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番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉

番外編 メイドズ☆ブラスト episode20

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「わかんないわね──」
 闘技場の控え室に入るなり。
 テーブルの真ん中に置いてあったお茶請けを物色しはじめた私にモニカは言った。

 昨日の夜──。

 調子にのったパロマはイスキアの街にかなりの数の「デバ蛾目くん三号」をばらまいたのだが、特に収穫はなく──。

 朝からよく分からない帰巣本能で戻ってきた「デバ蛾目くん」がカルゾ大使館の庭に大量に落ちていて、朝イチでそれを運悪く目撃してしまったナルドさんが悲鳴をあげていた。

 ……まぁ、私も見ちゃったけど。
 朝日の中で固まっているのを見るとちょっと食欲が失せるほど気持ち悪かったわ……。

「わかんないって──あぁ、ゲンメの『あのお方』探し?」
「うん。さっきトイレに行った時、ちょっとゲンメの控え室をのぞいてみたのよね。
 昨夜のクリスって城に忍び込んでいた女は変なテンションで騒いでいたから確認できたわよ。
 あと、ガヴィっていうやたらと男っぽいマリンと当たる相手も見えたわ。その女もなんとなく曲者っぽかったけど──優勝できるほどの実力者には見えなかったなぁ。
 ま、ちらっと見ただけだからわからないけどね……」
「ふぅん──そうなんだ」
 モニカの話にフンフンとうなずきながら、私は二つ目の袋に手を伸ばした。

 このお茶請けのゼリー。意外と美味しいわ。
 南国フルーツ味だけど意外にさっぱりしてるし、ほろほろとした食感もなかなか──帰りのお土産、これにしようかなぁ。

「マリン、聞いてる?」
「ん?」
 三つ目のゼリーを咥えた私をモニカは呆れたようにツンツンとつついた。

「もうすぐ試合がはじまるから『エル』だけ見えなかったの。あのお方、ってガヴィかエルか……どっちかだと思うのよね」
「──まぁ、それは今からわかるんじゃない?」
「あ、パロマ」

 衣装室から出て来てやってきたのは、我らが変態軍師パロマ
 今回の衣装係なんだけど、彼女のつくるビキニアーマーは本当にロクなものじゃない。

 耐久性、機能的には別に問題はないんだけど……問題はそのデザインがねぇ。

「もー、ダルバが抵抗するからなんか着せるのに時間がかかっちゃって。
 ──もうこれしかないんだから、とっとと腹を決めればいいのに」
 面倒くさそうな表情で頭をガリガリ掻きながらパロマは言った。
「で、ダルバは?」
 私たちの質問に衣装室を指さすパロマ。
「まだ心の準備ができないんだってさ」

「あー、その気持ちわかるわぁ」
「うん……」
 私とモニカは同情心あらわに頷く。

「どーゆー意味よ、あんたたち。天才の作品に何か文句があるっていうの?」
「「別に……」」
 声を揃えて呟くモニカと私。
 文句言うと、さらにエスカレートした過激なアーマーにチェンジされてしまうのは明らかだ。
 今大会はビキニアーマー着用が必須な以上、これ以上パロマを刺激するような言動は避けたい。

「あー、そうそう」
 ポン! と手をうちならしパロマが思い出したように言った。
「今回は相手もどうやら私たちみたいにコスプレしてるっぽいのよ」

「……コスプレって言っちゃったね?」
「あんた。やっぱり私たちにコスプレさせてる自覚あるのね……」
 思わずジト目でパロマを見てしまう。

「プロマイドの売り上げは目立ってナンボじゃないの! コスプレの何が悪いのさ。さっ、ぽっと出のゲンメになんか負けられないわ……今日のは自信作なんだから。早くダルバを呼んでこなくちゃ!」
 ウキウキした声でそう言い放つとパロマは私たちに背を向けた。
 
「──ねぇ、マリン。今日のダルバのアーマーって……」
「うん、出来るだけ気にならないように応援してあげようね」
 私たちは試合前だというのに疲れ切った口調で言うと、菓子や飲み物を手に観覧席に向かったのだった。

 ◇◆◇

 荷物を簡易テーブルに置くと、バルコニーの手すりに寄ってリングを眺めおろした。
 いつの間にかすでに試合開始前の呼び出しが始まっていたようだ。
「ありゃ、もうはじまってるよ?」
「ダルバ、間に合うかな~」

 既に北のゲンメ方の扉は開いており、その四角いリング上にはダルバの対戦相手であるゲンメの「エル」が、ゆらりと立っていた。


 黒く長い髪。
 高い鼻梁、白い肌。
 ほどよく筋肉のついた、すらりと伸びた手足。

 おそらく、かなりの美人。

 おそらく──というのは、鼻から上、顔の半分が白い蝶のマスクで隠されてしまっているからだ。

 仮面から唯一露出させている口元には、アルカイックな笑みを浮かべている。

 黒いマントをはためかせ、シルバーのクラシックなビキニアーマーを身に着けていた。
 ビキニ、というより銀色のホットパンツのような腰当て、太ももまでガードされた長い鎖がジャラジャラとついた皮のブーツ。
 トゲトゲのついたショルダーガードにお揃いのトゲがついた鎖状のペンダント。

 肌の露出は少ないが、白い仮面で顔を隠しているせいかなんとも怪しい雰囲気を醸し出していた。

「うわぁ、ゲンメの闘技士もどうしちゃったのかしら……」
「あのマスク、SMの女王みたい──」
 バルコニーにつかまり、私は身を乗り出してゲンメの選手、『エル』をじっと見た。

(……この雰囲気、どこかで──?)
「どうしたの? マリン──」
 モニカが固まる私に気がついた。

「うん。どこかで会ったことがあるような気がするの……」
「SMの女王に知り合いがいるの?」
 驚いた顔でモニカが私を見た。

「ううん。もしかして、どこかで戦ったことがあるのかもしれない──」
「ふうん。なら、マリンが当然勝っただろうからダルバも楽勝ね」
「……う……ん」
 私はじっと目を細めて『エル』を観察した。

 背中にじっとりと嫌な汗が流れる。
(相当ヤバいよ、この女。
 だってこうやって立っているだけでも全く隙がない──大丈夫だろうか、ダルバ……)

 ここ数年。ゲンメ出身で飛びぬけて勝ち抜いた闘技士はいない。
 とび抜けて強いゲンメ出身のチャンピオンがこの大会を連覇した時代もあったが、それは過去の話だ。

 ユッカ連合公国の北方に位置するゲンメは基本的には工業と商業の国である。
 海蛇のように、ゲンメ公直属の闇組織があるとはいわれているが、過去に表立ってこの大会に参加してきたことはない。
 ゲンメの『闇』はあくまで闇組織なのだ。

 北国ゲンメはイスキアとはまたカラーの異なる、腹黒タヌキと影で国民に称されるゲンメ公タウラージが治める謎多き国。その財力で密かに腕の立つ者を雇う可能性はなきにしもあらずだが……。


「西、カルゾのダルバ!」
 審判のふれがようやく聞こえた。

 それと同時にダルバが闘技場下の扉から姿を現したとたん、わぁーっ、わぁーっという異様などよめきがおきる。

「いいぞ! カルゾメイド!」
「今日はどんな格好してきたんだ!」 
「早く見せてくれ!」

 その野次混じりの異様な歓声に押され、ダルバは白い貫頭衣のようなものを頭からすっぽりと被ったまま、リングに向かう階段に足をかけた。

「なんだ? 白い上着でよく見えないぞ 早く脱げ!」
「脱げ! 脱げ!」
「ついでに二人とも脱げ~!」 

 観客たちにとってこれで三人目のカルゾメイドの登場である。
 地元のイスキア出場者をカルゾメイドが連破したこともあるが、セクシーアーマーの噂が噂を呼び、その噂のアーマーを一目見ようと朝から仕事も家業も放り出し、イスキアの老若男女は期待を胸に闘技場へどっとつめかけて来ていた。

 というわけで。
 昨日の開会式直後の試合とは比べ物にならないほど観客席は朝からギュウギュウに埋まっていた。
 その大歓声にダルバは当惑しながらリングを見上げる。

「うわぁ、今日は相手もコスプレーヤーってわけ? まぁこれじゃ、コスプレ大会になっても仕方ないわねぇ……」
 対戦相手、エルのSM女王のようないで立ちを見てダルバは苦笑した。
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