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第三部
第1話 行き先
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気がつくと──あたしは見覚えのある街角に立っていた。
石造りの建物に、露店の立ち並ぶ広場。
ガタガタと車輪を鳴らしながら、石畳の道を馬車が行き交っている。
「──へぇ。ここって中世と近代がミックスしたみたいな街並みなんだな……」
あたしの隣に立つ奏大がのんびりとした感想をもらした。
は? 中世?
近代って何だ?
奏大の言うことはあんまりよくわからないが、彼の知っている世界とここは似ているところがある、ということなんだろう。
「──なぁ、マルサネ。ここがお前の世界なんだなぁ」
物珍しそうに道行く人たちに視線を向けながら奏大が呟いた。
「あぁ──ここはユッカ公国の首都エストで間違いない……」
広場の標識をあたしが確認した、その時。
「──もしかして、あなたさまは!」
若い女のかすれ声に振り向くと、大きなバスケットを抱えたメイドが呆然とこちらを見ていた。
「ルーチェ……」
こうして、こっちについてすぐ。あたしたちは呆気なく我が家の使用人に発見されたのだった。
彼女の名はルーチェ。
我がゲンメ邸のメイドだ。
あのクソオヤジ──ゲンメ公主がその腕に惚れ込んで無理やりスカウトしてきたらしい格闘家メイド。
……リツコがとても仲良くしていた、なかなか良い奴である。
だけどあたしは内心、ガッカリしてしまった。
ゲンメ公女マルサネとしてではなく、ただの娘として奏大を案内してこの街をブラブラ歩いて楽しみたかったのだ。
──奏大や優姫たちと放課後にクレープを食べながらショッピングモールを歩いたように。
「お嬢様。そちらの方はいったい?」
もっともな質問にあたしは思いっきりうろたえた。
そんな訝しげな顔でこっちを見るな、ルーチェ!
まだ、あたし。
奏大をこっちに連れてきたはいいが、この世界でこれからコイツをどうしたら良いかなんて全く考えてなかったんだよぉぉぉぉっ!
「どなたって、あの──そのだなぁ……」
コイツはリツコの息子だよ!と思わず喉の奥まで出かかった言葉を間一髪飲み込む。
リツコのことを知っているルーチェなら信じてくれるような気がするのだが。
万が一、信じてくれなかった場合。
ここで奏大と引き離されてしまってはかなわない。
「うー、あぁんと。あの、ほらアレだ。アレ──その、あたしの新しい……」
「恋人ですか?」
さらりとぶっこんできたルーチェの言葉にあたしはカッと頬に血がのぼるのを感じた。
「ななななな……なんでぇっ! こいこいこい───」
「──ぷはっ!」
ルーチェが我慢できないといった様子で吹き出した。
「どうしたんだ、何がおかしい!?」
「……し、失礼しました。だってお二人ともゆでダコのように真っ赤でいらっしゃるんですもの──」
ルーチェの言葉に隣を見ると、奏大も真っ赤になって固まっていた。
どういうことだ?
なんで奏大まで真っ赤になってるんだ?
これってうつるのか……?
「そんなことより、お嬢様。これからどうなさるおつもりですか?」
すぐに冷静さを取り戻したルーチェが真面目な顔で問いただした。
さすがルーチェ。他の使用人なら今までどこへ行っていたのだ、とわめきたてるだろう。
どうなさる、とおいでになったか。
「うーん。そうだな。ルーチェ、あたしが居なくなってどれくらいたつ?」
「およそ一月ほどかと」
「そうか、一月……」
あたしの妙な質問にもルーチェは淡々と答える。
本当にただのメイドにしておくにはもったいない人材だよ。
ゲンメ公は全くもって人を見る目がない──。
「ゲンメ公は表向き、気まぐれに家を出るのはいつものことなので捨て置けとおっしゃってますが──滞在していると伝えられたカルゾ邸にマルサネお嬢様がいらっしゃらないことを掴んでおられ⋯⋯必死に闇の者たちに捜索をさせておりますよ」
「ふぅん」
へぇ、あたしが居なくてハゲオヤジが困るようなことがあったかな⋯⋯。
「ゲンメ邸へお戻りになられますか? リツコさまはカルゾ邸にいらっしゃいますが──」
あたしの隣で奏大があからさまに、ビクンと反応する。
「リツコ──さま?」
「⋯⋯」
ルーチェは無言で奏大を見つめた。
「そういえばどことなく──この方はリツコさまに似ておられますね?」
さすがルーチェ。
鋭い、鋭過ぎる⋯⋯。
「そうだ! ええと──コイツはリツコの親戚なんだ。それで⋯⋯だな」
また、しどろもどろになるあたし。
「俺はサワイリツコが居た世界からやって来ました。サワイリツコを探している者です。協力してもらえますか?」
奏大が真剣な顔でルーチェを見返した。
「おっ、お前いきなり何を──」
慌てるあたしに、
「大丈夫ですよ、お嬢様」
ルーチェが微笑んだ。
「リツコさまより聞いてます。カナタさまですね?」
「──はい」
淡々とたずねるルーチェに奏大は力強く頷いた。
「では、まずはカルゾ邸に戻りましょう。お嬢様はまだしも貴方のその格好、お嬢様とお揃いですから──少し目立ち過ぎてしまいますよ?」
ルーチェの言葉にあたし達は制服姿のままだったことに気がついた。
確かに。
こちらでお揃いのブレザー姿は珍しいかもしれない。
「では──まずはゲンメ邸へ」
ルーチェの言葉にあたしはコクリ、と頷いた。
石造りの建物に、露店の立ち並ぶ広場。
ガタガタと車輪を鳴らしながら、石畳の道を馬車が行き交っている。
「──へぇ。ここって中世と近代がミックスしたみたいな街並みなんだな……」
あたしの隣に立つ奏大がのんびりとした感想をもらした。
は? 中世?
近代って何だ?
奏大の言うことはあんまりよくわからないが、彼の知っている世界とここは似ているところがある、ということなんだろう。
「──なぁ、マルサネ。ここがお前の世界なんだなぁ」
物珍しそうに道行く人たちに視線を向けながら奏大が呟いた。
「あぁ──ここはユッカ公国の首都エストで間違いない……」
広場の標識をあたしが確認した、その時。
「──もしかして、あなたさまは!」
若い女のかすれ声に振り向くと、大きなバスケットを抱えたメイドが呆然とこちらを見ていた。
「ルーチェ……」
こうして、こっちについてすぐ。あたしたちは呆気なく我が家の使用人に発見されたのだった。
彼女の名はルーチェ。
我がゲンメ邸のメイドだ。
あのクソオヤジ──ゲンメ公主がその腕に惚れ込んで無理やりスカウトしてきたらしい格闘家メイド。
……リツコがとても仲良くしていた、なかなか良い奴である。
だけどあたしは内心、ガッカリしてしまった。
ゲンメ公女マルサネとしてではなく、ただの娘として奏大を案内してこの街をブラブラ歩いて楽しみたかったのだ。
──奏大や優姫たちと放課後にクレープを食べながらショッピングモールを歩いたように。
「お嬢様。そちらの方はいったい?」
もっともな質問にあたしは思いっきりうろたえた。
そんな訝しげな顔でこっちを見るな、ルーチェ!
まだ、あたし。
奏大をこっちに連れてきたはいいが、この世界でこれからコイツをどうしたら良いかなんて全く考えてなかったんだよぉぉぉぉっ!
「どなたって、あの──そのだなぁ……」
コイツはリツコの息子だよ!と思わず喉の奥まで出かかった言葉を間一髪飲み込む。
リツコのことを知っているルーチェなら信じてくれるような気がするのだが。
万が一、信じてくれなかった場合。
ここで奏大と引き離されてしまってはかなわない。
「うー、あぁんと。あの、ほらアレだ。アレ──その、あたしの新しい……」
「恋人ですか?」
さらりとぶっこんできたルーチェの言葉にあたしはカッと頬に血がのぼるのを感じた。
「ななななな……なんでぇっ! こいこいこい───」
「──ぷはっ!」
ルーチェが我慢できないといった様子で吹き出した。
「どうしたんだ、何がおかしい!?」
「……し、失礼しました。だってお二人ともゆでダコのように真っ赤でいらっしゃるんですもの──」
ルーチェの言葉に隣を見ると、奏大も真っ赤になって固まっていた。
どういうことだ?
なんで奏大まで真っ赤になってるんだ?
これってうつるのか……?
「そんなことより、お嬢様。これからどうなさるおつもりですか?」
すぐに冷静さを取り戻したルーチェが真面目な顔で問いただした。
さすがルーチェ。他の使用人なら今までどこへ行っていたのだ、とわめきたてるだろう。
どうなさる、とおいでになったか。
「うーん。そうだな。ルーチェ、あたしが居なくなってどれくらいたつ?」
「およそ一月ほどかと」
「そうか、一月……」
あたしの妙な質問にもルーチェは淡々と答える。
本当にただのメイドにしておくにはもったいない人材だよ。
ゲンメ公は全くもって人を見る目がない──。
「ゲンメ公は表向き、気まぐれに家を出るのはいつものことなので捨て置けとおっしゃってますが──滞在していると伝えられたカルゾ邸にマルサネお嬢様がいらっしゃらないことを掴んでおられ⋯⋯必死に闇の者たちに捜索をさせておりますよ」
「ふぅん」
へぇ、あたしが居なくてハゲオヤジが困るようなことがあったかな⋯⋯。
「ゲンメ邸へお戻りになられますか? リツコさまはカルゾ邸にいらっしゃいますが──」
あたしの隣で奏大があからさまに、ビクンと反応する。
「リツコ──さま?」
「⋯⋯」
ルーチェは無言で奏大を見つめた。
「そういえばどことなく──この方はリツコさまに似ておられますね?」
さすがルーチェ。
鋭い、鋭過ぎる⋯⋯。
「そうだ! ええと──コイツはリツコの親戚なんだ。それで⋯⋯だな」
また、しどろもどろになるあたし。
「俺はサワイリツコが居た世界からやって来ました。サワイリツコを探している者です。協力してもらえますか?」
奏大が真剣な顔でルーチェを見返した。
「おっ、お前いきなり何を──」
慌てるあたしに、
「大丈夫ですよ、お嬢様」
ルーチェが微笑んだ。
「リツコさまより聞いてます。カナタさまですね?」
「──はい」
淡々とたずねるルーチェに奏大は力強く頷いた。
「では、まずはカルゾ邸に戻りましょう。お嬢様はまだしも貴方のその格好、お嬢様とお揃いですから──少し目立ち過ぎてしまいますよ?」
ルーチェの言葉にあたし達は制服姿のままだったことに気がついた。
確かに。
こちらでお揃いのブレザー姿は珍しいかもしれない。
「では──まずはゲンメ邸へ」
ルーチェの言葉にあたしはコクリ、と頷いた。
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