23 / 41
王国へ
しおりを挟む帝国を攻め込んだ貴族兵はレオン王子達を残して全滅した。
街の至る所から煙がもくもくと上がる。
帝国民たちは避難所から出てきて、街の再建をすぐさま始めて行った。
やっぱり強い国民ね。王国が攻め込まれて怖かったと思うし、もし帝国が負けたら最悪の事態を予測できたと思うのに……
私の足元でうごめく物体があった。
「むむむ……むむ!! むー!!」
剣で刺そうが、槍で突こうが、炎で燃やしても、私の力を使っても力尽きない聖女。
死んでは蘇り、死んでは蘇りを繰り返していた。
最終的にギルの剣で串刺しにして、私の力を伝わらせたロープで縛り付ける事にした。
後はギルのお父さん……皇帝に引渡せばいいのかな……これどうしよ?
ギルは隣でカインの持ち物であろう槍を手に持って思いを馳せていた。
その表情は嬉しそうで悲しそうで苦しそうで……
「ふん、貴様らしいな。返すぞ!!」
ギルは力任せに槍をはるか空の彼方へと飛ばした。
槍は唸りをあげ、風を切り裂き、空へ消えていった。
ギルは軽く溜息を吐くと私達に告げた。
「……俺たち帝国はやられたらやり返す。聖女に操られていた? そんなのいいわけだ。おい、レオンそうだろ?」
アリッサによって回復魔法をかけられているレオンが苦しそうに頷いた。
「……そうです。聖女の力は、自分自身が持っている悪い心を増幅させるだけです。……私達王国民は傲慢になりすぎていました。魔力をうまく使えるからといって他の国を見下していました」
「ふん。貴様にも来てもらおう」
「ど、どこにですか? 私はクリスに謝罪をしたら処刑では……」
「狂った王国民の後始末だ」
テッドが私の横にいつの間にかいた。
「そうでしゅ! ……聖女の呪いは一部の人間にしかかかっていないハズでしゅ! なのに……なのにクリス様は……みんなに……」
「テッド……」
小さなテッドの顔が大人びて見える。
いつの間にかこんなに立派になっちゃって……嬉しくて頭をなでたくなっちゃう。
そんな私達を見てレオンがボソボソ呟いた。
「……確かに聖女の魅了の力は王国民全員に行き渡っているわけではなかった。主要な人間だけが……あれが王国民の本性? 石を投げつける人間性なのか? なぜほとんどの人間はクリスの短剣を受けて死んでしまったのだ? 俺はなんで生き残れたんだ?」
ギルはツカツカとレオンの所まで近づいて、胸倉を掴んだ。
「ちょっとレオン!? 傷が開くわよ! ぶっちゃけ死んでもいいけどさ!」
「……ふん、王国でクリスに刺されたおかげだな。貴様は後悔することができた。だから芯まで腐ってなかったんだろう。クリスに感謝しろ」
「あ、ああ……クリス……俺は……」
レオンは私に向かって土下座を始めてしまった!?
ちょ、ちょっと、面倒くさいわ……
レオンが真人間になろうとしてるとか、どうでもいいし……
私は帝国を守れただけでいいの。
「うん、レオンは二度と顔を見せないでくれればそれでいいわ」
「ふん、それでいいだろう。殺すほどでもない。……王国を統治するために必要だしな」
「え!? 行くって、まさか王国!?」
「ああ、もちろんだ。俺のクリスを虐げた王国民を許せるわけない。……聖女を引きずり回して王国に乗り込むぞ」
ギルはスマート水晶を手に持って、城にいるであろうお父さんと話し始めた。
ああ、わかった、そうだ、と短い相づちだけが聞こえてくる。
水晶を切り、私の手を掴んだ。
「クリス、君のトラウマを全て消し去ろう。――王国を破壊するぞ!!!」
ギルはプリムを踏んづけて高らかを声をあげた!!
0
お気に入りに追加
819
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷な悪役令嬢の婚約破棄は終わらない
アイアイ
恋愛
華やかな舞踏会の喧騒が響く宮殿の大広間。その一角で、美しいドレスに身を包んだ少女が、冷ややかな笑みを浮かべていた。名はアリシア・ルミエール。彼女はこの国の公爵家の令嬢であり、社交界でも一際目立つ存在だった。
「また貴方ですか、アリシア様」
彼女の前に現れたのは、今宵の主役である王子、レオンハルト・アルベール。彼の瞳には、警戒の色が浮かんでいた。
「何かご用でしょうか?」
アリシアは優雅に頭を下げながらも、心の中で嘲笑っていた。自分が悪役令嬢としてこの場にいる理由は、まさにここから始まるのだ。
「レオンハルト王子、今夜は私とのダンスをお断りになるつもりですか?」
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。
❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。
それは、婚約破棄&女の戦い?
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる