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悪魔

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「くくくっ! 私の本当の力を見せてやる! ……まさか勇者達を待ち構えていたら、面白い存在が現れるとはな」

 勇者ははるか北にある帝国から生まれ落ちる。
 魔王が現れる時、勇者が生まれる。

 私は魔王様の誕生までに、人間界を裏から支配することを目的としていた。
 初めに脆弱な王国を、その後は聖女が生まれる予定の聖都、最後に帝国を支配する予定だった。

 ――こんなところで足止めされるとはな……面白い! こうなれば物理的に王国を破壊してやろう! 

 私は脆弱な身体を捨て去って、本来の悪魔の姿を取り戻した。

 王城の窓から魔法を放つ。

「――変異魔法」

 黒い霧が発生して、王国中を覆い、これで王国民が全て魔物に変わるだろう……




「ふっ! さあ行くぞ!! ――え!?」



 黒い霧が聖なる力によって霧散して行った……

 ――あれは聖剣!? ゆ、勇者が蘇ったのか!? 

 数多の聖剣が王国に降り注ぐ。

「おかしいだろ!? 聖剣は一本だけだろうが! ……あ、あれは、伝説の移動要塞……勇者しか稼働出来ない代物……」

 一本の聖剣が私の腹を突き破った。

「ぐっ! こ、これしき……な、なんだ、あれは? 何かが島からとんだくる!? くっ!? 我が配下よ、ここに集まれ!!」

 とりあえず地獄の門から悪魔どもを召喚しておいた。




 **********



「いやっほーー!!」

「きゃ!? ちょっとレンどこ触ってるのよ! ちょ、ちょっとだけならいいわよ……」

「ふぉふぉふぉっ! 儂は古のドラゴン様じゃぞ! 雑魚どもは焼き鳥じゃい!」

 ランク冒険者のレンとプリムが、古のドラゴンの上で大はしゃぎだ。

 ……いつの間にか仲良くなったのよ。

 私とハルトは大きくなったパグ太の上に乗っている。
 もちろんポメ子もいるわ!
 ちなみにパグ太の回りには数十本の聖剣がふわふわ浮かんでいる……

「ばうばう!」

「わふん!」
 ――大きいパグ太君も素敵!

 私はラブラブの二人を無視して指示を出した。

「そのまま王城に攻め込むわよ! 雑魚兵士どもはハム太隊とにゃんこ隊に任せて! 人命救助は異世界人隊よ!」

「ご主人さま! あそこに悪魔がいる! あれは封印されし悪魔だ! 魔王の復活を目論んでいるぞ!」

「え、そんなの知らないわよ! 魔王なんて関係ないわ! 私はこの王国を平和に支配したいだけなの! 邪魔する奴は悪魔でも天使でも相手するわよ!」

「りょ、了解した」

 ハルトが何か考えている。

「どうしたの?」

 言いずらそうなハルト。

「……ご主人さまの願い……叶ったら、俺は消えてしまうのか……」

 私はハルトの耳を弄ぶ。

「あ、こ、こら! やめろ!?」

「大丈夫よ……ハルトは絶対消えさせない。大切な存在だもん。今はあのクズ王を滅ぼしましょう!」

「ああ……そうだな……ありがとう、ご主人さま」

 うさぎハルトは私の胸に顔を埋めた。
 照れ隠ししているのね! でもこれは私がちょっと恥ずかしいわよ……

 私たちは王国城の天辺に向かった。








 玉座の間には変なオブジェがある……

 ――あれは……剣に刺さってる不細工なハエがいる? あれが悪魔? 動けないで身悶えているわ……苦しそう! 

 まわりの不細工な魔物は古の鳥さんとレンさん達が始末しちゃったのね。

 王宮の玉座の間は魔物の死体だらけ。
 首のない兵士も大勢倒れている。

「きゅきゅ? エリカ来たきゅ! 一人で寂しかったきゅ!」

 短い手で何かを引きずっているアリス。

 ――立て巻き金髪に青いドレス……あれはリディアね!

「きゅきゅ!!」

 アリスは不細工なハエに向かってリディアをポイした。微動だにしないのは気絶してるからかしら?





 不細工なハエが不細工な声で喚く。

「……まさか、勇者の素質を持ったものを召喚するとは……だが、魔王様は近日中に復活する! 世界が闇に覆われるぞ!」

 パグ太の聖剣が刺さってるのね! ……よし!

 私はハエに刺さっていた聖剣をおもむろに引き抜いた。

「ぎゃーー!! ……お、お前は悪魔か!? はぁはぁ……」




 私は聖剣片手にハルトを抱っこした。

「ねえ、ハルト? あれ、虫の息じゃん?」

「……悪魔は聖なる力に弱い。あの聖剣が特別なだけだ。油断するな」

「はぁ……期待はずれね……」

 気絶していたリディアが目を覚ました。

「……う、うーん。……ピンクのうさぎが……。あれ? ここはどこ? ハ、ハエ!? あ、あんた……エリカ!」

 やっと私に気が付いた。

「ごきげんよう、リディア。あなたのエリカが王国に戻ってきましたわ! 私を追放してくれてありがとね! お礼に……転移してあげますわ!」

「あ、あんた何言ってるのよ! あんたなんかハデス王がぶちのめしてくれるわ! ハデス王! ハデス王はどこ!」

 アリスが兵士の首をもって、こっち来た。

「きゅきゅ? 呼んだきゅ?」

「ぎゃーー!! ピ、ピンクの悪魔よ! た、助けて!!」

 リディアのスカートにしみが広がる。

 ――おしっこだ!

「お漏らしリディアは飛んでいきなさい! ――転送魔法「バルハラ|《無間地獄》!」

 私の前に力の渦が出来上がる。
 渦がリディアに近づく。

「い、いや!? た、助けて!! ねえねえ、子供の頃おやつあげたでしょ? ずっと一緒だったよね! わわわ、助けて!!!」

「ばいばーい! 一杯可愛がってもらってね!」

 リディアは渦の中へ消えていった。

 私は胸に手を当てる。

「……うん。いまいちすっきりしないかな? ていうか初めからリディアは眼中になかったしね。まいっか!」


 私はスキップしながらポメ子へ近づいた。

「ねえ、ポメ子。この王国って臭いよね? なんか魔物臭っていうか、なんていうか? ポメ子の力で浄化できる?」

 ポメ子は難しい顔をしていた。

「……わ、ふん」

 ハルトが通訳してくれた。

「どうやら、長年時間を使って王国に染み渡った邪気のようだ。ポメ子だけの魔力では難しいらしい……ん、どうしたポメ子?」

 ポメ子はハルトに吠えた。

「わふん! わふふん!」

「なるほど……パグ太が制御すれば大丈夫か」

 ――え、ちょっと何!?

 ハルトがパグ太に手招きをした。

「パグ太……ちょっとお願いがある……」

「ばうばう? ばう……ばう……ばうばう!」

 パグ太が大きく吠えた。


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