚いたよ。なにかあったのか?」
「そうか、もしかしてモンロービルからきたのか?だったらお前も聞いてないか、半狼のうわさ」
「え?はんろう?ってなんすか?」
「知らないか?半狼ルーガルー。ほら、オオカミとライカンスロープの半々みたいなやつ」
は?オオカミはわかるが、ライ……なんとかって、なんだ?困惑する俺をよそに、おじさんは話を進める。
「むかーしはこのあたりにもいたんだが、今はこの一つ向こうの山にしかいねえ。俺の父ちゃんたちの時代に大規模な狩りをしてな。ところがだ。最近、群れの一部がこの辺りに移動してきたみたいなんだ。村の羊の三分の一が食われちまった。それだけじゃねえ、数日前に村の娘が一人さらわれた。もう容赦できねえ」
「あ……じゃあ、これから狩りを?」
「そういうことだ。だから悪いなボウズ、俺たちの村に用つってたけど、今は村中それどころじゃねえんだ。でなおしてきな」
「え、まいったな。ようやく着いたと思ったのに……」
「つってもなぁ。オオカミ狩りなんておっかねえことしてる村、お前もいたくねえだろ」
困ったな。この村で補給ができないとなると、次の村までまた腹ペコだ。まさかモンロービルに戻るわけにもいかないし。
「ねぇ」
そのとき、俺の後ろでずっと黙っていたフランが、突然口をはさんできた。おじさんが不思議そうに俺の後ろをのぞき込む。俺は慌てて、手をばたばた降って視界を遮った。
「なんだ、その子?お前さんの妹か?ずいぶん顔色が悪いが……」
「あ、あはは、そんなところ。人見知りでさ、俺の後ろから離れないんだ」
「ほーん……それで、お嬢ちゃん。俺になんか聞きてえのか?」
「その、オオカミ狩りってやつ。私たちも参加したい」
つづく
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Twitterでは、次話の投稿予定や、作中に登場するモンスターなどの設定を公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
読了ありがとうございました。
俺は涙をぽろぽろこぼしながら、人生で最も印象深い食事を終えた。果たして俺の体は、この先無事だろうか?
「ふぅ……味はともかく、思ったよりボリュームはなかったな。たくさん採ったと思ったのに」
『潰して、焼きましたからね。水分が抜けて、かさはずいぶん減ったと思いますよ。早いとこ次の村に行きましょう』
「お金はどうしようか……日雇いのバイトとかあるかな」
『さて……ただおそらく、次の村には神殿があるはずです』
「神殿?」
『ええ。前の村、モンロービルには礼拝堂があったでしょう。この地方は礼拝堂の巡礼者のために、神殿が多く建てられているんです。最悪そこに泣きつきましょう。巡礼者でなくても、一泊くらいならさせてくれるはずです』
「なるほど」
『さいあく、巡礼者だと偽ってもいいですし』
「えぇ……」
多少なりとも腹がふくれて、元気を取り戻した俺は、ほどなく峠道をこえた。この世界に来てから、ずいぶん体の調子が良くなった。腹の持ちなんかは、その顕著な例だ。これも勇者の特権ってやつなのかな?
峠を抜けると、開けた高原にでた。うねうねと波打つように、大小の丘が見渡す限り広がっている。緑の海原に出てきたみたいだ。道は高原のすき間を縫うように、大地にくねくねと伸びている。
「ん……」
お?フランが急に立ち止まった。
「フラン?どうした?」
「あれ。あそこ、何かいる」
俺は前方に目を凝らした。あ、ほんとだ。ここからずっといった道沿いに人だかりが見える。
「よく見えたな。あんなとこに集まって、何してるんだろう?」
「わかんない。村の人だとは思うけど」
「よかった、人がいるってことは、村も近いってことだよな。とりあえずいってみようぜ」
気持小走りに道を急ぐ。人だかりに近づくにつれて、そいつらの格好がだんだんはっきりしてきた。集まっているのは、ガタイのいい男たちだ。そしてみんな手に手に、槍やら斧やら武器を持っている。
「なんか、武器持ってるぞ……」
さらに観察を続ける。男たちは腰に道具入れのようなものをぶら下げ、さらに……ボウガン?いや、石弓ってやつか?小さな弩を携えている。重武装だ。物々しい恰好は、のどかな草原におよそ似つかわしくない。畑が無いから、農作業ってわけでもないし、少なくともピクニックを楽しもうって雰囲気じゃないぞ。
「なんか、ちょっときな臭いな……」
アニがその様子を見て、リンと警告するように揺れる。
『恰好を見るに、猟師かレンジャーのようですが……警戒したほうがいいかもしれません。私をしまってください』
「そうだな。フラン、お前も俺の後ろにいろよ。あと、爪は隠しとけ」
俺はアニを服の下にしまうと、フランの前に立ってそろそろ近づいていく。これでパッと見は勇者に見えないはずだ。だけどもし、隣村まで俺のうわさが広まっていたら……こいつらは、俺を待ち構えているのかもしれない。
「ん?ボウズ、なにしてるんだこんなとこで。ここは危ないぞ」
俺の姿を見つけて、中年のおじさん猟師が声をかけてきた。親切そうな顔をしているが、その手にはまさかりが光っている。油断しないほうがよさそうだ。俺は慎重に返事をした。
「この先の村に行くところなんだ。たまたま通りかかったら、人がいっぱいいるから驚いたよ。なにかあったのか?」
「そうか、もしかしてモンロービルからきたのか?だったらお前も聞いてないか、半狼のうわさ」
「え?はんろう?ってなんすか?」
「知らないか?半狼ルーガルー。ほら、オオカミとライカンスロープの半々みたいなやつ」
は?オオカミはわかるが、ライ……なんとかって、なんだ?困惑する俺をよそに、おじさんは話を進める。
「むかーしはこのあたりにもいたんだが、今はこの一つ向こうの山にしかいねえ。俺の父ちゃんたちの時代に大規模な狩りをしてな。ところがだ。最近、群れの一部がこの辺りに移動してきたみたいなんだ。村の羊の三分の一が食われちまった。それだけじゃねえ、数日前に村の娘が一人さらわれた。もう容赦できねえ」
「あ……じゃあ、これから狩りを?」
「そういうことだ。だから悪いなボウズ、俺たちの村に用つってたけど、今は村中それどころじゃねえんだ。でなおしてきな」
「え、まいったな。ようやく着いたと思ったのに……」
「つってもなぁ。オオカミ狩りなんておっかねえことしてる村、お前もいたくねえだろ」
困ったな。この村で補給ができないとなると、次の村までまた腹ペコだ。まさかモンロービルに戻るわけにもいかないし。
「ねぇ」
そのとき、俺の後ろでずっと黙っていたフランが、突然口をはさんできた。おじさんが不思議そうに俺の後ろをのぞき込む。俺は慌てて、手をばたばた降って視界を遮った。
「なんだ、その子?お前さんの妹か?ずいぶん顔色が悪いが……」
「あ、あはは、そんなところ。人見知りでさ、俺の後ろから離れないんだ」
「ほーん……それで、お嬢ちゃん。俺になんか聞きてえのか?」
「その、オオカミ狩りってやつ。私たちも参加したい」
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