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変わってしまった幼馴染
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飲んだ帰りなのか、ほんのりと顔が赤いエスト。
帝都に来てエストは変わってしまった。いや、俺も含めてみんな変わってしまったんだ。
闘技場の上位者は結構な額の金を稼げる。
エストは帝都の有名クラブで毎晩飲んで踊って騒いでいる。それでもパーティーに貢献しているから許されているのだ。
ハヤトは闇賭博で賭けをしているのを知っている。帝都金融から督促状が来ていたマリは酒に溺れてアル中一歩手前だ。隠しているつもりだが、いつも酒臭いからわかる。
俺は、ただ、弱くなった。
「おう、エスト。お前も俺のパーティー追放に賛成したんだよな」
「はっ? 当たり前じゃないの。だってあんた弱すぎるのよ。雑用で十分よ」
エルフと人間のハーフのエスト。俺達のパーティーメンバーであり、一番古い幼馴染だ。
物心つく時から一緒だった。
胸が痛い。なんだろう、この痛みは? 現実を理解しているはずなのに淡い希望を抱いてしまう。
「でもよ、もしも俺の呪いが治ったら――」
「はっ? 現実見なよ。私達はミスリルの更に上のオリハルコンを目指してんのよ。パーティーにお荷物を抱えるほど余裕なんてないわよ。それにもしも治ったとしてもまたレベル上げ? 私達に追いつくのに何年かかるの?」
「そっか、まあそうだよな」
なんだろ、すごく寂しく思えた。
昔も冗談できつい言い方をされたが愛情を感じられた。……今は違う。本気で嫌がって冷たい言葉を投げつけられる。
『絶対私達で一番になろうね! どんな事があっても一緒だよ!』
思い出の中のエストはもう大人になったんだ。夢を見ない、現実だけを見て遊び呆けている。
どんなに遊び人でもギャンブル中毒でもアル中でも結果を出している。みんな俺より強いんだ。
その中でエストはうちのパーティーで最強で特別だ。上を目指す事に対して誰よりも貪欲だ。
エストからは怒りを感じられない。ただ冷たく俺を見ているだけだ。
それは諦めに似た感情にも思える。
そんな風な感情を抱かせて申し訳なく思える。
「……ださっ。言い返しもしないの」
ため息混じりのその言葉は俺の心に食い込む。
こいつは俺の子どもの頃の幻想を今も見ている。もう俺は強くないんだ。
エストは俺に向かって歩く。俺を見ていない。前しか見ていない。
俺の顔を強く平手で叩く。昔なら何でもない衝撃なのに、今はとても痛い。倒れそうになるのをこらえる。
やっと見てくれた視線は……、仲間を見る視線ではなかった。
胸が疼く。多分、俺は子どもの頃エストの事を憧れてたんだろうな……。
「――洗濯物、溜まってるのよ。あんた雑用でしょ。帰ったら仕事しなさいよ」
エストは再び歩く。振り向きもしなかった。
俺は心の中でエストにさよならを告げた。
――多分初恋だったんだ。エスト、今までありがとう。
俺は街を出ることにした。
****
俺が死んでも悲しむ人はもう誰もいない。
身内と呼べる人間は幼馴染たちだけだった。
人生は人との出会いと別れの連続だ。
例えば、そんなに仲良くなかった村人とはもう二度と会うことは無いだろう。
ちょっとした挨拶が最後の別れだったりする。
幼馴染たちとの別れは終わった。
ステータスを開くとレベルは10になっていた。
俺の人生ってなんだったんだろうな? レベルが下がり始め、徐々にパーティーの雰囲気は俺のせいで悪くなり、周囲から馬鹿にされる。
どうにかパーティーを良い方向に頑張ろうとしても、うまく行かなかった。
俺のレベルが原因じゃ仕方ねえ。
追放されても文句言えねえ。
選択肢は二つだ。このままひっそりと暮らしてレベル0になるのを待って死ぬか、レベルの減少を食い止めるために他国へ行ってみるか。
「諦めねえ。一人で旅が出来るかわからねえけど、まだ俺は生きているんだ」
もうパーティーには戻れないけど、諦めの悪さが俺の原動力となっている。
帝都郊外の山、ここは低レベル向けの魔物が出る場所であり、他国を行くためには通る必要がある場所。
「貿易が盛んな自由都市を目指すとするか。徒歩だと二週間はかかるか……」
俺が帝都内で死ぬと、英雄登録所に自動的に死亡の通知が行く。闘技場の英雄は管理されているんだ。
国を出たらその影響は受けない。
元パーティーメンバーたちに重荷を背負わせたくない。万一でも追放のせいで俺が死んだと思われても困る。あいつらには上に行ってもらわなきゃ。
ムカつく幼馴染たちだけど、大事な思い出だ。
「レベル10なら雑魚敵程度なら問題ないか」
ここの低級魔物はゴブリンだったり、コボルトや野犬だ。
正直、一般人でも倒せるレベルだ。やばくなったら逃げればいい。幸い、逃げることは得意だ。
「さて、進むか……、ん? なんだこの音は?」
上の方から戦闘音が聞こえる。この深夜の時間に訓練に出ている英雄はほとんどいない。
一般人は深夜にはこの山に入らない。
先を進むと――
「な、なんでウェアウルフがここにいるのよ⁉」
「し、知らんのじゃ! プリム逃げるのじゃ!!」
「きゃっ!!」
「くそったれじゃ! 頑張るのじゃ!」
木々に隠れながら観察すると、小さな子どもを守るように女の子が戦闘をしていた。
……あれはヤバい。見た感じだとレベルは10程度。ゴブリンの群れ程度なら問題ないが、ウェアウルフはレベル20前後のパーティーが必要だ。
今の俺ではウェアウルフには勝てない。確実に死ぬ。
……身体が勝手に剣を握り締めていた。
帝都に来てエストは変わってしまった。いや、俺も含めてみんな変わってしまったんだ。
闘技場の上位者は結構な額の金を稼げる。
エストは帝都の有名クラブで毎晩飲んで踊って騒いでいる。それでもパーティーに貢献しているから許されているのだ。
ハヤトは闇賭博で賭けをしているのを知っている。帝都金融から督促状が来ていたマリは酒に溺れてアル中一歩手前だ。隠しているつもりだが、いつも酒臭いからわかる。
俺は、ただ、弱くなった。
「おう、エスト。お前も俺のパーティー追放に賛成したんだよな」
「はっ? 当たり前じゃないの。だってあんた弱すぎるのよ。雑用で十分よ」
エルフと人間のハーフのエスト。俺達のパーティーメンバーであり、一番古い幼馴染だ。
物心つく時から一緒だった。
胸が痛い。なんだろう、この痛みは? 現実を理解しているはずなのに淡い希望を抱いてしまう。
「でもよ、もしも俺の呪いが治ったら――」
「はっ? 現実見なよ。私達はミスリルの更に上のオリハルコンを目指してんのよ。パーティーにお荷物を抱えるほど余裕なんてないわよ。それにもしも治ったとしてもまたレベル上げ? 私達に追いつくのに何年かかるの?」
「そっか、まあそうだよな」
なんだろ、すごく寂しく思えた。
昔も冗談できつい言い方をされたが愛情を感じられた。……今は違う。本気で嫌がって冷たい言葉を投げつけられる。
『絶対私達で一番になろうね! どんな事があっても一緒だよ!』
思い出の中のエストはもう大人になったんだ。夢を見ない、現実だけを見て遊び呆けている。
どんなに遊び人でもギャンブル中毒でもアル中でも結果を出している。みんな俺より強いんだ。
その中でエストはうちのパーティーで最強で特別だ。上を目指す事に対して誰よりも貪欲だ。
エストからは怒りを感じられない。ただ冷たく俺を見ているだけだ。
それは諦めに似た感情にも思える。
そんな風な感情を抱かせて申し訳なく思える。
「……ださっ。言い返しもしないの」
ため息混じりのその言葉は俺の心に食い込む。
こいつは俺の子どもの頃の幻想を今も見ている。もう俺は強くないんだ。
エストは俺に向かって歩く。俺を見ていない。前しか見ていない。
俺の顔を強く平手で叩く。昔なら何でもない衝撃なのに、今はとても痛い。倒れそうになるのをこらえる。
やっと見てくれた視線は……、仲間を見る視線ではなかった。
胸が疼く。多分、俺は子どもの頃エストの事を憧れてたんだろうな……。
「――洗濯物、溜まってるのよ。あんた雑用でしょ。帰ったら仕事しなさいよ」
エストは再び歩く。振り向きもしなかった。
俺は心の中でエストにさよならを告げた。
――多分初恋だったんだ。エスト、今までありがとう。
俺は街を出ることにした。
****
俺が死んでも悲しむ人はもう誰もいない。
身内と呼べる人間は幼馴染たちだけだった。
人生は人との出会いと別れの連続だ。
例えば、そんなに仲良くなかった村人とはもう二度と会うことは無いだろう。
ちょっとした挨拶が最後の別れだったりする。
幼馴染たちとの別れは終わった。
ステータスを開くとレベルは10になっていた。
俺の人生ってなんだったんだろうな? レベルが下がり始め、徐々にパーティーの雰囲気は俺のせいで悪くなり、周囲から馬鹿にされる。
どうにかパーティーを良い方向に頑張ろうとしても、うまく行かなかった。
俺のレベルが原因じゃ仕方ねえ。
追放されても文句言えねえ。
選択肢は二つだ。このままひっそりと暮らしてレベル0になるのを待って死ぬか、レベルの減少を食い止めるために他国へ行ってみるか。
「諦めねえ。一人で旅が出来るかわからねえけど、まだ俺は生きているんだ」
もうパーティーには戻れないけど、諦めの悪さが俺の原動力となっている。
帝都郊外の山、ここは低レベル向けの魔物が出る場所であり、他国を行くためには通る必要がある場所。
「貿易が盛んな自由都市を目指すとするか。徒歩だと二週間はかかるか……」
俺が帝都内で死ぬと、英雄登録所に自動的に死亡の通知が行く。闘技場の英雄は管理されているんだ。
国を出たらその影響は受けない。
元パーティーメンバーたちに重荷を背負わせたくない。万一でも追放のせいで俺が死んだと思われても困る。あいつらには上に行ってもらわなきゃ。
ムカつく幼馴染たちだけど、大事な思い出だ。
「レベル10なら雑魚敵程度なら問題ないか」
ここの低級魔物はゴブリンだったり、コボルトや野犬だ。
正直、一般人でも倒せるレベルだ。やばくなったら逃げればいい。幸い、逃げることは得意だ。
「さて、進むか……、ん? なんだこの音は?」
上の方から戦闘音が聞こえる。この深夜の時間に訓練に出ている英雄はほとんどいない。
一般人は深夜にはこの山に入らない。
先を進むと――
「な、なんでウェアウルフがここにいるのよ⁉」
「し、知らんのじゃ! プリム逃げるのじゃ!!」
「きゃっ!!」
「くそったれじゃ! 頑張るのじゃ!」
木々に隠れながら観察すると、小さな子どもを守るように女の子が戦闘をしていた。
……あれはヤバい。見た感じだとレベルは10程度。ゴブリンの群れ程度なら問題ないが、ウェアウルフはレベル20前後のパーティーが必要だ。
今の俺ではウェアウルフには勝てない。確実に死ぬ。
……身体が勝手に剣を握り締めていた。
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