アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

文字の大きさ
114 / 150
番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉

番外編 メイドズ☆ブラスト episode17

しおりを挟む
「イスキア! イスキア!」
   第一試合開始前は自国の選手を応援する観客で一色だったがモニカの試合が始まった頃から、
「いいぞ! カルゾメイド!」
「脱げ! エロいぞ!」
「早く出てこい! 楽しませてくれ!」
 主に男性客たちを中心にカルゾメイドに対する偏った声援が広がっていた。

 また開会式では、ほとんどイスキア公国の毒々しい原色の国旗がふられていたが、この休憩の間に購入したと思われるメイドカチューシャを着けた者もパラパラ見受けられた。
 驚くべきことに様々な色のカチューシャや、電飾がつけられピカピカ光るものまで売られているようだ。まるで縁日のような光景だった。

 コンサートやアイドルイベントなどが開催されるユッカ大公のお膝元であるエスト城下町と違い、基本的に娯楽に飢えているイスキア公国の民にとって、今回の闘技大会は国をあげての一大イベント。
 その盛り上がりたるや、このイスキアで一番盛り上がる建国祭に匹敵する規模のものだったのである。


「すごい盛り上がってきてるわねぇ」
 だんだん出番が近づいてきたこともあり、私は緊張感からじんわりと汗がにじんだ手のひらをスカートに擦りつけた。

「そうね。この群衆の中で平気なのはパロマぐらいだと思うわ」
 ダルバも落ち着かない様子で答える。
「パロマ、今頃張り切って着替えてるでしょうねぇ……」
「ねぇねぇ、マリン。そういえばパロマが自分用にどんなアーマー作ったのか知ってる?」
「さぁ──私、あの娘のアーマーに興味ないからなぁ。意外に普通だったりしてね」

 闘技場のリング上ではまだ、第一試合でバルレッタが飛び散らせた毒液を会場係の腕章を着けたスタッフが一生懸命拭き取っていた。

 バルレッタの放った液はかなり、粘着質なものだったようだ。
 万が一、それが会場に残って後の者が足を滑らせてしまっては大変である。後の試合に響かないように、念入りにスタッフたちが掃除をしていた。

「ああやって毒を使われると本当に迷惑だこと……」
  私は思わず呟くと、ダルバが答えた。
「そうね、でも伝統的に海蛇は毒攻撃が主流だから仕方ないわ……あ──あれ、蛇姫じゃない?」
 ダルバは右手の大きな観覧席を指差した。

 リングを一番よく見渡せる真上の場所には、イスキア公家をはじめとする貴賓席やスポンサー商会の有する特別席が日除けの天蓋つき桟敷としてもうけられている。
 どうやらひときわ豪華な装飾が施されたとてつもない広さの桟敷に、イスキア公ラマンドロが戻ってきた所のようだった。

 観客は礼儀上、この公国の最高支配者に対して歓呼の声を上げる。
「イスキア、イスキア──!」
 無表情な支配者、ラマンドロ公は気だるげに群衆に向かって右手をあげた。
 その傍らには、しなだれかかるように寄り添っている妹、蛇姫カルドンヌの姿があった。

「いやぁ、姫様っぽくないね。蛇姫は……」
「うん、何かメイクも毒々しすぎるもん──紫のリップとかあり得ないわ……」
 私たちの主、お日様のように明るい美貌の女王然としたカルゾ公主ソーヴェ様と思わず比べてしまう。

「この国に生まれなくて良かったわ、私」
「私も──」
 そんな話を二人でとりとめなくしていると、試合開始直前であることを知らせる銅鑼やサイレンが鳴り響いた。

 闘技場リングへ登っていく緩やかな階段がリング側面に四方から設置されているのだが、サイレンが鳴りやむと同時に、その階段の正面の四方の扉がバーン! と開け放たれる。

「南! イスキアのリゾン!」
 審判の美声が選手の呼び出しをはじめた。

 (いよいよはじまるわね……)
 私は表情をひきしめてリングを見つめる。

 初戦はモニカが勝ったが、続けてカルゾメイドに負けるほど海蛇も、主催者であるイスキア公家も甘くはないだろう。
 海蛇は所詮、イスキア公家直属の暗殺集団。どんな汚い手段を使ってくるかわからない──。


 先程私たちに見せた情けない姿とはうってかわり、リゾンは地元の大歓迎を浴び、いかにも自信満々の蛇魔女といった様子で南扉から胸を張って現れた。

 その出で立ちは、蛇皮のビキニの上下、腰の回りに短く巻かれた黒いパレオ。
 肩には紫地に金の縁取りがされたごてごてした鱗模様の短いマント。同じ模様の膝上までのブーツに彼女のトレードマーク、いつもの黒い三角魔女帽子。
 左右には丸めた蛇皮の鞭がこれ見よがしに下げられている。灰色の髪がうねうねと子蛇のようにその背中に広がっているのが何とも不気味だ。

「リゾン! リゾン!」
「いいぞ! 魔女っ娘リゾン~!」
 リングに上がると、リゾンはじっと腕組みをしてパロマが現れるのを待った。

「ねぇ、どう見てもあれじゃ悪の女幹部よねぇ──」
「うん、まぁパロマの相手でちょうど良かったんじゃない?」
 私とダルバは他人事のように感想を述べる。

 まぁ、私が当たらなくて良かった。
 ちょっとあの魔女コスプレは痛々しい。リゾンは魔女っ娘に憧れでもあるのだろうか……。


「西! カルゾのパロマ!」
 呼び出しとともに、観客席からうぉぉぉぉーっ! という異様などよめきが上がる。

 ──パロマが現れたのだ。

 闘技場のリング下に現れたパロマの姿に観客がどよめいた理由わけは──それは彼女の端正な知的な冷たい美貌でもなく、当然彼女のまとっていたアーマーによるものだった。

「「うげぇっ!」」
 私とダルバは思わず叫び声をあげた。


 パロマは白衣を軽く羽織り、純白のミニワンピース状になった看護服ナースふくを着ていたのだ。

 輝く銀髪は一つにまとめて束ねられ、その頭には白いナース帽子がのせられている。
 大きなむっちりとした白い胸は第二ボタンまで外された看護服に包まれ、くっきりとした谷間がのぞいていた。
 足は爪先までレース柄のストッキングに包まれ、その足元はピンクのナースシューズがまた凶悪な色気を放つ。


「はぁい、リゾン。調子はいかが? お注射してあげましょうか?」
 銀縁の眼鏡をくいっと押し上げ、盛大にウィンクをするとからかうようにパロマは言った。


 おぉぉぉぉぉぉ──。
 男たちの雄叫びで会場が揺れる。

「ナースだ! ナース!」
「めっちゃエロい看護婦さんやぞ!」
 興奮した観客のどよめきが爆発した。

「パロマ! パロマ!」
 あっという間に会場が異様な雰囲気に変わる。

 サービスとばかりに客席に向かってポーズをとるパロマに向かい、
「……おい。カルゾメイドはコスプレ大会にやってきたつもりか? 」
 呆れたようにリゾンは言った。

「私の力作のアーマー達にケチつけないでくれる? だいたいあんたにだけは言われたくないわ。あんたこそ、思いっきり魔女っ娘コスじゃないの」
「くっ……!」

 パシィン!

「リゾン! 開始の合図を待て!」
 審判から声がかけられたが、リゾンはその制止に構うことなく、リングから飛び降りるとパロマに容赦なく鞭を振り下ろした。

 パロマは素早く後ろに飛び退き、危なげなく鞭をよける。
「待てもできないの? 困った魔女さんねぇ」
「ちっ、相変わらずチョロチョロと──」
 ビュッ! と鞭が空をきって左右からパロマに襲いかかった。

「何焦ってるの? こっちのリングでやるわよ、リゾン。場外であんたをギタギタにしてもお客さん達に見てもらえないからね……」
 パロマはトン! と軽く飛び上がって鞭を避けるとリングへ向かう階段を一気にかけ上がり、手招きしてリゾンを挑発する。

「待て! この変態女! 直ぐにそんな軽口も叩けないようにしてやる──!」
 リゾンは苦々しげにその真っ赤な唇をねじ曲げると、パロマの後を追って階段を駆けあがった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳―― それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。 公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。 だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、 王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。 政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。 紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが―― 魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、 まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。 「……私が女王? 冗談じゃないわ」 回避策として動いたはずが、 誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。 しかも彼は、 幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた―― 年を取らぬ姿のままで。 永遠に老いない少女と、 彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。 王妃になどなる気はない。 けれど、逃げ続けることももうできない。 これは、 歴史の影に生きてきた少女が、 はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。 ざまぁも陰謀も押し付けない。 それでも―― この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...